■5月12日/MSG,N.Y./WBA世界ライト級タイトルマッチ12回戦
王者 ホルヘ・リナレス(べネスエラ/帝拳) VS WBO J・ライト級王者 ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)
新世紀のゴールデン・ボーイが、ニューヨークの殿堂マディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)に登場。なおかつ、渡米後のゴロフキンが準ホームにしていた5千人規模のシアターではなく、2万人収容のメイン・アリーナが用意される。
無事に4冠を達成したマイキー・ガルシアをトップ・プライオリティに挙げつつ、ロマチェンコとの両天秤でビッグマッチを模索し続ける帝拳+ゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(以下GBP)連合軍と、ロマチェンコを擁するトップランクの交渉がまとまり、急転直下の妥結。
最大の障害(?)とされた中継は、ESPN(トップランク側/交渉妥結の記事を大きく報じた)に決定。HBOとタッグを組むGBPが1歩引いた格好だが、興行の主導権をアラムに渡す代わりに、放送時間を2時間早く繰り上げることで決着を図った。1週間前の5月5日に、ゴロフキン VS カネロの大一番(リマッチ)を予定していたHBOは、翌週12日に再放送(これもPPV=ライヴよりも価格を下げる)を行う為、2週続けてのビッグマッチにゴー・サインは出せない。
帝拳とともにリナレスを共同プロモートするGBPの総帥オスカー・デラ・ホーヤは、トップランクを率いる御大ボブ・アラムとの直接会談を繰り返し、「日程の変更+ロマチェンコのHBO復帰」を迫る。NBA(バスケットボール)のプレーオフを中継するESPNには、土曜のプライムタイムに余裕がなく、パッキャオの復帰戦を蹴飛ばされたことに腹を立て、HBOとの蜜月関係を清算した格好のアラムも簡単に「Yes」と回答できない。
5月12日開催ではHBOの承諾を得られないデラ・ホーヤが、アラムに交渉の終結(決裂)を申し出る事態となり、一時は頓挫消滅するものと思われた。ところが、今月5日~7日にかけて事態が大きく動く。カネロが試合前のドーピング・テストで禁止薬物の陽性反応を示し、一気に雲行きが怪しくなり、周知の通りカネロは撤退。完全に消滅したかに思われたライト級の好カードが陽の目を見たのは、カネロ(懲りない牛肉汚染)のお陰と言えなくもない・・・?。
対戦合意が発表された直後と、直前のオッズを比較してみよう。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
ロマチェンコ:-800(1.125倍)→
リナレス:+500(6倍)→
<2>5dimes
ロマチェンコ:-850(約1.12倍)→-1,400(1.07倍)
リナレス:+520(6.2倍)→+1,100(12倍)
<3>BOVADA
ロマチェンコ:-800(約1.12倍)→-1,400(1.07倍)
リナレス:+570(6.69倍)→+750(8.5倍)
<4>ウィリアム・ヒル
ロマチェンコ:1/7(約1.14倍)→1/12(1.08倍)
リナレス:9/2(5.5倍)→13/2(7.5倍)
ドロー:25/1(26倍)→25/1(26倍)
<5>Sky Sports
ロマチェンコ:1/8(1.125倍)→1/12(1.08倍)
リナレス:5/1(6倍)→6/1(7倍)
ドロー:25/1(26倍)→33/1(34倍)
ロマチェンコ有利に傾く勝敗予想は、日本の大多数のファンも自然な流れとして受け止めるだろうが、それにしても随分な差を付けられたものだ。本番間近になれば少しは接近するかと思いきや、マージンはさらに広がっている。3度の遠征でリナレスのストロング・ポイントを直接見知った英国の賭け率よりも、2007年のオスカー・ラリオス戦以来8回目となる米本土の方が差が開いているのは、プロデビュー後の11戦中10戦を米国内で消化し、4試合連続で相手を棄権に追い込んだ、圧巻の”ノー・マス・チェンコ”を目の当たりにしているからだろう。
以下にリング誌の勝敗予想を掲載するが、やはり圧倒的な挑戦者有利である。
■リング誌の勝敗予想
FIGHT PICKS: JORGE LINARES VS. VASYL LOMACHENKO
5月9日/リング誌公式サイト
https://www.ringtv.com/535349-fight-picks-jorge-linares-vs-vasyl-lomachenko/
□リング誌に記事を寄稿する記者,ライター:8-0でロマチェンコ
<1>マイケル・ウッズ
ロマチェンコの3-0判定勝ち
<2>リー・グローブス
ロマチェンコの10回KO勝ち
<3>マーティン・マルカーイー
ロマチェンコの8回TKO勝ち
<4>トム・グレイ
ロマチェンコの3-0判定勝ち
<5>ノーム・フラウエンハイム
ロマチェンコの9回TKO勝ち
<6>トム・ガーベルシィ
ロマチェンコの3-0判定勝ち
<7>ガレス・A・ディヴィス
ロマチェンコの11回TKO勝ち
<8>アンソン・ウェインライト
ロマチェンコの6回TKO勝ち
□ボクシング関係者:11-1でロマチェンコ
<1>スティーブ・ファーフッド(元リング誌編集長/ShoBox解説者,ヒストリアン)
ロマチェンコの3-0判定勝ち
<2>トニー・トルジ(マネージャー/豪州)
ロマチェンコの後半(8~10回)TKO勝ち
<3>デューク・マッケンジー(元3回級制覇王者,アナリスト/英)
※リナレスの3-0判定勝ち
<4>トニー・”ザ・タイガー”・ロペス(元2階級制覇王者)
ロマチェンコの中盤KO勝ち
<5>ジョレン・ミゾン(マッチメイカー/メイン・イベンツ)
ロマチェンコの7回終了TKO勝ち
<6>キャシー・デュバ(プロモーター/メイン・イベンツ)
ロマチェンコの5回終了TKO勝ち
<7>キャメロン・ダンキン(マネージャー)
ロマチェンコの中盤TKO勝ち(どのラウンドで決着が着いても不思議はない)
<8>ポール・マリナッジ(元2階級制覇王者/解説者)
ロマチェンコの後半~終盤TKO勝ち
<9>セルヒオ・モーラ(元WBC S・ウェルター級王者/解説者)
ロマチェンコの3-0判定勝ち
<10>ステファン・エドワーズ(トレーナー/ジュリアン・ウィリアムズのチーフ)
ロマチェンコの後半~終盤TKO,もしくは3-0判定勝ち
<11>エリック・ボッチャー(マッチメイカー/バナー・プロモーションズ)
ロマチェンコの9回KO勝ち
<12>ケニー・アダムス(トレーナー)
ロマチェンコの3-0判定勝ち
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総勢20名の専門家、及び関係者のうち、実に19名がロマチェンコの勝利を予想。KOもしくはTKO決着としたのは、19名中12名。12名のうち、リナレスの途中棄権を主張したのは2名。”ノー・マス・チェンコ”5度び,という訳だ。
記者やライターよりも、関係者の方にKO決着を予想する声が多い。我らがリナレス支持者は、僅かに1人。「これは間違いなく、ベスト VS ベスト。お前はクレイジーだと誰もが言うだろうが、リナレスは次元が違う。彼は特別なんだ。ジャッジ(とレフェリング)がまともなら、リナレスが判定で勝つ。終盤のストップも有り(議論噴出の裁定でロマチェンコの勝ちもあるが)。」と語るのは、英国イングランドの元3冠王デューク・マッケンジー。
出来たばかりで、世界タイトルの権威を認められていなかったIBF(フライ級)とWBO(バンタム,J・フェザー級)を利用した載冠故に、低い評価に甘んじなければならなかった自らの経験を踏まえて(?)、「皆が想像している以上に、3階級を獲るのは本当に大変なんだ。リナレスをリスペクトする。」と、過小評価に対して異を唱えた。
リナレスを応援する日本人としては嬉しい限りだが、客観的かつ冷静に俯瞰するといささか厳しい。
「リナレスは素晴らしいボクサーだ。スピード&テクニック、メンタル、プロとしての経験。総てにおいてAランクだ。流石のロマチェンコも、一筋縄ではいかないかもしれない。だが、彼のスキル&センスはSランク。Aランクのさらに上を行く。」
「スタートの展開は拮抗するだろう。ロマは序盤決まって様子を伺う。後手を踏まないよう注意しながら、徐々にギアを上げて行く。潮目が変わるのは、4~5ラウンド。リナレスの距離とタイミングを掴んだら、ペースアップして流れを一気に引き寄せる。」
「ロマにやられた過去の対戦車と同様、リナレスは焦りと蓄積する疲労に苦しみスロー・ダウン。判定まで粘ることができるかどうかは、当日の仕上がり具合次第。仮に増量の影響でロマの動きが100%でなかったとしても、中差以上の判定になるんじゃないか。」
リナレスが追い続けたマイキー・ガルシアと、兄でチーフ・トレーナーのロベルト・ガルシアのみならず、多くの専門家たちが述べる評価と予想には共通したイメージがあり、多くの識者とマニアが賛同すると思う。リング誌の記事でも、後半~終盤の遅い決着、3-0判定が大勢を占めている。
両雄の勢いの差、直近の試合内容(出来栄え)を比較しても、ロマチェンコの有利は動かし難い。しかしながら、3度の渡英で2団体の王座統一という結果を残し、3つ目の階級で遂に安定政権を築いた今のリナレスなら、早い時間帯の10カウントやストップ、そして”ノー・マス”を免れ、12ラウンズをフルに渡り合えるのではないか。
でも、諦めの悪い日本人のファンとしては、こうした予測は正しい見方だと実感する半面、「2人の王者に、そこまで実力の拓きがあるのだろうか?。」との疑問も残る。本当に、リナレスに勝機は無いのか?。
2人のスパーリング・パートナーを務めたライアン・ガルシア(注目を集めるS・フェザー級プロスペクト)は、勝敗予想について聞かれ、次のように答えている。
「パンチがあるのはリナレス。アグレッシブで力強い。より堅実なのがロマチェンコ。彼は優れたリングIQの持ち主で、(膨大なアマ・キャリアを含めて)経験も豊富。でも、どちらを取るかと問われると・・・明快な答えを出すのは難しい。」
「リナレスにはサイズのアドバンテージがあり、瞬間的な爆発力も持っている。(意図的かつ戦略的に抑えているのは事実だとしても)ロマチェンコはパワーレス。スパーリングで実際にそう感じた。」
「試合のヤマ場は、たぶん後半になると思う。その時、リナレスにどれだけのスタミナ(特にメンタル)とコンディションが残っているか。それが重要なキーになる。後半~終盤にかけて、セカンド・ウェーブを起こす力が残っていればリナレスに分がある。でも、戦術にこだわり過ぎて疲労していたら、勝者はロマチェンコ。」
若き期待の星ガルシアは、ゴールデン・ボーイ・プロモーションズが強力にプッシュする近未来の王者候補だけに、同じGBP傘下のリナレスに好意的な見解を示さざるを得ない。その点を割り引く必要はあるし、誰もが想像できる内容と言えばミもフタもないけれど、何がしかのヒントがそこにあるのでは・・・。
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◎リナレス(32歳)/前日計量:134.6ポンド
戦績:47戦44勝(27KO)3敗
WBCライト級王座(V4)
WBAライト級王座(V3)
WBA S・フェザー級王座(V1)
WBCフェザー級王座(V1)
世界戦通算:13戦11勝(7KO)2敗(2KO)
アマ通算:156戦151勝 (100KO・RSC) 5敗
身長:172.6センチ,リーチ:175センチ
※ハビエル・プリエト戦の予備検診データ
右ボクサーファイター
◎ロマチェンコ(29歳)/前日計量:134.6ポンド
WBO J・ライト級(V3),元WBOフェザー級(V3)王者
戦績:11戦10勝(8KO)1敗
アマ戦績:397戦396勝1敗(2敗,あるいは3敗など諸説有り)
2012年ロンドン五輪ライト級金メダル
2008年北京五輪フェザー級金メダル
2011年世界選手権(バクー)ライト級金メダル
2009年世界選手権(ミラノ)フェザー級金メダル
2007年世界選手権(シカゴ)フェザー級銀メダル
2008年欧州選手権(リヴァプール)フェザー級金メダル
身長:168センチ,リーチ:166センチ
左ボクサーファイター
「サイズとウェイトの利点は理解しているが、体重を戻し過ぎないよう注意する。機動力がとても重要になるから・・・。」
注目の前日計量は、両者まったく同じウェイト。問題は明日。どこまで体重を戻すのか。スピードと反応,アジリティの勝負になるのはわかり切っているだけに、リバウンドによって動きが鈍ることへの警戒を述べたリナレス。
「試合を受けてくれたリナレスに感謝する。皆さんに喜んで貰える、とてもいい試合になる。そして、誰が真のベストなのか、土曜の夜にはっきりする。」
5ポンドの増量で上半身に厚みと逞しさを増したロマチェンコは、余裕綽々のコメント。135ポンドでの調整について聞かれると、「実際のところはやってみないとわからない。130ポンドがベスト・ウェイトだと確信していたし、パフォーマンスにも手応えを得ていたから。」と、ウェイトに関しては正直な発言も・・・。
□関連映像
<1>前日計量
JORGE LINARES VS VASYL LOMACHENKO - FULL WEIGH IN
https://www.youtube.com/watch?v=dgNcdXRLCRI
<2>前日計量(フル)
VASYL LOMACHENKO VS JORGE LINARES FULL WEIGH IN & FACE OFF VIDEO
https://www.youtube.com/watch?v=2F9A9nNWmQ0
<3>最終会見
FULL LOMACHENKO LINARES FINAL PRESSER
https://www.youtube.com/watch?v=bsrVY5pwHOU
<4>公開練習:ロマチェンコ
VASYL LOMACHENKO 'S FULL MEDIA WORKOUT FOR JORGE LINARES- NEW YORK
https://www.youtube.com/watch?v=9pM7GVLhjjw
<5>公開練習:リナレス
JORGE LINARES ' FULL MEDIA WORKOUT FOR VASYL LOMACHENKO - NEW YORK
https://www.youtube.com/watch?v=MIgE4qpm47E
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■リング・オフィシャル:未発表