■8月26日/T-モバイル・アリーナ,ラスベガス/S・ウェルター級契約12回戦
元5階級制覇王者 フロイド・メイウェザー・Jr.(米) VS UFCライト級王者 コナー・マクレガー(英/アイルランド)

130ポンド~154ポンドまで、5つの階級で世界タイトルを獲得。現役最強の賞賛を欲しいまま(?)にし、伝説のロッキー・マルシアノに並ぶ49連勝とともに引退したメイウェザーが、大方の見込んだ通り、凝りもせずリングに舞い戻ってきた。
マルシアノを超える50連勝がかかった、メイウェザーのリングキャリアにとって極めて重要な意味を持つ再起戦に抜擢されたのは、なんとUFCの現役世界王者にして、MMA史上最大のカリスマ的人気を誇るコナー・マクレガー。
噂が飛び交い始めて以降、コメントを見聞きする限りは、2人ともやりたがっているように見えたし、マクレガーがボクシング・ルールを呑むと口走ってしまった以上、ルールを巡る諸問題はその時点で消滅。マッチメイクの妥当性と是非はともかく、間違いなく話題と金を呼ぶ。
メイウェザーは50連勝の達成に未練も執着もたっぷりで、しかしギャンブルは避けたい。ラスト・ファイトと銘打ったアンドレ・ベルト戦から、早くも2年近くが経過。不惑を迎えた肉体に、一切の不安を感じないと言えばウソになる。パッキャオ戦では、自ら禁じ手にしていた筈のドーピング違反(※)も冒した。
※合法の薬物をWADA基準違反の方法で服用(ネバダ州の規定には抵触しない)
カムバックするとなれば、対戦相手は確実に勝利が見込め、なおかつビッグ・マネーを確約してくれるだけの人気,バリューが不可欠・・・ボクシング・マッチを承諾したマクレガーは、まさしくネギを背負ったカモそのもの。実現の可能性は低くないというのが、大方の見立てであった。
だから正式決定の一報に接しても、「やっぱり決まったか・・・。」といった程度の感想しかない。何より驚いたのは、試合がUFCの舞台ではなく、通常のボクシング興行として行われるということ。2人が戦うとなれば、場所はラスベガス以外には有り得ない。「ネバダ州は、プロボクシング経験ゼロのマクレガーに、いきなりメイウェザー戦を認めるつもりなのか・・・。」
ネバダは安全性の確保と健康管理にただでさえうるさく、マクレガーのボクサーライセンス取得を、試合の実現に向けた最大の障壁、課題と見る向きもあったのだが、なんとカリフォルニア州が一足早く承認発行。カリフォルニアのライセンスを、ネバダが「無効だ。」と突っ撥ねる事態はまず考えられない。
ポスト・メイウェザー,パッキャオが用意に現れない現状、経済効果(興行の論理)を最優先に動くのは、洋の東西と歴史の今昔を問わないセオリー。メイウェザーが登場する週末のラスベガスは、軒を並べる巨大カジノホテル群の宿泊料金もグンと跳ね上がる。州外,国外から大挙して押し寄せるツアー客たちが落とす遊興,飲食費は、莫大な利益をネバダにもたらす。
2006年以降、メイウェザーが本格的に腰を落ち着けたラスベガスでしか戦わなくなった理由が、嫌でもわかるだろう。ラスベガスで戦う限り、メイウェザーは無敵。州コミッション,プロモーターを筆頭に、レフェリー&ジャッジも込みで手厚くバックアップする。世界でも有数の中立性と公正性を建前にする(よくもまあそんな大ウソを恥ずかしげもなく・・・)ネバダ州コミッションと言えども、経済第一の原則には抗えない。
マクレガーは押しも押されもしないUFCのトップスターであり、パンチによるKO率が極めて高い。サウスポースタイルから放つ左ストレートのカウンターが得意で、スピード,タイミング,破壊力の三拍子が揃っている。パウンドによるレフェリーストップを呼び込む場合にも、真っ直ぐきれいに伸びる左ストレートでダウンを奪ってから,というケースが多い。
確かにマクレガーのパンチには、頭1つ抜けた印象を受ける。但しそれは、あくまで”MMAのトップクラスの中で見れば”との比較であり、いきなりその前提を取っ外して、「だからボクシングでも今すぐ通用する。」という話はできないし、してはならないと思う。
この試合が話題になった時、真っ先に脳裏に浮かんだのが、半世紀以上も前の1957年8月に行われた世界ヘビー級タイトルマッチ。前(1956年)年のメルボルン五輪で、ヘビー級の金メダルに輝いたピート・ラデマッハー(白人)が、時の王者フロイド・パターソン(黒人)に挑戦した。
プロ・アマ世界一同士の対決は大きな話題となり、なおかつパターソンも、1952年ヘルシンキ大会ミドル級で優勝を遂げており、五輪金メダリスト対決としても盛り上がる。パターソンへの挑戦を企画したのは、なんとラデマッハー自身で、プロの有力プロモーターから持ちかけられた訳ではなかった。
自らの足で地元シアトルの企業を回り、あらゆるツテを介してスポンサーをかき集め、TV局を何度も訪れ説得したが、始めは相手にされなかったという。プロの世界戦は3分×15ラウンドの長丁場。対するアマは、3分×3ラウンド。ヘッドギアの着用はせず、ルールと採点基準も今とは比較にならないぐらいプロに近かったが、「いくらアマの世界一とは言え、無謀過ぎる。重大な事故に発展しかねない。」との批判が、全米各地のボクシング関係者を中心に巻き起こる。
それでもラデマッハーは諦めず、遂に地元ワシントン州の許可を取り付け、投資家たちから募った35万ドル(ケーブルTVもPPVも存在しない当時としては異例の高額)を王者陣営に提示。「事故が起きたらどうする。誰も責任を取れない。」と、一貫して対戦に否定的だったカス・ダマトに直談判。「どんな事態が起きたとしても、関係者の誰を訴えることもしない。すべてを私の自己責任として対処する。契約書にも明記する。」と話し、プロデビュー戦での世界タイトル挑戦が実現。
圧倒的優位の前評判を受け、王者陣営はアウェイのシアトル開催を呑む。地元と白人支配層の熱い声援を受けたラデマッハー(187センチ/202ポンド)は、第2ラウンドに先制のダウンを奪って大いに気を吐くが、体格&パワーの不利を秀逸なスピードとテクニックでカバーするパターソン(183センチ/187ポンド1/4)がすぐに挽回。
”ガゼル・パンチ”と呼ばれた飛び込みざまの左フックだけでなく、左右の的確なカウンターを決め、ラデマッハーから6度のダウンを奪い返す。多くの関係者が恐れていた一方的な試合展開となったが、レフェリーストップの判断基準も今とはまるで違う。「最終的な完全決着」がプロに求められるスタンダードであり、ラデマッハーのホームという事情も相まって、レフェリーも限界を超えて我慢していたが、とうとう第6ラウンドで試合終了を宣言。
※試合映像:パターソン KO6R ラデマッハー
1957年8月22日/シックズ・スタジアム,ワシントン州シアトル
世界ヘビー級タイトルマッチ15回戦
https://www.youtube.com/watch?v=LvCt98ugbYo
この失敗を契機にという訳ではないが、メダリストや代表クラスのトップアマでも、4回戦や6回戦から始めて、地道にプロの水に慣らす従来からの育成方法が徹底されるようになった。
そしてパターソン VS ラデマッハー戦から、実に57年が経った2014年3月1日。トップランクと契約して既存のプロ転向を表明した、”アマの絶対王者”ことワシル・ロマチェンコが、デビュー2戦目でオルランド・サリドが保持するWBO世界フェザー級王座に挑戦。
タイの怪物センサク・ムアンスリンが、1975年7月に成し遂げたプロ(国際式)3戦目での世界王座最短奪取を、およそ40年ぶりに更新しようという野心的な試み。AIBA(アマの国際統括組織)が、既存のプロ流出を最も警戒していたロマチェンコを口説く為、ボブ・アラムは”破格の厚遇”を用意したと言われているが、「最短奪取記録更新」へのトライも、条件の中に含まれていたとされる。
タフで獰猛なサリドは、対戦当時既に33歳を過ぎており、歴戦の疲労と激闘によるダメージに加齢の影響も加わり、ピークアウトの兆候が否めない。ロマチェンコがスピードで圧倒できるのではないかと、そんな予想も聞かれはしたものの、結果は僅少差の1-2判定負け。
確信犯の体重オーバーで敢えて失格(戦わずしてベルトはく奪)を選び、海千山千のサリドが形振り構わず仕掛ける”タフ&ラフ戦法”は、プロのスタイルに慣れ始めたばかりの金メダリストには、いくら何でも荷が重かった。アマチュアのコーチだった実父を中心としたコーナーも、具体的な打開策を指示することができず、経験の浅さを露呈したと言わざるを得ない。
※試合映像:サリド 判定12R(2-1) ロマチェンコ
2014年3月1日/アラモドーム,テキサス州サンアントニオ
WBO世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=1o7Y_CbMPpQ
2戦目での世界挑戦を睨み、”アマの絶対王者”は、WBOの地域王座をかけた10回戦デビュー。これでも異例中の異例と表すべきマッチメイクだが、選ばれた相手は格下のアンダードッグ。万に1つのラッキーパンチ以外、どう転んでも負ける要素は見当たらない、ローカルクラスのボクサーが用意された。
オリンピックと世界選手権で2大会連続優勝を果たし、396勝1敗という途方もない戦績を残したロマチェンコでさえ、目論み通りに事が運ばない。サリド戦の経験を糧に、続く3戦目で空位となったWBO王座を獲得。怪物センサクに並ぶ、最短奪取のタイ記録で面目を施したが、この時の相手は現WBC王者のゲイリー・ラッセル・Jr.。スピードに優れた小兵の黒人で、北京五輪を目指したトップアマ出身組み。
ゴールデン・ボーイ・プロモーションズにスカウトされ、地道に育てる慎重路線の下、既に24戦(全勝/14KO)を経験していたが、アマチュアライクな線の細さが残っていた。アマのスタイルを存分に活かせる相手であり、むしろ組し易い。総帥デラ・ホーヤが直接取り仕切る、言わばアウェイの興行に御大アラムがロマチェンコ送り出したのは、充分な勝算が見込めたからに他ならない。

コナー・マクレガーは、母国アイルランドでアマチュアボクシングの経験があり、ジュニア限定とは言えナショナル王者にもなっている。最初に指導に当たったオリンピアンの元コーチも、少年時代のマクレガーに眠る膨大な埋蔵量を確信し、才能と将来性に絶賛を惜しまなかった。
オリンピックや世界選手権など、大きな国際試合での経験と実績は皆無ながら、総合格闘技(異なる競技)の世界で頂点を極め、トップ・プロとしての実績には文句の付けようがない。
すなわちマクレガーは、ラデマッハーやロマチェンコのような、アマで純粋培養されたスーパー・エリートではなく、ムエタイの中(重)量級で無敵を誇り、国際式でも圧巻の力を見せつけたセンサク・ムアンスリンの系譜に連なる実力者なのだと、センサクのミラクルを再現し得る筈だと、そうした意見も聞こえてきそうだ。
実はセンサクも、国際式でプロデビューする前に、アマの代表チームに加わって専門のコーチから指導を受け、数は少ないながら実戦も経験していたのだが、「マクレガーだって、優秀なプロのトレーナーについてボクシングのトレーニングを継続してきた。同じようなものじゃないか。」と、さらにプッシュする声が耳の奥で響かないこともない。
「メイウェザーは並みのチャンピオンではないが、年齢はもう40歳。最後の試合から2年近くが経ち、いくらジムワークを続けていたとは言え、ブランクでまったく錆付いていないとは言い切れない。マクレガーにもチャンスはある。」
思いっきり希望的観測に沿うなら、そうした主張もわからなくはないけれど・・・。やはり、プロボクシングでは実戦を一度も経験していないグリーンボーイ以下との指摘は、どんなロジックを振り回して見たところで、甘んじて受けざるを得ない。
昨年5月~6月にかけて、メイウェザー陣営の一方的なプロモーションに利用される格好で、UFCを代表するカリスマ的スターのボクシング・コーチを、なんとマネー・メイ本人から依頼されたフレディ・ローチは、ごく常識的な見解を述べている。
「コナー・マクレガーが、今すぐメイウェザーと戦って勝負になるかって?。答えようがないな。彼が実戦(ボクシング)で戦う姿を、私は一度も見ていないからね。見てもいないものに、確証を持って答えることなど誰にもできんだろう。」
「彼が母国で優れたアマチュアボクサーだったことは、ジェイミー(カバナー)から聞いて知っているよ。だが、アマとプロは別物だ。そして今の彼は、プロの成功した総合格闘家であって、プロボクサーではない。彼がどれほど優れた才能の持ち主であったとしても、常識的に考えれば難しいと言わざるを得ない。」
「ボクシングだろうとMMAだろうと、いっぱしのプロになろうと思ったら経験が必要だ。飛び抜けて天才的な選手でも、一朝一夕にトップレベルになれる訳がない。アマとプロ(ボクシング)が異なる競技であるように、総合格闘技とボクシングはまったくの別物なんだ。」
「もしも戦いの舞台が、オクタゴンだったらどうかな?。僅か数ヶ月トレーニングしただけで、メイウェザーがいきなりマクレガーとUFCルールで戦うなんて、誰も本気にしないだろう?。違うかね?。」
一から十までローチの言う通りだと、心から納得するしかないけれど、そのローチも「まさかの事態」に一応言及はする。リップサービス半ばではあるが、「ワンパンチですべてがひっくり返る可能性まで、全否定することはできない。過ぎた余裕は、油断に直結するからね。フロイドも人間だ。”100パーセント絶対”はない。」とも語っている。
今年の3月、二線級のローカル・ファイターに敗れて引退を表明したポール・マリナッジ(元IBF J・ウェルター,WBAウェルター級王者)とのスパーリングで、36歳の元王者からダウンを奪った場面が動画配信サイトにアップされ、「やるじゃないか。」と好評価を受ける反面、南ア出身の中堅ウェルター級,クリス・ヴァン・ヘーデン(30歳/25勝12KO2敗1分け)にほとんど遊ばれているスパー映像もアップされており、ボクサーとしての能力評価について意見が分かれている。
へーデンとのスパーは、昨年の5月中旬にL.A.ボクシングジムで行われた。メイウェザー戦が正式発表される前から、専門メディアのインタビューを受けていたへーデンは、マクレガーの実力について赤裸々に話した。
「休み明けでナマっていたこの俺(国際的には無名の中堅ボクサー)にさえ、まともにパンチを当てられない男が、いったいどうやってフロイド・メイウェザーに勝つと言うんだ?。そんな魔法があるなら、俺が聞きたいよ。頼むから教えてくれ。」
「MMAではトップなんだろうが、ボクサーとしてはごく平凡。パンチも大したことはなかったし、スピードも驚くほどじゃない。(プロとしての)実戦経験がゼロなんだから、スキルについてあれこれ言うのは気の毒だと思う。もっともあのディフェンスじゃあ、メイウェザーなら目をつむっていてもKOできるんじゃないか。」
へーデンにいいように遊ばれたスパーの内容は、マクレガーにとってもショックだったらしく、「あれからコナーは、集中的にボクシングのトレーニングをこなしてきた。今はもう別人だ。」と、取り巻きたちはマクレガーの進境を懸命にアピール。
そしてそのマクレガーに倒されたマリナッジは、「あれはノックダウンじゃない。実際はほとんどプッシングだった。」と反論を展開。当初はマリナッジが倒れている写真しか公開されず、全容は不明。「とにかくやり方が汚い。利用するにしても、最低限の仁義はあるだろう。アンフェアだ。」と、マリナッジは怒り心頭。
「ビデオがある筈だ。公開するなら、写真じゃなく映像を出せと言いたい。映像を見れば、俺がノックダウンされていないことがはっきりする。」
マリナッジによれば、問題のスパーリング(2度目のセッション)はそもそも非公開の予定だったという。ところが、指定された時間にUFCパフォーマンス・インスティテュートに行くと、ダナ・ホワイトを筆頭にUFC陣営の幹部たちがズラリと居並び、「様子が変だとは思ったが、まさかあんな形で利用されるとは・・・。」と抗議。
「こちらには何も含むところはない。俺は誠心誠意、彼の勝利に協力するつもりでいた。だが、お互いの信頼関係が崩れてしまった以上、一緒にやるのは無理だ。」
自身のツィッターで、8月3日にマクレガーのキャンプを離れたと報告を行い、マクレガー陣営のスタッフに対して失望と落胆を訴えた。その後問題の映像が公開され、ダウンシーンはマリナッジが言う通りプッシュ気味に見えなくもないが、その前段で左ストレートをきれいにヒットされており、効いていたのは明らか。
へーデンに何もできなかったマクレガーが、その後一生懸命努力していたのは事実だと思う。この映像を見たローチも、「正直に言うと驚いた。ポーリーがチャンピオンだったのは大分前のことになるし、3月に引退してからどの程度体を動かしていたのかもわからないが、左ストレートをまともに食っている。あれはなかなかのパンチだった。」と前向きなコメントを発している。
直前のオッズは、意外に接近しているとの印象。
□スポーツブックのオッズ
<1>BOVADA
メイウェザー:-450(約1.22倍)
マクレガー:+320(4.2倍)
<2>5dimes
メイウェザー:-615(約1.16倍)
マクレガー:+510(6.1倍)
<3>シーザースパレス
メイウェザー:-650(約1.15倍)
マクレガー:+475(5.75倍)
<4>ウィリアム・ヒル
メイウェザー:2/9(約1.22倍)
マクレガー:10/3(約4.33倍)
ドロー:40/1(41倍)
<5>Sky Sports
メイウェザー:1/4(1.25倍)
マクレガー:100/30(約4.33倍)
ドロー:40/1(41倍)
現地での公開練習は、両陣営ともヘビーバッグを叩くのが主で、形だけのシャドウを少しやったぐらい。手の内を隠しまくりといった様相。メイウェザーがどこまで追い込んで仕上げたのか、本気度が今1つ判然としないが、パッキャオ戦時の神経質な対応とは比較にならない余裕を感じるのは確か。
今回マクレガーは、ボクシング専門のトレーナーをチームに招聘しておらず、その点をマイナスと見る者と、プラスに捉えるファンとに分かれている。チームを率いるジョン・カバナー(総合のジムを運営するチーフ格)は、理由について次のように語った。

「大きな変化には、功罪両面がある。上手く回ればいいが、反対にチームを壊すリスクもある。様々な可能性を検討したが、変えないことがベストだと、そういう結論に達した。」
上述したマリナッジは、くだんの左ストレートについて「よけられなかった。それは事実だ。」と素直に認めた上で、「(マクレガーのチームに対する信義を通す意味で)詳しく話すつもりはないが、マクレガーは左以外にもサプライズを用意している。本番で上手く行くのかどうかは別にして、彼らの準備に懸ける意欲は本物だ。」と真顔でコメント。
「ボクサーにはない独特の動きを持っているし、タイミングや反応も悪くない。俺にヒットできたからと言って、そのままメイウェザーに通用する訳じゃないが、そんな事は彼らも重々承知しているよ。あっさりKO負けすると言ってる連中は、マクレガーを見くびり過ぎている。」
最近まで現役だったとは言っても、ショーン・ポーターとダニー・ガルシアに連破された2014~2015年に、プロとしてのキャリアは事実上絶たれたと表して良く、ShowtimeやSky Sports(英)の中継でマイク片手に喋りまくる、歯切れのいいコメンテーターとしてのイメージが強い。

ヌジカムとの再戦が発表された村田諒太は、「序盤に山場が来るのでは・・・。」と予想を述べているが、「マクレガーにチャンスがあるとすれば、ボクシングのセオリーにはない異なる種類のパンチ。」だと指摘。「普通にボクシングの技術で戦ったら、勝負にならないのは目に見えてますから。MMAの試合で見せるマクレガーのパンチは、パワフルでワイルド。あれを続けたら、とても12ラウンドは持たない。でも、あのワイルドさで行くしかないと思う。中途半端に技術を覚えて、普通にボクシングするのが一番まずい。」
須藤元気もまた、「短期決戦前提でマクレガーの勝ちもあり。」と予想。「ボクサーとは違うマクレガーの動きに、メイウェザーが慣れる前に左の1発を決めたい。クリンチなどで組み合った際に、いわゆる”キワ”の部分で総合の技術が生きる。組み技系独特のテクニックを使うことは、マクレガーも考えているでしょう。ボクシングでは反則ギリギリですが・・・。」
「メイウェザーは百戦錬磨で、自分の長所も短所も知り尽くしている。勝ちにこだわるからこそ、どんなにつまらないと批判を受けても無理をしない。そして相手の分析にも抜かりがない。セオリーの技術もある程度身に付けていないと、変則オンリーではメイウェザーには通用しない。総合に特有の間合い(ボクシングより遠目)を活かす意味でも、普通にボクシングをやり切る技術は欠かせない。」
ボクシングのスキルに関する見解に相違はあれど、「中盤までにメイウェザーがKOする。KOしなきゃダメでしょ。だって、パッキャオやデラ・ホーヤに勝ってるんですから。総合の選手にボクシング・ルールで負けたら、何やってるんだってなりますよ。」と見立てる村田に対して、「メイウェザーほどの選手から見れば、きっとマクレガーには隙も多い。鮮やかにカウンターを決めて、初回KO勝ちも有り得ると思う。でも、(鉄壁の安全運転を止めて)メイウェザーがガンガン打ち合いに来る場合だって、ゼロじゃないかもしれない。そこでマクレガーの1発が入るとか、やっぱり長丁場に引きずり込んで、スタミナ切れしたマクレガーが自滅に追い込まれる場合も・・・。」等々、様々な選択肢を引っ張り出して展開を膨らませる須藤。
ボクシング専門のコーチを呼ばなかった点については、村田に賛同。付け焼刃の技術で駆け引きして、何とかなる相手ではない。マクレガーの勝機は、泣いても笑っても左を当てる以外になく、眼前にぶら下がった50連勝を確実にする為にも、”いつもと変わらぬテッパン・メイウェザー”で通すと見るのが妥当なライン。
ルール通りの10オンスではなく、メイウェザーが8オンスを譲歩したグローブ問題について、「確実にマクレガーにとってプラス。」だと須藤は読む。村田はグローブについて言及していないようだが、「メイウェザーにとっても、カウンターでKOするチャンスが増す。リスクはお互い様。」ぐらいに考えているのではないか。
絶対に勘違いしていけないのは、これは「ボクシング VS 総合」の戦いではないということ。あくまでボクシング・ルールの12回戦であり、トップレベルの総合格闘家による無謀なチャレンジ,ギャンブル以外の何ものでもないのだ。
◎メイウェザー(40歳)/前日計量:149ポンド1/2
元5階級制覇王者
戦績:49戦全勝(26KO)
アマ通算:84勝6敗(84勝8敗説有り)
1996年アトランタ五輪銅メダル
1996年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
1995年ナショナルPAL優勝
1995年全米選手権優勝
※階級:フェザー級
身長:173センチ,リーチ:183センチ
通常のウェイト:146~151ポンド
右ボクサー
◎マクレガー(29歳)/前日計量:153ポンド
現UFC世界ライト級王者/元同フェザー級王者
総合格闘技戦績:25戦22勝(18KO)3敗
戦績:0戦0勝
アマ戦績:不明
ジュニアアイルランド選手権優勝
※年度・階級不明
身長:175センチ,リーチ:188センチ
通常のウェイト:145ポンド
サウスポー
日本のマニアやファンは、ほとんど問題視していないようだが、一番気になっていたのがウェイト。UFCのフェザー級王者だったマクレガーは、ライト級に上げてからも、前日計量をフェザー級時代と同じ145ポンドで仕上げている。
対戦相手のライト級トップたちは、リミットに合わせて155ポンドの調整。すなわちマクレガーは、10ポンドのウェイトハンディを背負って戦っていたのだ。147ポンドのウェルター級ではなく、154ポンドのS・ウェルター級契約は、マクレガーの計量を踏まえたメイウェザーなりの判断(計算)に違いない。
注目の公式計量は、メイウェザーがやや重めの149ポンド1/2。対するマクレガーは、リミットを1ポンドアンダーする153ポンド。UFCでも前日計量を採用しており、正確な数字は不明ながら、マクレガーも一晩でそれなりに戻している筈。
公開練習でのメイウェザーは、「気持ち、重いかな。」との印象。年齢とブランクを考慮すれば、単純にベストシェイプを望む方にも無理はあるが、プロ経験ゼロの総合格闘家を相手に、マルシアノ超えの50連勝をやらかすことに、少なからず負い目を感じている風でもあり、いつもの省エネ・当て逃げ完封勝ちを引っ込めて、明確なノックアウトを意識しているのかもしれない。村田が言うように、「KOするのが当たり前」というプレッシャーも当然あるだろう。

メイウェザーの当日体重は、概ね150~152ポンドの間と想定される。マクレガー陣営もよくよく考え抜いて、153ポンドで仕上げてきたと見るべきだが、UFCでもスタミナに難ありともっぱらのマクレガーだけに、この増量がどんな影響をもたらすのか・・・。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□オフィシャル
主審:ロバート・バード(米/ネバダ州)
副審:
バート・A・クレメンツ(米/ネバダ州)
デイヴ・モレッティ(米/ネバダ州)
グィド・カヴァレッリ(伊)
立会人(スーパーバイザー):未発表
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■総合のカリスマはアマチュアのエリートだった?
アイルランドの首都ダブリンに生まれたマクレガーは、幼い頃からボクシングと柔術を学び、活動はジュニアのみに止まるとは言え、アマチュアボクシングでもそれなりに注目を集める存在だったという。
コナー少年を指導したのは、2大会連続で五輪に出場したフィリップ・サットクリフ(1980年モスクワ,84年ロス/階級はいずれもバンタム級)。12歳でサットクリフのジムに入門したコナー少年は、すぐに才能と適性を発揮。

「彼の潜在能力には目覚しいものがあり、同時に大変な努力家でもあった。年端もいかない少年が、誰に言われるでもなく、ハードな練習に自らを駆り立て追い込んで行く。燃えるような情熱と冷静に自己を振り返り見つめ直す研究心、己を律するディシプリンは人並み外れていた。」
「今でも残念でならないのは、彼を虜にしたのがボクシングではなかったという事だ。早い時期からキックボクシングにも興味を持ち、次第にレスリングやグラップリングにのめり込んでいった。15~16歳の頃になると、私の所にはほとんど顔を出さなくなった。」
「彼がMMAに進むのは、ごく自然な成り行きだったと思う。ボクシング1本でやっていたら、オリンピックのメダルも夢じゃなかっただろう・・・。」
UFCで大成功を収めたマクレガーの修行時代について問われる度び、サットクリフは当時を追懐してホゾを噛んだとされる。
当時のジムメイトには、4歳年上のディーン・バーン(アマ通算200戦超/プロ18勝6敗2分6KO)、2歳年下のジェイミー・カバナー(2008年ユース世界選手権銀メダル/プロ20勝10KO1敗1分け)らがいて、まだ2人とも現役で頑張っている筈だ。
カバナーは渡米してフレディ・ローチの門を叩き、ワイルドカード・ジムでトレーニングを積んだ経験を持つ。カバナーを通じて、マクレガーに関する情報を耳にしていたとの事だが、結局ローチのトレーナー就任は幻に終わる。
ワイルドカードを立ち上げた後、ローチはかなり早い時期から総合のプロ選手にも門戸を開き、積極的に指導を行ってきた。今はジョルジュ・サンピエールに時間を割いているらしく、唐突にメイウェザーから打診されたマクレガーのコーチについて、「事実なら光栄な話だが、こう見えて私も結構忙しいんだ(笑)。(MMAの中では)ジョルジュがトップ・プライオリティになる。」とすげない返答を返していた。

サンピエールとマクレガーの対決を望むと、折に触れてコメントを出しいたことを思い返すと、ローチがマクレガーと組む可能性はもともと無かったとも言える。靭帯損傷の重症も癒えて、戦線復帰に向けて本格始動したサンピエールは、ボクシングへの転向もほのめかしており、彼の地の総合ファンは今後の動向を気にかけているという。
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■またまた新王座?/WBCが用意するマネーベルト
2度目の引退を翻意したメイウェザーは、2年近いブランクを経ての復帰。分かり切っている事だが、丸腰だ。UFCの現役王者マクレガーは、これがプロボクシングデビュー戦。タイトルマッチにはなりようがない。と言うより、ネバダ州がよく12ラウンズを認めたと思う。本来ならば、8回戦でも無理があり過ぎる戦いなのだから。
という訳で、WBCがまたまたヘンテコリンなベルトを持って来た。マウリシオ現会長が誇らしげに掲げるのは、「特別制マネー・ベルト」と言うらしい。どんな手を使ってでも、サンクション・フィー(承認料)をせしめようという肝か。

3,360個のダイヤモンド、600個のサファイア、300個のエメラルドを散りばめ、1.5キロの24金を使って装飾を施し、WBCを象徴するグリーンのベルト部分には、イタリア製のワニ皮を使用・・・。書いているだけで、ゲップがでそうになる。
ワニ皮のベルトについて、何やら動物愛護団体からクレームが付いた他、日章旗が使われていると、韓国メディアが一斉にブーたれているそうだ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのはわからんでもないが、「大概にしろよ。」と言いたくもなってしまう。
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■関連映像
<1>マクレガーとへーデンのスパーリング映像
This video of Conor McGregor getting schooled by pro boxer has MMA fans worried
https://www.youtube.com/watch?v=XeHDQG5lrNI
<2>マクレガーとマリナッジのスパーリング映像
Conor McGregor Knocks Down Paulie Malignalli Sparring Video!
https://www.youtube.com/watch?v=NAIdscxylKI
<3>問題のスパーリングについて語るマリナッジ
PAULIE MALIGNAGGI REACTS TO NEW MCGREGOR SPARRING FOOTAGE; LAUGHS AND EXPLAINS "BRING YOUR BALLS"
https://www.youtube.com/watch?v=1zUU_cO_G8w
<4>マクレガーの公開練習
1)Conor McGregor Shows Off Fancy Footwork Training for Floyd Mayweather
https://www.youtube.com/watch?v=hsAPh0E4_-U
2)THE COMPLETE CONOR McGREGOR MEDIA WORKOUT / MAYWEATHER v McGREGOR
https://www.youtube.com/watch?v=5TQRDoCZcA4
<5>メイウェザーの公開練習
1)Floyd Mayweather SHADOW BOXING | Workout Ahead Of Conor McGregor Fight
https://www.youtube.com/watch?v=7n589vt82hE
2)Floyd Mayweather MEDIA WORKOUT | MAYWEATHER vs McGREGOR
https://www.youtube.com/watch?v=Ck_iSa0Arzs
<6>ロジャー・メイウェザーにミットを持って貰うマクレガー
roger mayweather working mitts with conor mcgregor look a like EsNews Boxing
https://www.youtube.com/watch?v=YuAVEF3G6Xo
元5階級制覇王者 フロイド・メイウェザー・Jr.(米) VS UFCライト級王者 コナー・マクレガー(英/アイルランド)

130ポンド~154ポンドまで、5つの階級で世界タイトルを獲得。現役最強の賞賛を欲しいまま(?)にし、伝説のロッキー・マルシアノに並ぶ49連勝とともに引退したメイウェザーが、大方の見込んだ通り、凝りもせずリングに舞い戻ってきた。
マルシアノを超える50連勝がかかった、メイウェザーのリングキャリアにとって極めて重要な意味を持つ再起戦に抜擢されたのは、なんとUFCの現役世界王者にして、MMA史上最大のカリスマ的人気を誇るコナー・マクレガー。
噂が飛び交い始めて以降、コメントを見聞きする限りは、2人ともやりたがっているように見えたし、マクレガーがボクシング・ルールを呑むと口走ってしまった以上、ルールを巡る諸問題はその時点で消滅。マッチメイクの妥当性と是非はともかく、間違いなく話題と金を呼ぶ。
メイウェザーは50連勝の達成に未練も執着もたっぷりで、しかしギャンブルは避けたい。ラスト・ファイトと銘打ったアンドレ・ベルト戦から、早くも2年近くが経過。不惑を迎えた肉体に、一切の不安を感じないと言えばウソになる。パッキャオ戦では、自ら禁じ手にしていた筈のドーピング違反(※)も冒した。
※合法の薬物をWADA基準違反の方法で服用(ネバダ州の規定には抵触しない)
カムバックするとなれば、対戦相手は確実に勝利が見込め、なおかつビッグ・マネーを確約してくれるだけの人気,バリューが不可欠・・・ボクシング・マッチを承諾したマクレガーは、まさしくネギを背負ったカモそのもの。実現の可能性は低くないというのが、大方の見立てであった。
だから正式決定の一報に接しても、「やっぱり決まったか・・・。」といった程度の感想しかない。何より驚いたのは、試合がUFCの舞台ではなく、通常のボクシング興行として行われるということ。2人が戦うとなれば、場所はラスベガス以外には有り得ない。「ネバダ州は、プロボクシング経験ゼロのマクレガーに、いきなりメイウェザー戦を認めるつもりなのか・・・。」
ネバダは安全性の確保と健康管理にただでさえうるさく、マクレガーのボクサーライセンス取得を、試合の実現に向けた最大の障壁、課題と見る向きもあったのだが、なんとカリフォルニア州が一足早く承認発行。カリフォルニアのライセンスを、ネバダが「無効だ。」と突っ撥ねる事態はまず考えられない。
ポスト・メイウェザー,パッキャオが用意に現れない現状、経済効果(興行の論理)を最優先に動くのは、洋の東西と歴史の今昔を問わないセオリー。メイウェザーが登場する週末のラスベガスは、軒を並べる巨大カジノホテル群の宿泊料金もグンと跳ね上がる。州外,国外から大挙して押し寄せるツアー客たちが落とす遊興,飲食費は、莫大な利益をネバダにもたらす。
2006年以降、メイウェザーが本格的に腰を落ち着けたラスベガスでしか戦わなくなった理由が、嫌でもわかるだろう。ラスベガスで戦う限り、メイウェザーは無敵。州コミッション,プロモーターを筆頭に、レフェリー&ジャッジも込みで手厚くバックアップする。世界でも有数の中立性と公正性を建前にする(よくもまあそんな大ウソを恥ずかしげもなく・・・)ネバダ州コミッションと言えども、経済第一の原則には抗えない。
マクレガーは押しも押されもしないUFCのトップスターであり、パンチによるKO率が極めて高い。サウスポースタイルから放つ左ストレートのカウンターが得意で、スピード,タイミング,破壊力の三拍子が揃っている。パウンドによるレフェリーストップを呼び込む場合にも、真っ直ぐきれいに伸びる左ストレートでダウンを奪ってから,というケースが多い。
確かにマクレガーのパンチには、頭1つ抜けた印象を受ける。但しそれは、あくまで”MMAのトップクラスの中で見れば”との比較であり、いきなりその前提を取っ外して、「だからボクシングでも今すぐ通用する。」という話はできないし、してはならないと思う。
この試合が話題になった時、真っ先に脳裏に浮かんだのが、半世紀以上も前の1957年8月に行われた世界ヘビー級タイトルマッチ。前(1956年)年のメルボルン五輪で、ヘビー級の金メダルに輝いたピート・ラデマッハー(白人)が、時の王者フロイド・パターソン(黒人)に挑戦した。
プロ・アマ世界一同士の対決は大きな話題となり、なおかつパターソンも、1952年ヘルシンキ大会ミドル級で優勝を遂げており、五輪金メダリスト対決としても盛り上がる。パターソンへの挑戦を企画したのは、なんとラデマッハー自身で、プロの有力プロモーターから持ちかけられた訳ではなかった。
自らの足で地元シアトルの企業を回り、あらゆるツテを介してスポンサーをかき集め、TV局を何度も訪れ説得したが、始めは相手にされなかったという。プロの世界戦は3分×15ラウンドの長丁場。対するアマは、3分×3ラウンド。ヘッドギアの着用はせず、ルールと採点基準も今とは比較にならないぐらいプロに近かったが、「いくらアマの世界一とは言え、無謀過ぎる。重大な事故に発展しかねない。」との批判が、全米各地のボクシング関係者を中心に巻き起こる。
それでもラデマッハーは諦めず、遂に地元ワシントン州の許可を取り付け、投資家たちから募った35万ドル(ケーブルTVもPPVも存在しない当時としては異例の高額)を王者陣営に提示。「事故が起きたらどうする。誰も責任を取れない。」と、一貫して対戦に否定的だったカス・ダマトに直談判。「どんな事態が起きたとしても、関係者の誰を訴えることもしない。すべてを私の自己責任として対処する。契約書にも明記する。」と話し、プロデビュー戦での世界タイトル挑戦が実現。
圧倒的優位の前評判を受け、王者陣営はアウェイのシアトル開催を呑む。地元と白人支配層の熱い声援を受けたラデマッハー(187センチ/202ポンド)は、第2ラウンドに先制のダウンを奪って大いに気を吐くが、体格&パワーの不利を秀逸なスピードとテクニックでカバーするパターソン(183センチ/187ポンド1/4)がすぐに挽回。
”ガゼル・パンチ”と呼ばれた飛び込みざまの左フックだけでなく、左右の的確なカウンターを決め、ラデマッハーから6度のダウンを奪い返す。多くの関係者が恐れていた一方的な試合展開となったが、レフェリーストップの判断基準も今とはまるで違う。「最終的な完全決着」がプロに求められるスタンダードであり、ラデマッハーのホームという事情も相まって、レフェリーも限界を超えて我慢していたが、とうとう第6ラウンドで試合終了を宣言。
※試合映像:パターソン KO6R ラデマッハー
1957年8月22日/シックズ・スタジアム,ワシントン州シアトル
世界ヘビー級タイトルマッチ15回戦
https://www.youtube.com/watch?v=LvCt98ugbYo
この失敗を契機にという訳ではないが、メダリストや代表クラスのトップアマでも、4回戦や6回戦から始めて、地道にプロの水に慣らす従来からの育成方法が徹底されるようになった。
そしてパターソン VS ラデマッハー戦から、実に57年が経った2014年3月1日。トップランクと契約して既存のプロ転向を表明した、”アマの絶対王者”ことワシル・ロマチェンコが、デビュー2戦目でオルランド・サリドが保持するWBO世界フェザー級王座に挑戦。
タイの怪物センサク・ムアンスリンが、1975年7月に成し遂げたプロ(国際式)3戦目での世界王座最短奪取を、およそ40年ぶりに更新しようという野心的な試み。AIBA(アマの国際統括組織)が、既存のプロ流出を最も警戒していたロマチェンコを口説く為、ボブ・アラムは”破格の厚遇”を用意したと言われているが、「最短奪取記録更新」へのトライも、条件の中に含まれていたとされる。
タフで獰猛なサリドは、対戦当時既に33歳を過ぎており、歴戦の疲労と激闘によるダメージに加齢の影響も加わり、ピークアウトの兆候が否めない。ロマチェンコがスピードで圧倒できるのではないかと、そんな予想も聞かれはしたものの、結果は僅少差の1-2判定負け。
確信犯の体重オーバーで敢えて失格(戦わずしてベルトはく奪)を選び、海千山千のサリドが形振り構わず仕掛ける”タフ&ラフ戦法”は、プロのスタイルに慣れ始めたばかりの金メダリストには、いくら何でも荷が重かった。アマチュアのコーチだった実父を中心としたコーナーも、具体的な打開策を指示することができず、経験の浅さを露呈したと言わざるを得ない。
※試合映像:サリド 判定12R(2-1) ロマチェンコ
2014年3月1日/アラモドーム,テキサス州サンアントニオ
WBO世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
https://www.youtube.com/watch?v=1o7Y_CbMPpQ
2戦目での世界挑戦を睨み、”アマの絶対王者”は、WBOの地域王座をかけた10回戦デビュー。これでも異例中の異例と表すべきマッチメイクだが、選ばれた相手は格下のアンダードッグ。万に1つのラッキーパンチ以外、どう転んでも負ける要素は見当たらない、ローカルクラスのボクサーが用意された。
オリンピックと世界選手権で2大会連続優勝を果たし、396勝1敗という途方もない戦績を残したロマチェンコでさえ、目論み通りに事が運ばない。サリド戦の経験を糧に、続く3戦目で空位となったWBO王座を獲得。怪物センサクに並ぶ、最短奪取のタイ記録で面目を施したが、この時の相手は現WBC王者のゲイリー・ラッセル・Jr.。スピードに優れた小兵の黒人で、北京五輪を目指したトップアマ出身組み。
ゴールデン・ボーイ・プロモーションズにスカウトされ、地道に育てる慎重路線の下、既に24戦(全勝/14KO)を経験していたが、アマチュアライクな線の細さが残っていた。アマのスタイルを存分に活かせる相手であり、むしろ組し易い。総帥デラ・ホーヤが直接取り仕切る、言わばアウェイの興行に御大アラムがロマチェンコ送り出したのは、充分な勝算が見込めたからに他ならない。

コナー・マクレガーは、母国アイルランドでアマチュアボクシングの経験があり、ジュニア限定とは言えナショナル王者にもなっている。最初に指導に当たったオリンピアンの元コーチも、少年時代のマクレガーに眠る膨大な埋蔵量を確信し、才能と将来性に絶賛を惜しまなかった。
オリンピックや世界選手権など、大きな国際試合での経験と実績は皆無ながら、総合格闘技(異なる競技)の世界で頂点を極め、トップ・プロとしての実績には文句の付けようがない。
すなわちマクレガーは、ラデマッハーやロマチェンコのような、アマで純粋培養されたスーパー・エリートではなく、ムエタイの中(重)量級で無敵を誇り、国際式でも圧巻の力を見せつけたセンサク・ムアンスリンの系譜に連なる実力者なのだと、センサクのミラクルを再現し得る筈だと、そうした意見も聞こえてきそうだ。
実はセンサクも、国際式でプロデビューする前に、アマの代表チームに加わって専門のコーチから指導を受け、数は少ないながら実戦も経験していたのだが、「マクレガーだって、優秀なプロのトレーナーについてボクシングのトレーニングを継続してきた。同じようなものじゃないか。」と、さらにプッシュする声が耳の奥で響かないこともない。
「メイウェザーは並みのチャンピオンではないが、年齢はもう40歳。最後の試合から2年近くが経ち、いくらジムワークを続けていたとは言え、ブランクでまったく錆付いていないとは言い切れない。マクレガーにもチャンスはある。」
思いっきり希望的観測に沿うなら、そうした主張もわからなくはないけれど・・・。やはり、プロボクシングでは実戦を一度も経験していないグリーンボーイ以下との指摘は、どんなロジックを振り回して見たところで、甘んじて受けざるを得ない。
昨年5月~6月にかけて、メイウェザー陣営の一方的なプロモーションに利用される格好で、UFCを代表するカリスマ的スターのボクシング・コーチを、なんとマネー・メイ本人から依頼されたフレディ・ローチは、ごく常識的な見解を述べている。
「コナー・マクレガーが、今すぐメイウェザーと戦って勝負になるかって?。答えようがないな。彼が実戦(ボクシング)で戦う姿を、私は一度も見ていないからね。見てもいないものに、確証を持って答えることなど誰にもできんだろう。」
「彼が母国で優れたアマチュアボクサーだったことは、ジェイミー(カバナー)から聞いて知っているよ。だが、アマとプロは別物だ。そして今の彼は、プロの成功した総合格闘家であって、プロボクサーではない。彼がどれほど優れた才能の持ち主であったとしても、常識的に考えれば難しいと言わざるを得ない。」
「ボクシングだろうとMMAだろうと、いっぱしのプロになろうと思ったら経験が必要だ。飛び抜けて天才的な選手でも、一朝一夕にトップレベルになれる訳がない。アマとプロ(ボクシング)が異なる競技であるように、総合格闘技とボクシングはまったくの別物なんだ。」
「もしも戦いの舞台が、オクタゴンだったらどうかな?。僅か数ヶ月トレーニングしただけで、メイウェザーがいきなりマクレガーとUFCルールで戦うなんて、誰も本気にしないだろう?。違うかね?。」
一から十までローチの言う通りだと、心から納得するしかないけれど、そのローチも「まさかの事態」に一応言及はする。リップサービス半ばではあるが、「ワンパンチですべてがひっくり返る可能性まで、全否定することはできない。過ぎた余裕は、油断に直結するからね。フロイドも人間だ。”100パーセント絶対”はない。」とも語っている。
今年の3月、二線級のローカル・ファイターに敗れて引退を表明したポール・マリナッジ(元IBF J・ウェルター,WBAウェルター級王者)とのスパーリングで、36歳の元王者からダウンを奪った場面が動画配信サイトにアップされ、「やるじゃないか。」と好評価を受ける反面、南ア出身の中堅ウェルター級,クリス・ヴァン・ヘーデン(30歳/25勝12KO2敗1分け)にほとんど遊ばれているスパー映像もアップされており、ボクサーとしての能力評価について意見が分かれている。
へーデンとのスパーは、昨年の5月中旬にL.A.ボクシングジムで行われた。メイウェザー戦が正式発表される前から、専門メディアのインタビューを受けていたへーデンは、マクレガーの実力について赤裸々に話した。
「休み明けでナマっていたこの俺(国際的には無名の中堅ボクサー)にさえ、まともにパンチを当てられない男が、いったいどうやってフロイド・メイウェザーに勝つと言うんだ?。そんな魔法があるなら、俺が聞きたいよ。頼むから教えてくれ。」
「MMAではトップなんだろうが、ボクサーとしてはごく平凡。パンチも大したことはなかったし、スピードも驚くほどじゃない。(プロとしての)実戦経験がゼロなんだから、スキルについてあれこれ言うのは気の毒だと思う。もっともあのディフェンスじゃあ、メイウェザーなら目をつむっていてもKOできるんじゃないか。」
へーデンにいいように遊ばれたスパーの内容は、マクレガーにとってもショックだったらしく、「あれからコナーは、集中的にボクシングのトレーニングをこなしてきた。今はもう別人だ。」と、取り巻きたちはマクレガーの進境を懸命にアピール。
そしてそのマクレガーに倒されたマリナッジは、「あれはノックダウンじゃない。実際はほとんどプッシングだった。」と反論を展開。当初はマリナッジが倒れている写真しか公開されず、全容は不明。「とにかくやり方が汚い。利用するにしても、最低限の仁義はあるだろう。アンフェアだ。」と、マリナッジは怒り心頭。
「ビデオがある筈だ。公開するなら、写真じゃなく映像を出せと言いたい。映像を見れば、俺がノックダウンされていないことがはっきりする。」
マリナッジによれば、問題のスパーリング(2度目のセッション)はそもそも非公開の予定だったという。ところが、指定された時間にUFCパフォーマンス・インスティテュートに行くと、ダナ・ホワイトを筆頭にUFC陣営の幹部たちがズラリと居並び、「様子が変だとは思ったが、まさかあんな形で利用されるとは・・・。」と抗議。
「こちらには何も含むところはない。俺は誠心誠意、彼の勝利に協力するつもりでいた。だが、お互いの信頼関係が崩れてしまった以上、一緒にやるのは無理だ。」
自身のツィッターで、8月3日にマクレガーのキャンプを離れたと報告を行い、マクレガー陣営のスタッフに対して失望と落胆を訴えた。その後問題の映像が公開され、ダウンシーンはマリナッジが言う通りプッシュ気味に見えなくもないが、その前段で左ストレートをきれいにヒットされており、効いていたのは明らか。
へーデンに何もできなかったマクレガーが、その後一生懸命努力していたのは事実だと思う。この映像を見たローチも、「正直に言うと驚いた。ポーリーがチャンピオンだったのは大分前のことになるし、3月に引退してからどの程度体を動かしていたのかもわからないが、左ストレートをまともに食っている。あれはなかなかのパンチだった。」と前向きなコメントを発している。
直前のオッズは、意外に接近しているとの印象。
□スポーツブックのオッズ
<1>BOVADA
メイウェザー:-450(約1.22倍)
マクレガー:+320(4.2倍)
<2>5dimes
メイウェザー:-615(約1.16倍)
マクレガー:+510(6.1倍)
<3>シーザースパレス
メイウェザー:-650(約1.15倍)
マクレガー:+475(5.75倍)
<4>ウィリアム・ヒル
メイウェザー:2/9(約1.22倍)
マクレガー:10/3(約4.33倍)
ドロー:40/1(41倍)
<5>Sky Sports
メイウェザー:1/4(1.25倍)
マクレガー:100/30(約4.33倍)
ドロー:40/1(41倍)
現地での公開練習は、両陣営ともヘビーバッグを叩くのが主で、形だけのシャドウを少しやったぐらい。手の内を隠しまくりといった様相。メイウェザーがどこまで追い込んで仕上げたのか、本気度が今1つ判然としないが、パッキャオ戦時の神経質な対応とは比較にならない余裕を感じるのは確か。
今回マクレガーは、ボクシング専門のトレーナーをチームに招聘しておらず、その点をマイナスと見る者と、プラスに捉えるファンとに分かれている。チームを率いるジョン・カバナー(総合のジムを運営するチーフ格)は、理由について次のように語った。

「大きな変化には、功罪両面がある。上手く回ればいいが、反対にチームを壊すリスクもある。様々な可能性を検討したが、変えないことがベストだと、そういう結論に達した。」
上述したマリナッジは、くだんの左ストレートについて「よけられなかった。それは事実だ。」と素直に認めた上で、「(マクレガーのチームに対する信義を通す意味で)詳しく話すつもりはないが、マクレガーは左以外にもサプライズを用意している。本番で上手く行くのかどうかは別にして、彼らの準備に懸ける意欲は本物だ。」と真顔でコメント。
「ボクサーにはない独特の動きを持っているし、タイミングや反応も悪くない。俺にヒットできたからと言って、そのままメイウェザーに通用する訳じゃないが、そんな事は彼らも重々承知しているよ。あっさりKO負けすると言ってる連中は、マクレガーを見くびり過ぎている。」
最近まで現役だったとは言っても、ショーン・ポーターとダニー・ガルシアに連破された2014~2015年に、プロとしてのキャリアは事実上絶たれたと表して良く、ShowtimeやSky Sports(英)の中継でマイク片手に喋りまくる、歯切れのいいコメンテーターとしてのイメージが強い。

ヌジカムとの再戦が発表された村田諒太は、「序盤に山場が来るのでは・・・。」と予想を述べているが、「マクレガーにチャンスがあるとすれば、ボクシングのセオリーにはない異なる種類のパンチ。」だと指摘。「普通にボクシングの技術で戦ったら、勝負にならないのは目に見えてますから。MMAの試合で見せるマクレガーのパンチは、パワフルでワイルド。あれを続けたら、とても12ラウンドは持たない。でも、あのワイルドさで行くしかないと思う。中途半端に技術を覚えて、普通にボクシングするのが一番まずい。」
須藤元気もまた、「短期決戦前提でマクレガーの勝ちもあり。」と予想。「ボクサーとは違うマクレガーの動きに、メイウェザーが慣れる前に左の1発を決めたい。クリンチなどで組み合った際に、いわゆる”キワ”の部分で総合の技術が生きる。組み技系独特のテクニックを使うことは、マクレガーも考えているでしょう。ボクシングでは反則ギリギリですが・・・。」
「メイウェザーは百戦錬磨で、自分の長所も短所も知り尽くしている。勝ちにこだわるからこそ、どんなにつまらないと批判を受けても無理をしない。そして相手の分析にも抜かりがない。セオリーの技術もある程度身に付けていないと、変則オンリーではメイウェザーには通用しない。総合に特有の間合い(ボクシングより遠目)を活かす意味でも、普通にボクシングをやり切る技術は欠かせない。」
ボクシングのスキルに関する見解に相違はあれど、「中盤までにメイウェザーがKOする。KOしなきゃダメでしょ。だって、パッキャオやデラ・ホーヤに勝ってるんですから。総合の選手にボクシング・ルールで負けたら、何やってるんだってなりますよ。」と見立てる村田に対して、「メイウェザーほどの選手から見れば、きっとマクレガーには隙も多い。鮮やかにカウンターを決めて、初回KO勝ちも有り得ると思う。でも、(鉄壁の安全運転を止めて)メイウェザーがガンガン打ち合いに来る場合だって、ゼロじゃないかもしれない。そこでマクレガーの1発が入るとか、やっぱり長丁場に引きずり込んで、スタミナ切れしたマクレガーが自滅に追い込まれる場合も・・・。」等々、様々な選択肢を引っ張り出して展開を膨らませる須藤。
ボクシング専門のコーチを呼ばなかった点については、村田に賛同。付け焼刃の技術で駆け引きして、何とかなる相手ではない。マクレガーの勝機は、泣いても笑っても左を当てる以外になく、眼前にぶら下がった50連勝を確実にする為にも、”いつもと変わらぬテッパン・メイウェザー”で通すと見るのが妥当なライン。
ルール通りの10オンスではなく、メイウェザーが8オンスを譲歩したグローブ問題について、「確実にマクレガーにとってプラス。」だと須藤は読む。村田はグローブについて言及していないようだが、「メイウェザーにとっても、カウンターでKOするチャンスが増す。リスクはお互い様。」ぐらいに考えているのではないか。
絶対に勘違いしていけないのは、これは「ボクシング VS 総合」の戦いではないということ。あくまでボクシング・ルールの12回戦であり、トップレベルの総合格闘家による無謀なチャレンジ,ギャンブル以外の何ものでもないのだ。
◎メイウェザー(40歳)/前日計量:149ポンド1/2
元5階級制覇王者
戦績:49戦全勝(26KO)
アマ通算:84勝6敗(84勝8敗説有り)
1996年アトランタ五輪銅メダル
1996年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
1995年ナショナルPAL優勝
1995年全米選手権優勝
※階級:フェザー級
身長:173センチ,リーチ:183センチ
通常のウェイト:146~151ポンド
右ボクサー
◎マクレガー(29歳)/前日計量:153ポンド
現UFC世界ライト級王者/元同フェザー級王者
総合格闘技戦績:25戦22勝(18KO)3敗
戦績:0戦0勝
アマ戦績:不明
ジュニアアイルランド選手権優勝
※年度・階級不明
身長:175センチ,リーチ:188センチ
通常のウェイト:145ポンド
サウスポー
日本のマニアやファンは、ほとんど問題視していないようだが、一番気になっていたのがウェイト。UFCのフェザー級王者だったマクレガーは、ライト級に上げてからも、前日計量をフェザー級時代と同じ145ポンドで仕上げている。
対戦相手のライト級トップたちは、リミットに合わせて155ポンドの調整。すなわちマクレガーは、10ポンドのウェイトハンディを背負って戦っていたのだ。147ポンドのウェルター級ではなく、154ポンドのS・ウェルター級契約は、マクレガーの計量を踏まえたメイウェザーなりの判断(計算)に違いない。
注目の公式計量は、メイウェザーがやや重めの149ポンド1/2。対するマクレガーは、リミットを1ポンドアンダーする153ポンド。UFCでも前日計量を採用しており、正確な数字は不明ながら、マクレガーも一晩でそれなりに戻している筈。
公開練習でのメイウェザーは、「気持ち、重いかな。」との印象。年齢とブランクを考慮すれば、単純にベストシェイプを望む方にも無理はあるが、プロ経験ゼロの総合格闘家を相手に、マルシアノ超えの50連勝をやらかすことに、少なからず負い目を感じている風でもあり、いつもの省エネ・当て逃げ完封勝ちを引っ込めて、明確なノックアウトを意識しているのかもしれない。村田が言うように、「KOするのが当たり前」というプレッシャーも当然あるだろう。

メイウェザーの当日体重は、概ね150~152ポンドの間と想定される。マクレガー陣営もよくよく考え抜いて、153ポンドで仕上げてきたと見るべきだが、UFCでもスタミナに難ありともっぱらのマクレガーだけに、この増量がどんな影響をもたらすのか・・・。
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□オフィシャル
主審:ロバート・バード(米/ネバダ州)
副審:
バート・A・クレメンツ(米/ネバダ州)
デイヴ・モレッティ(米/ネバダ州)
グィド・カヴァレッリ(伊)
立会人(スーパーバイザー):未発表
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■総合のカリスマはアマチュアのエリートだった?
アイルランドの首都ダブリンに生まれたマクレガーは、幼い頃からボクシングと柔術を学び、活動はジュニアのみに止まるとは言え、アマチュアボクシングでもそれなりに注目を集める存在だったという。
コナー少年を指導したのは、2大会連続で五輪に出場したフィリップ・サットクリフ(1980年モスクワ,84年ロス/階級はいずれもバンタム級)。12歳でサットクリフのジムに入門したコナー少年は、すぐに才能と適性を発揮。

「彼の潜在能力には目覚しいものがあり、同時に大変な努力家でもあった。年端もいかない少年が、誰に言われるでもなく、ハードな練習に自らを駆り立て追い込んで行く。燃えるような情熱と冷静に自己を振り返り見つめ直す研究心、己を律するディシプリンは人並み外れていた。」
「今でも残念でならないのは、彼を虜にしたのがボクシングではなかったという事だ。早い時期からキックボクシングにも興味を持ち、次第にレスリングやグラップリングにのめり込んでいった。15~16歳の頃になると、私の所にはほとんど顔を出さなくなった。」
「彼がMMAに進むのは、ごく自然な成り行きだったと思う。ボクシング1本でやっていたら、オリンピックのメダルも夢じゃなかっただろう・・・。」
UFCで大成功を収めたマクレガーの修行時代について問われる度び、サットクリフは当時を追懐してホゾを噛んだとされる。
当時のジムメイトには、4歳年上のディーン・バーン(アマ通算200戦超/プロ18勝6敗2分6KO)、2歳年下のジェイミー・カバナー(2008年ユース世界選手権銀メダル/プロ20勝10KO1敗1分け)らがいて、まだ2人とも現役で頑張っている筈だ。
カバナーは渡米してフレディ・ローチの門を叩き、ワイルドカード・ジムでトレーニングを積んだ経験を持つ。カバナーを通じて、マクレガーに関する情報を耳にしていたとの事だが、結局ローチのトレーナー就任は幻に終わる。
ワイルドカードを立ち上げた後、ローチはかなり早い時期から総合のプロ選手にも門戸を開き、積極的に指導を行ってきた。今はジョルジュ・サンピエールに時間を割いているらしく、唐突にメイウェザーから打診されたマクレガーのコーチについて、「事実なら光栄な話だが、こう見えて私も結構忙しいんだ(笑)。(MMAの中では)ジョルジュがトップ・プライオリティになる。」とすげない返答を返していた。

サンピエールとマクレガーの対決を望むと、折に触れてコメントを出しいたことを思い返すと、ローチがマクレガーと組む可能性はもともと無かったとも言える。靭帯損傷の重症も癒えて、戦線復帰に向けて本格始動したサンピエールは、ボクシングへの転向もほのめかしており、彼の地の総合ファンは今後の動向を気にかけているという。
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■またまた新王座?/WBCが用意するマネーベルト
2度目の引退を翻意したメイウェザーは、2年近いブランクを経ての復帰。分かり切っている事だが、丸腰だ。UFCの現役王者マクレガーは、これがプロボクシングデビュー戦。タイトルマッチにはなりようがない。と言うより、ネバダ州がよく12ラウンズを認めたと思う。本来ならば、8回戦でも無理があり過ぎる戦いなのだから。
という訳で、WBCがまたまたヘンテコリンなベルトを持って来た。マウリシオ現会長が誇らしげに掲げるのは、「特別制マネー・ベルト」と言うらしい。どんな手を使ってでも、サンクション・フィー(承認料)をせしめようという肝か。

3,360個のダイヤモンド、600個のサファイア、300個のエメラルドを散りばめ、1.5キロの24金を使って装飾を施し、WBCを象徴するグリーンのベルト部分には、イタリア製のワニ皮を使用・・・。書いているだけで、ゲップがでそうになる。
ワニ皮のベルトについて、何やら動物愛護団体からクレームが付いた他、日章旗が使われていると、韓国メディアが一斉にブーたれているそうだ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのはわからんでもないが、「大概にしろよ。」と言いたくもなってしまう。
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■関連映像
<1>マクレガーとへーデンのスパーリング映像
This video of Conor McGregor getting schooled by pro boxer has MMA fans worried
https://www.youtube.com/watch?v=XeHDQG5lrNI
<2>マクレガーとマリナッジのスパーリング映像
Conor McGregor Knocks Down Paulie Malignalli Sparring Video!
https://www.youtube.com/watch?v=NAIdscxylKI
<3>問題のスパーリングについて語るマリナッジ
PAULIE MALIGNAGGI REACTS TO NEW MCGREGOR SPARRING FOOTAGE; LAUGHS AND EXPLAINS "BRING YOUR BALLS"
https://www.youtube.com/watch?v=1zUU_cO_G8w
<4>マクレガーの公開練習
1)Conor McGregor Shows Off Fancy Footwork Training for Floyd Mayweather
https://www.youtube.com/watch?v=hsAPh0E4_-U
2)THE COMPLETE CONOR McGREGOR MEDIA WORKOUT / MAYWEATHER v McGREGOR
https://www.youtube.com/watch?v=5TQRDoCZcA4
<5>メイウェザーの公開練習
1)Floyd Mayweather SHADOW BOXING | Workout Ahead Of Conor McGregor Fight
https://www.youtube.com/watch?v=7n589vt82hE
2)Floyd Mayweather MEDIA WORKOUT | MAYWEATHER vs McGREGOR
https://www.youtube.com/watch?v=Ck_iSa0Arzs
<6>ロジャー・メイウェザーにミットを持って貰うマクレガー
roger mayweather working mitts with conor mcgregor look a like EsNews Boxing
https://www.youtube.com/watch?v=YuAVEF3G6Xo