ネットオヤジのぼやき録

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ニカラグァのアルバラード兄弟,期待の元オリンピアン,女子重量級の功労者フランションらが登場 - ガルシア VS キャンベル戦アンダーカード プレビュー -

2021年01月03日 | Preview

<1>1月2日/アメリカン・エアラインズ・センター,テキサス州ダラス/WBA世界S・フェザー級タイトルマッチ12回戦
正規王者 レネ・アルバラード(ニカラグァ) VS WBA3位 ロジャー・グチェレス(ベネズエラ)

我らが内山高志を引退に追い込み、130ポンドのトップ戦線に躍り出たジェスレル・コラレス(ドミニカ)を天国から地獄へと叩き落し、V2に成功したプエルトリコの明星アルベルト・マチャドと2連戦を敢行。

衝撃的な序盤のKOで連破してみせた大物食い(?)のアンドリュー・カンシオ(米)を、これまた驚きの大番狂わせで7回終了のストップに退け、プロ11年目の遅咲きを見事開花させたアルバラードが、1年2ヶ月ぶりの実戦復帰を果たす。

チャレンジャーのグチェレスは、この階級では異例の長身を武器に戦う正攻法の好戦的なボクサーファイターだが、実力的にはローカル・クラスの上位が精一杯といったところ。そして両雄は3年前に一度拳を交えており、アルバラードがフルマークで展開をリードした末に、右瞼をカットしたグチェレスのコーナーがギブアップ。7回TKO(8回戦)で勝利を収めている。


初渡米でGBPの興行(L,A,Fight Club)に参戦が叶いながらも、力及ばずアルバラードにプロ初黒星を喫した後、無名選手を4連続KOして復調すると、2018年の6月と9月に再渡米。同じくGBPの手掛ける興行で、テキサスのホープ,ヘクター・タナジャラ(24歳/現在19連勝中/5KO)と、メキシコの有望株オスカル・デュアルテ(24歳/19勝14KO1敗1分け)に連敗。

アンダードッグの仕事(白星献上)をキッチリ果たした訳だが、母国に戻って2連勝すると、またまたGBPからお呼びがかかる。

昨年7月、28連勝(25KO)中の若きメキシカン,エデュアルド・エルナンデス(23歳の右パンチャー)の斬られ役を仰せつかり、今度もまた首尾良く役割を全うするのかと思いきや、開始ゴングと同時に倒す気満々で前に出てくるエルナンデスに打ち下ろしの右を連射。

右に意識が集中したエルナンデスに、下からサンドイッチのように挟み込む左のショートアッパーを突くと、これが顎にヒット。さらに間髪入れずに止めの右をチンに追加。ガクンと腰から落ちたエルナンデスは、懸命に立ち上がろうとしてヨロめき、たたらを踏んでロープ際に再び倒れ込む。

ルディ・バラゴンという怪獣みたいな名前(失礼)のレフェリーが、迷うことなくストップを宣告した。4度目の渡米でまさかのアップセットを引き起こし、念願の白星を手に入れたグチェレスを、WBAはランキング上位に引き戻したという次第。

こちらもまた、昨年12月にアウェイのメキシコで10回判定勝ちをマークして以降、実戦から遠ざかっている。


KO率の高さは要注意なれど、パワージャブがなく折角のロング・ディスタンスを簡単に潰され、打ち合い上等の白兵戦へと雪崩れ込む。ボディワークが不足して頭もほとんど振らない現代流ではないけれど、接近戦でのディフェンスはけっして上手いとは言い難い。

3年前にアルバラードに敗れた時も、体格差の優位を活かせないまま、自分の距離を作り切れず、アルバラードが下から振り上げる左右のフックとアッパー、得意の右ストレートを面白いように浴びた。

エルナンデスを初回で倒した快心の勝利について、フロックだったと頭から決め付けるつもりはないが、スポーツブックのオッズは「まぐれ当たり」だと見ているらしい。第1戦の内容と結果が、一番大きく影響していることも間違いないと思うけれど・・・。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
R・アルバラード:-850(約.12倍)
R・ゴンサレス:+525(6.25倍)

<2>5dimes
R・アルバラード:-1000(1.1倍)
R・ゴンサレス:+650(6.6倍)

<3>SportBet
R・アルバラード:-948(約1.11倍)
R・ゴンサレス:+702(8.02倍)

<4>ウィリアム・ヒル
R・アルバラード:1/8(1.125倍)
R・ゴンサレス:9/2(5.5倍)
ドロー:25/1(26倍)

<5>Sky Sports
R・アルバラード:1/8(1.125倍)
R・ゴンサレス:5/1(6倍)
ドロー:25/1(26倍)


3年前と同様、アルバラードが容易に自分の間合いに持ち込んで、コツコツ上下に当てながらグチェレスを削って行き、中盤から後半にかけてのストップを呼び込む。そうした見立てが、まずは順当な経過と結果にはなる。

グチェレスには、捨て身で長い右ストレートを打ち込む勇気と、少々打たれても怯まず前に出続ける闘志が必須。アルバラードも足でかき回すタイプではないので、大晦日の井岡一翔よろしく、思い切り体重を戻すのもあり。

キャンプではガードとボディワークの強化に取り組んだ筈だが、リバウンドによるフィジカル・タフネスのさらなるアップがないと厳しい。


◎アルバラード(31歳)/前日計量:129.4ポンド
戦績:40戦32勝(21KO)8敗
身長:170センチ,リーチ:183センチ
右ボクサーファイター

◎グチェレス(25歳)/前日計量:129.6ポンド
戦績:28戦24勝(20KO)3敗1分け
身長,リーチとも177センチ
右ボクサーファイター


□リング・オフィシャル:未発表


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<2>IBF世界J・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 フェリックス・アルバラード(ニカラグァ) VS IBF3位 ディージェイ・クリエル(南ア)

挑戦者のクリエルは、昨年2月にロサンゼルスのマイクロソフト・シアターで、カルロス・リコナ(米)に最終12回KO勝ち。不利の予想を覆して、IBFのミニ・フライ(ミニマム)級王者となったが、減量苦を理由に防衛戦を行うことなく返上。

”メイウェザーの再来”の呼び声も高い、フィリピンのアマチュア・スター,マーク・アンソニー・バリーガとの決定戦に臨み、物議を醸す判定ながらも、僅差のスプリット・ディシジョンで王座に就いたリコナは、カリフォルニア在住のメキシカン。

アル・ヘイモンのグループに属しており、バリーガ戦の勝利はその影響力のおかげともっぱらで、クリエルに敗れて馬脚を現した格好となる。ベルトを放棄したクリエルは、アメリカからの次なるオファーに備えて待機。なかなか声がかからず試合枯れしてしまい、昨年11月にようやくメキシコで無名選手を初回KOに下すと、2階級制覇への機会がやって来た。


レネと双子の兄弟のフェリックスは、今を去ること7年前の大晦日(2013年12月31日)大阪府立でWBAのレギュラー王者だった井岡一翔に挑戦して、大差の0-3判定に退いている。この時フェリックスのランキングはWBA3位で、戦績も18戦全勝(15KO)と勢いに乗るプロ3年目の24歳。井岡が108ポンドに上げて以降に迎えた、最も手強い挑戦者の触れ込みだった。

興国高から東農大に進み、北京五輪の代表入りが叶わず、それでも元世界王者井岡弘樹の甥で、実父がチーフトレーナーという血筋もあって、鳴り物入りでプロ入りした井岡もまた、14戦全勝(9KO)の無敗レコードを維持。年齢はフェリックスと同い年の24歳ながら、プロでは1年先輩の4年生。

持ち前のパワーと突進力で大いに善戦はしたものの、ポイント上はワンサイドに近い差を付けられている。さらに半年後の2014年6月には、アルゼンチンまで遠征してフライ級のWBAレギュラー王者ファン・C・レヴェコにアタック。

再起戦がいきなり世界戦で、なおかつ1階級上げてアウェイでの再挑戦。勝てという方が無理なシチュエーションにもかかわらず、歴戦の疲労が見えるレヴェコをパワーで追い詰める。またしても0-3の判定で連敗という結果に終るが、「108ポンドでもう一度やれば、必ずチャンピオンになれる」との手応えを得たという。


この後は母国でのローカル・ファイトが続き、2017年1月にWBCの地域王座を獲得。さらにローカル・ファイトの継続を余儀なくされたが、2018年10月、待ち望んだ108ポンドでの挑戦機会が訪れる。

3度目もまたアウェイのフィリピン行きとなり、「勝つ為にはKOしかない」との覚悟でランディ・ペタルコリンに立ち向かい、7回に2度のダウンを奪ってTKO勝ち。ペタルコリンにも一番いい頃の輝きはなく、想像していた以上にプレスも良くかかり、ポイント差以上に力量の違いが際立った。

昨年9月の初防衛戦では、井岡戦以来6年ぶりの再来日を果たし、神戸のポートピアホテルで小西伶弥(真正)の挑戦を受け、明白な3-0の判定で無事に帰国。WBCのベルトを持つ拳四朗のオファーに応じて、12月23日に2団体統一戦が決定するも、体調不良を理由にキャンセル。

日本のファンを大いに失望させたフェリックスに、今年2月朗報がもたらされる。カンシオを破ったレネとともに、GBPから正式契約の申し出を受ける。4月25日には、105ポンドのIBF王座を返上して増量してきたクリエルとのタイトルマッチが決まったが、武漢ウィルス騒動で延期となり、何とか今回の開催に漕ぎ着けた。


スポーツブックのオッズは、意外な程差が開いている。フェリックスが過大評価されているというより、クリエルに108ポンドでの実績が無い上に、昨年2月のリコナ戦以降、ほとんどまともにファイトしていないという、ブランクの悪影響を加味した数字(結果)だと思う。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
F・アルバラード:-600(約1.17倍)
クリエル:+400(5倍)

<2>5dimes
F・アルバラード:-600(約1.17倍)
クリエル:+450(5.5倍)

<3>SportBet
F・アルバラード:-578(約1.17倍)
クリエル:+472(5.72倍)

<4>ウィリアム・ヒル
F・アルバラード:2/9(約1.22倍)
クリエル:3/1(4倍)
ドロー:20/1(21倍)

<5>Sky Sports
F・アルバラード:1/5(1.2倍)
クリエル:4/1(5倍)
ドロー:16/1(17倍)


計量後のリバウンドも含めたフェリックスのフィジカル&パワーに、階級アップのクリエルがどんな対策で挑むのか。クリエル以外にも、ヘッキー・バドラーとモルティ・ムザラネを預かるベテラン・トレーナー,コリン・ネイサンの腕の見せどころ。

順当なら、小~中差の判定でフェリックスが押し切る。クリエルが105ポンドと同等のパフォーマンスを発揮できたとしても、いい勝負が出来るのは中盤までか。何だかんだフェリックスが打ち合い勝負に持ち込んで、最後にはサイズの違いがモノを言いそう。


「ずっとここ(米本土)で戦うことを夢見てきた。拳四朗との統一戦は大きなチャンスだったけど、気管支炎でドクターの許可が下りなかった。彼(クリエル)は素晴らしいファイターで、105ポンドのチャンピオンでもあった。4月に彼との試合が決まり、本当に嬉しかった。」

「でもパンデミックが起きて、私たちだけじゃなく、誰もが皆戦うことが出来なくなった。長いレイオフで、ストレスとフラストレーションが溜まった。厳しい時間だったが、でもそのおかげで、彼の試合映像をじっくり見ることもできた。」

「研究と分析の対象となるのは、すべてが過去の出来事であり終った試合です。私たちは日々新しい活力に溢れ、今日の私たちは昨日と同じではない。それをしっかり理解した上で、リングの上で私たちは(勝利という)答えを導き出さねばならない。」

マイアミへ飛んで、オスミリ・フェルナンデス(キューバから亡命した著名なコーチの1人)の下で2ヶ月に及ぶ特訓をこなし、さらに母国でもルイス・コルテス(アレクシス・アルゲリョを指導した最古参のトレーナー)の助言を受けたフェリックスは、「ここで躓く訳にはいかない。」と気を引き締める。


デビュー戦を落として以来、修行時代にドローを1つ挟んで連勝を続けるクリエルも、力強く勝利への抱負を述べた。

「負けるのはあの1回だけでたくさん。もうコリゴリだ。(ブランクについて聞かれると)それは私だけに限った問題じゃない。世界中のボクサーに共通したテーマであり、ボクサー以外のすべての人々にも同じことが言える。世界中の人々が、今もなお耐え続けている。」

「(2019年に一度も)試合に出場できなかったことは残念だが、完全にオフしていた訳じゃない。この日の為に、ずっとハードワークを続けていた。(チャンピオンに復帰する為の)準備は万端整っている。」

「フェリックス・アルバラードには申し訳ないが、私が目標にしているのはローマン・ゴンサレスやファン・F・エストラーダであり、いずれ近いうちに彼らと同じリングで相対したい。」

なるほどそうでしたか。アルバラードへの挑戦はあくまで通過点であり、フライ級を獲って3階級制覇するだけでなく、S・フライ級への参戦も視野に入れていると・・・。


◎アルバラード(31歳)/前日計量:107.4ポンド
戦績:37戦35勝(30KO)2敗
身長:163センチ,リーチ:173センチ
好戦的な右ボクサーファイター

◎クリエル(25歳)/前日計量:107.4ポンド
戦績:18戦16勝(8KO)1敗1分け
アマ戦績:6戦3勝3敗
身長:160センチ
右ボクサーファイター


□リング・オフィシャル:未発表


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<3>S・ウェルター級契約10回戦
ラウル・クリエル(メキシコ) VS ラムセス・アガートン(メキシコ)

リオ五輪代表からプロに転じたクリエルが、昨年10月以来となるプロ9戦目を迎える。帰国後GBPのスカウトに応じてプロ入り。辣腕で知られる名物マネージャー,フランク・エスピノーザと契約して、激戦区の中量級で荒波に乗り出した。

上背には恵まれなかったが、リーチはまずまずの長さで、分厚い上半身から繰り出す左右のパワーショットはなかなかの見もの。

2018年の夏以降、名匠フレディ・ローチに付いてプロのスタイルを学び直し、持ち前のハンドスピードを活かした連打(コンビネーション)を強化。正直なところ、本番のリング上で披露するフィジカルは、逞しさを感じさせつつも「絞り切れていない」との印象が強い。

S・ウェルター級に主戦場を移したのは昨年からで、もしもコンディションの維持が可能なら、147ポンドのウェルター級に戻した方が良いのでは。確かにパワーは154ポンドでも今のところ通用はしているけれど、この先対戦相手のレベルが上がり、180センチ・クラスの長身選手に対応し切れるのかどうか不安は残る。

契約は今回も154ポンドのS・ウェルター級リミットとのことだが、同胞の相手選手が2.4ポンドものウェイト・オーバー。まさに180センチ台の大型選手で、今後を見据えたマッチメイク。実力差は明らかとは言え、試合はこのまま行われる模様・・・。


◎R・クリエル(25歳)/前日計量:153.2ポンド
戦績:8戦全勝(6KO)
アマ戦績:不明
2016年リオ五輪L・ウェルター級代表(初戦敗退)
2012年ユース世界選手権(イェレヴァン/アルメニア)ライト級銀メダル
2013年プエルトリコ VS メキシコ対抗戦(サンファン)L・ウェルター級優勝
2013年ワールド・ゴールデン・グローブス・トーナメント(ワシントンD.C.)ライト級優勝
WSB(World Series of Boxing ):12戦8勝(1KO)4敗
身長:173センチ
右ボクサーファイター

◎アガートン(30歳)/前日計量:156.4ポンド
戦績:37戦22勝(12KO)12敗3分け
身長:182センチ
左ボクサーファイター


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<4>女子L・ヘビー級契約8回戦
フランション・クルーズ・デズーン(米) VS アシュレイ・カリー(米)

クラレッサ・シールズのデビュー戦の相手を務め、五分に近い好勝負を繰り広げたフランション・クルーズ(彼女もまたプロの初陣だった)は、ボルティモアを拠点に活動を続ける元トップ・アマで、クラレッサとともに王国アメリカの女子重量級を支え続けた第一人者であり、かつ功労者でもある。

ロンドンとリオの出場を目指したが、五輪の女子重量級はミドル級しかない為、いずれも予選で敗退。正代表に抜擢されるチャンスが無かった。

12年に及ぶアマチュアの活動を経て、2016年11月にクラレッサとのデビュー戦に臨み、フルマークの0-3判定に退きはしたものの、五輪連覇の女王を相手に1歩も退かない奮闘ぶりで好評価を得る。


2戦目から3連勝(1KO)をマークして、2018年9月、マリセラ・コルネホ(米)に10回2-0判定勝ちを収め、空位のWBC S・ミドル級王座を獲得。昨年6月にチューンナップをこなした後、スコアの妥当性で揉めたマリセラと9月に再戦。明白なユナニマウス・ディシジョンで返り討ちにして決着。

また、このリマッチにはWBOの王座も懸けられることになり、フランションはWBC王座の初防衛に成功するとともに、C・O2団体の統一王者となる。昨年6月にはGBPとの契約も成立。32歳の”ヘビー・ヒッティング・ディーバ(The Heavy-Hitting Diva)”に、ようやくプロとしての花が咲く。


※左から:バリー・ハンター(チーフ・トレーナー),フランション,B-HOPことバーナード・ホプキンス(今やGBPの屋台骨を支える経営幹部の1人)

しかし今年の1月11日、アラモドームで行われた2度目の防衛戦(ハイメ・ムンギア VS ゲイリー・オサリヴァン戦のアンダーカード/統一王者としてはV1)で事件は起きた。

挑戦者アレハンドラ・ヒメネス(メキシコ)は、2016年にWBCのヘビー級タイトルを獲得した後、2017年に初防衛を遂げると王座を放棄。ヘビー級の女子選手は非常に珍しく、試合を組む事は勿論、スパーリング・パートナーも容易に見つからない。


※173センチのフランション(左)も女子としては十分に大きいけれど公称180センチのアレハンドラとの体格差は一目瞭然

2018年にL・ヘビー級で1試合をこなして、昨年からS・ミドル級に定住した。220~230ポンド超の重量を身にまとっていたアレハンドラは、尋常ではない努力の末におよそ60ポンド(約27キロ)を削り落とし、女子の選手がほとんどいないヘビー級から、北米圏に相応の選手層を有するS・ミドル級へと降りたのである。

2019年2月に168ポンド契約の初戦を行い、同胞の無名選手に8回判定勝ち。フランションへの挑戦交渉がまとまり、今年1月のタイトルマッチが決まったのだが、有利と見られた統一王者は、メキシコの元ヘビー級チャンプが放つ強烈なパワーショットと強靭なフィジカルに押されて大苦戦。


オフィシャルのスコアカードは1-2(97-93/93-97/92-98)に割れて、挑戦者を支持。 フランションは新年早々プロ2敗目を喫してしまい、王座を追われた。ところが、WBCが義務付けしたVADA(Voluntary Anti-Doping Agency/在ラスベガスの民間検査機関)のドーピングテストで、アレハンドラにステロイドの陽性反応が出る。

A・B両検体から基準値を超えるスタノゾロールが検出され、開催地のテキサス州は判定結果をノーコンテストに訂正すると公式に発表。3月17日には、WBOがアレハンドラへの認定を取り消し、フランションをあらためてチャンピオンとして承認。

メキシカン厚遇が日常茶飯になっているWBCは、2月中にアレハンドラの王座はく奪を発表したが、フランションの再認定に踏み切ろうとはせず、再戦の可能性も含めてアレハンドラ救済の手段を長々と検討模索した。

これには流石のデラ・ホーヤも堪忍袋の緒を切り、「何故WBCは正義を行おうとしないのか。WBOを身倣い、直ちにベルトをあるべき場所に返すべきだ。」と公式に声明を出し、文書でも抗議を行う。


グズグズと結論を先延ばしにしていたWBCだが、6月に入ってようやくフランションの王座復帰を認める。一報を伝え聞いた終生のライバル,クラレッサが、早速ツィッターで祝意を表明した。

GBPとの契約締結後、後見役として試合会場やイベント会場に出向き、直接的にサポートを担当したのはバーナード・ホプキンスで、デラ・ホーヤが直々に登場することはなく、単純にGBP内部の役割分担なのだろうが、やはりフランションは心細かったらしい。

「勿論バーナードの事は信頼していたし、彼の誠実な仕事ぶりとサポートには感謝しかないけれど、やっぱりオスカーが彼自身の名前で正式に抗議をしてくれた時は、本当に嬉しかった。ゴールデン・ボーイの一員なんだと再認識できたし、私自身の存在を実感できた。」

そしてWBCに再選指示の動きがあることを知ったフランションは、止むを得ず声明を出す。それはまったくの正論で、反論の余地が無いものだった。


「彼女は禁止薬物を使用した。その効果は絶大だった。私はアマチュアとプロを通じて、15年もの間戦ってきた。この階級では練習相手を探すのが大変で、止むを得ず男性選手とのスパーリングも経験したけど、彼女のパワーはそうした男性選手をも超えている。本当に驚いた。」

「彼女の行為は許されないもので、最低でも2年間サスペンドされるべきだと思う。彼女が競技に対する姿勢を根本的に改めて、本当にクリーンであると証明する為には、それだけの時間が必要です。」

当たり前の話ではあるが、フランションは早期の再戦を明確に否定した上で、早くから長期間の資格停止を全米各州のコミッションに対して訴えた。WBCがこの間、本気でリマッチの指示を考えていたのだとしたら、それ自体が狂気の沙汰である。


それにしても、どうして今スタノゾロールなのか。1988年のソウル五輪陸上の男子100メートルにおいて、宿敵カール・ルイスを破り、9秒79の世界新記録で見事優勝を果たしたベン・ジョンソンに、競技後の尿検査で違反が発覚。金メダルと世界記録は公式に取り消されて、カナダの英雄は恥辱にまみれることとなった。

この時検出されたのが、スタノゾロールである。そしてMLBでは、キューバから亡命してきたラファエル・パルメイロ(通算3000本安打+500本塁打)も2005年8月に使用が発覚。

2016年にはドミニカ出身のクローザー,ヘンリー・メヒア(N.Y.メッツ/2014年に28Sを記録)が、全世界を震撼させたバルコ・スキャンダル、そしてミッチェル・レポートを経て導入された「スリー・ストライク・アウトルール(2度目の違反発覚までは更正のチャンスを与えられる)」の適用第1号となり、永久追放処分を受ける。

MLB機構のロブ・マンフレッドコミッショナーは、2018年7月、そのメヒアに対して「2019年以降復帰の申し立てが可能」だとする裁定を正式に表明。実際にメヒアは復帰を申請し、ボストンとマイナー契約を結んで大きな波紋を投げかけた。

昨年11月には、同じメッツのロビンソン・カノー(通算打率.303/2624安打/334本塁打)も、スタノゾロールでツー・ストライクの宣告を受けている(162試合の出場停止処分)。


日本の球界にやって来たいわゆる”助っ人外国人”では、昨年6月にやはりスタノゾロールの陽性反応でオリックスを解雇されたジョーイ・メネセスが記憶に新しい。メネセスもまた、今年2月にボストンとマイナー契約を結んだ。

2017年にクロルタリドンとフロセミドが検出され、楽天をクビになったジャフェット・アマダー(アマドゥー)に至っては、当初「引退する」と殊勝なコメントを出しながら、帰国後古巣の球団(メキシコシティ・レッドデビルス)に復帰している。


トップクラスのドーピング違反に対して、プロスポーツはかくも甘く緩く優しい。プロボクシングもその例に漏れず、例えばルイス・オルティスのように、3度も違反を犯しながら現役を続けている選手もいる。

案の定、テキサス州ボクシング・コミッションは、アレハンドラに対して90日(3ヶ月)の資格停止(試合が行われた1月まで遡って起算)という、とても処分とは言えない大甘裁定でお茶を濁す。州のコミッション・ルールがそうなっているから仕方がないのだが、罰則規定を厳しくする動きはない。

コミッションがまともに機能していないメキシコでは、タイトル認定団体である筈のWBCが代替機関としての役割を担う異常事態が常態化しており、先代のホセ・スレイマン会長は事実上のコミッショナーとして君臨していた。

後継者の御曹司マウリシオ現会長も同様で、武漢ウィルス禍を理由に罰金は科さないとした上で、アレハンドラに9ヶ月の資格停止を科したが、これもまた1月10日を起算日としており、昨年10月10日を持って無罪放免。

そもそも(有力プロモーターとズブズブの)認定団体のWBCが、自ら策定するランカー(WBCが承認する世界タイトルへの挑戦有資格者)に対して、本来開催地のコミッションが責任を持ってやるべきドーピングテストを強制したり、選手のプロ資格に口や手を出すこと自体が間違っているのに、ボクシング界にはそれを正面から指摘する声すらない。

一応今年の10月10日までの1年間を保護観察の対象とし、VADAによるランダムテストを義務付け(拒否した場合は無期限の停止に変更)してはいるが、どこまで実効性を伴うのかは疑問である。


チーフ・トレーナーの重責を担うバリー・ハンターは、ワシントンD.C.を拠点に活動する腕利きのベテラン。

ラモント&アンソニーのピーターソン兄弟を筆頭に、フェルナンド・ゲレロやラウシー・ウォーレン、アイザック・ドグボェらのトップ・プロだけでなく、数多くのアマチュアをバックアップしてきた。


※写真左:バリー・ハンター(チーフ・トレーナー)
 写真右:ハンターとフランション


上述したアレハンドラ戦の最終ラウンド開始前、揉み合いが増えたこともあって、フランションが着けていたウィッグがズレてしまい、インターバル中にコーナーマンの1人が強引に外そうとした。

この時、嫌がるフランションに向かって、「お前が本当に大事なのはカツラなのか?!。ベルトじゃないのか?!」と叱り飛ばしただけでなく、フランションの頬を平手で打って気合を入れ直したらしい。

DAZNが中継した映像には、ウィッグを外すところまでしか映っておらず(途中から9回のハイライト・シーンに切り替え)、どんな様子だったのか本当のところはわからないけれど、当然ハンターの行為を問題視する声が上がった。

ギリギリの拮抗した展開が続き、残すところは最終ラウンドのみ。「カツラを気にしてる場合じゃないだろう!」と怒鳴りたくなるハンターの気持ちもわかるが、選手に手を挙げるのは流石に・・・。

日本にも未だにビンタで気合を入れるトレーナーが生き残っているけれど、トップ・プロのチーフたる者、全身全霊の短く的確な言葉と眼力で、疲弊消耗した自分の選手を鼓舞できずにどうするのか。これは男女を問わない。


一時はチーフ交代の議論もあったやに聞くが、フランション自身も反省しているらしく、この度の復帰戦には同じ体制で臨む模様。

普段の練習は、”ブギー(Boogie)”のニックネームで知られるパトリス・ハリスというコーチが見ている。ジャーボンティ・ディヴィスのミットを持っているトレーナーで、でっぷりと太った体型からは信じられないくらい、スピーディかつ鮮やかなミットワークをこなす。


※パトリス・”ブギー”ハリス


フランションのホームタウンが、ディヴィスと同じボルティモアという縁なのだろうが、プロボクサーでもある夫のグレン・デズーン(S・バンタム~S・フェザー/12勝8KO2敗1分け)が、スパーリング・パートナーをやっているという。


※夫婦で戦い続けるフランションとグレン


肝心の試合だが、女子離れした身体能力とパワー,堅実なテクニックが未だ健在のフランションが、フルラウンズを難なく支配するだろう。不安な点があるとすれば、ブランクによるスタミナ不足ぐらいのものか。

S・ミドル級の2団体(WBC・IBF)に続き、ミドル級で4団体を統一したクラレッサが、さらに階級を1つ下げた(WBC・WBOの王座を獲得し3階級制覇を達成)ことにより、再戦の可能性は遠のいてしまったが、「実現するなら、160~164ポンドまでダイエットする。154は厳しいけど。」と破顔一笑。


◎クルーズ(33歳)/前日計量:171.4ポンド
現WBC・WBO統一S・ミドル級王者(WBC:V2/WBO:V1)
戦績:7戦6勝(2KO)1敗
アマ戦績:不明
◎オリンピック予選
2016年リオ五輪米国最終予選ミドル級2回戦敗退
※敗者復活戦でも2回戦敗退
2012年ロンドン五輪米国最終予選ミドル級初戦敗退
※クラレッサ・シールズに19-31
◎世界選手権
2016年アスタナ/カザフスタン L・ヘビー級銅メダル
2015年代表選考会 L・ヘビー級準優勝
2012年秦皇島/中国 L・ヘビー級銀メダル
2005年ポドルスキ/ロシア ミドル級初戦敗退
◎パンアメリカン選手権
2013年プエルト・ラ・クルス/ベネズエラ ミドル級準優勝
2012年コーンウォール/カナダ L・ヘビー級優勝
2007年デュラン/エクアドル ミドル級優勝
2006年ポルト・オブ・スペイン/トリニダード・トバゴ ウェルター級優勝
2006年ブエノスアイレス/亜 ミドル級優勝
◎全米選手権
2015年L・ヘビー級優勝
2014年ミドル級準優勝
※決勝でクラレッサ・シールズに0-3
2013年ミドル級優勝
2012年L・ヘビー級優勝
2011年ミドル級優勝
2008年ウェルター級優勝
2005~07年ミドル級優勝
身長:173センチ,リーチ:183センチ
右ボクサーファイター

◎カリー(35歳)/前日計量:176.2ポンド
戦績:25戦8勝(1KO)13敗4分け
身長:173センチ
右ボクサーファイター


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<4>ライト級4回戦
ショーン・ガルシア(米) VS レネ・マルケス(米)

メインの重責を任されたライアンの実弟ショーンが、三十路のローカルボクサーとの4回戦で、プロ7戦目のリングに上がる。

積極的にKOを狙う兄に比べると、ディフェンシブに堅く戦う傾向が強く、前に出た右腕を低く構えて丁寧にステップを刻むスタイルには、フロイド・メイウェザーへのシンパシーがそこはかとなく漂う。

デビュー戦をバンタム級で終えた後、2戦目でS・バンタム,3戦目でフェザーと矢継ぎ早に階級をアップ。昨年8月の前戦は128ポンドのS・フェザーだったが、急速な増量に計量後のリバウンドも加わり、上半身がかなり膨らんで見える。

1年5ヶ月に及んだブランクの影響なのだろうが、今回はさらに重いライト級での契約だけに、負けることはないにせよ、コンディションが心配になってしまう。


口ヒゲと顎に生やした無精ヒゲが、否が応にもデスペラードな雰囲気を醸し出すマルケス。

プロでの勝率は5割を切り、アメリカやメキシコでなくても、どこにでもいそうなアンダードッグ・・・と思いきや、”ビースト(The Beast)”のニックネームとは裏腹に、攻防の基本は良くまとまっていて破綻がない。

この手のヒスパニック系の無名選手と、短いラウンドでやる時は要注意。デビュー戦を落としたロベイシー・ラミレスの失敗を、対岸の火事と思わないことだ。

ライト級のリミットにリバウンドを加えたフィジカルの状態をチェックしながら、慎重に立ち上がるのが賢明。



ショーンが身体を絞らず、このままライト級に留まった場合、兄弟同時世界王者を実現する為には、兄のライアンが先にベルトを巻いて長期防衛をするか、S・ライト~ウェルターへと順次階級を上げて、切れ目なくチャンピオンでいる必要がありそう。


◎ショーン(20歳)/前日計量:134.2ポンド
戦績:6戦全勝(2KO)
アマ通算:159勝16敗
2016年ジュニア・オリンピック優勝
2016年ジュニア全米選手権優勝
※階級:フライ級(110ポンド)
身長,リーチとも:173センチ
左ボクサーファイター

◎マルケス(31歳)/前日計量:134.4ポンド
戦績:11戦5勝(2KO)6敗
身長:163センチ,リーチ:170センチ
右ボクサーファイター


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テキサス出身の若き重量級ホープ(L・ヘビー~クルーザー),トリスタン・カークルース(カルクロイト/19歳/6戦全勝4KO/アマ通算70勝7敗)、同じくテキサンで7連勝(6KO)中のS・ウェルター級,アレックス・リンコン(25歳)が6回戦に出場予定。

ハワイのワイアナエ(ホノルル近郊)出身で、2018年のユース世界選手権にフライ級の代表として出場し、見事金メダルの栄冠に輝き、昨年のゴールデン・グローブスではバンタム級にエントリー。無事に優勝を遂げた二十歳の俊英サウスポー,エイサ・スティーブンスが、バンタム級契約の4回戦でプロデビュー戦に臨む。

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