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STAR WAS NOT BORN /リング・ジェネラルシップと消極性の狭間で・・・ - ロドリゲス VS ガバーリョ戦ショートレビュー Part 1 -

2021年01月12日 | Review

■12月19日/モヒガンサン・カジノ.コネチカット州アンキャンスビル/WBC世界バンタム級暫定王座決定12回戦
前WBA暫定王者/WBC4位 レイマート・ガバーリョ(比) 判定12R(2-1) 前IBF王者/WBA1位 エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)

「スター誕生ならず(Star was not born)」

在米主要専門サイトの1つ、「The Sweet Science」で長年主任編集員を務めたベテラン,マイケル・ウッズが表した通り、またもや判定を巡る紛糾である。

被害者(?)は、あのマニー・ロドリゲス。先週の日曜日、コネチカットのインディアン・カジノでWBCの暫定王座決定戦に出場し、フィリピンの若き強打者レイマート・ガバーリョと対峙。大いに物議を醸すスプリット・ディシジョンで、暫定のベルトを獲り逃がした。

「Star in Gaballo was not born in the USA, Connecticut Ring, on Showtime.」

ウッズの言葉を漏れなく掲載すると、上記の通りとなる。はからずも加害者(?)の立場に立たされてしまったガバーリョだが、抑制的なコメントでロドリゲスへの配慮を示しつつも、素直に勝利への喜びを語った。

「チャンピオンになることができて素直に嬉しい。私は常に前に出て攻勢を取り、試合の流れをコントロールしていた。ただ、非常に拮抗した展開だったので、どちらが勝ってもおかしくはないとも思っていた。」

その上で、次のように豊富も述べる。いささか優等生的に過ぎるけれど、他に言いようもないだろう。

「ハードワークを続けて良いコンディションを保ち、何時決まってもいいように、次の試合にしっかり備えたい。」


怒りを押し殺して無言のままリングを降りたロドリゲスは、「グッド・ファイト。それは間違いない。」とガバーリョの健闘を認めつつ、「率直に言って、彼が取ったラウンドは2つか3つだと思う。彼が1発打ってきたら、私はすぐに2発返した。どちらが勝者なのかは、誰の目にも明らかだ。」と、取材に対してやり場のない憤懣をぶつける。

「最終ラウンドを迎えた時点で、私をノックアウトする以外に勝機はないと、彼と彼のチームは十二分に理解していた筈だ。彼自身、己の敗北を誰よりもわかっている。」

プエルトリコの陣営は、早速WBCへの提訴を表明。当然の成り行きではあるものの、奏功するのかどうかは・・・?。


試合を中継したShowtimeのアナリストで、元IBF J・ミドル級王者のラウル・マルケスは、口を極めてスコアリングを批判。舌鋒鋭く糾弾した。

「ガバーリョの勝利は有り得ない。想定し得る中でも最悪のシナリオ(試合展開に対する判定結果)と言うべきで、どれだけ好意的に見ても、ガバーリョが確実に取ったと言えるのは3ラウンズが精一杯だ。私(がジャッジ)なら、ガバーリョには1ラウンドも与えない。」


元王者からアナリストに転身したマルケスは、プエルトリコと熾烈なライバル争いを繰り広げてきたメキシコにルーツを持つ移民だが、戦う相手がフィリピン人ということになれば、長い間の恩讐を軽々と踏み越えて、同じヒスパニック系のロドリゲスに肩入れしたとしても止むを得ない。

だとしても、ロドリゲスのフルマークは流石にない。悔し涙を呑まされた元IBFチャンプ自身、「(12ラウンズ中)2か3つは取られたかもしれない」と認めていた。

何はともあれ、批判が殺到しているオフィシャル・ジャッジのスコアを見てみよう。

■副審3名の採点
ドン・トレッラ(米/コネチカット州):112-116(ガ)
ジョン・マッケイ(米/ニューヨーク州):113-115(ガ)
デヴィッド・サザーランド(米/オクラホマ州):118-110(ロ)

□オフィシャル・スコアカード





■アン・オフィシャル・ジャッジ及びアナリスト(Showtime)
スティーブ・ファーフッド:118-110(ロ)
ラウル・マルケス(元IBF J・ミドル級王者):フルマークでロドリゲスを支持(採点は行っていない)

■井上尚弥のスコア:116-112でロドリゲス

◎井上尚弥  Naoya Inoue/@naoyainoue_410
https://twitter.com/naoyainoue_410




日米ともに多くのファンが、8ポイントの大差でロドリゲスの勝ちとしたオクラホマのサザーランドと同じ見解のようだ。

Showtimeの中継でアン・オフィシャル・ジャッジを努めた、リング誌元編集長にして著名なヒストリアンでもあるスティーブ・ファーフッドも、上記の通り118-110でロドリゲスに振っている。

だが、本当にそこまで差を付けなければならない程、ロドリゲスのワンサイドだったのだろうか?。気になるデータがある。CompuBoxのパンチング・ステータスだ。


□Compubox  パンチ・スタッツ
○ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロドリゲス:100/372(29.3%)
ガバーリョ:93/520(17.9%)

○ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロドリゲス:45/191(23.5%)
ガバーリョ:25/197(12.7%)

○強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロドリゲス:64/181(35.4%)
ガバーリョ:68/323(21.1%)


ロドリゲスの消極性は序盤から際立っていたが、こうして数字を確認すると、手数の少なさにあらためて驚く。テオフィモ・ロペスに敗れたロマチェンコに比べれば多いが、大同小異と表して間違いない。


□ロマチェンコ VS ロペス戦のパンチ・スタッツ
○ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロマチェンコ:141/321(43.9%)
ロペス:183/659(27.8%)

○ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロマチェンコ:63/149(42.3%)
ロペス:36/295(11.9%)

○強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロマチェンコ:78/172(45.3%)
ロペス:148/364(40.7%)


「いや、それは違う。現にガバーリョは空振りを繰り返すばかりで、ロドリゲスは2度・3度とガバーリョをグラつかせている。攻防の技術にも明らかな差があった。」


パンチ・スタッツの陥り易いもう1つの罠が、命中精度,命中率である。今回のガバーリョがその典型だが、それこそ盛大な空振りの山を築き、数字だけを見ると、「ヘタクソなファイターじゃないか」との印象を抱いてしまう。

例えばお互いが積極的に前に出て、手数を惜しまずリスクを冒し、強打を交換し合う中において命中率に大きな差が開いたのであれば、それは「攻防の技術力の差」と言っていい。

しかし、先だってのロマチェンコと今回のロドリゲスに、その主張を認める訳にはいかないだろう。前半6ラウンズを捨てたに等しく、後半必死の反撃に転じたロマチェンコと、12ラウンズをフルに満遍なくパッシブだったロドリゲスの戦い方は相当に異なるけれど、手数を惜しみリスクを恐れる、プロボクサーにあるまじき(?)姿勢だったことは確かである。

攻防のベーシックを身に付け、一定の経験を積んだ中堅クラス以上のプロボクサーが、そのレベル(国内 or 地域 or 世界)はどうであれ、しっかり専守防衛に閉じこもられたら、相手の選手はそうは易々と崩し切ることはできない。


ドネアに背中を向けて走り出したリゴンドウ、あるいはパッキャオに対峙したメイウェザーのように、ピラミッドの頂点に君臨するスピード&スキル,選手を持った選手が徹底して守りを固めて、相手の打ち終わりを待って軽い単発のリターンを狙い続ける展開になった場合、懸命にリスクテイクして追い続ける側の見栄えが悪くなり、不利に見えるのは自明の理である。

ロマチェンコとロドリゲスのディフェンスが、衰えが健在化する前のリゴンドウ,メイウェザーの域にあるか否かは別にして、20世紀のプロボクシングでは、前に出ようとせず、打ち合いを拒む側に対して、主審が厳しく注意を促した。何度注意してもあらためる意思を見せなければ、減点のペナルティだけでは済まず、失格(反則負け)にされても文句は言えない。

下がり続けてひたすら守りを固め、軽打をポンポン当てるだけの選手に、ジャッジもポイントは与えたりはしなかった。しかし、大変残念なことに時代は変わったのである。


拙ブログでも繰り返し触れてきたが、パンチング・ステータスはあくまで参考値に過ぎない。どちらがより多くのパンチを放ち、より当てていたかを判断する為の指標に止まる。

そもそも論として、実戦のリングでボクサーが放つパンチを、ジャブと強打の2種類に限定して着弾を数えること自体に無理があり過ぎるのだが、人が自分の眼で見てパンチの数を数えなければない以上、さらに細かくパンチを分類規定することは出来ても、人の数を増やして数えるのは非現実的と言わざるを得ず、止むを得ないことではある。


そしてパンチ・スタッツが抱える最大の問題点は、着弾の結果としてのダメージの有無と軽重、命中率の低い選手の疲労度やディフェンスの巧拙や精度など、ポイントを割り振る為に最も重要なファクターを数値化して表すことができない点だ。

例えばロドリゲスとガバーリョの手数と着弾を、1ラウンド当たりのアベレージで見ると次のようになる。

□パンチ・スタッツ:1ラウンドの平均
○ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロドリゲス:約9.08/31(29.3%)
ガバーリョ:7.75/約43.3(17.9%)

○ジャブ:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロドリゲス:3.75/約15.9(23.5%)
ガバーリョ:約2.08/約16.4(12.7%)

○強打:ヒット数/トータルパンチ数(ヒット率)
ロドリゲス:約5.33/約15.08(35.3%)
ガバーリョ:約5.67/約26.92(21.1%)


「ガバーリョは空振りばかり」と言うけれど、1ラウンド当たりのトータルの着弾は、ほぼ1発しか違わない。しかも、ロドリゲスはジャブの着弾では2発近く上回るが、強打の数では互角に近い劣勢(僅かに劣る)。

「着弾の平均はそうかもしれないが、リング・ジェネラルシップはロドリゲスに分がある。」

ちょっとボクシングに詳しく、ラスベガス・スタイルの振り分け採点を当たり前に受容してしまっているファンなら、おそれくそう言い返すと思う。だがしかし、伝統的な採点基準においては、本来アグレッシブネス(前に出る姿勢と手数)がリング・ジェネラルシップより優先される。

採点基準に従うのであれば、着弾数に大差が無い以上、ガバーリョの積極性と手数は、ロドリゲスの守備的なボクシングより高く評価されて然るべきなのだが、堅く守ってシャープなジャブを1発当てるのは、現実問題として見た目の印象はいい。困ったものだ。


ドネア VS リゴンドウ戦を中継したWOWOWエキサイトマッチは、ファンの採点をネット上で募集していたが、114-114のドローだった。エキサイトマッチの常連さんたちは、思っていた以上に的確な視点で見ているんだなと感心したが、リゴンドウはこの試合でHBOの評価を決定的に落としてしまい、トップランクから放逐されて試合枯れに陥った。


トップ・プロのみに提示される高額な報酬は、「高度なテクニック&スキル+逃げ足の速さ&守りの上手さ」ではなく、「高度なテクニック&スキルの裏づけを伴う本物の勇気、リスクテイク(多くのファンの支持=集客力)の代償であるべきだろう。

片方の選手だけがリスク(興行を背負う看板選手の責任と義務)を取り、もう一方の選手は一向にリスクを取ろうとしない。

「タッチ&アウェイに徹してまったく前に出ようとせず、サークリングとジャブを延々繰り返し、距離が潰れたら即クリンチ&ホールド。ドネアとパッキャオが同じことをやっても、芸術だと賞賛してくれるんでしょうね?」

メイウェザーやリゴンドウをひたすら賛美する人たちに尋ねたら、彼らは何と答えるのだろうか。


要するに、パンチ・スタッツが示す数字にも、見方は色々できるのだということ。単純に数と命中率だけですべてを判断するのは、明らかに間違っている。

従って勝敗の行方を決定的に左右する最も重要な項目にはなり得ず、ラウンドごとの最終的な優劣は、どれほど不完全かつ不確かで、しかも不正の介在を排除することは永遠に不可能で、甚だ頼りないものであったとしても、「人の眼」で見極めるしかない。


Part 2 に続く

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