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ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

最軽量級に救世主現る? - 小兵短躯の強打者重岡が4戦目でベルト奪取 -

2019年09月07日 | Boxing Scene
■7月27日/後楽園ホール/WBOアジア・パシフィック M・フライ(ミニマム)級王座決定12回戦
WBO A・P3位 重岡銀次郎(ワタナベ) KO1R WBO A・P4位 クライデ・アザルコン(比)



105ポンドに救世主誕生?

年々歳々ランキングの層が薄くなり、空洞化が進んで深刻なレベルダウンに喘ぐ最軽量級に出現した小兵短痩(身長153センチ)のパンチャーに、マニアの熱視線が注そがれている。

重岡銀次郎。

熊本出身の重岡は、インターハイ,国体,高校選抜の3大会で5冠を達成。昨年9月にワタナベジムからB級デビュー(6回戦)したばかりの、弱冠19歳のサウスポー。無名のタイ人(2人)とフィリピン人を3タテし、今回はプロ19戦のフィリピン人を招聘しての王座決定戦。

WBOが直轄する105ポンドのローカル王座は、同門の先輩,谷口将隆(11勝7KO3敗/アマ:55勝16RSC・KO19敗)が保持していたもので、今年2月の世界挑戦(WBO王者ヴィック・サルダールに大差の0-3判定負け)に向けて返上していた。

WBO(7位)とWBC(13位)で世界ランクに残り、日本ランク2位に付ける谷口は、9月21日に再起戦が決まっており、ベルトを持つ日本王者,田中教仁(三迫)への挑戦権を懸けて、ランク3位の石澤開(M.T.)と対戦する。


谷口から禅譲された載冠と言ってしまうと身も蓋もないが、相手のフィリピン人選手も戦績の割りには歯応えが無く、ゴングが鳴る前から気負け,位負けの様子がはっきり見て取れてしまい、重岡の圧力を受けてまともに前に出られず、当たらないのが分かり切った距離とタイミングで、ワイルドなスウィングを振り回すだけ。

ディフェンスも隙だらけで、とてもローカルタイトルを争うレベルのボクシングではない。「こりゃあすぐに終わるな・・・」と思った矢先、左のボディストレートで悶絶してしまった。僅か1分余りの決着に、重岡本人も物足りなさを隠さなかったけれど、痩せても枯れてもタイトルマッチなんだから、もうちょっとマシな選手を引っ張って来れなかったのかと、愚痴りたくもなってしまう。




スポーツ紙は「4戦目での載冠」をことさらクローズアップし、辰吉,平仲,友伸(モデスト)ナプニ,ジェームズ・キャラハンら、4戦目で日本王者となった先達たちをここぞとばかりに引き合いに出すが、今回の勝利を彼らと同列に扱うわけにはいかない。

田口良一を明白な判定で下した井上尚弥、原隆二を最終10ラウンドのTKOで撃破した田中恒成(いずれも4戦目での日本王座奪取)との単純比較も、当然許される話ではないだろう。


動きとパンチ,相手の攻撃に対する反応等々、確かにセンスと将来性を感じさせるボクシングではある。幼稚園の頃から空手の道場に通い、実父功生(こうせい)氏の勧めもあり、小学4年でボクシングをスタート。兄の優大(ゆうだい)とともに、競い合いながら成長した。

幼い頃から空手などで鍛えた少年がボクシングに転向すると、スタミナも含めたフィジカルの強さだけで、本格的な練習を始めたばかりの同年代の選手たちを圧倒する場合が珍しくない。

5年連続優勝を遂げたU-15の大会では、銀次郎は負け知らずだったという。関新高校へ進んでアマ(ジュニア)の公式戦に出るようになってからも、変わらず無敗を維持。アマ時代に喫した唯一の黒星は、同じ階級で兄の優大とともに出場したインターハイの熊本県予選で2人揃って決勝に進出してしまい、開始ゴングと同時に銀次郎が棄権。

兄弟対決について、兄の優大は「やっても良かった。自分の方が強いと思っているから。」と幾つかのインタビューで答えているが、銀次郎は「父もやらせたくなかったし、僕たち(兄弟2人とも)も望んでまではやりたくなかった。最後は家族で話し合って、(銀次郎の)棄権を決めました。」と話しており、若干の温度差(?)がある。


兄の優大は拓大へ進み、L・フライ級で東京五輪出場を目指していたが、今年6月に発表された実施階級から、男子のL・フライ級が消滅(替わりにロンドン五輪で廃止されたフェザー級が復活)してしまい、「今からフライ級に上げるのは難しい」と判断。拓大を中退して、ワタナベジムからのプロ入りを表明。

7月31日にはプロテストも済ませており、B級でのデビューを待つばかり。階級はL・フライではなく、銀次郎と同じミニマムを予定しているらしい。問題山積のAIBAがIOCから資格停止処分を受け、日本の渡辺守成氏(IGF:国際体操連盟会長)を含む、IOC委員4名からなる特別作業部会が設置され、男子の階級再編が行われた。

当初の計画では、男子10階級・女子3階級の基本枠は変わらなかったが、男子を8階級まで減らし、女子を5階級に増やす(フェザー級とウェルター級を追加?)方向性が示され、最終的に男子はL・フライ級に続いてバンタム級とL・ウェルター級が除外となり,人数枠も男子186名,女子100名(変更前:男子250名,女子36名)に変更されている。




閑話休題

さて、銀次郎のボクシングに話を戻そう。スピードと思い切り、フィジカル&パンチング・パワーは、最軽量の105ポンドとしては申し分がない。スキルやインサイドワークに関しては、現時点での確たる判断は無理。

アマの活動をジュニアで終えており、本当の勝負となるシニアは未経験。アマで無敗とは言え、井上尚弥のように国際大会での実績がない。プロ入り後に拳を交えた対戦相手のレベルが総じて低く、判定勝決着となった3戦目(8回戦)も、プロキャリアに優るフィリピン人に上手くはぐらかされた印象が強い。

ポイント的にはまったく問題は無かったが、一気に踏み込んで1発で倒すスタイルを意識し過ぎたせいか、先を読まれて出足の勢いを殺がれていた。修行途中の若い有望株にありがちな失敗ではある。


最大の懸念材料は、やはり上半身の硬さ。ボディワークがほとんど無く、上体が突っ立ったまま出はいりを繰り返す。153センチの短躯と踏み込みのスピード&思い切りの良さに加えて、実力差の明白な対戦相手のおかげで、ここまでは大怪我を心配する必要もなく勝ち進めてはいるけれど、これから用意されるオポーネントのレベルが上がるに従い、被弾のリスクも急ピッチでアップして行く。

一定水準の技術と経験を持った中堅どころになれば、ただ黙って後退するだけで済ませてくれる筈がなく、思いもしない角度とタイミングでカウンターを仕掛けてくる。銀次郎よりシャープで多彩なジャブを打つ選手もいるだろうし、ちょっとやそっとでは当たり負けせず、積極的に相打ちを狙うファイターが出て来る可能性もゼロではない。

年々歳々空洞化が進み、ランカーのレベルダウンに歯止めが利かない105ポンドの世界ランキングは、事実上ローカル・ランキングと変わらない危険水域を超えてしまっているけれど、”フィリピン版メイウェザー”の異名を取るサウスポーのスピードスター,マーク・アンソニー・バリーガのような異才が現れる。


井岡一翔と田中恒成,京口紘人らに限らず、今やミニマム級は、最軽量ゾーンで複数階級制覇を目指すプロスペクトたちが、ステップアップの第1歩として利用する為の階級に成り下がった感が否めない。

そうした意味では、長期安定政権を築いたタイの2王者に対する客観的な見方も、自ずと変わってくる。実力と実績への冷静かつ正当な評価は必要不可欠だが、相対的なランカーのレベルダウン+強力なホーム・アドバンテージのバックアップを無視する訳にはいかず、両王者の防衛ロードを手放しで賞賛することをためらうのは、きっと私だけではないと思う。

身長153センチの重岡は、サイズだけを考えれば増量は極めて難しく、階級を上げるにしても、L・フライ級が精一杯というのが現時点での偽らざる印象だ。160センチ台半ば~後半のサイズが珍しくない112ポンドのフライ級進出は、非現実的と言わざるを得ない。

”フィリピン版メイウェザー”ことバリーガも公称157センチの小兵で、同じく155センチのWBA王者ノックアウト・CPフレッシュマートを含めて、「生涯105~108ポンド」となる公算が大だろう。

それだけに、強引にスピード奪取タイ記録(田中恒成の5戦目)を狙わせるよりも、主要4団体の完全同時制覇や、具志堅会長のV13更新といった長期的な目標を視野に入れ、じっくり腰を据えたキャリアメイクを期待したい。と言っても、おそらく無理だとは思うけれど・・・。




プロ4戦の段階で、あれやこれやと世界戦の心配をするのは具の骨頂ではあるけれど、注目のホープに立ちはだかる最大の障壁は、単純に考えれば上述したタイの2王者ということになる。

しかしながら、プロキャリアの浅い重岡にとって本当の意味で鬼門となるのは、アマチュアライクなタッチスタイルで完成されているバリーガであり、先週末プエルトリコにヴィック・サルダール(比)を招聘し、微妙な3-0判定で首尾良くWBO王座を奪取したウィルフレド・メンデス(バリーガ以上に安全運転に徹する待機型サウスポー)の2人かもしれない。

マッチメイクは容易ではないだろうが、日本チャンプの田中教仁(三迫)、日本ランク1位に上がってきた高橋悠斗(K&W)、前OPBFチャンピオン小浦翼(E&Jカシアス)らとのサバイバルマッチを経てからの方が、より良い結果を得られる筈である。


◎重岡(19歳)/前日計量:105ポンド
戦績:4戦全勝(3KO)
アマ通産:57戦56勝(17RSC)1敗
2017年インターハイ優勝
2016年インターハイ優勝
2017年第71回国体優勝
2016年第27回高校選抜優勝
2015年第26回高校選抜優勝
※階級:ピン級
U15全国大会5年連続優勝(小学5年~中学3年)
熊本開新高校
身長:153センチ
左ボクサーファイター

◎アザルコン(24歳)/前日計量:103ポンド
戦績:19戦15勝(5KO)3敗1分け
身長:162センチ
右ボクサーファイター




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■オフィシャル

主審:中村勝彦(日/JBC)

副審:
ダンレックス・タプダサン(比)
サウェーン・タウィクーン(タイ)
福地勇治(日/JBC)


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■トレーナー交代も現時点では目立った影響無し

今年1月、ワタナベジム入門以来チーフを勤めてきた石原雄太トレーナーが、角海老宝石ジムに移籍。同門の大先輩,田口良一(元WBA・IBF統一 L・フライ級王者)も石原トレーナーの担当だったが、3月に田中恒成(畑中)への挑戦が決まっていた田口は、間を置かずに梅津宏治(元日本フェザー級王者)と新コンビを結成。

4月にプロ第3戦を控えていた重岡は、「(いい機会と前向きに捉えて)色々な人と(練習を)やってみたい。」と語り、暫くはチーフを固定しない考えを示していたが、昨年夏に閉鎖した名門ヨネクラで、2006年以降マネージャーを兼務してきた町田主計(まちだ・ちから)トレーナーとの新体制が整う。



残念ながら田口は田中の軍門に下り、L・フライ級で実現しなかったドリーム・マッチ(?)をモノにすることができなかったけれど、若く上り調子の重岡には、今のところ目に付く影響は感じられない。

プロである程度戦って、きっちりチームが固まってからのトレーナー交代は、それだけリスクも大きくなるが、2戦を終えた早い時期でのチェンジで良かったとも言える。

タイトルマッチを3週間後に控えた7月2日、三迫ジムで行われた拳四朗との公開スパーは、ファンの間で結構な話題となり、ボクシングビート(国内専門2誌の1つ)のyoutube公式チャンネルに短い映像もアップされているが、町田トレーナーは終始鋭い視線で重岡の動きを見つめ、「チャンピオンの胸を借りられて、非常に良い経験になった。トレーナーからあれこれ言われるより、選手自身が自分で課題に気付くことが大事。」だと話し、初挑戦への意欲をあらたにしていたという。

※参考映像:拳四朗と重岡の公開スパー
拳四朗が公開練習、ホープ重岡銀次朗とスパーリング 2019.7.2 Ken Shiro, media workout.
https://www.youtube.com/watch?v=L9ewPwWtnN4


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■狙うベルトはどれ?

現在のミニマム級には、主要4団体に1人づつしかチャンピオンがおらず、非常にわかり易くて有難い。

階級を代表する第一人者は、ともに2014年の秋(10月と11月)から5年近くに渡ってベルトを保持し続け、同じ連続11回の防衛レコードを更新中のタイが誇る2人の王者,WBAのノックアウト・CP・フレッシュマートと、WBCのワンヘン・カイヤンハーダオジム(旧名:メナヨーヒン,メナヨーティン)である。


□WBA王者(V11)
ノックアウト・CP・フレッシュマート(タイ/28歳)
Knockout CP Freshmart



20戦全勝(7KO)
在位:2014年10月(暫定)~
身長:155センチ
右ボクサーファイター

WBA王者ノックアウトは、ムエタイ王者からの転向組み。ラジャダムナン、ルンピニーの2大殿堂で105ポンドのチャンピオンとなり、まずはアマチュアで国際式の腕を磨いた後、2012年6月にいきなり10回戦デビュー。WBCのユース王座が懸けられた。

この時ノックアウトは二十歳で、同じ年齢のフィリピン人選手を大差の6回負傷判定に下し、充分かつ周到な準備をして貰った上での載冠とは言え、初陣で首尾よくチャンピオンの称号を得る。

このタイトルを律儀に7度も守り、てっきり緑のベルトを狙うのかと思いきや、続く9戦目で、日本のファンにも馴染み深いカルロス・ブイトラゴ(ニカラグァ)を僅差の3-0判定(三者とも115-113)で打ち破り、WBAの暫定王座を獲得。

インドネシアの老雄モハメド・ラクマン,ブイトラゴとの再戦を含む3度の防衛に成功すると、105ポンド唯一のメジャー的存在だったヘッキー・バドラー(南ア)を大番狂わせの3-0判定で落城させ、正規王座に就いたバイロン・ロハス(ニカラグア)をタイへ呼び、やはり三者一致の115-113で攻略。暫定の2文字を外すことに成功する。

この後、小野心(ワタナベ/2016年12月:12回3-0判定勝ち)と大平剛(花形/2017年3月:5回KO)をタイへ呼んで連破し、レイ・ロレト(比/2017年7月:3-012回判定勝ち)、ゾン・シャンシャオ(中国/2018年7月:12回3-0判定勝ち)に続いて、バイロン・ロハスとの再戦(2018年11月;12回3-0判定勝ち)をクリア。

今月2日の防衛戦では、5位のアルアル・アンダレス(比)の挑戦を受け、8回負傷判定勝ち(3-0)。いつも通りの堅実かつ安定した試合運びで、無難に12ラウンズをまとめ切るのかと思いきや、懸命に食い下がる19歳の挑戦者に体力負けし始め、右瞼に続いて左瞼もカット。王者の流血が酷く、第8ラウンドでレフェリーストップ。

3-0の負傷判定で防衛成功となったが、出血がなく試合があのまま継続されていたら、若いチャレンジャーがガス欠で息切れしたノックアウトを追い詰めて、逆転のTKOに屠っていたかもしれない。

消化した指名戦は以下に挙げる3試合。
<1>2016年2月:カルロス・ブイトラゴとの再戦(12回3-0判定)
<2>2016年6月:正規王者バイロン・ロハスとのWBA内統一戦(12回3-0判定)
<3>2017年7月:1位レイ・ロリト(比)に12回3-0判定勝ち

昨今のタイの王者らしく、正攻法のボクサーファイタースタイルでよくまとまっている反面、何をしでかすのかわからない怖さはなく、けっして1発がない訳ではないが、KOにこだわらず常に勝利を最優先する。安定して破綻が少ない分だけ、どうしても粒が小さく見えてしまう。

まだまだ老け込むような年齢(28歳)ではないけれど、やはり防衛疲れ(と減量疲れ?)の兆候が顕著になってきた。もう少し場数を踏む必要はあるが、日本に招聘することができれば、重岡にも十分攻略の可能性はあるだろう。


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□WBA王者(V11)
ワンヘン・カイヤンハーダオジム(タイ/33歳)
Wanheng Kaiyanghada / Menayothin



53戦全勝(18KO)
在位:2014年11月~
身長:158センチ/リーチ:164センチ
右ボクサーファイター

年齢はノックアウトより大分上になるが、ワンヘンもまたムエタイから鞍替えして成功した王者の1人。ルンピニーのチャンピオン(105 or 108ポンド?)だったとの触れ込みも見聞きしたが、ランカー止まりとの説もあり、ムエタイやキック,総合への興味と関心を失って久しい私には、詳しく調べる時間も気力も無い。申し訳ないと思うが、どうかご勘弁を。

2大殿堂のランカーになるだけでも大したものだし、フライ級のトップクラスとも戦っていたというから、なにしろ強かったのは間違いない。

国際式のデビューは2007年1月。21歳だった。ムエタイの成功者らしく、6回戦から始めて3戦目で10回戦に進むと、4戦目でWBCユース王座を獲得。このベルトをコツコツ7度守り、2009年12月(24歳)には、同じWBCのインターナショナル王座(暫定)へとチェンジ。

このタイトルを2度防衛後、2011年1月には同じインターナショナルのシルバー王座に就き、これもまた3度防衛。さらに同年11月、クリソン・オヤマオ(比/井上尚弥のデビュー戦の相手)を12回判定に破り、シルバーの取れたインターナショナル王者となる。そしてこの王座を5度防衛した後、2014年11月、オスワルド・ノボア(メキシコ)に9回負傷判定勝ち。プロ7年目でWBCの世界タイトルに辿り着く。

29歳での載冠は、ムエタイトップクラスからの転向組みとしては、「遅い」と評さざるを得ない。陣営も必要だと思ったから、これだけ時間をかけたのだけれども。

しかし促成栽培を避けたお陰(?)で、ワンヘンは近年稀に見る連勝記録を打ち立てることとなった。あくまで記録(数字)上の話ではあるが、ロッキー・マルシアノの49連勝とフロイド・メイウェザーの50連勝を更新して、現在53連勝を継続中。

誰も本気で「マルシアノとメイウェザーを超えた」とは考えないし、ワンヘン本人にもそんな意識は毛頭無いだろうが、マルシアノの49連勝を超えてメイウェザーの記録に追いつき、とうとうそれも打ち破らんとする際には、一応在米専門メディアでも採り上げられ、「引き分けやノー・コンテストを含まないパーフェクト・レコードの持ち主」として、小さいながらもスポットを浴びている。

11回の防衛戦の中には、福原辰弥(本田フィットネス)との2試合(/2017年11月:12回3-0判定/2019年5月:8回3-0負傷判定)、大平剛(2016年3月:5回TKO)の日本人挑戦者2名を含むが、指名戦は2度しかやっていない。

2016年8月のサウル・ファレス(メキシコ/12回3-0判定)戦と、昨年5月のリロイ・エストラーダ(パナマ/5回TKO)戦の2試合で、この両選手がランク1位に登り詰めていること自体、ミニマム級のレベルダウンを象徴している。

WBA王者ノックアウトの説明でも触れたが、タイが輩出する最近のトップボクサーの多くは、バランスの取れた破綻の少ないボクサーファイターが大半を占め、こじんまりと小さくまとまり過ぎた感が否めない。残念ながら(?)、ワンヘンもその中に含まれてしまう。

地の利を十二分に活かしながら、無難にラウンドをまとめてポイントを積み重ね、リスクテイクは極力回避する。加齢の影響もあり、ノックアウト以上に防衛疲れが明確だが、駆け引きとインサイドワークで誤魔化す術は、流石の域と称するべきか。

キャリアの第4コーナーを回ったワンヘンに突如として振って沸いた驚くべきニュース、ゴールデン・ボーイ・プロモーションズとの共同プロモート契約の一件は、また別の機会に。


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□WBO王者
ウィルフレッド・メンデス(プエルトリコ/22歳)



15戦14勝(5KO)1敗
アマ戦績:不明
身長,リーチとも165センチ
左ボクサー

この2人に続くのが、WBO王者ヴィック・サルダール(比)だったのだが、周知の通り先月24日のV2戦で無念の落城。プエルトリコの首都サンファンを訪れ、地元期待の俊英メンデスに0-3の判定を献上して、丸腰の帰国を余儀なくされた。

昨年7月、神戸で山中竜也(真正)をか6回KOに屠って田中恒成(畑中)の後継王者となり、今年2月の初防衛戦では、聖地後楽園ホールに登場。谷口将隆(ワタナベ)を明白な3-0判定で弾き返している。

4年前の世界初挑戦も日本(2015年大晦日/名古屋)で、田中恒成から先制のダウンを奪う好スタートも、ボディ攻撃ですぐに弱ってしまい、逆転の6回KO負けに退いたが、その後地道にカムバック・ロードを歩み、一度は獲り逃がした王座に辿り着いた。

そして2度目の防衛戦は1位メンデスとの指名戦となり、何としても地元開催(プエルトリコはWBO本部国でまさにお膝元)に持ち込むべく、メンデスを保有するイヴァン・リベラ(プエルトリコを代表するプロモーター)は入札をチラつかせながら、ギリギリまで交渉を長引かせて粘る。

WBOが示した交渉のデッドラインは、6月27日。最低入札額は8万ドルで、期限の前日に両陣営が妥結。入札は回避され、サルダールはアウェイに出向くこととなった。




ミニマム級の世界戦で大きな金額が動くことはない。入札になった場合、両陣営とも札入れできる金額は自ずと限られる。アウェイのリスクを取っても、それなりに納得できる条件が提示されれば、ケネス・ロンタール(フィリピン側を取り仕切るプロモーター)に断る理由はない。

そして肝心の試合だが、序盤に左フックでダウンを奪ったサルダールに対して、持ち味のアウトボックスで打ち合い回避を徹底したメンデスが、地元の声援に後押しされる格好で手堅くアウトポイント。狙い通り初挑戦を実らせた。

サルダールのコーナーには、チーフ・トレーナーのジョジョ・パラシオスが不在(実父の命に関わる緊急手術:脳疾患としか公表されておらず詳細は不明)になる緊急事態が発生。代理チーフのサポートに頼らざるを得ない不運もあったが、足の速い選手を追い切れない恨みが残る。

これはあくまで想像だが、渡辺会長が狙っていたのは十中八九サルダールだと思う。3度の世界戦がいずれも日本で、自分の選手(谷口)を挑戦させた経験は、そのまま重岡の準備にも活用できる上、サルダールはスタミナに難がありボディも弱い。

新チャンピオンのメンデスは、アマチュアライクな安全運転を得手にするサウスポー。当然1発の怖さはなく、上手い速いとは言っても、同じプエルトリコの大先達,イヴァン・カルデロンの域には及ばない。出足の鋭さとパワーを併せ持つ重岡ならと、思わず期待を持ってしまうが、待機型の安全策に終始されるとやはり厳しそう。今(プロ4戦)の重岡では、容易に距離を潰すことができずに苦しむだろう。

直線的な中央突破だけでは、サルダールのように誤魔化されて判定を失うリスクが増すばかり。誤解を恐れず敢えてオールドファッションと表現してもいいけれど、ウィービングとダッキング,ローリングの基本を学び、上体と頭を振りながら下から素早く鋭く相手の懐飛び込む技術の習得は必須。

プロボクシングで永く継承されてきた伝統的な技をしっかり身に付け、オールドスクールの衣鉢を継ぐことは、単に目先のバリーガ&メンデス(手足のスピード&柔軟性に優れたスキルフルな待機型サウスポー)対策に止まらず、小兵のパンチャーが長く第一線で活躍を続ける為に、最も重要かつ優先度の高い課題になる。


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□IBF王座:空位
残るIBFは、ディージャイ・クリエル(南ア)が減量苦を理由に放棄した為、現在は空位。

現WBA L・フライ級スーパー王者,京口紘人(ワタナベ)が保持していたIBFの105ポンドは、京口の転級・返上(昨年8月)に伴い、当時の指名挑戦者マーク・アンソニー・バリーガ(ロンドン五輪代表/フィリピン版メイウェザーの異名を取る天才肌)と、カリフォルニアのホープ,カルロス・リコナ(米)による決定戦(昨年12月1日/ステープルズ・センター/L.A.=トップランクの興行)が行われた。

初渡米の異能バリーガが問題なく載冠するだろうと、何の疑問も持たずに勝利を確信していたのに、何としたことか盛大な地の利を得たリコナが、大いに物議を醸すスプリット・ディシジョンで超特大の番狂わせをやらかす。そして今年2月の初防衛戦で、地元L.A.にクリエルを迎えたリコナは、最終12ラウンドに3度のダウンを喫してKO負け。

クリエルは正攻法の右ボクサーファイターで、データ(公称160センチ)よりも大きく見える。積極的にジャブを飛ばしてリコナを序盤から下がらせていたが、懸命に盛り返しながらも一進一退の我慢比べで疲弊したリコナが、半ば自滅する格好で崩壊。

母国にベルトを持ち帰った南アの伏兵も、けっして突出したアビリティの持ち主ではなく、ミドルレンジで正面に留まるタイプとあって、スピード&パワーにアドバンテージを持つ重岡にも組し易く、サルダール以上に手が合いそうなスタイルではあった。


肝心の空位になった王座だが、今週末(9月7日)にマニラ近郊のタギッグ・シティで、指名挑戦権を持つ1位サムエル・サルバ(パッキャオが設立したMPプロモーションズ傘下)と、3位ペドロ・タドゥランのフィリピン人同士が、後継チャンプの座を懸けて争う。



ベルト奪取に期待がかかる1位サルバは、2016年1月デビューの22歳。主にジュニア時代のものにはなるが、フィリピン国内ではかなり鳴らしたアマチュアで、公称155センチとサイズには恵まれないものの、スピード&シャープネスに優れた右の本格派。

17連勝(10KO)の無敗レコードを維持しており、KOの数も最軽量級としては不足がない。クリーンで勇敢なボクサーファイタースタイルは、パッキャオの良い面を踏襲していて、主武器となる右ストレート,フックの切れ味とともに、左フックのタイミングと精度にもキラリと光るものがある。

惜しむらくはジャブの少なさだが、これはレベルアップした対戦相手との難しいラウンドで経験を積むに従い、自ずと是正されて行くだろう。

一方のタドゥランも22歳の同い年だが、既に世界タイトルへの挑戦経験があり、昨年8月にタイでワンヘンにアタックして、大差の0-3判定負けに退いている。ここまでのレコードは、15戦13勝(10KO)2敗。

やはりアマチュア(ジュニア)の経験者で、積極果敢に打ち合いを挑む好戦的なサウスポー。そしてタッパも十分(公称163センチ)。ワンヘン戦では気負いが目立ち、真正面から行き過ぎて老巧に絡め取られた感が無きにしも非ず。

ただし、強引な中央突破に呼応したワンヘンが力負けする場面も多く、あと1~2年ローカルクラスのトップに揉まれてからの挑戦だったならと、時期尚早が惜しまれるチャレンジだった。

戦績が示す通りパワーはかなりの水準だが、筋力に頼って強打する傾向が玉にキズ。ラウンドが長引いた際のスタミナに悪影響を及ぼす上、余計な力みとなってパンチのキレを殺いでしまう。

タドゥランの若さと馬力に追い詰められながらも、ワンヘンがもう一息二息の余裕を保つことができたのも、倒そうと意気込む余りモーションが大きくなり、パンチの出所と出足をワンヘンに読まれてしまったからに他ならない。いい意味で余分な力が抜ければ、良かった頃のデンヴァー・クェリョとタメを張る、本当に怖いパンチャーへの成長も夢ではなさそうだ。

そしてタドゥランは、ジョナサン・タコニン(比)との指名戦を控えた拳四朗のスパーリング・パートナーに呼ばれて、今年6月に来日している。自慢の強打を見込まれて、”仮想タコニン”を仰せつかった。熱のこもった実戦スパーは、実父の寺地永(てらじ・ひさし)会長兼トレーナーの期待を上回る内容だったらしい。

プロモーターとしてのパッキャオが仕切る主催興行で、期待のサルバが見事王座奪取となるか。タドゥランの荒ぶるパワーも魅力的だが、スピード&シャープネスで優位に立ち、攻防のバランスとまとまりにも一日の長を見せるサルバが、無理なフルスウィングの打撃戦を回避して距離をキープし、手堅くラウンドをまとめる前提にはなるけれど、中差程度の3-0判定でIBFのベルトに辿り着く・・・と見立てておこう。

サルバも充分に気が強く、打ち合い自体は嫌いではないだけに、タドゥランの強振に呼応してクロスレンジに留まり、勢いに任せてハイリスクな力勝負に雪崩れ込んでしまった場合、想定外の波乱も当然有り得る。

サルバとタドゥランのいずれも、重岡とは手が合う。この先も105ポンドに留まってくれれば、ファンを熱くさせずにおかない好試合が期待できる。