<1>4月15日/横浜アリーナ/WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 比嘉大吾(白井・具志堅) VS WBC2位 クリストファー・ロサレス(ニカラグァ)

何ということか。比嘉がリミットまであと900グラムを絞り切れず、完全にギブアップ。再計量に姿を現したのは、具志堅会長1人のみ。「何とか落としたかったが、もう汗が一滴も出ない。」と比嘉の状態を説明し、深々と頭を下げて謝罪した。
日本人王者が戦わずして世界タイトルを失うのは、勿論史上初。白井義男の快挙(1952年5月)以来、半世紀を超える日本の世界タイトルマッチの歴史上、遂にウェイトオーバーの汚点が付いてしまった。
予備検診(12日)の時点で、調整の失敗を危惧する声は上がっていた。比嘉の減量苦は今に始まったことではないが、ゲッソリとやつれて余りにも精気が無い。陣営のただならぬ様子を察知した挑戦者陣営は、「勝算我に有り」との手応え(確信)を隠さず、関係者と取材記者の間にも、かつてない危機感が漂う。
しかしこの時点での不安は、純粋に比嘉のコンディションに対するものであり、体重超過という最悪の事態ではなかった。112ポンドのリミットを作る大前提を外して考える者は、流石にいない。


今となっては何を言ってもせんないことだが、前戦を終えた後、具志堅会長から次戦のスケジュールについて、どのように聞いていたのか。モイセス・フローレスを初回でねじ伏せた後、比嘉は目一杯体重を戻した。短期間でMAXの減量を強いられることを、具志堅会長も比嘉もわかった上で「やる。」と決めた以上、プロとして言い訳は許されないが、追い込みの段階で比嘉の状態がどうにもならないことを、具志堅会長もわかっていたはずである。
野木丈司チーフトレーナーの責任も重大だ。スタッフに抱えられて、半失神状態のまま秤の上に乗せられた宮崎亮のように、コンディションを完全に犠牲にして強引にリミットを作った場合、ガタガタになった比嘉に勝機を見い出すことができたのか。
野木トレーナーは早い段階で、試合の中止を具志堅会長に進言すべきだった。自らの身を盾にしてでも、具志堅会長に思いとどまらせるべきだった。山中 VS ネリーの再戦を決行せざるを得なかった帝拳(国内最大手)の例を引くまでもなく、チームを率いるプロの一流コーチとして、チーフトレーナーが当然の仕事を果たせない悪しき慣行が、我が国には依然として存在する。レフェリーとトレーナーがストップを逡巡し、結果的に選手を大事故へと追い込むリング禍も、根源的な原因はそこへと帰結してしまう。
ボロボロに疲弊消耗した比嘉を、無理矢理リングに引っ張り上げて、万全に仕上げた挑戦者の前に立たせたら、いったいどういうことになるのか。再計量を辞退して陳謝した具志堅会長の判断は、けっして間違ってはいない。しかし、頭を下げるタイミングが違う。遅くとも3週間前には、中止を決断できた筈だ。
フライ級での調整は限界だとわかっていたのだから、ベルトを返上してロサレスに決定戦のチャンスを与えた上で、S・フライ~バンタム級の下位ランカーを調達し、10回戦のチューンナップを組むことは充分に可能だった。
□チーム比嘉
※左から野木丈司チーフトレーナー,比嘉,具志堅会長

確信犯の900グラム(2ポンド弱)オーバーなら、普通は試合を決行する。12ラウンズを戦うコンディションを残す為に、計算尽くで体重を合わせているからだ。2.3キロ(約5ポンド)も超過した状態で平気で秤に乗り、45分で1キロ(約2.2ポンド)落としたルイス・ネリーがどれほど悪質だったのか、今回の比嘉を見ればよくわかるだろう。
本当にギリギリの状態まで絞り込んで、それでもなおリミットをオーバーしたボクサーに、削り取る脂肪や水分は残されていない。全身の毛を剃るだけでは足りず、思い余って歯まで抜いてしまう選手もいたと、漫画「あしたのジョー」で梶原一騎は書いていたが、本番直前に急なオファーを受けて渡タイした升田貴久は、ウェイトが落ちずに血を抜いたという。良好な仕上がりでも太刀打ちできないであろう名王者ポンサックレックに、フラフラで立ち向かった升田は、無残に打ち据えられ惨敗した。
試合をやるのかやらないのか、最終的な決定は当日の再計量で決めるという。122ポンド(55.3キロ/112ポンド+10ポンド)のリバウンド制限が設けられ、比嘉がオーバーした場合はその時点で中止とのことだが、122ポンドをクリアしても、比嘉のコンディションを再チェックして判断するとのこと。
調整に失敗した比嘉の絶不調を目の当たりにしているだけに、挑戦者陣営は何としてもやりたいだろう。以下に一応賭け率を記載しておくが、比嘉が7~8割方仕上がってさえいれば、敗北を心配するような相手ではない。世界2位の肩書きに相応しい力の持ち主かと問われれば、答えは「否」である。
長身のメキシカンには好戦的なファイタータイプが多く、近隣の中南米諸国にも同型のボクサーは少なくない。ロサレスも積極的な打ち合いを好む。恵まれたリーチを活かして、距離をキープしながらボクシングをするタイプではないだけに、具志堅会長と野木トレーナーは「組し易い」と考えていた筈。逆説的だが、そこにも油断があったのかもしれない。
□チーム・ロサレス
※左からウィルメル・エルナンデス(フィジカル・コーチ/少し前までロマ・ゴンのチームでアシスタントを兼任),ロサレス,ロジャー・ゴンサレス(チーフ・トレーナー)


個人的には、試合は中止にすべきと考える。比嘉は肉体的なコンディションもさることながら、精神的なダメージが気がかり。時間をかけて、戦う身体と心を立て直した方がいい。しっかり仕上げてきたロサレスには真に気の毒だが、本田&具志堅両会長の口添えが無くとも、マウリシオ・スレイマンWBC会長はすぐに決定戦開催に動くと思う。
□直前のオッズ
<1>BOVADA
比嘉:-1400(約1.07倍)
ロサレス:+750(8.5倍)
<2>5dimes
比嘉:-1372(約1.07倍)
ロサレス:+900(10倍)
<3>Bet365
比嘉:1.1倍
ロサレス:6.5倍
<4>ウィリアム・ヒル
比嘉:1/14(約1.07倍)
ロサレス:7/1(8倍)
ドロー:22/1(23倍)
<5>Sky Sports
比嘉:1/10(1.1倍)
ロサレス:6/1(7倍)
ドロー:30/1(31倍)
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□前日計量と予備検診
<1>王者:比嘉(22歳)/前日計量:114ポンド(51.7キロ)
※900グラムオーバー,再計量を諦め王座はく奪
戦績:15戦全勝(15KO)
身長:161センチ
リーチ:163センチ
首周:35センチ
胸囲:97センチ
視力:左右とも2.0
右ボクサーファイター
<2>挑戦者:ロサレス(歳)/前日計量:111ポンド1/3(50.5キロ)
戦績:29戦26勝(17KO)3敗
身長:169センチ
リーチ:181センチ
首周:36センチ
胸囲:79センチ
視力:左1.0/右0.9
□比嘉は当日計量をクリア
当日午前8時に行われた再計量で、比嘉は定められた55.3キロ(122ポンド=フライ級リミット+10ポンド)を54.7キロ(120.6ポンド/600グラムアンダー)でパス。結局試合は行われることになってしまった。

比嘉と具志堅会長はあらためて謝罪し、ロサレス陣営は快く受け入れたと報じられているが当然だ。比嘉の調整失敗は誰の目にも明らかであり、ベストに程遠い状態なのだから・・・。
スポンサーやら何やらで、一度決まった世界戦をキャンセルするのは確かに大変。とりわけ日本国内では不可能に近い。いかにコンディション不良であったとしても、具体的にドクターストップが出ない限り(出ても?)、試合は決行されてしまう。ぶっちゃけコミッションドクターも、会長とTV局にしてはならない忖度をせざるを得ない。
サッカー日本代表のヴァイド・ハリルホジッチ監督が解任され、アディダスの圧力があったとか無かったとか、なにやら騒動になっている。エキセントリックな言動が原因で、協会,Jリーグと尋常ならざる軋轢を抱えながら、圧倒的なアジア圏内での実績とアーセン・ベンゲルの事情(トゥルシエに2年やらせた後代表監督に就任する予定だったとされる)により、4年の契約期間(2年×2)をまっとうしたフィリップ・トゥルシエが、自身の経験を踏まえたコメントを発しいる通り、スポンサーの都合(意向)は確かに大きい。
本当に圧力があったのかどうかはともかく、今や国内最大規模のメジャースポーツとして定着したサッカーでさえ(だからこそ?)、トップスター(特にアディダスと契約中の看板選手)抜きのチーム編成は物議を醸す。思うような結果が出ていなければなおさらだ。ましてや貧乏マイナースポーツに転落して久しいボクシングで、地上波ゴールデン・タイムの生中継が予定されている世界戦の中止は有り得ない。
年季の入ったファンならそうしたことは耳にタコで、充分過ぎるほどわかってはいるのだが・・・。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□オフィシャル
主審:トーマス・テーラー(米/カリフォルニア州)
副審:
スティーブ・モロウ(米/カリフォルニア州)
ゲイリー・リッター(米/オクラホマ州)
ファン・カルロス・ペラーリョ(メキシコ)
立会人(スーパーバイザー):ボブ・ロジスト(ベルギー/EBU副会長)
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
■主なアンダーカード
<1>113ポンド(51.2キロ)契約10回戦
日本フライ級3位 中谷潤人(MT) VS WBC13位 マリオ・アンドラーデ(メキシコ)

破竹の勢いで連勝街道を突っ走るホープが、いよいよダブル世界戦の露払いに抜擢。元日本・OPBFライト級王者,三垣龍次を輩出したMTジム(神奈川県相模原市)所属の中谷潤人(なかたに・じゅんと)は、弱冠二十歳の長身サウスポー(公称170センチ)。2015年4月デビュー以来、14連勝(11KO)をマークして勢いに乗っている。
2016年度の全日本新人王を経て、昨年8月、新たに創設された日本ユース初代王座決定戦に出場。こちらも無敗を誇る関西期待の俊英,ユーリ阿久井政悟(倉敷守安/対戦時21歳,11勝8KO1分け)を6回TKOに下し、ベルトと同時に大会MVPを獲得。公称7センチの身長差を克服し、自慢の強打で打ち合いを挑む阿久井に対し、距離を取って捌くと見られていた中谷もインファイトで応戦。
タッパを活かした長い左ストレートと返しの右フック(主武器)ではなく、ボディから攻め上げる左右のコンビネーション、ダブルのフック,アッパー等々、常に先手で細かいパンチを放ち流れを掌握。ステップに連動したブロック&カバーも想像以上に堅牢で、体格差も利しつつ、阿久井のパワーショットを完封。前評判は阿久井有利の声も多く、番狂わせと捉えるファンも少なくなかった。
三重県(員弁郡東員町)出身。幼い頃から地元の空手道場に通ってはいたものの、ゲームが大好きなどこにでもいる小学生で、特別目立つ存在ではなかったらしい。ボクシング・ジムに通い出したのは、中学に進んでから。たまたまTVで観たボクシングに惹かれたというが、メキメキ頭角を現し、U-15全国大会を2連覇して勇名を轟かせる。
在阪(もしくは関東)の私立名門高校に特待生扱いで入学し、インターハイや国体の優勝を手土産に一部リーグの強豪大学へと進むのが、国内アマチュア・ボクシング界の一般的なエリート養成コースになるが、なんと中谷は中学卒業と同時に渡米。USA帝拳の重鎮にして、数多の王者を支えた名コーチ,ルディ・エルナンデスの門を叩く。
ルディの自宅にホームステイを許された中谷は、およそ9ヶ月に渡ってロサンゼルスに滞在。同じU15出身組みの井上尚弥,田中恒成,松本亮らのように、まずはアマで確固たる足場を作り、好条件でプロのスカウトを待つ常套手段は、ハナから考えていなかったらしい。
「目標はプロのNo.1なんだから、世界レベルの本当に強い選手がいるところでやってみたかった。」
このご時勢に高校へ行かず、本場アメリカに単身ボクシング留学。プロとしての成功を前提にした、蛮勇としか言いようのない人生の大きな決断。進路指導を受ける際、「第一志望ブラジル」と希望高の欄に書き、担当の教師を激怒させた”キング・カズ”こと三浦知良を彷彿とさせる話だが、ご両親の思い切りも凄い。
世界最大のボクシング大国アメリカは、中~重量級を中心にマーケットを形成しており、今や王国のボクシング興行を左右するまでに成長した、ヒスパニック(メキシコ)系のコミュニティを味方につける有望選手でさえ、バンタム級以下の軽量級で注目を集めるのは至難の業。
海外のジムは正真正銘のパブリック方式で、月謝はあくまで施設の使用料に過ぎず、ジムの看板を背負うプロのトレーナーに習う為には、別途契約(コスト)が必要となる。生活費はもとより、フィジカル・トレーナーを雇う費用から何から、すべて自前で用意しなければならない。有名無名を問わず、大多数のボクサーとマネージャーは、スポンサーの獲得から有力プロモーターへの売り込みまで、すべてを自己責任で賄うのが基本。
身分の自由と引き換えに、経済的な自立を容赦なく要求される。裏を返せば、日本以上にアマチュアの戦果,実績がモノを言う世界なのだ。そのまま定住せずに帰国し、首都圏のジムに入門してプロデビューしたのは、現実的な選択だったと思う。
ルディのコネを頼り、国内最大手の帝拳に売り込むこともできただろうに、相模原にあるMTジムを選んだ経緯はよくわからないが、父の澄人氏は経営していた飲食店を閉めて上京。マネージャーとして寝食をともにし、息子の成功を直接バックアップ。既に複数の企業がスポンサーについており、周囲の期待の高さが窺がえる。
フライ級では珍しい、170センチの痩躯。80年代に活躍したサウスポーのソリッド・パンチャー、小林光二(元WBC王者/角海老宝石)を想起させられるが、長身故の脆さを露呈した小林よりも、フィジカルは逞しく頑健な印象。前日計量の恩恵を忘れてはならないけれど、接近戦で押し負けない身体全体のパワーは大きな魅力。
反面頭を振らない現代流は、マーロン・タパレスに屈した大森将平(WOZ/長身の左パンチャー)に通ずる怖さを併せ持つ。カウンターのセンスと当て勘にも非凡な才能を感じさせるだけに、丁寧なステップと右のリードで距離をキープし、圧力をかけながら相手を引き出す技を覚えるのも、今後の進境には欠かせない要素と映る。
メキシコから呼ばれたアンドラーデは、ローカル王座を突破できそうでし切れず、世界ランクまであと数歩の足踏みを余儀なくされる典型的な中堅クラス。一応13位の肩書きを持ってはいるが、はっきり言って世界ランカーの力は無い。ガードを堅持した正攻法をベースに戦う右ボクサーファイターだが、左ガードを下げて挑発半ばに足を使う、トリッキーな陽動スタイルも使い分ける。
戦績が示す通り1発の怖さは無いが、駆け引きの上手さと狡さで勝負するボクシング。2009年4月のデビュー戦でいきなり負けると、3連勝して調子に乗るかと思いきや、1分け4連敗。さらに3試合続けて引き分けるなど、修行時代はなかなか眼が出なかった。敗北を糧に実戦で鍛えた技術で、しぶとく食い下がる。日本に比して選手層が厚く、まだまだ競争が激しいメキシコで生き残っているだけあって、基本のしっかりした好選手と表していい。
2015年6月、「ボクシング・ルネッサンス(メキシコで活躍中の古川久俊トレーナーが主催する定期興行)」に参戦した現日本フライ級王者黒田雅之(川崎新田)を、小差の3-0判定でかわしている。力で押して行くファイター黒田を、手足の速さと手数で誤魔化した格好だが、日本でやっていたら判定の目はどう出ていたか。
現チャンプの黒田を十二分に意識した、なかなかに刺激的なマッチメイク。明白な力量の差を見せつけたいところではあるが、サイズ&パワーの違いを過信すると痛い目に遭う。叩き上げのメキシカンを侮ることなかれ。
◎中谷(20歳)/前日計量:111ポンド3/4(50.7キロ)
日本ユース王者(V0),2016年度全日本新人王(東日本MVP)
戦績:14戦全勝(11KO)
アマ通算:14勝2敗
身長:170センチ
左ボクサーファイター
◎アンドラーデ/前日計量:111ポンド3/4(50.7キロ)
戦績:24戦13勝(3KO)6敗5分け
身体データ:不明
右ボクサーファイター
※フライ級リミット+1ポンドの契約にもかかわらず、申し合わせたかのように、両選手ともにリミットの112ポンドに合わせてきた。現在無冠のアンドラーデはともかく、正規のフライ級リミット内で中谷が負けた場合、ノンタイトルでも保持する日本ユース王座ははく奪されるのが通例。自信の表れでもあるのだろうが、清々しい気持ちになる。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<2>136ポンド(61.7キロ)契約6回戦
日本ライト級10位 小田翔夢(白井・具志堅) VS ロルダン・アルデア(比)

今年1月、琉球ジムから白井・具志堅ジムへの移籍が決まり、2月4日に那覇の県立武道館で行われた比嘉のV2戦に参戦。フィリピン人アンダードッグを初回で倒し、無事に移籍第1戦を終えた小田翔夢(オダ・ショーン)が、2016年の暮れ以来となる首都圏のリングに登場。
デビューしたのは、2016年5月。沖縄県立南部農林高校に在学中だった。新人王戦にエントリーした小田は連続KOで順調に勝ち上がり、12月23日の決勝戦を迎える。2学期の終業式に出席してから、後楽園ホールに向かう慌しさにもかかわらず、東の覇者石井龍輝(船橋ドラゴン)をパワーで圧倒。
2016年度の新人王戦は、ライト級の小田とともに、MVPに輝いたS・ライト級の吉開右京(島袋/21歳/5勝4KO2敗)、帝拳に入門したバンタム級の新島聖人(20歳/6勝5KO1敗)の沖縄出身者3名が全日本の4ラウンド・キングとなり、比嘉の目覚しい活躍も含めて「王国沖縄の復活か」と話題をふりまいた。
名前と風貌からわかる通り、小田はアメリカと日本のハーフである。沖縄の米軍基地に赴任していた父と、地元出身の母親との間に生を受け、物心がつく頃既に父は帰国。幼かった小田の記憶に、父の面影や声はまったく残っていないという。
ボクシングを始めたのは小学5年。Uー15の全国大会で優勝を果たしたが、アマのレコードは5戦3勝2敗に止まる。17歳の誕生日を待ってプロテストを受験し合格。琉球ジムからプロ入りした小田は、自動車整備の会社に就職が内定し、地元で働きながら世界王者を目指す予定だった。
「堅い板を素手で殴り続け、拳をずっと鍛えてきた。」
自慢のパンチは右(ストレート,フック,アッパーすべて強い)だが、左にも倒す力を秘める。趣味のスケートボードは玄人はだしらしく、「オリンピックも夢じゃない」と勧められたほどの腕前。自らの高い身体能力について、「間違いなく、(黒人の父から)受け継いだものだと思う。」と認めながらも、「人より多少優れた素質に恵まれても、努力しなければ意味がない。」とも語る。
「パッキャオのように、リング上での強さだけでなく、ハートも素晴らしいチャンピオンになりたい。世界タイトルを目指す以上、テクニックも最高を求めて行く。ロマチェンコやメイウェザーみたいな・・・。」
その意気や良し。まだまだボクシングは荒削りで、とりわけディフェンス面での課題が目につくけれど、瞬発的な出足と右の決定力は出色。筋力に頼って強打する癖は、なるべく早い段階で修正したい。上半身の硬いボクサーは一般的に打たれ脆く、レベルが上がるに従い致命的なウィークネスとなってしまう。
24歳のフィリピン人サウスポー,アルデアは、右のガードを腰まで下げて構え、ジャブを突きながら長めの左ストレートを打ち込むボクサー・パンチャータイプ。L字というより、デトロイト・スタイルの系譜だろうか。
上体を柔らかく使う伝統のボディワークはイマイチで、2016年暮れのロシア遠征でシャフカト・ラヒモフ(2013年世界選手権L・ウェルター級代表/タジキスタン)に喫した序盤のKO負けも、打ち終わりに相手の正面に立ち止まったまま、ガードが開く悪癖を狙われた。
小田の守りも堅牢とまでは言えないが、ミドルレンジで右ストレートが当たりそうな気配はある。合い打ち気味のカウンターに気をつけながら、丁寧にジャブとボディで崩す組み立ても見てみたい。
◎小田(19歳)
2017年度全日本新人王
戦績:7戦全勝(7KO)
アマ戦績:3勝2敗
身長:172センチ
右ボクサーファイター
◎アルデア(24歳)
戦績:17戦12勝(6KO)4敗1分け
身長:171センチ
左ボクサーファイター
王者 比嘉大吾(白井・具志堅) VS WBC2位 クリストファー・ロサレス(ニカラグァ)

何ということか。比嘉がリミットまであと900グラムを絞り切れず、完全にギブアップ。再計量に姿を現したのは、具志堅会長1人のみ。「何とか落としたかったが、もう汗が一滴も出ない。」と比嘉の状態を説明し、深々と頭を下げて謝罪した。
日本人王者が戦わずして世界タイトルを失うのは、勿論史上初。白井義男の快挙(1952年5月)以来、半世紀を超える日本の世界タイトルマッチの歴史上、遂にウェイトオーバーの汚点が付いてしまった。
予備検診(12日)の時点で、調整の失敗を危惧する声は上がっていた。比嘉の減量苦は今に始まったことではないが、ゲッソリとやつれて余りにも精気が無い。陣営のただならぬ様子を察知した挑戦者陣営は、「勝算我に有り」との手応え(確信)を隠さず、関係者と取材記者の間にも、かつてない危機感が漂う。
しかしこの時点での不安は、純粋に比嘉のコンディションに対するものであり、体重超過という最悪の事態ではなかった。112ポンドのリミットを作る大前提を外して考える者は、流石にいない。


今となっては何を言ってもせんないことだが、前戦を終えた後、具志堅会長から次戦のスケジュールについて、どのように聞いていたのか。モイセス・フローレスを初回でねじ伏せた後、比嘉は目一杯体重を戻した。短期間でMAXの減量を強いられることを、具志堅会長も比嘉もわかった上で「やる。」と決めた以上、プロとして言い訳は許されないが、追い込みの段階で比嘉の状態がどうにもならないことを、具志堅会長もわかっていたはずである。
野木丈司チーフトレーナーの責任も重大だ。スタッフに抱えられて、半失神状態のまま秤の上に乗せられた宮崎亮のように、コンディションを完全に犠牲にして強引にリミットを作った場合、ガタガタになった比嘉に勝機を見い出すことができたのか。
野木トレーナーは早い段階で、試合の中止を具志堅会長に進言すべきだった。自らの身を盾にしてでも、具志堅会長に思いとどまらせるべきだった。山中 VS ネリーの再戦を決行せざるを得なかった帝拳(国内最大手)の例を引くまでもなく、チームを率いるプロの一流コーチとして、チーフトレーナーが当然の仕事を果たせない悪しき慣行が、我が国には依然として存在する。レフェリーとトレーナーがストップを逡巡し、結果的に選手を大事故へと追い込むリング禍も、根源的な原因はそこへと帰結してしまう。
ボロボロに疲弊消耗した比嘉を、無理矢理リングに引っ張り上げて、万全に仕上げた挑戦者の前に立たせたら、いったいどういうことになるのか。再計量を辞退して陳謝した具志堅会長の判断は、けっして間違ってはいない。しかし、頭を下げるタイミングが違う。遅くとも3週間前には、中止を決断できた筈だ。
フライ級での調整は限界だとわかっていたのだから、ベルトを返上してロサレスに決定戦のチャンスを与えた上で、S・フライ~バンタム級の下位ランカーを調達し、10回戦のチューンナップを組むことは充分に可能だった。
□チーム比嘉
※左から野木丈司チーフトレーナー,比嘉,具志堅会長

確信犯の900グラム(2ポンド弱)オーバーなら、普通は試合を決行する。12ラウンズを戦うコンディションを残す為に、計算尽くで体重を合わせているからだ。2.3キロ(約5ポンド)も超過した状態で平気で秤に乗り、45分で1キロ(約2.2ポンド)落としたルイス・ネリーがどれほど悪質だったのか、今回の比嘉を見ればよくわかるだろう。
本当にギリギリの状態まで絞り込んで、それでもなおリミットをオーバーしたボクサーに、削り取る脂肪や水分は残されていない。全身の毛を剃るだけでは足りず、思い余って歯まで抜いてしまう選手もいたと、漫画「あしたのジョー」で梶原一騎は書いていたが、本番直前に急なオファーを受けて渡タイした升田貴久は、ウェイトが落ちずに血を抜いたという。良好な仕上がりでも太刀打ちできないであろう名王者ポンサックレックに、フラフラで立ち向かった升田は、無残に打ち据えられ惨敗した。
試合をやるのかやらないのか、最終的な決定は当日の再計量で決めるという。122ポンド(55.3キロ/112ポンド+10ポンド)のリバウンド制限が設けられ、比嘉がオーバーした場合はその時点で中止とのことだが、122ポンドをクリアしても、比嘉のコンディションを再チェックして判断するとのこと。
調整に失敗した比嘉の絶不調を目の当たりにしているだけに、挑戦者陣営は何としてもやりたいだろう。以下に一応賭け率を記載しておくが、比嘉が7~8割方仕上がってさえいれば、敗北を心配するような相手ではない。世界2位の肩書きに相応しい力の持ち主かと問われれば、答えは「否」である。
長身のメキシカンには好戦的なファイタータイプが多く、近隣の中南米諸国にも同型のボクサーは少なくない。ロサレスも積極的な打ち合いを好む。恵まれたリーチを活かして、距離をキープしながらボクシングをするタイプではないだけに、具志堅会長と野木トレーナーは「組し易い」と考えていた筈。逆説的だが、そこにも油断があったのかもしれない。
□チーム・ロサレス
※左からウィルメル・エルナンデス(フィジカル・コーチ/少し前までロマ・ゴンのチームでアシスタントを兼任),ロサレス,ロジャー・ゴンサレス(チーフ・トレーナー)


個人的には、試合は中止にすべきと考える。比嘉は肉体的なコンディションもさることながら、精神的なダメージが気がかり。時間をかけて、戦う身体と心を立て直した方がいい。しっかり仕上げてきたロサレスには真に気の毒だが、本田&具志堅両会長の口添えが無くとも、マウリシオ・スレイマンWBC会長はすぐに決定戦開催に動くと思う。
□直前のオッズ
<1>BOVADA
比嘉:-1400(約1.07倍)
ロサレス:+750(8.5倍)
<2>5dimes
比嘉:-1372(約1.07倍)
ロサレス:+900(10倍)
<3>Bet365
比嘉:1.1倍
ロサレス:6.5倍
<4>ウィリアム・ヒル
比嘉:1/14(約1.07倍)
ロサレス:7/1(8倍)
ドロー:22/1(23倍)
<5>Sky Sports
比嘉:1/10(1.1倍)
ロサレス:6/1(7倍)
ドロー:30/1(31倍)
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□前日計量と予備検診
<1>王者:比嘉(22歳)/前日計量:114ポンド(51.7キロ)
※900グラムオーバー,再計量を諦め王座はく奪
戦績:15戦全勝(15KO)
身長:161センチ
リーチ:163センチ
首周:35センチ
胸囲:97センチ
視力:左右とも2.0
右ボクサーファイター
<2>挑戦者:ロサレス(歳)/前日計量:111ポンド1/3(50.5キロ)
戦績:29戦26勝(17KO)3敗
身長:169センチ
リーチ:181センチ
首周:36センチ
胸囲:79センチ
視力:左1.0/右0.9
□比嘉は当日計量をクリア
当日午前8時に行われた再計量で、比嘉は定められた55.3キロ(122ポンド=フライ級リミット+10ポンド)を54.7キロ(120.6ポンド/600グラムアンダー)でパス。結局試合は行われることになってしまった。

比嘉と具志堅会長はあらためて謝罪し、ロサレス陣営は快く受け入れたと報じられているが当然だ。比嘉の調整失敗は誰の目にも明らかであり、ベストに程遠い状態なのだから・・・。
スポンサーやら何やらで、一度決まった世界戦をキャンセルするのは確かに大変。とりわけ日本国内では不可能に近い。いかにコンディション不良であったとしても、具体的にドクターストップが出ない限り(出ても?)、試合は決行されてしまう。ぶっちゃけコミッションドクターも、会長とTV局にしてはならない忖度をせざるを得ない。
サッカー日本代表のヴァイド・ハリルホジッチ監督が解任され、アディダスの圧力があったとか無かったとか、なにやら騒動になっている。エキセントリックな言動が原因で、協会,Jリーグと尋常ならざる軋轢を抱えながら、圧倒的なアジア圏内での実績とアーセン・ベンゲルの事情(トゥルシエに2年やらせた後代表監督に就任する予定だったとされる)により、4年の契約期間(2年×2)をまっとうしたフィリップ・トゥルシエが、自身の経験を踏まえたコメントを発しいる通り、スポンサーの都合(意向)は確かに大きい。
本当に圧力があったのかどうかはともかく、今や国内最大規模のメジャースポーツとして定着したサッカーでさえ(だからこそ?)、トップスター(特にアディダスと契約中の看板選手)抜きのチーム編成は物議を醸す。思うような結果が出ていなければなおさらだ。ましてや貧乏マイナースポーツに転落して久しいボクシングで、地上波ゴールデン・タイムの生中継が予定されている世界戦の中止は有り得ない。
年季の入ったファンならそうしたことは耳にタコで、充分過ぎるほどわかってはいるのだが・・・。
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□オフィシャル
主審:トーマス・テーラー(米/カリフォルニア州)
副審:
スティーブ・モロウ(米/カリフォルニア州)
ゲイリー・リッター(米/オクラホマ州)
ファン・カルロス・ペラーリョ(メキシコ)
立会人(スーパーバイザー):ボブ・ロジスト(ベルギー/EBU副会長)
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■主なアンダーカード
<1>113ポンド(51.2キロ)契約10回戦
日本フライ級3位 中谷潤人(MT) VS WBC13位 マリオ・アンドラーデ(メキシコ)

破竹の勢いで連勝街道を突っ走るホープが、いよいよダブル世界戦の露払いに抜擢。元日本・OPBFライト級王者,三垣龍次を輩出したMTジム(神奈川県相模原市)所属の中谷潤人(なかたに・じゅんと)は、弱冠二十歳の長身サウスポー(公称170センチ)。2015年4月デビュー以来、14連勝(11KO)をマークして勢いに乗っている。
2016年度の全日本新人王を経て、昨年8月、新たに創設された日本ユース初代王座決定戦に出場。こちらも無敗を誇る関西期待の俊英,ユーリ阿久井政悟(倉敷守安/対戦時21歳,11勝8KO1分け)を6回TKOに下し、ベルトと同時に大会MVPを獲得。公称7センチの身長差を克服し、自慢の強打で打ち合いを挑む阿久井に対し、距離を取って捌くと見られていた中谷もインファイトで応戦。
タッパを活かした長い左ストレートと返しの右フック(主武器)ではなく、ボディから攻め上げる左右のコンビネーション、ダブルのフック,アッパー等々、常に先手で細かいパンチを放ち流れを掌握。ステップに連動したブロック&カバーも想像以上に堅牢で、体格差も利しつつ、阿久井のパワーショットを完封。前評判は阿久井有利の声も多く、番狂わせと捉えるファンも少なくなかった。
三重県(員弁郡東員町)出身。幼い頃から地元の空手道場に通ってはいたものの、ゲームが大好きなどこにでもいる小学生で、特別目立つ存在ではなかったらしい。ボクシング・ジムに通い出したのは、中学に進んでから。たまたまTVで観たボクシングに惹かれたというが、メキメキ頭角を現し、U-15全国大会を2連覇して勇名を轟かせる。
在阪(もしくは関東)の私立名門高校に特待生扱いで入学し、インターハイや国体の優勝を手土産に一部リーグの強豪大学へと進むのが、国内アマチュア・ボクシング界の一般的なエリート養成コースになるが、なんと中谷は中学卒業と同時に渡米。USA帝拳の重鎮にして、数多の王者を支えた名コーチ,ルディ・エルナンデスの門を叩く。
ルディの自宅にホームステイを許された中谷は、およそ9ヶ月に渡ってロサンゼルスに滞在。同じU15出身組みの井上尚弥,田中恒成,松本亮らのように、まずはアマで確固たる足場を作り、好条件でプロのスカウトを待つ常套手段は、ハナから考えていなかったらしい。
「目標はプロのNo.1なんだから、世界レベルの本当に強い選手がいるところでやってみたかった。」
このご時勢に高校へ行かず、本場アメリカに単身ボクシング留学。プロとしての成功を前提にした、蛮勇としか言いようのない人生の大きな決断。進路指導を受ける際、「第一志望ブラジル」と希望高の欄に書き、担当の教師を激怒させた”キング・カズ”こと三浦知良を彷彿とさせる話だが、ご両親の思い切りも凄い。
世界最大のボクシング大国アメリカは、中~重量級を中心にマーケットを形成しており、今や王国のボクシング興行を左右するまでに成長した、ヒスパニック(メキシコ)系のコミュニティを味方につける有望選手でさえ、バンタム級以下の軽量級で注目を集めるのは至難の業。
海外のジムは正真正銘のパブリック方式で、月謝はあくまで施設の使用料に過ぎず、ジムの看板を背負うプロのトレーナーに習う為には、別途契約(コスト)が必要となる。生活費はもとより、フィジカル・トレーナーを雇う費用から何から、すべて自前で用意しなければならない。有名無名を問わず、大多数のボクサーとマネージャーは、スポンサーの獲得から有力プロモーターへの売り込みまで、すべてを自己責任で賄うのが基本。
身分の自由と引き換えに、経済的な自立を容赦なく要求される。裏を返せば、日本以上にアマチュアの戦果,実績がモノを言う世界なのだ。そのまま定住せずに帰国し、首都圏のジムに入門してプロデビューしたのは、現実的な選択だったと思う。
ルディのコネを頼り、国内最大手の帝拳に売り込むこともできただろうに、相模原にあるMTジムを選んだ経緯はよくわからないが、父の澄人氏は経営していた飲食店を閉めて上京。マネージャーとして寝食をともにし、息子の成功を直接バックアップ。既に複数の企業がスポンサーについており、周囲の期待の高さが窺がえる。
フライ級では珍しい、170センチの痩躯。80年代に活躍したサウスポーのソリッド・パンチャー、小林光二(元WBC王者/角海老宝石)を想起させられるが、長身故の脆さを露呈した小林よりも、フィジカルは逞しく頑健な印象。前日計量の恩恵を忘れてはならないけれど、接近戦で押し負けない身体全体のパワーは大きな魅力。
反面頭を振らない現代流は、マーロン・タパレスに屈した大森将平(WOZ/長身の左パンチャー)に通ずる怖さを併せ持つ。カウンターのセンスと当て勘にも非凡な才能を感じさせるだけに、丁寧なステップと右のリードで距離をキープし、圧力をかけながら相手を引き出す技を覚えるのも、今後の進境には欠かせない要素と映る。
メキシコから呼ばれたアンドラーデは、ローカル王座を突破できそうでし切れず、世界ランクまであと数歩の足踏みを余儀なくされる典型的な中堅クラス。一応13位の肩書きを持ってはいるが、はっきり言って世界ランカーの力は無い。ガードを堅持した正攻法をベースに戦う右ボクサーファイターだが、左ガードを下げて挑発半ばに足を使う、トリッキーな陽動スタイルも使い分ける。
戦績が示す通り1発の怖さは無いが、駆け引きの上手さと狡さで勝負するボクシング。2009年4月のデビュー戦でいきなり負けると、3連勝して調子に乗るかと思いきや、1分け4連敗。さらに3試合続けて引き分けるなど、修行時代はなかなか眼が出なかった。敗北を糧に実戦で鍛えた技術で、しぶとく食い下がる。日本に比して選手層が厚く、まだまだ競争が激しいメキシコで生き残っているだけあって、基本のしっかりした好選手と表していい。
2015年6月、「ボクシング・ルネッサンス(メキシコで活躍中の古川久俊トレーナーが主催する定期興行)」に参戦した現日本フライ級王者黒田雅之(川崎新田)を、小差の3-0判定でかわしている。力で押して行くファイター黒田を、手足の速さと手数で誤魔化した格好だが、日本でやっていたら判定の目はどう出ていたか。
現チャンプの黒田を十二分に意識した、なかなかに刺激的なマッチメイク。明白な力量の差を見せつけたいところではあるが、サイズ&パワーの違いを過信すると痛い目に遭う。叩き上げのメキシカンを侮ることなかれ。
◎中谷(20歳)/前日計量:111ポンド3/4(50.7キロ)
日本ユース王者(V0),2016年度全日本新人王(東日本MVP)
戦績:14戦全勝(11KO)
アマ通算:14勝2敗
身長:170センチ
左ボクサーファイター
◎アンドラーデ/前日計量:111ポンド3/4(50.7キロ)
戦績:24戦13勝(3KO)6敗5分け
身体データ:不明
右ボクサーファイター
※フライ級リミット+1ポンドの契約にもかかわらず、申し合わせたかのように、両選手ともにリミットの112ポンドに合わせてきた。現在無冠のアンドラーデはともかく、正規のフライ級リミット内で中谷が負けた場合、ノンタイトルでも保持する日本ユース王座ははく奪されるのが通例。自信の表れでもあるのだろうが、清々しい気持ちになる。
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<2>136ポンド(61.7キロ)契約6回戦
日本ライト級10位 小田翔夢(白井・具志堅) VS ロルダン・アルデア(比)

今年1月、琉球ジムから白井・具志堅ジムへの移籍が決まり、2月4日に那覇の県立武道館で行われた比嘉のV2戦に参戦。フィリピン人アンダードッグを初回で倒し、無事に移籍第1戦を終えた小田翔夢(オダ・ショーン)が、2016年の暮れ以来となる首都圏のリングに登場。
デビューしたのは、2016年5月。沖縄県立南部農林高校に在学中だった。新人王戦にエントリーした小田は連続KOで順調に勝ち上がり、12月23日の決勝戦を迎える。2学期の終業式に出席してから、後楽園ホールに向かう慌しさにもかかわらず、東の覇者石井龍輝(船橋ドラゴン)をパワーで圧倒。
2016年度の新人王戦は、ライト級の小田とともに、MVPに輝いたS・ライト級の吉開右京(島袋/21歳/5勝4KO2敗)、帝拳に入門したバンタム級の新島聖人(20歳/6勝5KO1敗)の沖縄出身者3名が全日本の4ラウンド・キングとなり、比嘉の目覚しい活躍も含めて「王国沖縄の復活か」と話題をふりまいた。
名前と風貌からわかる通り、小田はアメリカと日本のハーフである。沖縄の米軍基地に赴任していた父と、地元出身の母親との間に生を受け、物心がつく頃既に父は帰国。幼かった小田の記憶に、父の面影や声はまったく残っていないという。
ボクシングを始めたのは小学5年。Uー15の全国大会で優勝を果たしたが、アマのレコードは5戦3勝2敗に止まる。17歳の誕生日を待ってプロテストを受験し合格。琉球ジムからプロ入りした小田は、自動車整備の会社に就職が内定し、地元で働きながら世界王者を目指す予定だった。
「堅い板を素手で殴り続け、拳をずっと鍛えてきた。」
自慢のパンチは右(ストレート,フック,アッパーすべて強い)だが、左にも倒す力を秘める。趣味のスケートボードは玄人はだしらしく、「オリンピックも夢じゃない」と勧められたほどの腕前。自らの高い身体能力について、「間違いなく、(黒人の父から)受け継いだものだと思う。」と認めながらも、「人より多少優れた素質に恵まれても、努力しなければ意味がない。」とも語る。
「パッキャオのように、リング上での強さだけでなく、ハートも素晴らしいチャンピオンになりたい。世界タイトルを目指す以上、テクニックも最高を求めて行く。ロマチェンコやメイウェザーみたいな・・・。」
その意気や良し。まだまだボクシングは荒削りで、とりわけディフェンス面での課題が目につくけれど、瞬発的な出足と右の決定力は出色。筋力に頼って強打する癖は、なるべく早い段階で修正したい。上半身の硬いボクサーは一般的に打たれ脆く、レベルが上がるに従い致命的なウィークネスとなってしまう。
24歳のフィリピン人サウスポー,アルデアは、右のガードを腰まで下げて構え、ジャブを突きながら長めの左ストレートを打ち込むボクサー・パンチャータイプ。L字というより、デトロイト・スタイルの系譜だろうか。
上体を柔らかく使う伝統のボディワークはイマイチで、2016年暮れのロシア遠征でシャフカト・ラヒモフ(2013年世界選手権L・ウェルター級代表/タジキスタン)に喫した序盤のKO負けも、打ち終わりに相手の正面に立ち止まったまま、ガードが開く悪癖を狙われた。
小田の守りも堅牢とまでは言えないが、ミドルレンジで右ストレートが当たりそうな気配はある。合い打ち気味のカウンターに気をつけながら、丁寧にジャブとボディで崩す組み立ても見てみたい。
◎小田(19歳)
2017年度全日本新人王
戦績:7戦全勝(7KO)
アマ戦績:3勝2敗
身長:172センチ
右ボクサーファイター
◎アルデア(24歳)
戦績:17戦12勝(6KO)4敗1分け
身長:171センチ
左ボクサーファイター