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ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

大勝負を前の小手調べ? 因縁のローチと対峙へ - リナレス VS ゲスタ,マティセ VS ティーラチャイ 直前プレビュー -

2018年01月28日 | Preview
■1月27日/イングルウッド・フォーラム/WBA世界ライト級タイトルマッチ12回戦
王者 ホルヘ・リナレス(ベネズエラ/帝拳) VS WBA15位 メルシト・ゲスタ(比)



昨年9月のルーク・キャンベル戦に続き、リナレスがイングルウッド・フォーラムに2戦続けての登場。キャンベル戦で負った肋骨の負傷が完全に癒えたのかどうか、いささか心配ではあるけれど、試合間隔を開け過ぎることなく、大きな興行で戦い続ける姿勢は評価できる。

挑戦者のゲスタは、2007年に渡米。トップランク傘下で好成績を収め、一度はIBF王座挑戦まで漕ぎ着けた。パッキャオのアメリカン・ドリームに刺激を受け、米本土へと渡った”フィリピン・パワーズ”の一翼を担った小兵のサウスポー。

ワイルドカードでスーパースターと一緒に研鑽を積む、170センチそこそこのライト級(レフティ)。”パッキャオ二世”の期待を嫌でも背負わざるを得ず、攻撃的なパックマンのスタイルを真似る。実際に、ゲスタはいい線を行っていた。

ご本家のスピード&パワーには及ばないながらも、思い切りのいい踏み込みもろとも、真っ直ぐ左ストレートを打ち込んで行く姿には、”小型パッキャオ”の雰囲気が確かに感じられた。しかし・・・。

2012年12月8日、壮絶極まるKOシーンが未だに脳裏に焼きついて離れない、パッキャオ VS マルケス第4戦のセミ格でMGMグランドのリングに上がったゲスタは、時のIBF王者ミゲル・バスケス(メキシコ)の老獪な待機戦術に絡め取られてしまい、ほとんど何もできないまま大差の判定負け。

マルケスとの遺恨に完全決着を着け、満面の笑みで勝ち名乗りを受けるパッキャオと、後継者のタスキよろしくIBFの赤いベルトを肩にかけたゲスタの揃い踏み・・・目論見が根底から崩れ去ったアラムのショックは、リングサイドで泣き叫ぶジンキー夫人以上だったのかもしれない。

左回り(サウスポー対策の定石)を徹底しつつ、一定の距離をキープ。飛び込もうとするゲスタの出足より一呼吸早くステップを踏み、間合いを外しながら、長い左ジャブを突きゲスタより速くコンパクトな手数で迎撃。

サイズのアドバンテージを目一杯活かし、リスクを冒さず安全確実にポイントを引き寄せる。バスケスが作り出すロング・ディスタンスを突破するだけのスピードが、ゲスタには決定的に不足していた。ガードを解いて両腕を広げ、「打って来いよ」と挑発するも、海千山千の王者はどこ吹く風。

スピード負けして王者を追い切れないゲスタに、コーナーも完全にお手上げ状態。テキサス州ダラスのメイプル・アベニュー・ジムで、引退したヘスス・チャベスと共に教えていたヴィンス・パーラ(チーフ・トレーナー兼マネージャー)は、具体的な打開策を指示することができず、ゲスタは絶望的な12ラウンズを終えた。

コーナーの無策を含めた負けっぷりの悪さは、アラムを激怒させたらしい。契約を解除されたゲスタは帰国するしかなく、長期の戦線離脱を余儀なくされる。傷心のコンテンダーに救いの手を差し伸べたのが、創設以来右腕として頼りにしてきたリチャード・シェーファーの造反により、存続の危機(?)に立たされたデラ・ホーヤ。

2014年4月に再渡米したゲスタは、1年4ヶ月ぶりとなる実戦復帰。サンディエゴで無名のメキシカンを倒すと、7月にサンフランシスコで中堅メキシカンに負傷判定勝ち。

そして2015年の年明け早々、ゴールデン・ボーイ・プロモーションズ(以下GBP)は、12名に及ぶボクサーの獲得を発表。「L.A. Fight Club」の中軸となったエイブラハム・ロペスやクリスチャン・ゴンサレス(アレハンドロ・コブリータの息子)、我らが亀海喜寛にらに混じり、ゲスタの名前も並んでいた。デラ・ホーヤが課したテストに、無事合格したという次第。

正式契約後の第1戦がドローで終わり、どうなることかと周囲を心配させたが、その後は3連勝(2KO)。WBA15位のランキングは、実力とキャリアに比してやや低めではあるものの、当たらずとも遠からずといったところ。


直前のオッズは、1-11(~13)と大きくかけ離れ、両雄の現在地をそのまま反映している。リナレスが対戦を熱望するマイキー・ガルシア(WBC正規王者)は、2月10日にアラモ・ドーム(テキサス州サンアントニオ)で、140ポンドのIBF王座挑戦が決定。昨年11月、近藤明広(一力)をワンサイドの大差判定に下し、テレンス・クロフォード(4団体を統一)が放棄した赤いベルトを巻いたセルゲイ・リピネッツ(ロシア)との対戦がまとまった。

「彼が階級を上げるなら、私も140へ行く。」

WBCから通告された統一戦(正規王者 VS ダイヤモンド王者)の交渉を頼りに、マイキーとの大一番にこだわるリナレスは、狙い定めたライバルの後を追って、S・ライト級へのさらなる増量を宣言。しかし、予定していた140ポンドのIBF王座戦が、王者リピネッツの怪我で延期(3月10日開催で仕切り直し=会場も変更される模様)となり、マイキー陣営は「140ポンドの王座獲得後」に言及。

「一旦135ポンドに戻り、WBCから指示されたリナレスとの指名戦に応じたい。ライト級の最強を名実ともに証明しないまま、140ポンドへ上がるのは本意ではない。」

振り返ってみれば、マイキーがおよそ2年半に及ぶブランクに追い込まれたのも、当時契約していたトップランクと、マッチメイクを巡って揉めたことに端を発する。フェザー級に続いて、S・フェザー級でも統一戦を強く望んだものの、ガンボアや内山との注目カードが実現せず、業を煮やした陣営はアラムとの決別を選択。「特定のプロモーターに専属契約で縛られるのは、二度とご免」だと、黙って契約切れを待ち、その間に自ら興行会社を立ち上げた。


マイキーの階級アップで費えたかに思われた念願のビッグマッチが、息を吹き返す。リナレスに取って、今回のゲスタ戦はほとんどチューンナップと表していい試合。世界王者がノンタイトルを数多くこなしていた70年代以前なら、137~138ポンド契約の10回戦でもおかしくない。

だがしかし、我々は思い出すべきだ。S・フェザー級王座から陥落した初黒星(2009年10月/国立代々木第二体育館)の相手、ファン・カルロス・サルガドもノーマークの挑戦者だった。ロングレンジから一気に踏み込み、オーバーハンド気味に叩きつける左フックを浴びたリナレスは、この一撃で戦闘不能に陥りレフェリー・ストップ。GBPとの長期契約が発表され、本格的な米国進出が決まった矢先の惨敗。

5ヶ月のスパンを開け、ライト級でリスタートした後、ロサンゼルスで行われたWBC王座挑戦(2011年10月/ステープルズ・センター)でも、有利の前評判通りポイントでリードしながら、バッティング上等とばかりに開き直った王者アントニオ・デマルコのタフ&ラフに巻き込まれ、複数個所のカットで大流血に見舞われたリナレスは、終盤11ラウンドに猛攻を受け、レフェリー・ストップによるTKO負け。

さらに翌2012年3月、メキシコ最大のリゾート地カンクンで組まれた再起戦でも、無名のセルヒオ・トンプソンによもやの2回ストップ負け。デマルコの戦法をヒントにして、揉み合い込みの荒っぽい打撃戦を仕掛けたトンプソンにダウンを奪われ、ヘッドバット(レフェリーの裁定はヒッティング)で出血。カットの傷は小さく、コーナーの迅速かつ的確な止血で問題は無いと思われたが、リング・ドクターもグルになった伝統のメキシカン・トラップに引っかかり、悪夢の連敗を喫する(ノーコンテストではなくTKO)。


受けに回った時のリナレスは、想像以上に打たれ脆い。そして、乾坤一擲のチャンスにすべてを懸ける挑戦者をサポートするのは、なんとフレディ・ローチ。ゲスタは再びワイルドカードの門をくぐり、パッキャオを栄光へと導いた名コーチの薫陶を受けた。上述したヴィンス・パーラとの関係が消滅した訳ではなく、あくまで名目上は共同トレーナー(Co-Trainer)とのことらしいが、実質的にチームをコントロールするのは、世界一と評判の名コーチ間違いない。



ローチはまた、デマルコ戦とトンプソン戦でリナレスのコーナーを率いた張本人でもある。デマルコへの挑戦が具体化する少し前、2010年秋に苦楽を共にしてきた田中繊大トレーナーと別れ、ローチのチーフ就任が公表される。サルガド戦の結果を受け、GBPと本田会長との間で話し合いが持たれていたと見るのが妥当で、国際的な名声を確立したトレーナーをデラ・ホーヤが強く望んだ。

ハリウッドを訪れたリナレスは、パッキャオとの実戦スパーで汗を流し、3階級制覇へ向けて本格的に再始動したが、好戦的なスタイルを志向するローチとのコンビは、僅か2試合で破綻。幾ら世界一のコーチでも、2戦続けてのKO負けでは更迭も止む無し。サルガド戦で繊大トレーナーがデラ・ホーヤの信頼を失墜したように、ローチは本田会長に見限られた。キャリアを左右する重要な試合で結果を出せなければ、トレーナーは即クビを宣告されても文句は言えない。それが本場の流儀。

リナレスをデビュー当時から見続けてきた日本のファンは、堅い絆で結ばれた繊大トレーナーとの復縁を強く望んだが、末期癌に冒された恩師ルディ・ペレスを看取る為、一旦帝拳を辞してメキシコに長期滞在。後を託されたイスマエル・サラスと新体制を組み、長い回り道の末に、ようやく3つ目となるライト級王座に辿り着く。


短期間ではあったものの、ローチはチーフとしてリナレスを支え、痛恨の連続KO負けをコーナーで見守った。2008年の夏、「パッキャオを壊す気か」と世界中から非難されたデラ・ホーヤ戦を決断した時、ローチは自信満々に言い放った。

「私は、メイウェザー戦をオスカーと共に戦った。彼のすべてを、私は誰よりも良く知っている。契約は147ポンドのウェルター級。そこは譲らない。オスカーとの体格差は、マニーの卓越したスピードとコンビネーションが相殺する。勝利は我々の手中にある。」

プリティ・ボーイがゴールデン・ボーイから名実共にスーパースターの座を引き継いだ、2007年5月5日のメガ・ファイト(240万件のPPVセールスを記録=当時の最高売上)において、デラ・ホーヤ(大きな試合の度にトレーナーを変えることでも有名)と最もウマが合ったとされるフロイド・シニアは、壮絶な近親憎悪の果てに決別した和が子との対決について、「俺もプロだ。親子の情は捨てる。」と話していたが、土壇場になるとデラ・ホーヤが到底呑めない法外なギャラ(200万ドル/デラ・ホーヤの提示は50万ドル+勝利ボーナス50万ドル)を吹っかけ、自ら仕事を降りた。

ヘッドを失ったデラ・ホーヤは、急遽ローチに声をかける。「ナチョ・ベリスタインとテディ・アトラスの名前も挙がっていたが、オスカーがメキシコで長期のキャンプを張るのは難しい。ナチョをビッグベア(デラ・ホーヤのキャンプ地)に拘束するにも、それなりの準備期間が必要だ。テディはESPNで毎週解説とアナリストの仕事があり、番組の収録でしばしばキャンプを離れなくてはならない。ローチがベストな選択であり、彼がオファーに応じてくれたのは幸いだった。」と、実兄ジョエル・Jr.は追懐。


幾つかのインタビューで既に答えているが、長短両面を含めたリナレスの特徴も、ローチはしっかり把握している。もともとローチは話好き(?)で、普通なら関係者は口をつぐむであろう際どい話題にも、快く私見を開陳することが多い。

しかしながら、ゲスタはパッキャオに似ているけれど、パッキャオそのものではない。とりわけ下半身のバネ、瞬発力にはかなりの差があり、事実バスケスのフットワークに付いていけなかった。左ストレートの破壊力でも及ばない。しかしゲスタは、身長こそ低いがナチュラルなライト級。135ポンドで「階級の壁」にぶつかり、パワーの違いを克服し切れず苦しんできたリナレスのウィークネスを、ローチは間違いなく狙って来る。

特に怖いのが、体が温まり切らない立ち上がり。前後左右、両サイドを余すところなく使ったステップでゲスタを翻弄し、一方的な展開を創出したミゲル・バスケスよろしく、リナレスは最大のストロング・ポイントであるスピードを前面に押し出し、ジャブを間断なく突いて距離を維持したい。

ゲスタに迷い無く踏み込ませ、万が一にも左ストレートを真正面で待つことがないよう、慎重かつ丁寧に序盤をまとめて欲しいと願う。ゲスタよりも速く動き、サラスが絶賛を惜しまない「世界最高水準のコンビネーション」で手数をまとめ、セーフティリードを保ち、一瞬たりともペースを渡さない。

またしても取りこぼすような事態になれば、今度こそリカバリーが利かないものと覚悟を決め、判定勝負を念頭に置いた安全策を貫く。不利の予想は免れないと思うけれど、懸命に追い求めるマイキー戦は、我慢と辛抱の12ラウンズの先に見え始めている。




◎リナレス(32歳)/前日計量:135ポンド
戦績:46戦43勝(27KO)3敗
WBCライト級王座(V4)
WBAライト級王座(V2)
WBA S・フェザー級王座(V1)
WBCフェザー級王座(V1)
世界戦通算:13戦11勝(7KO)2敗(2KO)
アマ通算:156戦151勝 (100KO・RSC) 5敗
身長:172.6センチ,リーチ:175センチ
※ハビエル・プリエト戦の予備検診データ
右ボクサーファイター

◎ゲスタ(30歳)/前日計量:134.8ポンド
戦績:34戦31勝(17KO)1敗2分け
身長:170センチ,リーチ:173センチ
左ボクサーファイター




※参考映像:公開計量(アンダーカードも含めたフル映像)
FULL WEIGHT IN MATTHYSSE & KIRAM & LINARES & GESTA & ALL UNDERCARDS

https://www.youtube.com/watch?v=qEJONZOxjmQ



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□オフィシャル

主審:ジャック・リース(米/カリフォルニア州)

副審:
マックス・デルーカ(米/カリフォルニア州)
エドワード・ヘルナンデス・Sr.(米/カリフォルニア州)
エステル・ロペス(米/ニューメキシコ州)

立会人(スーパーバイザー):ジョージ・マルティネス(カナダ/チャンピオンシップ・コミッティ委員長)


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□懸けられるベルトは2つ

キャンベル戦の記事をアップした際、リナレスの王座について言及した。ボクシングの歴史上、リナレスはWBAとWBCの統一王者として扱われるのか、甚だ疑問に感じるからだが、それはさておき、今回懸けられるチャンピオンベルトは、WBAとリング誌認定の2つのみ。会見や公式計量の会場には、WBCのダイヤモンドベルトは敢えて持参しなかったようだ。

ゲスタはWBCランキングの15位以内に入っておらず、WBAでも最下位の評価。本田会長から強いリクエスト
があればWBCも承認した筈だが、承認料を二重に支払うほどの挑戦者ではないということか。




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■亀海の再起戦は中止

今回の興行には、ミゲル・コットに完敗を喫した亀海喜寛(帝拳)も参戦する予定だったが、右肩の怪我を理由に撤退。
※亀海喜寛が右肩負傷、復帰戦は2カ月延期
1月20日/Boxing News
http://boxingnews.jp/news/55119/

2ヵ月後を目処にあらためてセットするとのことだが、トップレベルで戦うプロのアスリートとしては、無理が利かなくなってくる年齢だけに、回復具合をしっかり見極めて欲しい。


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■メイン・イベント,主なアンダーカード

<1>WBA世界ウェルター級正規王座決定12回戦
WBA位 ルーカス・マティセ(亜) VS WBA位 ティーラチャイ・クラティンディーンジム(タイ)



昨年5月6日、カネロ VS チャベス・Jr.戦のアンダーカードに出場し、黒人の中堅選手エマニュエル・テーラーを5回TKOに下し、1年7ヶ月ぶりの再起に成功したマティセが、タイ人を相手に正規王座決定戦に臨む。

勝利を確実視されていたWBC S・ライト級王座決定戦(2015年10月)で、ウクライナの長身パンチャー,ビクトル・ポストルに大番狂わせの10回TKO負け。ポストルの長い右で左眼を打ち抜かれたマティセは、眼窩底骨折の重傷を負った。2016年3月開催で復帰戦が発表されたが、眼疾の回復が思うにまかせず中止。

「左眼の状態についてドクターの所見を良く聞き、慎重に対処したのも事実だが、それより連戦の疲労が蓄積していた。特にルスラン・プロヴォドニコフ戦のダメージが尾を引き、しっかりした手応えを得るまでに時間を要した。無理はできないと、素直にそう直感したんだ。」

想像以上に長引いたブランクについて、マティセは率直にそう語っている。中堅どころのテーラーを倒した再起戦の出来は、眼疾の後遺症を心配させるものではなく、なおかつウェルター級での調整による重さや鈍さも気にならずに済んだけれど、体全体の相対的なスピード,敏捷性はやや落ちている。30代半ばに差し掛かった年齢も、無関係ではないのかもしれないが。

新しく招いたチーフ・トレーナー,ジョエル・ディアスとの息も悪くはなく、チームワークは円滑に回っている様子。第3ラウンドの途中でテーラーの頭が当たり、右の瞼をカットしてヒヤリとさせられたが、再開後に右でダウンを奪う姿に安堵。コーナーの手当ても的確で、大事には至らずに済む。




そして米国に拠点を移した2012年以降、140ポンドのトップグループで繰り広げた激戦の疲れが本当に抜けたのかどうかは、もう少し強力な相手との手合わせを見てみないとわからない・・・というのが、ありきたりではあるが再起戦から受けた印象。

では、タイから呼ばれたWBA位は、「もう少し強力な相手」に成り得るのだろうか。25歳のティーラチャイは、2008年1月デビュー。年齢が本当なら、16歳から国際式で戦っていることになるが、6回戦で戦い始めている点を考慮すると、ムエタイとの掛け持ち(珍しくない)だったのかもしれない。

6戦目(2010年8月)で獲得したPABA暫定王座の防衛を続けること、実に7年超。V7達成後に正規王者となり、積み重ねた防衛回数はなんと31度に及ぶ。ジェフ・ホーンやカザフスタンの選手が正規王者に認定されたり、暫定王者も承認されるなど、一度も返上やはく奪されることなく、延々連続防衛を続けたのかどうかは判然としない。

日本人との対戦経験もあり、2012年12月、元日本王者の加藤壮次郎(ワタナベ/引退)が、二十歳のティーラチャイにタイで挑戦し、5回TKOに退いている。フィジカルが強く、パンチもなかなかに重そう。ストレート並みに鋭いジャブを突き、左右のボディを混ぜたコンビネーションで崩して行く、正攻法の右ボクサーファイター。ミドルレンジでの打ち合い力を発揮する、似た者同士と言えなくもない。スピードが今1つな点も含め、今のマティセには手が合う。

順当ならマティセの勝利は動かない。OPBF圏内では頭1つ抜けた存在と見て良く、今回怪我で参戦を見合わせた亀海も、判定勝負になったら分が悪そう。万全のマティセなら中盤までに倒し切るだけの地力の差はあるけれど、ティーラチャイの重い右がまともに当たると、一気に波乱の展開となる恐れはある。マティセのダメージが、しっかり抜けていることを願うばかり。


◎マティセ(35歳)/前日計量:147ポンド
戦績:42戦37勝(34KO)4敗1NC
身長:169センチ,リーチ:175センチ
右ボクサーファイター

◎ティーラチャイ(25歳)/前日計量:146.4ポンド
戦績:38戦全勝(28KO)
身体データ:不明




□オフィシャル

主審:ラウル・カイズ・Sr.(米/カリフォルニア州)

副審:
レヴィ(リーヴァイ)・マルティネス(米/ニューメキシコ州)
パット・ラッセル(米/カリフォルニア州)
ザック・ヤング(米/カリフォルニア州)

立会人(スーパーバイザー):ホセ・オリヴィエ・ゴメス(パナマ/WBAランキング委員)


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<2>ウェルター級8回戦
マルセリーノ・N・ロペス(亜) VS ブレイディス・プレスコット(コロンビア)



鋭く強烈な左フックの一撃で、プロ3年目のアミル・カーンを初回に沈めたのは、もう9年も前の出来事になる。突如出現したライト級のプロスペクトに、大きな注目が集まった。しかし、IBF王座を獲得する直前のミゲル・バスケスに小差の1-2判定を失うと、2度目の英国遠征でケヴィン・ミッチェルに大差の判定負け。

その後140ポンドに上げて、ポール・マクロウスキーとマイク・アルバラードに連敗(2011年)。10回戦に上がって間もないテレンス・クロフォードにも敗れ、30代に入ってからは完全なアンダードッグ路線へ・・・。

長身痩躯のコロンビア人は、ロシアのアマチュア出身組み2人に続き、2010年に喫した連敗(ブラッド・ソロモンとショーン・ポーター)で馬脚を現した元ホープ,レイ・ロビンソンに3連敗中。バスケス戦(2009年7月)を勝ち切れていたら、そのままキム・ジフン(韓国)とのIBF王座決定戦に進出し、チャンピオンになっていた確率が高い。僅かな歯車の狂いが、ボクサーの運命を大きく左右する。

ブエノスアイレス出身のロペスは、2015年から米本土に主戦場を移した選手で、GBPと正式契約を交わして傘下に収まった。渡米後の戦績は3戦2勝(2KO)1敗で、必ずしも順調とは言い難いけれど、10月13日のローカル興行でパブロ・セサール・カノ(エリック・モラレスの4階級制覇をアシストしたメキシカン)に2回KO勝ち。

好戦的な右のボクサーファイターで、厚みのある上半身から思い切りのいい左右を放つ。スピードは平均的ながらも、タフなフィジカルを武器に圧力をかけ続け、最後の最後まで勝負を諦めないしぶとさが身上。

アルゼンチンのボクサーは、物凄く大雑把にまとめてしまうと、ニコリノ・ローチェやオマール・ナルバエスに代表される技巧派と、カルロス・モンソンやビクトル・ガリンデス,サントス・ラシアルらに象徴されるタフなパンチャー,ファイタータイプの2つの系譜に分かれる。
※日本のオールド・ファンが忘れられないパスカル・ペレスは、両面を併せ持つ万能型。

ロペスはどちらかと言えば後者に属するが、動きそのものは、アルゼンチン時代に比べてスムーズになった。サンデーパンチの右フックが早い時間帯に炸裂すれば、そのままフィニッシュに直結しそう。

”負け慣れ”してしまったプレスコットが、どこまで踏ん張れるか。公開計量での元気の無さが気にかかる。


◎ロペス(31歳)/前日計量:142.6ポンド
戦績:36戦33勝(18KO)2敗1分け
身長:172センチ,リーチ:178センチ
右ボクサーファイター

◎プレスコット(34歳)/前日計量:143.6ポンド
戦績:41戦30勝(22KO)11敗
身長:180センチ,リーチ:183センチ
右ボクサーファイター


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<3>フェザー級8回戦
ティーノ・ナーヴァ(米) VS フランシスコ・エスパルサ(米)



共にプロ7戦を消化した、若手軽量級ホープ対決。

ティーノ(テノチティトラン)・ナーヴァは、126ポンドで世界を目指すヒスパニック系ホープの1人。本格的なインタビューが行われておらず、詳しい経歴は不明ながら、これまでご紹介してきた「L.A. Fight Club(デラ・ホーヤ肝煎りの興行)」を支える中軸に加わりつつある。

勇猛果敢に接近し、力強い左フックを起点に攻め込む積極的なファイター。KOが少ないのは、いきなり強打を見舞う攻め急ぎが原因。要するに、強引過ぎるのだ。崩しの手間を省略せず、ジャブや捨てパンチを散らしながら出はいりを繰り返した方が、倒すチャンスは確実に増す。実戦経験を積む中で自ずと解決されて行くだろうが、ボクシングが出来ない訳ではないのでちょっと勿体無い。

対するエスパルサは、標準的なメキシカン・スタイルにより近く、スタンダードなボクサーファイタータイプ。パワーで押し切ろうとするナーヴァの粗さを、正攻法のジャブとワンツーでしっかり迎え撃つことができるのか。あるいはまた、力に力で対抗するのか。

舵取りを任されるチーフ・トレーナー,フェルナンド・バルガス(デラ・ホーヤ,トリニダードとの激闘をが忘れ難い元S・ウェルター級統一王者)が、どんな戦術を準備しているかも見どころの1つ。

その将来性について、確たる評価をあれこれ論じる段階にはないが、2人とも既に固定のファンが付いているらしく、公開計量で湧き上がった大きな声援はダブル・メインを凌ぐ(?)勢い。アンダーカードの中では、一番の注目カードか。期待に違わぬ熱戦は必至。


◎ナーヴァ(24歳)/前日計量:125.8ポンド
戦績:7戦全勝(1KO)
身長:168センチ,リーチ:170センチ

◎エスパルサ(23歳)/前日計量:125.6ポンド
戦績:7戦6勝(2KO)1分け
身長:170センチ,リーチ:175センチ
右ボクサーファイター


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<4>ライト級8回戦
ロメロ・デュノ(比) VS ヤルドレイ・アルメンタ・クルス(メキシコ)



ライト級に登場したフィリピンの若き倒し屋デュノが、昨年9月のリナレス VS キャンベル戦に続き、GBPの興行に連続参戦。前戦はしぶとく粘る中堅メキシカンを倒し損ねたが、デラ・ホーヤを始めとするGBP幹部の評価はまずまずで、”育成枠”に踏み止まった。今回もまたメキシカンが選ばれたが、前戦の相手よりは大分若い。

きれいに序盤で決着したいのはヤマヤマなれど、KOへの過剰な欲求は時に冷静さを失わせ、本来あるべきボクシングを狂わせる。デュノのパワーなら、マックスのフックを振り回す必要はなく、精度に注力したストレート系中心の組み立てで充分。


◎デュノ(22歳)/前日計量:135ポンド
WBCユース・インターナショナルライト級王者(V0)
戦績:16戦15勝(13KO)1敗
身長:170センチ
右ボクサーパンチャー

◎クルス(23歳)/前日計量:134.6ポンド
戦績:32戦22勝(9KO)9敗1NC
身長:173センチ,リーチ:178センチ
右ボクサーファイター


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<5>フェザー級6回戦
ハビエル・マルティネス(米) VS ダニー・フローレス(メキシコ)



フランシスコ・ハビエル・マルティネスは、テキサス州ダラス出身。WSB(World Series Boxing)でも活躍したトップ・アマで、デラ・ホーヤが直々に出馬して獲得した。活動拠点をカリフォルニアに移し、昨年2月「L.A. Fight Club」の興行でプロ・デビュー。

ローカルランカー・クラスの実力を有しており、キレのある動きとパンチのみならず、リング内外での立ち居振る舞いには、相応のスター性も感じさせてくれる。

タフな打ち合いを挑むメキシカンとのデビュー戦では、前がかりになり過ぎてダウンを奪われ、デラ・ホーヤとロベルト・ディアス(マッチメイクを取り仕切る大番頭)に冷や汗をかかせたが、しっかり挽回して逆転KO勝ち。デビュー戦にはいささか難儀な相手だったが、ジャブに合わせた右クロスを効かせ、ワンツーからの左フックでロープに追い詰めストップを呼び込む。

その後は順当に白星を重ねているが、まだまだ筋力に頼った打ち方が目立つ。溢れる自信は過信と紙一重。慎重なマッチメイクをお家芸にするGBPが、マルティネスに関しては結構キツ目のメキシカンを引っ張ってくる。力尽くのパワーファイトで正面突破を繰り返す間に、思わぬカウンターを食らって倒されるパターンが怖い。

今回はS・フライ級から上げてきた中堅どころで、負けは込んでいるが油断は大敵。いい意味で肩の力が抜けてくれば、持ち前の機動力をもっと活かせる筈。


◎マルティネス(21歳)/前日計量:126ポンド
戦績:4戦全勝(3KO)
アマ戦績:不明
身長:170センチ

◎フローレス(27歳)/前日計量:125.2ポンド
戦績:27戦15勝(8KO)11敗1分け
身体データ:不明


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<6>S・ウェルター級6回戦
フェルディナンド・ケロビヤン(アルメニア) VS ルシウス・ジョンソン(米)



アルメニア移民のケロビヤンは、「FloCombat」なるMMAのイベントに出場していた総合からの転身組み。きれいなフットワークを操り、相手を引き込んでカウンターを取るのが上手い。母国ではおそらく、アマチュアの選手だったのではないか。

ロープやコーナーに追い詰めた後、上体を振らずに直進。昨今のアマ出身者に顕著な悪癖が、ケロビアンにも散見される。パンチが無いということではないが、カウンターでグラつかせ、コンビネーションからの連打でストップに持ち込むのが本来のスタイル。

1997年生まれ(首都エレバン出身)となっているが、本当だろうか?。


◎ケロビアン(20歳)/前日計量:153.2ポンド
戦績:7戦全勝(4KO)
身長:173センチ
右ボクサーファイター

◎ジョンソン(25歳)/前日計量:154ポンド
戦績:戦4勝(3KO)1敗1分け
身体データ:不明
右ボクサーファイター