■12月30日/横浜文化体育館/WBO世界J・バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 井上尚弥(大橋) VS WBO6位 ヨアン・ボワイヨ(仏)

在位3年で7度の防衛。全世界に衝撃が走ったナルバエス戦で、故障を繰り返していた右拳が悲鳴を上げ、初防衛戦まで丸々1年休んだことを考えれば、選ばれた挑戦者たちの質はともかく、年間3度の防衛を2年続けたのは立派の一言。
傷みの激しい右拳を庇いつつ、減量苦による腰痛まで抱え込み、満足なコンディションに仕上げることができないまま、本番当日を迎えた時もあった。そして対戦を熱望していたP4Pキング、ロマ・ゴンの予期せぬ脱落。さらにロマ・ゴンに次ぐ選択肢として追っていた、IBF王者ジェルウィン・アンカハスとの統一戦交渉も頓挫。
「無理な減量をこれ以上強いて、115ポンドに止まる理由が無くなった。」
2月24日にイングルウッド・フォーラム(米/カリフォルニア州)で開催が決まった「Super Fly II」へのオファーも受けたが、アンカハスとともに応じない意向を示し、118ポンドへの本格参戦へと舵を切る。
”最後の挑戦者”に抜擢されたヨアン・ボワイヨは、プロキャリア8年の中堅クラスで、フランス出身の好戦的な右ボクサーファイター。プロ2年目でフランスの国内王座を獲得するも、初防衛に失敗。王座復帰を目指したカリム・グェルフィとのタイトルマッチ(2013年1月)で、まさかのドーピング違反発覚。ボワイヨは当然のように潔白を主張したが、聞き入れられる訳もなく、ブランクを回避する為アルゼンチンに拠点を移す。ブエノスアイレスを中心にした活動は、2015年の夏まで続いた。
2015年の暮れに、ようやく母国で本格復帰。ナショナル王座を失った2012年1月の防衛戦以降は、ノーコンテスト(上述したドーピング違反)を1つ挟んで負け知らずの31連勝(24KO)。対戦相手に国際的な認知を受ける大物はおらず、6~8回戦のチューンナップも少なくない。
外見は痩躯のボクサータイプだが、実際は打撃戦を好む。比嘉大吾に敗れたトマ・マッソン同様、一旦打ち出すとなかなか退かない。気性の荒さ故にバッティングも厭わず、長身なのに突っ込む時は頭から。井上は右拳を傷めないよう、正面からの強打は控えるべき。ガードもコンパクトで、簡単にこじ開けようとしない方が賢明。
前後左右に良く動きながら、タイミングに注力したショートアッパーでボワイヨの体を起こし、左ボディで態勢を崩しつつ、丁寧に圧力をかけていきたい。倒し急いでもいい事はないし、崩しにくい相手に時間をかける戦い方も、更なる階級アップに挑む今後は重要なテーマの1つになる。
「バンタム級に上がれば、170センチクラスの長身は珍しくない。今回は格好のテストケースになると思う。」
大橋会長と井上本人が語る通り、ボワイエが選ばれた最大の理由は恵まれたタッパだが、打ち合いを嫌がらない好戦性も込みだろう。
アントニオ・ニエヴェスのように肝っ玉を縮み上がらせ、デイフェンス一辺倒に陥る可能性は低いけれど、右の強打で頭を叩くのがとにかく怖い。バッティングとローブローにも、王者のコーナーは監視の目を光らせるべし。負ける確率は万に1つも無いが、余計な怪我だけはしないように・・・。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□前日計量と予備検診
<1>王者 井上(歳)/前日計量:115ポンド(52.1キロ)
戦績:戦勝(KO)敗分けNC
WBO J・バンタム級(V5),元WBC L・フライ級(V1)王者
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
戦績:13戦全勝(11KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.7センチ
リーチ:169センチ
首周:35センチ
胸囲:88センチ
視力:左0.9/右0.6
血圧:127/87(計量時)
脈拍:73/分(計量時)
体温:36.7度(計量時)
万能型右ボクサーファイター(パンチャー)
<2>挑戦者 ボワイヨ(29歳)/前日計量:113ポンド1/2(51.5キロ)
戦績:46戦41勝(26KO)4敗1NC
アマ通算:50戦超
身長:170.7センチ
リーチ:176センチ
首周:34.8センチ
胸囲:92センチ
胸厚:5センチ
視力:左0.4/右0.2
血圧:114/72(計量時)
脈拍:73/分(計量時)
体温:36.8度(計量時)
右ボクサーファイター
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□リング・オフィシャル
主審:ラウル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)
副審:
アデレイド・バード(米/ネバダ州)
ルイス・ルイス(プエルトリコ)
エルナンド・ステイデル(プエルトリコ)
立会人(スーパーバイザー):エドガルド・ロペス(プエルトリコ/WBOランキング委員長)
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■ダブル・メイン及び主なアンダーカード
<1>WBC世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 拳四朗(BMB) VS WBC11位 ヒルベルト・ペドロサ(パナマ)

「拳四朗恐るるに足らず。眼中に無し。」
来日以来事あるごとに王者を挑発し、自信満々のコメントを繰り返すチャレンジャー。コロンビアとの国境付近にある密林地帯に住む先住民族の出身で、ニックネーム(カシーケ/El Cacique)の由来でもあるそうだが、独自の言語と文化を有するらしく、チームをまとめるチーフ,フリオ・C・アルチボルトトレーナーがスペイン語の通訳を行い、それをまた日本語に訳したらしい。
かなり危険な地域らしく、「ボクシングをやっていなかったら、どうなっていたことか・・・」と語る。2016年は一度もリングに上がっておらず、今年2月に実戦復帰してから、矢継ぎ早に5連戦。ブランクの理由を問われると、「怪我などではなく、あくまで精神的なもの。休みが欲しかった。」と答えるに止めた。
パナマのボクサーと聞くと、オールド・ファンの多くは、即座に「狡猾なテクニシャン・タイプ」を思い浮かべると思う。しかし今回の挑戦者は、どんどん前に出てくる好戦的なスタイルが持ち味。パンチもフック系が主体で、想像以上に荒っぽい。
最後の敗戦は3年前で、田口良一に完敗したロベルト・バレラに5回TKO負け。気の強さが裏目に出たのか、雑に打ち合って自滅したとの印象が強く、難敵ペドロ・ゲバラを体力で押し切った拳四朗なら、インファイトでも十二分に対応できるのではないか。
「拳四朗に勝った後は、108ポンドのNo.1である田口と戦いたい。」
その言葉通り、首尾よく載冠といきますやら・・・。順当なら、拳四朗が中差以上の3-0判定勝ち。ペドロサの出来次第では、中盤~終盤にかけてのストップもあり。注意すべきは、荒れた展開に真っ正直に付き合い過ぎて、カットや腫れで止められるパターンのみか。
□前日計量と予備検診
<1>王者 拳四朗(25歳):前日計量107ポンド1/4(48.6キロ)
戦績:11戦全勝(5KO)
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.3センチ
リーチ:163.5センチ
首周:34センチ
胸囲:84.5センチ
視力:右1.0/左0.8
血圧:127/82(計量時)
脈拍:66/分(計量時)
体温:36.5度(計量時)
右ボクサーファイター
<2>挑戦者 ペドロサ(25歳):前日計量107ポンド1/2(48.8キロ)
戦績:23戦18勝(8KO)3敗2分け
身長:157.1センチ
リーチ:159センチ
首周:35センチ
胸囲:85センチ
視力:左右とも1.5
血圧:120/68(計量時)
脈拍:43/分(計量時)
体温:36.6度(計量時)
右ボクサーファイター
□リング・オフィシャル
主審:ローレンス・コール(米/テキサス州)
副審:
ヒューバート・ミン(米/ハワイ州)
ティム・チーザム(米/ネバダ州)
エド・ピアソン(カナダ)
立会人(スーパーバイザー):メジャー・リー(韓国/OPBF常任理事)
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<2>OPBFフェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 清水聡(大橋) VS OPBF14位 エデュアルド・マンシト(比)

10月4日にOPBF王座を獲得したばかりの清水が、早くも初防衛戦のリングに上がる。挑戦者はランク14位のフィリピン人で、現在2連敗中(2015年以降3勝3KO6敗)。5連続KO勝利は決まったも同然の空気が充満・・・。
プロ転向後の清水は、180センチ近い長身を活かしたアウトボクサーというより、右のカウンターで倒すボクサーパンチャータイプへと変貌しつつある。棒のように突っ立った上半身は相変わらずで、反則と表しても間違いではない、セレスティーノ・カバジェロ級のタッパに頼った横着なディフェンスにも、現時点で目立った修正は無し。
負けが込むアンダードッグとは言え、マンシトは攻防の基本ができた正統派のボクサーファイター。勇敢に踏み込みながら放つ右ストレートと左ボディは、戦績以上の威力を秘める。独特の後傾バランスにスウェイをまぶしたステップバックで、これまでの相手は何とかなってきたが、10月のノ・サミュング戦のように粗いフックを振り回すと、右ストレートを浴びて思わぬ苦境に立たされる恐れが無きにしも非ず?。
◎清水(31歳):前日計量125ポンド3/4
戦績:4戦全勝(4KO)
アマ通算:120戦96勝(27KO・RSC)14敗
私立関西高校(岡山市)→駒澤大→自衛隊体育学校→ミキハウス
2012年ロンドン五輪バンタム級銅メダル
2008年北京五輪フェザー級代表(緒戦=R16敗退)
世界選手権4大会連続出場
※2005年綿陽(中国),2007年シカゴ,2009年ミラノ:初戦(R32)敗退
※2011年バクー:2回戦(R16)敗退
2012年(アスタナ:バンタム級),2009年(珠海/中国:フェザー級)アジア選手権銅メダル
2009年(第79回),2007年(第77回)全日本選手権優勝(フェザー級)
2007年(第62回),2004年(第59回)国体優勝(フェザー級)
身長:179センチ
左ボクサーパンチャー
◎マンシト(25歳):前日計量125ポンド3/4
戦績:25戦15勝(9KO)7敗3分け
身長:168センチ
右ボクサーファイター
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<3>54キロ契約10回戦
WBCバンタム級9位 井上拓真(大橋) VS WBOバンタム級9位 益田健太郎(新日本木村)
昨年11月、右拳の故障を理由に世界初挑戦をキャンセル。”モンスター”の異名を取る実兄尚弥も、世界中の関係者とファンを驚愕させたオマール・ナルバエス戦(2014年12月)で右拳を決定的に壊してしまい、丸々1年のブランクを作っている。高校卒業を待って、兄の後を追うようにプロ入りした拓真だが、なにも拳の怪我まで後追いしなくても・・・と、”リアル兄弟世界王者誕生”に期待をかけるファンを大いに慌てさせる。
長期休養を余儀なくされた拓真は、8月30日のホール興行で復帰。大ベテランの域に達した久高寛之(”ひさたか”改め”くだか”・ひろゆき)を3-0の判定に下し、無事リスタートに成功した。
「もっと簡単に行くと思ったんですが・・・流石ベテランの久高さん。いい経験を有難うございました!」
勝利者インタビューで開口一番、拓真は自らの見通しの甘さを率直に認め、一筋縄ではいかない筋金入りのプロの技と駆け引き、カットによる流血をものともせず、勝利を目指して1歩も退かない久高の勇気、不退転の決意を素直に讃える。
力と熱のこもった、ランカー対決に相応しい好勝負。アンダードッグとして大阪から呼ばれた久高の、想像を超える踏ん張りに負うところが大きいのは事実なれど、最大の持ち味(課題)だった安全策をかなぐり捨てて、真っ向勝負の決着を要求する久高の心意気に応える格好で、泥臭くもあるプロのインファイトに打って出た拓真の気概も、ファンを大いに喜ばせた。
そしてあれから4ヶ月。再起第2戦もまた、しぶとく食い下がるうるさ型のベテラン,益田をセット。2度目の載冠でV2(通算V4)に成功した日本タイトルを返上し、六島ジムと契約して大阪に拠点を移したマーク・ジョン・ヤップ(比)のOPBF王座に挑戦(7月30日住吉区民センター)。善戦適わず4回TKOに退いた益田は、敢然と引退を否定。
土佐のいごっそう、津軽のじょっぱり、熊本の肥後もっこす(日本3大意地っ張り=頑固者)に並び称される、鹿児島生まれの薩摩隼人らしく、今回のオファーにも二つ返事だったという。
心身ともにタフで、簡単に音を上げてくれないという点では、久高に引けを取らない益田。中学~高校にかけて極真空手(松井派)の道場に通い、全国大会で3位に入ったほどの腕前。長いキャリアで培った駆け引きと、細かいステップ&ボディワークから繰り出す左フックは要注意。ヤップに序盤で決められてしまったからと、KO狙いの即決勝負は余りにもリスキー。
兄尚弥が誇る”モンスター級の決定力”には恵まれなかったが、崩しの手間を惜しまず、精度の高いコンビネーションで手堅くポイントメイクする安定感こそ、兄のボクシングにはない拓真の真骨頂。無いものねだりはせず、自らのスタイルをまっとうして欲しい。
◎拓真(22歳)
元OPBF S・フライ級王者(V2)
戦績:9戦全勝(2KO)
アマ通算:57戦52勝(14RSC)5敗/綾瀬西高校
キッズボクシング(小学高学年~中学)戦績:15戦14勝1敗
2012年インターハイ準優勝(L・フライ級)
2011年ジュニア世界選手権ベスト16(L・フライ級/アスタナ,カザフスタン)
2011年高校選抜優勝(L・フライ級)/ジュニアオリンピックを兼ねる
2011年国体(山口県)準優勝(L・フライ級)
2011年インターハイ優勝(ピン級)
※中京高時代の田中恒成(現WBO J・フライ級王者/畑中)とは、5度対戦して2勝3敗。”スーパー高校生”として大きな注目を集めたライバル同士だった。
身長:160センチ
右ボクサーファイター
◎益田(34歳)
元日本バンタム級(V2),前日本同級(V2/返上)王者
戦績:35戦27勝(15KO)8敗
極真空手(松井派)の有段者(高校時代に全国3位)
身長:165センチ
右ボクサーファイター
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<4>S・ライト級8回戦
日本同級3位 井上浩樹(大橋) VS OPBF同級10位 キム・ドンヒ(韓)
尚弥&拓真の井上兄弟とは、従兄弟にあたる浩樹(こうき)。プロの水にも大分慣れて、アマチュアライクな生硬さもほぐれてきた。真吾トレーナーが開いたジムに小学生の頃から通い、尚弥&拓真とともにハードワークをこなす。兄弟同然と言っていい。
プロ転向と同時にS・ライト級を選択。当初はいかにも身体が重そうで、アマ時代のキレと冴えが感じられず、ライト級まで絞った方がいいのではないかと思いもしたが、ようやく頭とフィジカルが140ポンドに付いてきた。
OPBF10位のキムは、見るからに頑丈そうなフィジカルの持ち主で、サンデーパンチの右ストレートもろとも、積極的に踏み込んで来る。体力とパンチ力は侮れないが、一昔前の”荒ぶるコリアン・ファイター”を心配するほどではなく、戦い方は韓国人にしてはクリーン。サウスポーを前にしても、特別やりづらそうな気配は無し。
浩樹が万全なら、敗北を懸念しなければならないレベルにはないけれど、立ち上がりは慎重に距離の測定から入った方が無難か。意図的に頭突きを仕掛けたりはしないが、クリンチで揉み合う際は、やはり衝突に注意が必要。
往年の門田新一を彷彿とさせる(現時点では褒め過ぎ)、シャープな右ショート・フックのカウンターが炸裂すれば、早い時間帯の決着も有り得る。とは言え、判定前提の長丁場も想定はしておくべき。なにしろ、”右で倒すことのできるサウスポー”はそれほど多くはない。ましてや国内の層が薄いこのクラス。浩樹の存在は、貴重なタレントと位置づけられる。
◎浩樹(25歳)
戦績:9戦全勝(8KO)
アマ通算:130戦112勝(60KO・RSC)18敗
アマチュア6冠(国体,インターハイ,高校選抜等)
相模原星陵高→拓殖大(中退)
身長:177センチ
左ボクサーファイター
◎キム(生年月日不明)
戦績:11戦8勝(3KO)1敗2分け
身長:175センチ
右ボクサーファイター
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<5>バンタム級6回戦
中嶋一輝(大橋) VS 東 大河(ナカザト)
今年6月にプロデビューした中嶋一輝(なかじま・かずき)は、僅か創部3年目で関西大学リーグ1部昇格を果たすと同時に、初優勝の快挙まで成し遂げた芦屋大の主軸を担った有望株。いわゆる「ナオヤ世代」に数えられる、国内プロスペクトの1人。
相手の正面に正対し、前後に動きながらワンツー主体に突破を図るスタイルは、アマ時代から通してきた戦い方。挑発半ばに両腕をダラリと下げる癖があり、大橋会長も度々苦言を呈しているが、本人は見切りの勘とタイミングに自信があるのだろう。完全に止めるつもりはないらしい。
初陣からの2試合は、タイとインドネシアから招聘した白星献上役だったが、3戦目で初めて歯応えのある相手を迎える。沖縄のナカザトジムに所属する東大河(ひがし・たいが)は、丸2年に及ぶ長期ブランク明けの再起戦ながらも、もとはワタナベジムの所属でホープと目されていたバンタム級。
2~3年前にNHKの「ドキュメント72時間」でワタナベジムが取り上げられた時、世界タイトルを保持していた河野公平らとともに、東もしっかり紹介されていた。ジムが寄せる期待の高さが伺える。DANGANのC級トーナメントに参戦して、活きの良いファイトを見せてくれたのも束の間、気が付くと試合から遠ざかり音沙汰がなくなっていた。
どういう経緯かは不明ながら、S・バンタム級で一時代を築き、世界に肉薄した仲里繁(元OPBF王者)が郷里の宜野湾に開設した「ボクシングクラブ・ナカザト」に移籍。熊本の出身ということも、無関係ではないのだろうが。
東のブランクによる心身の錆付きを、「気にするな。問題ない。」と言い切る訳にはいかないが、中嶋は舐めてかかると危険。上体を突っ立ち気味のまま出はいりする際のノーガードを、右(ストレート or オーバーハンド)で狙われるのが怖い。大橋会長のアドバイスに従う素直さも、時と場合によっては重要なキーとなることも。苦言を金言に変え得るかどうかは、すべて中嶋次第。
◎中嶋(25歳)
戦績:2戦2勝(2KO)
アマ通算:87戦72勝(30KO・RSC)15敗
奈良朱雀高→芦屋大
2016年関西大学リーグ優勝(MVP)
2015年国体優勝
左ボクサーファイター
◎東(21歳)
戦績:5戦4勝(1KO)1敗
右ボクサーファイター
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<6>S・ライト級6回戦
保田克也(大橋) VS イ・ギス(韓)
中大3年時に国体で優勝した経験を持つ保田克也(やすだ・かつや)は、大学卒業前に競技生活から身を引き、就職して会社勤めをしていたが、公務員への転身を目指して退職。その際ボクシングへの情熱が蘇り、正式に大橋ジム入り。8月30日のプロデビュー戦(後楽園ホール/6回戦)は、インドネシアから呼ばれた無名選手を初回KOで一蹴。
少年時代から空手やキックボクシングを習っていたそうだが、中学3年の時、元日本王者中島俊一が水戸市内に開いたジム(Boy's水戸ボクシングジム)に入門。高校から本格的なアマキャリアをスタートした。アマ経験者らしい本正攻法のボクサーファイターで、サウスポースタイルから放つキレのいいワンツーを主武器にする。
井上浩樹とはアマ時代に2度対戦経験があり、いずれも敗れているとのことだが、上体と下肢のバランスが良く、この階級の日本人ボクサーとしては、比較的柔らかい身のこなしを操り、個人的には浩樹よりも好印象。
プロ2戦目は、戦績のはっきりしない韓国人アンダードッグ。豊富なアマキャリアが仇となり、新人王戦へのエントリーができない。日本国内ではただでさえ選手層の薄い中量級とあって、マッチメイクの難しさは理解するが、140ポンドならそれなりの相手は調達可能なだけに、4~5戦目以降の相手選びに期待したい。
◎保田(25歳)
戦績:1戦1勝(1KO)
アマ通算:76戦64勝(30KO・RSC)12敗
茨城県小美玉市出身/水戸短大付属高→中央大
2013年国体優勝(L・ウェルター級)
身長:174センチ
左ボクサーファイター
王者 井上尚弥(大橋) VS WBO6位 ヨアン・ボワイヨ(仏)

在位3年で7度の防衛。全世界に衝撃が走ったナルバエス戦で、故障を繰り返していた右拳が悲鳴を上げ、初防衛戦まで丸々1年休んだことを考えれば、選ばれた挑戦者たちの質はともかく、年間3度の防衛を2年続けたのは立派の一言。
傷みの激しい右拳を庇いつつ、減量苦による腰痛まで抱え込み、満足なコンディションに仕上げることができないまま、本番当日を迎えた時もあった。そして対戦を熱望していたP4Pキング、ロマ・ゴンの予期せぬ脱落。さらにロマ・ゴンに次ぐ選択肢として追っていた、IBF王者ジェルウィン・アンカハスとの統一戦交渉も頓挫。
「無理な減量をこれ以上強いて、115ポンドに止まる理由が無くなった。」
2月24日にイングルウッド・フォーラム(米/カリフォルニア州)で開催が決まった「Super Fly II」へのオファーも受けたが、アンカハスとともに応じない意向を示し、118ポンドへの本格参戦へと舵を切る。
”最後の挑戦者”に抜擢されたヨアン・ボワイヨは、プロキャリア8年の中堅クラスで、フランス出身の好戦的な右ボクサーファイター。プロ2年目でフランスの国内王座を獲得するも、初防衛に失敗。王座復帰を目指したカリム・グェルフィとのタイトルマッチ(2013年1月)で、まさかのドーピング違反発覚。ボワイヨは当然のように潔白を主張したが、聞き入れられる訳もなく、ブランクを回避する為アルゼンチンに拠点を移す。ブエノスアイレスを中心にした活動は、2015年の夏まで続いた。
2015年の暮れに、ようやく母国で本格復帰。ナショナル王座を失った2012年1月の防衛戦以降は、ノーコンテスト(上述したドーピング違反)を1つ挟んで負け知らずの31連勝(24KO)。対戦相手に国際的な認知を受ける大物はおらず、6~8回戦のチューンナップも少なくない。
外見は痩躯のボクサータイプだが、実際は打撃戦を好む。比嘉大吾に敗れたトマ・マッソン同様、一旦打ち出すとなかなか退かない。気性の荒さ故にバッティングも厭わず、長身なのに突っ込む時は頭から。井上は右拳を傷めないよう、正面からの強打は控えるべき。ガードもコンパクトで、簡単にこじ開けようとしない方が賢明。
前後左右に良く動きながら、タイミングに注力したショートアッパーでボワイヨの体を起こし、左ボディで態勢を崩しつつ、丁寧に圧力をかけていきたい。倒し急いでもいい事はないし、崩しにくい相手に時間をかける戦い方も、更なる階級アップに挑む今後は重要なテーマの1つになる。
「バンタム級に上がれば、170センチクラスの長身は珍しくない。今回は格好のテストケースになると思う。」
大橋会長と井上本人が語る通り、ボワイエが選ばれた最大の理由は恵まれたタッパだが、打ち合いを嫌がらない好戦性も込みだろう。
アントニオ・ニエヴェスのように肝っ玉を縮み上がらせ、デイフェンス一辺倒に陥る可能性は低いけれど、右の強打で頭を叩くのがとにかく怖い。バッティングとローブローにも、王者のコーナーは監視の目を光らせるべし。負ける確率は万に1つも無いが、余計な怪我だけはしないように・・・。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□前日計量と予備検診
<1>王者 井上(歳)/前日計量:115ポンド(52.1キロ)
戦績:戦勝(KO)敗分けNC
WBO J・バンタム級(V5),元WBC L・フライ級(V1)王者
元OPBF(V0),元日本L・フライ級(V0)王者
戦績:13戦全勝(11KO)
アマ通算:81戦75勝(48KO・RSC) 6敗
2012年アジア選手権(アスタナ/ロンドン五輪予選)銀メダル
2011年全日本選手権優勝
2011年世界選手権(バクー)3回戦敗退
2011年インドネシア大統領杯金メダル
2010年全日本選手権準優勝
2010年世界ユース選手権(バクー)ベスト16
2010年アジアユース選手権(テヘラン)銅メダル
身長:164.7センチ
リーチ:169センチ
首周:35センチ
胸囲:88センチ
視力:左0.9/右0.6
血圧:127/87(計量時)
脈拍:73/分(計量時)
体温:36.7度(計量時)
万能型右ボクサーファイター(パンチャー)
<2>挑戦者 ボワイヨ(29歳)/前日計量:113ポンド1/2(51.5キロ)
戦績:46戦41勝(26KO)4敗1NC
アマ通算:50戦超
身長:170.7センチ
リーチ:176センチ
首周:34.8センチ
胸囲:92センチ
胸厚:5センチ
視力:左0.4/右0.2
血圧:114/72(計量時)
脈拍:73/分(計量時)
体温:36.8度(計量時)
右ボクサーファイター
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
□リング・オフィシャル
主審:ラウル・カイズ・Jr.(米/カリフォルニア州)
副審:
アデレイド・バード(米/ネバダ州)
ルイス・ルイス(プエルトリコ)
エルナンド・ステイデル(プエルトリコ)
立会人(スーパーバイザー):エドガルド・ロペス(プエルトリコ/WBOランキング委員長)
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
■ダブル・メイン及び主なアンダーカード
<1>WBC世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
王者 拳四朗(BMB) VS WBC11位 ヒルベルト・ペドロサ(パナマ)

「拳四朗恐るるに足らず。眼中に無し。」
来日以来事あるごとに王者を挑発し、自信満々のコメントを繰り返すチャレンジャー。コロンビアとの国境付近にある密林地帯に住む先住民族の出身で、ニックネーム(カシーケ/El Cacique)の由来でもあるそうだが、独自の言語と文化を有するらしく、チームをまとめるチーフ,フリオ・C・アルチボルトトレーナーがスペイン語の通訳を行い、それをまた日本語に訳したらしい。
かなり危険な地域らしく、「ボクシングをやっていなかったら、どうなっていたことか・・・」と語る。2016年は一度もリングに上がっておらず、今年2月に実戦復帰してから、矢継ぎ早に5連戦。ブランクの理由を問われると、「怪我などではなく、あくまで精神的なもの。休みが欲しかった。」と答えるに止めた。
パナマのボクサーと聞くと、オールド・ファンの多くは、即座に「狡猾なテクニシャン・タイプ」を思い浮かべると思う。しかし今回の挑戦者は、どんどん前に出てくる好戦的なスタイルが持ち味。パンチもフック系が主体で、想像以上に荒っぽい。
最後の敗戦は3年前で、田口良一に完敗したロベルト・バレラに5回TKO負け。気の強さが裏目に出たのか、雑に打ち合って自滅したとの印象が強く、難敵ペドロ・ゲバラを体力で押し切った拳四朗なら、インファイトでも十二分に対応できるのではないか。
「拳四朗に勝った後は、108ポンドのNo.1である田口と戦いたい。」
その言葉通り、首尾よく載冠といきますやら・・・。順当なら、拳四朗が中差以上の3-0判定勝ち。ペドロサの出来次第では、中盤~終盤にかけてのストップもあり。注意すべきは、荒れた展開に真っ正直に付き合い過ぎて、カットや腫れで止められるパターンのみか。
□前日計量と予備検診
<1>王者 拳四朗(25歳):前日計量107ポンド1/4(48.6キロ)
戦績:11戦全勝(5KO)
アマ通算:74戦58勝(20KO)16敗
2013年東京国体L・フライ級優勝
2013年全日本選手権L・フライ級準優勝
奈良朱雀高→関西大学
身長:164.3センチ
リーチ:163.5センチ
首周:34センチ
胸囲:84.5センチ
視力:右1.0/左0.8
血圧:127/82(計量時)
脈拍:66/分(計量時)
体温:36.5度(計量時)
右ボクサーファイター
<2>挑戦者 ペドロサ(25歳):前日計量107ポンド1/2(48.8キロ)
戦績:23戦18勝(8KO)3敗2分け
身長:157.1センチ
リーチ:159センチ
首周:35センチ
胸囲:85センチ
視力:左右とも1.5
血圧:120/68(計量時)
脈拍:43/分(計量時)
体温:36.6度(計量時)
右ボクサーファイター
□リング・オフィシャル
主審:ローレンス・コール(米/テキサス州)
副審:
ヒューバート・ミン(米/ハワイ州)
ティム・チーザム(米/ネバダ州)
エド・ピアソン(カナダ)
立会人(スーパーバイザー):メジャー・リー(韓国/OPBF常任理事)
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
<2>OPBFフェザー級タイトルマッチ12回戦
王者 清水聡(大橋) VS OPBF14位 エデュアルド・マンシト(比)

10月4日にOPBF王座を獲得したばかりの清水が、早くも初防衛戦のリングに上がる。挑戦者はランク14位のフィリピン人で、現在2連敗中(2015年以降3勝3KO6敗)。5連続KO勝利は決まったも同然の空気が充満・・・。
プロ転向後の清水は、180センチ近い長身を活かしたアウトボクサーというより、右のカウンターで倒すボクサーパンチャータイプへと変貌しつつある。棒のように突っ立った上半身は相変わらずで、反則と表しても間違いではない、セレスティーノ・カバジェロ級のタッパに頼った横着なディフェンスにも、現時点で目立った修正は無し。
負けが込むアンダードッグとは言え、マンシトは攻防の基本ができた正統派のボクサーファイター。勇敢に踏み込みながら放つ右ストレートと左ボディは、戦績以上の威力を秘める。独特の後傾バランスにスウェイをまぶしたステップバックで、これまでの相手は何とかなってきたが、10月のノ・サミュング戦のように粗いフックを振り回すと、右ストレートを浴びて思わぬ苦境に立たされる恐れが無きにしも非ず?。
◎清水(31歳):前日計量125ポンド3/4
戦績:4戦全勝(4KO)
アマ通算:120戦96勝(27KO・RSC)14敗
私立関西高校(岡山市)→駒澤大→自衛隊体育学校→ミキハウス
2012年ロンドン五輪バンタム級銅メダル
2008年北京五輪フェザー級代表(緒戦=R16敗退)
世界選手権4大会連続出場
※2005年綿陽(中国),2007年シカゴ,2009年ミラノ:初戦(R32)敗退
※2011年バクー:2回戦(R16)敗退
2012年(アスタナ:バンタム級),2009年(珠海/中国:フェザー級)アジア選手権銅メダル
2009年(第79回),2007年(第77回)全日本選手権優勝(フェザー級)
2007年(第62回),2004年(第59回)国体優勝(フェザー級)
身長:179センチ
左ボクサーパンチャー
◎マンシト(25歳):前日計量125ポンド3/4
戦績:25戦15勝(9KO)7敗3分け
身長:168センチ
右ボクサーファイター
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<3>54キロ契約10回戦
WBCバンタム級9位 井上拓真(大橋) VS WBOバンタム級9位 益田健太郎(新日本木村)
昨年11月、右拳の故障を理由に世界初挑戦をキャンセル。”モンスター”の異名を取る実兄尚弥も、世界中の関係者とファンを驚愕させたオマール・ナルバエス戦(2014年12月)で右拳を決定的に壊してしまい、丸々1年のブランクを作っている。高校卒業を待って、兄の後を追うようにプロ入りした拓真だが、なにも拳の怪我まで後追いしなくても・・・と、”リアル兄弟世界王者誕生”に期待をかけるファンを大いに慌てさせる。
長期休養を余儀なくされた拓真は、8月30日のホール興行で復帰。大ベテランの域に達した久高寛之(”ひさたか”改め”くだか”・ひろゆき)を3-0の判定に下し、無事リスタートに成功した。
「もっと簡単に行くと思ったんですが・・・流石ベテランの久高さん。いい経験を有難うございました!」
勝利者インタビューで開口一番、拓真は自らの見通しの甘さを率直に認め、一筋縄ではいかない筋金入りのプロの技と駆け引き、カットによる流血をものともせず、勝利を目指して1歩も退かない久高の勇気、不退転の決意を素直に讃える。
力と熱のこもった、ランカー対決に相応しい好勝負。アンダードッグとして大阪から呼ばれた久高の、想像を超える踏ん張りに負うところが大きいのは事実なれど、最大の持ち味(課題)だった安全策をかなぐり捨てて、真っ向勝負の決着を要求する久高の心意気に応える格好で、泥臭くもあるプロのインファイトに打って出た拓真の気概も、ファンを大いに喜ばせた。
そしてあれから4ヶ月。再起第2戦もまた、しぶとく食い下がるうるさ型のベテラン,益田をセット。2度目の載冠でV2(通算V4)に成功した日本タイトルを返上し、六島ジムと契約して大阪に拠点を移したマーク・ジョン・ヤップ(比)のOPBF王座に挑戦(7月30日住吉区民センター)。善戦適わず4回TKOに退いた益田は、敢然と引退を否定。
土佐のいごっそう、津軽のじょっぱり、熊本の肥後もっこす(日本3大意地っ張り=頑固者)に並び称される、鹿児島生まれの薩摩隼人らしく、今回のオファーにも二つ返事だったという。
心身ともにタフで、簡単に音を上げてくれないという点では、久高に引けを取らない益田。中学~高校にかけて極真空手(松井派)の道場に通い、全国大会で3位に入ったほどの腕前。長いキャリアで培った駆け引きと、細かいステップ&ボディワークから繰り出す左フックは要注意。ヤップに序盤で決められてしまったからと、KO狙いの即決勝負は余りにもリスキー。
兄尚弥が誇る”モンスター級の決定力”には恵まれなかったが、崩しの手間を惜しまず、精度の高いコンビネーションで手堅くポイントメイクする安定感こそ、兄のボクシングにはない拓真の真骨頂。無いものねだりはせず、自らのスタイルをまっとうして欲しい。
◎拓真(22歳)
元OPBF S・フライ級王者(V2)
戦績:9戦全勝(2KO)
アマ通算:57戦52勝(14RSC)5敗/綾瀬西高校
キッズボクシング(小学高学年~中学)戦績:15戦14勝1敗
2012年インターハイ準優勝(L・フライ級)
2011年ジュニア世界選手権ベスト16(L・フライ級/アスタナ,カザフスタン)
2011年高校選抜優勝(L・フライ級)/ジュニアオリンピックを兼ねる
2011年国体(山口県)準優勝(L・フライ級)
2011年インターハイ優勝(ピン級)
※中京高時代の田中恒成(現WBO J・フライ級王者/畑中)とは、5度対戦して2勝3敗。”スーパー高校生”として大きな注目を集めたライバル同士だった。
身長:160センチ
右ボクサーファイター
◎益田(34歳)
元日本バンタム級(V2),前日本同級(V2/返上)王者
戦績:35戦27勝(15KO)8敗
極真空手(松井派)の有段者(高校時代に全国3位)
身長:165センチ
右ボクサーファイター
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<4>S・ライト級8回戦
日本同級3位 井上浩樹(大橋) VS OPBF同級10位 キム・ドンヒ(韓)
尚弥&拓真の井上兄弟とは、従兄弟にあたる浩樹(こうき)。プロの水にも大分慣れて、アマチュアライクな生硬さもほぐれてきた。真吾トレーナーが開いたジムに小学生の頃から通い、尚弥&拓真とともにハードワークをこなす。兄弟同然と言っていい。
プロ転向と同時にS・ライト級を選択。当初はいかにも身体が重そうで、アマ時代のキレと冴えが感じられず、ライト級まで絞った方がいいのではないかと思いもしたが、ようやく頭とフィジカルが140ポンドに付いてきた。
OPBF10位のキムは、見るからに頑丈そうなフィジカルの持ち主で、サンデーパンチの右ストレートもろとも、積極的に踏み込んで来る。体力とパンチ力は侮れないが、一昔前の”荒ぶるコリアン・ファイター”を心配するほどではなく、戦い方は韓国人にしてはクリーン。サウスポーを前にしても、特別やりづらそうな気配は無し。
浩樹が万全なら、敗北を懸念しなければならないレベルにはないけれど、立ち上がりは慎重に距離の測定から入った方が無難か。意図的に頭突きを仕掛けたりはしないが、クリンチで揉み合う際は、やはり衝突に注意が必要。
往年の門田新一を彷彿とさせる(現時点では褒め過ぎ)、シャープな右ショート・フックのカウンターが炸裂すれば、早い時間帯の決着も有り得る。とは言え、判定前提の長丁場も想定はしておくべき。なにしろ、”右で倒すことのできるサウスポー”はそれほど多くはない。ましてや国内の層が薄いこのクラス。浩樹の存在は、貴重なタレントと位置づけられる。
◎浩樹(25歳)
戦績:9戦全勝(8KO)
アマ通算:130戦112勝(60KO・RSC)18敗
アマチュア6冠(国体,インターハイ,高校選抜等)
相模原星陵高→拓殖大(中退)
身長:177センチ
左ボクサーファイター
◎キム(生年月日不明)
戦績:11戦8勝(3KO)1敗2分け
身長:175センチ
右ボクサーファイター
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<5>バンタム級6回戦
中嶋一輝(大橋) VS 東 大河(ナカザト)
今年6月にプロデビューした中嶋一輝(なかじま・かずき)は、僅か創部3年目で関西大学リーグ1部昇格を果たすと同時に、初優勝の快挙まで成し遂げた芦屋大の主軸を担った有望株。いわゆる「ナオヤ世代」に数えられる、国内プロスペクトの1人。
相手の正面に正対し、前後に動きながらワンツー主体に突破を図るスタイルは、アマ時代から通してきた戦い方。挑発半ばに両腕をダラリと下げる癖があり、大橋会長も度々苦言を呈しているが、本人は見切りの勘とタイミングに自信があるのだろう。完全に止めるつもりはないらしい。
初陣からの2試合は、タイとインドネシアから招聘した白星献上役だったが、3戦目で初めて歯応えのある相手を迎える。沖縄のナカザトジムに所属する東大河(ひがし・たいが)は、丸2年に及ぶ長期ブランク明けの再起戦ながらも、もとはワタナベジムの所属でホープと目されていたバンタム級。
2~3年前にNHKの「ドキュメント72時間」でワタナベジムが取り上げられた時、世界タイトルを保持していた河野公平らとともに、東もしっかり紹介されていた。ジムが寄せる期待の高さが伺える。DANGANのC級トーナメントに参戦して、活きの良いファイトを見せてくれたのも束の間、気が付くと試合から遠ざかり音沙汰がなくなっていた。
どういう経緯かは不明ながら、S・バンタム級で一時代を築き、世界に肉薄した仲里繁(元OPBF王者)が郷里の宜野湾に開設した「ボクシングクラブ・ナカザト」に移籍。熊本の出身ということも、無関係ではないのだろうが。
東のブランクによる心身の錆付きを、「気にするな。問題ない。」と言い切る訳にはいかないが、中嶋は舐めてかかると危険。上体を突っ立ち気味のまま出はいりする際のノーガードを、右(ストレート or オーバーハンド)で狙われるのが怖い。大橋会長のアドバイスに従う素直さも、時と場合によっては重要なキーとなることも。苦言を金言に変え得るかどうかは、すべて中嶋次第。
◎中嶋(25歳)
戦績:2戦2勝(2KO)
アマ通算:87戦72勝(30KO・RSC)15敗
奈良朱雀高→芦屋大
2016年関西大学リーグ優勝(MVP)
2015年国体優勝
左ボクサーファイター
◎東(21歳)
戦績:5戦4勝(1KO)1敗
右ボクサーファイター
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<6>S・ライト級6回戦
保田克也(大橋) VS イ・ギス(韓)
中大3年時に国体で優勝した経験を持つ保田克也(やすだ・かつや)は、大学卒業前に競技生活から身を引き、就職して会社勤めをしていたが、公務員への転身を目指して退職。その際ボクシングへの情熱が蘇り、正式に大橋ジム入り。8月30日のプロデビュー戦(後楽園ホール/6回戦)は、インドネシアから呼ばれた無名選手を初回KOで一蹴。
少年時代から空手やキックボクシングを習っていたそうだが、中学3年の時、元日本王者中島俊一が水戸市内に開いたジム(Boy's水戸ボクシングジム)に入門。高校から本格的なアマキャリアをスタートした。アマ経験者らしい本正攻法のボクサーファイターで、サウスポースタイルから放つキレのいいワンツーを主武器にする。
井上浩樹とはアマ時代に2度対戦経験があり、いずれも敗れているとのことだが、上体と下肢のバランスが良く、この階級の日本人ボクサーとしては、比較的柔らかい身のこなしを操り、個人的には浩樹よりも好印象。
プロ2戦目は、戦績のはっきりしない韓国人アンダードッグ。豊富なアマキャリアが仇となり、新人王戦へのエントリーができない。日本国内ではただでさえ選手層の薄い中量級とあって、マッチメイクの難しさは理解するが、140ポンドならそれなりの相手は調達可能なだけに、4~5戦目以降の相手選びに期待したい。
◎保田(25歳)
戦績:1戦1勝(1KO)
アマ通算:76戦64勝(30KO・RSC)12敗
茨城県小美玉市出身/水戸短大付属高→中央大
2013年国体優勝(L・ウェルター級)
身長:174センチ
左ボクサーファイター