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「虫下し」特効薬となるか

2009年08月02日 10時46分19秒 | Weblog
「虫下し」特効薬となるか
 がん治療に新たな可能性
 慶大と国立がんセンター
 回虫とがん細胞 体内生存に共通戦略
 現代の日本人には縁遠くなった、回虫の「虫下し」のための薬が、がんの特効薬として復活するかもしれないー。そんな可能性を示す成果を、慶応大先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)や国立がんセンター東病院(千葉県柏市)の共同研究チームがまとめた。回虫もがん細胞も、酸素が少ない体内で生き延びるのに似た戦略を取っている可能性が高いからという。
 今回の発見を可能にしたのは、細胞内にごく微量存在する分子を、一気に数千種類も計測できる「メタボローム解析」という最先端の技術。曽我朋義慶応大教授は「この解析手法は医薬や食品、農業、環境まで、生物に関するすべての分野に応用が可能です」と話す。
 メタボロームとは、細胞内で物質やエネルギーを作りだす代謝反応でできる物質の総称で、アミノ酸や糖、脂質などの低分子が主なもの。細胞内に数千種類存在するとされ、これらを網羅的に調べれば、細胞がどんな状態にあって、内部でどんな反応が起きているかを知ることができる。
 「メタボロームは、遺伝子やタンパク質が働いた結果の最終産物。わたしたちの体に起きる現象がダイレクトに見える」(曽我教授)
 ◇◆◇
 曽我教授らは、長さ約1㍍、直径約50マイクロ㍍のガラス製の毛細管を使った解析装置を開発。管の片方の端に、細胞から抽出した液を入れ、両端に3万ボルトの高電圧をかける。すると、代謝物が電荷や大きさによって分離され、内部に散らばる。これを反対側から取り出しながら、接続した質量分析装置に次々と送り込み、物質の種別や濃度を一気に測る仕組みだ。
 「質量は同じで性質が異なる『異性体』も区別できる。毛細管から質量分析装置への橋渡しも工夫をこらした」と曽我教授。江角浩安国立がんセンター東病院長も「世界の常識を超える新技術だ」とたたえる。
 江角院長らは2004年、培養した膵臓(すいぞう)がんの細胞を虫下し薬にさらすと死滅することを発見。がん細胞と回虫の共通点を調べ始めた。
 回虫は、酸素が豊富な場所にいる際は、酸素呼吸するほかの生物と同様の代謝でエネルギーを生産する。しかし酸素の少ない小腸では、特殊な代謝を利用するよう代謝経路を切り替える。
 ◇◆◇
 研究チームは「がん細胞が酸素の乏しい環境下でも盛んに増殖できるのは、回虫と似た代謝をしているためでは」と推測。大腸がんと胃がんの患者から切除した組織で、がん細胞と正常な細胞の代謝物を比較した。
 その結果、がん細胞には、回虫と同様の特殊な代謝をした場合にたまる「コハク酸」が蓄積していた。胃がんに比べ、より酸素の少ない環境にできる大腸がんの方が、コハク酸が多いことも判明した。虫下し薬は、特殊な代謝をブロックすることで、がん細胞を殺すらしい。
 曽我教授は「コハク酸を代謝する酵素を阻害する薬剤は、正常細胞には作用しないため、副作用の少ない抗がん剤につながる可能性がある」と期待している。
(静新平成21年8月2日(日)「科学」)


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