ふと、寝そびれた夜更け。
大抵は私の不眠症に端を発し、寝室でも話がこぼれてとまらず、リビングに戻ってきてしまったある夜、「お茶、淹れるね」といって茶筒からふるくなった緑茶を出して小さなステンレスの柄つき容器にいれて、かるくあぶり始めた。
うちには、茶焙じなんてあるはずもない。
だけど、一般家庭ではまず見られないステンレスのプレート(そのまま肉をオーブンにぶち込んで焼く)とかレードルとか様々なバットや形容しがたい調理器具があるので、とりあえずそのひとつに、茶葉を移して、弱火にうすく煙がたつまでからからと揺さぶりながら焙じ茶をつくる。
これは、久しぶりに読んだ幸田 文著「台所の音」のパクリ。
小料理屋を営む病床の夫・佐吉が、急に改築やら将来のことを話し始めてとまらず、彼が末期にあるとひとり心得た妻・あきが、早く寝かさねばとの看病の心と夫婦語らいのその楽しさとに揺れた末に「お茶、熱くしましょうか」といって選みのきいた茶筒から戦後すでに特注の茶焙じに移し焙じたお茶を、「うまい。結局これが一番たくさん飲んだ茶だな」「お互い玉露の柄じゃないからな」と微笑みあう。
・・・・・・・・これ、やってみたかったんです。
家中にほうじ茶の香りが立ち、しゅぅっと音を立てて淹れたお茶は、どんな紅茶より心を寛がせてくれました。何がいいって、お茶を焙じた香りが、しばらく漂っていること。また、「今回は焙じが足りない」「でも焦げちゃダメでしょ」という和らいだ気分を醸してくれる、真夜中の一服。
あ、そうか・・・・
急にこのくそ寒い中、パティスリーのロールケーキを買ってきてくれといわれたのはこのほうじ茶タイムのためでしたか。てことは貴方も気に入ってくれたんですね。
こんど、茶焙じ探して買います。それに合ったお茶も。
涙も悩みも、貴方とほうじ茶を手に向かい合って、こもごも聞いていただけますか?明日も、明後日も、来年も。
でもロールケーキ一本食べたら
ン㎏増加は避けられまへんからな
それだけはちと注意が必要でっせダーリン。