ばあさんは、強くとても女らしくシャイなオンナだった。明治生まれと云うこともあったのかも知れないが、男女の関係には理解がある代わりに逆に厳しかった。野郎だけの下宿ゆえ、理解のあるばあさんだと調子に乗って馴染みの女性を下宿に連れ込んだりしたら大変だった。朝の早い働き者のばあさんは、玄関の掃除を欠かさない、深夜に脱ぎ捨てられたハイヒールはあからさまだから云うまでもないが、安物の強い香水の残り香も逃さない。ばあさんにすると、朝早く、こっそり帰るならまだしも、声を出したりしないなら、とか云う問題ではなかった。まわりは野郎ばかりだから、ひとりだけルールを破って、周りを考えず、いい思いをするのはよくない、そういう人は、決して下宿と云う場所に住むべきではないと語っていた。男女関係や男の生理は弁えているかわり,女を労れない男は勿論のこと,男女の破廉恥やルーズは許さない。当時下宿人は,6人くらいいたが,風紀上や素行上でばあさんから追放する下宿人の相談を何度か受けたことがある。殆どは,ばあさんの判断通り追放されてしまったが,一度だけこちらから慰留嘆願を申し出たことがあった。それは,この後登場してくる短大生「トカギ」だった。
(つづく)
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