366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

カブトエビ算

2012年03月20日 | 366日ショートショート

3月20日『電卓の日』のショートショート



仕事から帰ると、カズオが窓辺でじっとしていました。
「どうしたの、カズオちゃん。ランドセルをおっぽり出したまんまで」
カズオがふりむきます。プラスチックの水槽を覗いていたようです。
「あ、ママ、おかえりなさい。またカブトエビが減っちゃったんだ。どうして毎日数が減ってくの?」
ちゃんと教える時がきたようです。
ワタシはカズオに白い紙と鉛筆を渡しました。
「カズオちゃん、カブトエビ算を知るにはまず、ネズミ算よ。ネズミ算は知ってる?」
カズオが首をふります。小1ではまだ教えていないようです。
「いい?ネズミの夫婦がいたとしましょう。このネズミ夫婦に子どもが12匹生れたとします。ネズミは成長が早いから翌月には子どもは成人になります。そしてそれぞれがまた12匹の子どもを産みます。さあ、合計何匹かしら?」
「えっと最初の2匹と、その子どもが12匹、そのまた子どもが7組×12匹の84匹だから、合計で96匹だね」
「えっと・・・合ってるわ・・・じ、じゃあ半年後には何匹になっているかしら?さあ、シンキングタ~イム!」
カズオが一生懸命計算しようとしています。でも、鉛筆が止まってしまいました。
「ものすごい数になりそうだね。でもママ、ボク、計算できないよぉ」
オホホ、さすがに小1には無理なようね。
「だって、ネズミの寿命がわかんないんだもの。それに数が増えればネズミを食べる天敵も増えるだろうし。無理だよう」
なんて子でしょう。さすがワタシの子どもです。
「ママ、答えを教えて」
「カズオちゃんが正解!膨大な数になるけれど、別の要因も考慮しないとならない。それが答えよ」
カズオがうなずきます。フゥ、なんとか切り抜けました。
「さあ、そこで本題のカブトエビ算よ。カブトエビはね、狭い環境に閉じ込められると共食いするの。強い者が弱い者を食ってしまうわけ」
「弱肉強食だね」
「そう。仮に最初に64匹いたとして、一日に1匹食べたとしたら翌日は何匹に減ってしまうのかしら?」
「32匹だ」
「じゃあ、最後の1匹になるのは何日後?」
「6日後。そうか、そういうことだったのか」
そう呟くとカズオは黙り込んでしまいました。
そうよ、それが現実社会なのよ、カズオちゃん。ライバルを蹴落とし、生き残って勝者となるの。学校で教えるキレイゴトだけじゃ通用しないのよ。母ひとり子ひとり、甘やかしてばかりはいられません。それにしてもどうしたの?カズオちゃん。
「ママ・・・聞いてもいい?」
「いいわよ」
「まさか」
「まさか?」
「まさかママは、あちこちで女を食っちゃってたパパのことを」 



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