366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

七五三

2012年11月15日 | 366日ショートショート

11月15日『七五三』のショートショート

♪通~りゃんせ、通りゃんせ♪こ~こはど~この細道じゃ♪
おや?
歌声に誘われて玄関ドアを開くと、真っ赤な振袖姿の女の子が立っています。
♪天神さまの細道じゃ♪ちょ~っと通してくだしゃんせ♪
女の子はボクの腕をするりと抜けて家の中へ。
「この子、だれ?」
♪御用のない者、通しゃせぬ♪
妻が玄関をのぞきました。
「何言ってるの、美沙希じゃないの」
♪この子の七つのお祝いに♪御札を納めにまいります♪
え?言われてみればいたような、七つの娘。美沙希は、妻とリビングへ。
♪行きはよいよい、帰りはこわい♪
そうだ。娘は確か七五三の帰りに交通事故で・・・。
♪こわいながらも、♪通~りゃんせ、通りゃんせ~♪
歌い終わると、ソファにちょこんと座りました。
妻が冷蔵庫から千歳飴を出して、美沙希に手渡します。
「冷た~い」
飴を握りしめて、美沙希は大喜び。どこからどう見ても生身の女の子です。
「もう、どこにも行っちゃダメよ。ママ、とっても淋しかったんだから」
なんて言いながら鼻を鳴らします。
そんな様子を見ていたら、ボクまで鼻の奥がツーン。ヤバイ・・・。
幽霊だってなんだってかまわない!また三人一緒に暮らそう。それがどんなに幸せなことか。
ボクも美沙希の隣に寄り添いました。
幼児らしい、汗っぽい髪のにおい。幽霊なんかじゃない。
無心に飴をしゃぶっている美沙希に妻が諭します。
「美沙希ちゃん、先にお着替えしましょう。飴がついたら汚れちゃう」
「やだもん!美沙希、着物がいい!」
急に立ちあがると逃げ出しました。
「あちこち触らないで!ベタベタになっちゃうじゃない!」
妻が追いかけます。ボクも慌てて追いました。
美沙希はキャッキャッと歓声をあげて逃げていきます。そして玄関ドアを開けて外へ。
玄関を出ると、もうそこには影も形もありません。
美沙希・・・美沙希・・・美沙希・・・

「ミサキって、だれ?」
妻の声に目が覚めました。え?夢?
ボクは慌てて今見た夢を話しました。
「もう。うちには子どもはいないじゃないの」
そうです。ボクたち夫婦に子どもはいません。子どもほしさのあまり、こんな夢を見たんでしょうか。
そして翌朝。
ボクが目を覚ましてリビングに行くと、おや?
早起きした妻がドアノブを濡らしたタオルで無心に拭いていました。
妻が洗面所に消えると、ボクもドアノブを触ってみずにはいられませんでした。

 



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