366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

少年と犬、そして

2012年10月16日 | 366日ショートショート

10月16日『世界食糧デー』のショートショート



近未来。
度重なる核戦争で、とうに廃墟と化した街。
見渡す限り、崩落した建造物の瓦礫が散乱する荒れ地を少年が歩いていた。
少年の後ろとなり前となりながら寄り添う、白い犬がいた。
そして、少年と犬の後ろに従うもうひとり・・・いや、もう一体。
ロボットである。
少年と犬、そしてロボット。
もうどれだけの間、彼らは旅を続けてきただろう。
乏しい食糧を手に入れるために、生き残りの男たちと戦った。
ときに生命を奪うことすら厭わなかった。
争ったのは食料ばかりじゃない。女もだ。
放射能による遺伝子変異のせいか、生き残った女は限りなく少なかったのだ。
少年は飢えていた。食糧にも、女にも。
今年になって女を見かけたことは一度もない。
男どもに遭遇することもめっきり減った。
たまに見かけても、突然変異した虫に喰い荒らされた腐乱死体。
時には、人が人を喰った残骸すらあった。
少年は、身体が我が身を喰らい始めたのを感じた。四肢の養分を消化器が吸い寄せている。
やがて手足が萎えるだろう。敵に遭遇すれば、敗北、そして死が待っている。
ある夜。
少年は、犬が熟睡しているのを確かめてロボットに近づいた。
「もう限界だ。犬を殺して食う。おまえにとって人間の命令は絶対だ。犬を殺すのを手伝え」
ロボットが返事をためらった。
沈黙。
「おい、おまえが殺すんだ。わかったな」
ロボットが顔をあげた。
「アナタハ、限界ナノデスネ?」
「そうだ」
「デハ、ワタシヲ食ベテクダサイ」
「機械が食えるか」
「ワタシノ体ハ、緊急事態ニ備エテ食ベラレル素材デ、デキテイルノデス」
ロボットが無言で外装を脱ぎ捨て、少年の前に横たわる。
月明かりに照らされたボディが湖のように青い。
「ドウゾ。ワタシヲ召シ上ガッテクダサイ」
少年は馬乗りになると欲望のままにむさぼり食いはじめた。
ロボットは月をじっと見上げ続けた。
翌日、少年は犬とともにロボットをすべてたいらげると、また歩き始めた。