366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

ロジャー・ボンドの墜落

2012年10月22日 | 366日ショートショート

10月22日『パラシュートの日』のショートショート

緊急の任務で呼び出され、飛び乗ったチャーター機。上空一万メートルを飛行中、乗務員がロジャー・ボンドを急襲、機外に蹴り出した。
空を舞うロジャー・ボンド。パラシュートもなしで一万メートルを落下していく。まさに絶対絶命!
前にもこんなことがあった。ムーンレイカー号事件の時だ。あの時は先に落下していく敵のスパイを空中で捕まえてパラシュートを奪った。
だが、今回はボンドひとり、上にも下にもパラシュートを背負った敵スパイはいない。
いやこれはもう本当に危うしだ。
ジャンジャカジャンジャン、ジャッジャッジャッ
ジャンジャカジャンジャン、ジャッジャッジャッ
あっこれはロジャー・ボンドのテーマじゃないか。かっこよく大活躍する場面のはず。だが、どうやって?
ああ、アレだ、アレ。
先週、秘密兵器開発担当Qから支給された秘密の薬があったぢゃないか!
名づけて『空から落ちたときに飲んだら体がスーパーボールになっちゃう薬』!
どんな高さから落ちても、この薬を飲みさえすればスーパーボールみたいにビョ~ンビョ~ンになって怪我をしないのである。
なんと都合のいい秘密兵器だろう。しかもなんと都合のいいストーリー展開。だが、それがロジャー・ボンドの世界なのだ。
空中をクルクルと回転しながら、内ポケットから薬の小瓶を取り出してゴックン、ゴックン。
よ~し、これでダイジョウビ・・・
ジャンジャカジャンジャン、ジャッジャッ・・・テーマ曲が突然途切れる。
それもそのはずである。薬をわたすときの取扱注意を思い出したのだ。
「この薬を飲んで60秒後に体がスーパーボールになるんぢゃ。いいか、地上に落ちる60秒前には飲んでおくんぢゃぞ」
しまった!ボンドはロレックス高級腕時計を見た。
1万メートルから地上に到達するまで、約二分。薬を飲むまでのロスが四十五秒・・・明晰な頭脳が計算する。
やばいっ限りなくやばいっ
ボンドは両手両足を開いて、思いきり空気抵抗を増やす。ニワトリがジタバタ羽ばたいてるみたいだ。
抵抗によって落下速度は二百数十キロで安定するものだが、この姿勢を保持することで百八十キロまで落とすことが可能なのだ。
地上がグングン迫ってくる。
扇げ!扇ぐんだ!
時計の秒針を見つめる。
眼下に街が迫る。
時間との戦い。
間に合う・・・
いける!わずかに数秒だが、いけるはずだ!
そして、墜落。
グチャ。

訃報
イギリス海軍ロジャー・ボンド中佐が任務中に航空機より落下、墜落死を遂げた。ボンド中佐は高層ビル屋上に落下して即死。
イオンプロダクションは、ご長寿映画ロジャー・ボンドシリーズの打切りを発表した。