わたしの涙目に気づいたようで
「ご主人さま、申し訳ありません。嫌な思いをさせましたでしようか。
服を着るというプログラムがありませんので。
苦情申した立てをなさいますか。連絡先は…」と、かなしげに聞く。
「いや、いい」。手を振ると
「苦情がかさなりますと、返品処理をされてしまいます」と、目を落としていう。
どうにも、人形であることを忘れてしまう。
どんな目的で作られたものなのか、うすうす察しがついてきたが、そうは考えたくない。
「さよこちゃんだっけ、ひとつ聞きたいことがある。
わからないなら、こたえなくて良い」
「さよこの分かることでしら、どうぞ」
「きみを頼んだ覚えがないんだけど、だれかからの贈りものなのかな」
「そんな…淋しいです、さよこは。お忘れになられたのですか、もう。
2011年8月に、懸賞サイトで応募していただいたのに…」
思いもよらぬ答えがかえってきた。そういえば、昨年だ。
未来のロボットが…、とかなんとか、アンケートに答えたような…。
「ご主人さま。さよこは、お嫌いですか?」。哀しげな目を見せる。
「いやいや、嫌いだとかなんとか…。そんなことはないよ。さよこちゃんは、可愛い」
「でしたら、お部屋に入れて下さい。
いつまでも玄関先だなんて、さよこ、淋しいです」
肩をすぼめて、軽くイヤイヤをする。思わず抱きしめたくなる衝動にかられた。
「そ、そうだな。ここは寒い、風邪をひいちゃうね」
「じゃ、行きましょ」
いまにもスキップを踏みそうに、わたしの手を引っぱる。
「さよこちゃんの手、暖かいね」
「でしょ、でしょ。ご主人さまのこころが暖かいと、小夜子もあたたかかくなるんです。
いい人で良かった、ご主人さまが。なにをしてあそびましょう?
それとも……、まずは肩もみをしましょうね」
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