そしてその3人目の見合い相手が孝道だった。
無口な男でそのぼくとつさがシゲ子には新鮮に映った。
高校そして短大時代と、親にかくれての複数の恋愛経験を持つシゲ子には、はじめてのタイプだった。
真面目な性格でコツコツと仕事にうちこむ姿勢がシゲ子の両親に気に入られ、シゲ子の意思というよりは、両親の希望におしきられる形での結婚だった。
それでもいろいろ難癖をつけてはひきのばし、その間に外見からは想像もできぬ熱烈な求愛行動があり、ちょうど6ヶ月目に孝道を受け入れた。
じつのところシゲ子が短大時代に、遊び人の男に手痛い失恋をしていた。
ワルっぽい男たちにひかれる当時の風潮どおりに、シゲ子もまた奔放にあそびふけっていた。
しかし厳格な父親のもとでは楚々とした風情をみせて、決してもうひとつの顔はみせなかった。
うわべだけの付き合いにあきてきたシゲ子のもとに、ドン・ファンを思わせる男があらわれた。
それまでの男のようなワルっぽさはなく、礼儀正しい男としてあらわれた。
有名商社につとめるというその男は、ようやく両親に紹介できる男性にみえた。
映画鑑賞にはじまり、近場の観光地めぐり、そして郊外でのしゃれたレストランでの食事。
そしてひさしぶりの繁華街でのデート。
かつてのあそび仲間に会いはしないかと不安に思うわけではなかったが、男の誘いをことわる勇気はもううしなっていた。
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