昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十四)

2024-02-18 08:00:01 | 物語り

 朝食もそこそこに、約束の十時より一時間もはやく会社の駐車場についた。
毎日つかっているからと、週末にはかならず洗車をしワックスがけもしている車から「はやいね」という声が彼に聞こえてきた。
にが笑いを見せる彼で「二度ぬりすると色が沈みこんできれいですよ」とガソリンスタンドでアドバイスされたことを思いだし、もう一度ワックスがけをすることにした。

その後エンジンオイルの確認をして、車内の掃除も念入りにした。
すこし離れた場所からあらためて車をながめると、たしかにグレーの色が沈みこんだ状態になっている。
思わず「渋いぜ」と口にする彼だった。
空はあいかわらず、快晴だ。

 十時すこし前を、最新型の腕時計が指している。
彼の自慢の腕時計だ。どうせ買うならやはり良いものをと、セイコー社の高級品を購入した。
「どうだい」と見せびらかす彼にたいして、眼鏡店で買ったことに対し「どうしてそんなところで」と、会社で散々にバカにされた。
(俺だって○兵が安いということは知っている。だけど……)

「俺が安く買うということで、小売りに問屋そしてメーカーのすべてでもうけを圧迫することになる。
そしてそのことで社会全体のもうけが少なくなり、巡りめぐってうちの会社の利益低下をまねく。
そしてそれは、俺の給料に影響してくる。だから○兵はやめた」と、岩田に言いはった。
しづのところは、その眼鏡店に美人の店員がいると噂に聞いたことからなのだが。
しかし、噂はやはりうわさだ。それとも、俺の美人観が他人とちがうのか……?

「お待たせえ!」という声に、体中を緊張感がはしった。
すぐにもふり返りたい思いをおさえて、「思ったよりはやかったね」と、ゆっくりと体をまわした。
貴子がひとりだけで手をふっている。
話がちがうじゃないかと落胆のいろをみせる彼にたいして
「心配しないの、真理子ちゃんはお買い物中。お弁当はつくったけど、デザートの果物が欲しいんですって。
あそこのスーパーで待っているはずよ、心配ないって」と、笑いとばしながら「ハイハイ、いくよ!」と車に乗り込んだ。

(彼なら、○平に行っただろうか……)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿