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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (二十八)

2025-03-29 08:00:42 | 物語り

 天女さまに手を引かれて移動した。
「はい。それでは、ここで待ってて下さいね」
 たしか壁際に長椅子のある、広い部屋だったはずだ。
長椅子には4、5人が腰掛けられるのだが、皆それぞれに互いのテリトリーを主張しあうので、座ることができるのはせいぜいが3人止まりだ。
看護師たちもこころ得たもので、それ以上に呼びこもうとはしない。

 その部屋には、なにやら機械類が7台ほど並んでいる。
順番に移動をしていけるように、横1列だ。
そのうしろが通路として、余裕をもせてある。
そしてその向こう側、フロアの中央あたりで、視力検査をやってくれる。
こちらは3台ある。大体が、ほぼ満席だ。

「お待たせ、お婆ちゃん」
「はよしてもらわんと、どうにもならんぞ。
みんなで夕ごはんを食べることになっちょるのに」
 なんという毒々しいことばを吐くハバアだ。
ひょっとして、先ほどのわたしを陥れようとした老婆か? 
目を開けることができたなら、ジロリと睨み付けてやるものを。

「こんなに度の強いコンタクトを使うなんて……」
「ごめんなさい。お友だちのレンズを、ちょっと借りてます。
 黒板の文字が見にくくて。前の方の席に行くの、いやだったから…」
医師のいうことを聞かぬ小娘め、わたしの娘なら怒鳴りつけてやるものを。
すこしは医者にたいする畏敬の念をもてないものか。

「はいはい、おじいちゃん。次の検査ですよ。
席をたって、奥のへやに行きましょうね」
 無言のまま立ち上がりはするものの、そのばにじっと立ちすくんでいる。
どうやら手を取って案内してほしそうだ。
そういえば、腰がすこしまがっている。

目が見えぬわけでもあるまいし、壁には伝い歩き用のポールが取り付けてあるではないか。
患者ひとりに看護師ひとりが付き添っている。
待合室には、おおくの患者が待っているのだぞ。
すこしはシャカシャカと動いて、やれぬものか。

憤慨するわたしだったが、まさかこの後にあのようなことになるとは、思いも寄らぬことだった。



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