それにしても、と誰もが思っている。
「もっと可愛いらしいメガネがあるでしょうに」と、先輩の事務員が声をかけたことがある。
視力が落ちた中学二年生のときにはじめて購入したメガネは、小ぶりのものだった。
うすいピンク色がよく似合っていますよと店員にすすめられた。
「でも……」と涙目で貴子にうちあけた。
複数の男子に「メガネから目ん玉がとびだしてるぞ」とからかわれて、さらにはその中に初恋の男子がいたことから、メガネを外してしまったという。
以来メガネは掛けていなかったのだが、就職を機に黒縁のめがねをかけることにしたと打ち明けた。
貴子の誘導で真理子は後部座席に座った。
助手席に貴子が座ることにたいして残念な思いがするが、内心ホッとする気持ちもある。
そんな彼の気持ちを察してか、「あとで席を交代するから、今は我慢しなさい」と、貴子から思わぬ言葉がでた。
「そ、そんなこと。べ、別に……」と、しどろもどろに返す彼だったが、真理子もまた耳たぶまで真っ赤になっている。
開店して間もないというのに、スーパーの駐車場には多くの車がはいり込んでいた。
駐車スペースをさがす車に気づいた彼は「よーし、行くぞ!」と、グンとアクセルを踏みこんだ。
今度は順調にすべりだした。
期待通りにスピードが乗ってきた――と彼は思ったのだが、貴子から冷たいことばが放たれた。
「遅いわね、もっと出ないの!」
「そんなごむたいな! これ以上エンジンを回したら、壊れちゃうよ。
それとも貴子お姉さまが降りてくれますか?
そうしたら軽くなって早く走れるかも」と、悪態をついた。
「言ったわね、このナルシストが」
(こんな風に掛け合えたらなあ、打ち解けられるんだよな)そんな思いが彼をおそう。
信号待ちに入ったところで、意を決して真理子に声をかけてみた。
「真理子ちゃん、どこか行きたい所ある?」
(彼なら、もっと気の利いたことば……?)
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