愛、麗しくみちる夢

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『悲しみがとまらない』  前編   美奈→みち→レイ

2005-12-18 17:41:01 | 創作・その他CP
『センチメンタル』の続きになります。


クリスマスはもう、すぐそこまで近づいていた。肌も指先も敏感に冬の風を感じている。東京にあるわずかな木々は紅葉の見所をそろそろ終え、その美しさを地へと降らせて行く。

火川神社に続く階段にも、色褪せて散った落ち葉が足音に寒さと寂しさの音色を与えていた。
朝早く起きて、毎日掃いているはずだろうに。生真面目な性格の彼女のことだ、内心腹を立てながらもきっと、明日の朝も放棄を片手にせっせと掃いているだろう。

「レイちゃん」
年末に向けて、神社では知らない巫女姿の人を多く見かけた。臨時雇いなのだろう。結構いい時給らしいから。
「ん?あぁ、美奈」
当の本人は、高校に入ってからほとんど巫女の手伝いをしなくなった。ある程度は手伝うものの、彼女は自分の時間を割いてまで忙しくなんてやっていられないと。元々、実家ではないのだから、当たり前といえばそれも頷ける。
「何?」
それでも相変わらず美人巫女がいる火川神社で有名なのだから、今もこうやって面倒なのを顔に出さずにお守りを売っているのだ。
「忙しい?」
「そうでもないわよ。あっちの方が忙しいんじゃない?」
あっちと指差す方向には、大学生くらいの年齢の巫女さんたちが彼女の祖父に指導を受けている。
「ふぅん」
「美奈もやる?年中金欠でしょう?」
「嫌よ。暇があるなら遊ぶわ」
どうせ、やらせてといっても断るくせに。聞くだけ無駄、答えるだけ無駄だけど、でもそういうどうでもいい話を、レイちゃんとするのは嫌いじゃない。
「そう?で、何?寒いからこっちいらっしゃい」
小さなお守りやおみくじなどを売っている建物には、レイちゃん以外はいなかった。忙しいときなんかは、強引につめて入っていることもあるらしいけれど。美奈子は靴をそろえて中に入った。ちゃっかり持ち込まれてある電気ストーブは、一人だけに向けられていたけれど、さりげなく、美奈子へと向きを変えてくれる。
「寒いわね」
「本当よね。やってられないわよ、こんなところで恋愛成就のお守りなんて売るのも考え物だわ」
ついさっき頬を染めて走って行った中学生のことを言っているのだろう。本当に興味がなさそうな口調。
「そう?私さ、レイちゃんに恋愛の相談をしに来たのに。そういうこと言われると言い出せないわよね」
ほら。また面倒な顔をする。疲れたように肩を揉みながらため息を吐いたりして。まだ何も話していないのに。
「惚気?」
「まさか」
笑いもせずに否定してみせると、それも最初からわかっていたような感じが見えた。美奈子には、それが居心地いいようで、でも相当悪いときもある。
「で?…私に何かをしろって言うの?みちるに伝えて欲しい言葉があるとか?」
「ない。でも、どうしてわかったの?」
どうせ、付き合いの長いみちるの方から相談を受けたりしていたのだろう。それはそれで腹が立つ気もするけれど、本人に罪はないのだ。
「顔を見ていればわかる。幸せそうな顔、ここ最近見ていないもの」
「なんだ、バレバレか。さすがだわ」
「さすがって、褒めてもらっても嬉しくないわよ」
そういいながら立ち上がったレイは、古い木箱に綺麗に並べられたおみくじなどを片付け始めた。
「営業終わり?」
「仕方ないでしょう?今から私は愚痴を聞いて、説教しなきゃなんないんだから」
恋敵なのに。
美奈子は内心そう思いながら、何も知らないで手を差し伸べてくれるのが、やっぱり優しくて。
でも憎くて仕方がない。


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