愛、麗しくみちる夢

おだやか
たゆやか

わたしらしく
あるがままに

『悲しみがとまらない』 後編

2005-12-18 17:42:39 | 創作・その他CP
「みちるさんから、私のことを相談されたりしない?」
「しないわ。美奈が思うほど、私たちそんなに会ったり電話をしたりしていないわよ?いくらお家同士繋がりがあって、昔から付き合いがあるからって、それはそれだもの」
それだけでも美奈子にとって羨ましいこと。口には出さないけれど。
「みちるさんとね…」
「何?」
「もう、駄目なんだよね…実は」
さりげなさを装って、なんでもないように普通に声に出してみた。出してみて、なんだ、そんなに苦しくないじゃないって、自分に強く言い聞かせて。
「何?みちる、何かやらかした?」
彼女の口調もそれほど変化はない。
もっと驚いてくれると思ったのに。
単なる喧嘩くらいにしか思っていない感じに聞こえる。
「みちるさんね、私と付き合う前からずっと好きな人がいたのよ。私、それをね、知っていたの」
「知っていて、でもそれでもいいって、美奈は告白したんでしょう?」
「うん。みちるさんのことだから、絶対に私のことを振るって思ってた。それでもいいって思って」
「どっちもどっちね」
腕を組んで壁にもたれたレイの口調は、傷つくことを選んだ二人への同情であることは間違いない。言葉はきつくても、彼女の心の中に批難なんてない。
「うん。でも、いつか振り向いてくれるって思ってたのよ。みちるさんだって、いつか私のことを好きになれるって思ったから、私の気持ちを受け取ってくれたと思わない?」
「みちるの恋愛価値観なんて、私にはわからないわ」
きっぱり言い放つ。どっちにも偏りない立場を取るつもりらしい。
「でもみちるさんは、いまだに私にずっと隠してるの。私のこと全然好きじゃないのに、好きだって嘘吐いて、本当は心に別の人がいることも秘密にして。だったら、最初から断ればよかったのに」
美奈子はまだ、気持ちをなんとか普通に保っている。目の前にその人物がいるのに、それを言いたくても、言ってはいけない。言ってしまうことで全員が傷つくから。なのに、こうやってここに来ている自分が情けない。
そのことだって、十分承知している。
「でも、美奈はそれを知っていたのでしょう?問いただしてみなさいよ」
「そんなこと、怖くて出来ない。自分が付き合っている人が、実は他の人が好きだなんて、認めたくないじゃない」
「そんなの、お互いによくないことだって美奈もわかっているくせに。馬鹿ね。そんなにみちるが好き?みちるってば、そういう人間なのよ?私も、今知ったけれど」

馬鹿だなって、思った。ここに何を求めに来たんだろう。彼女の言うとおり愚痴をこぼして、説教をして欲しかったのだろうか。それとも、彼女から本人を振って欲しかったのだろうか。
「みちるさんに本当のことを問いただすのも、言われるのも、私は嫌なの」
「じゃ、続けるつもり?」
「レイちゃん、みちるさんはどうすると思う?きっと、このまま黙ったままだと思わない?」
きっと、みちるさんを悪者にしたいんだ、この心は。
好きだけど。
好きだから悪者にしたい。
こんなにも好きなのに、心をくれない彼女が悪いんだって。
それを誰かに認めて貰わないと気がすまない。
「そうね。みちるは臆病なくせに芯が強いって言う変なところもあるのよ」
他人の恋愛に興味を抱かない態度のクセに、さりげなくかばうなんて、ちょっと癪に障る。
「ねぇ…な、何とか…してよ、レイちゃん」
彼女がいなければ、自分たちは描いた理想の通り幸せな恋愛を続けていられただろうか。きっとそれはない。なんとなくわかる。
「何とかって。自分で始めた恋でしょう?終わらせる権利があるのは美奈よ?私がみちるに何か言って、それで納得できる?みちるの頬を引っ叩くくらいしなさいよ」
平然を装い続けるのはあまりにも辛い。今までなんでもない振りをしていた唇は、微かに震えた。「…嫌いよ、レイちゃんなんて」
好きな人に愛してもらえない苦しみなんて、きっとわかってもらえない。わかってもらっても腹が立つ。
「美奈?」
「帰る。みちるさんとは、別れる…。でも言って欲しいなって。ちょっと愚痴りたかっただけよ」
今日も白々しく、クリスマスはどこかへ食べに行こうかしら?なんて誘うみちるさんの微笑みに見える嘘に耐えられなくて、ちょっと逃げてきただけ。クリスマスなんて恋人にとって最高に幸せなときを一緒に過ごすのは、嬉しくて。

でももう、辛くて仕方がない。もう、自分が我慢しなきゃいけないなんて酷すぎる。

「美奈?どうしてもっていうなら、私がみちるに言うわよ?」
「…いいよ。みちるさんはレイちゃんのこと愛してるんだから、レイちゃんが説教したって仕方ないじゃない」
じゃぁね。そういって立ち上がる美奈子を見上げるレイちゃんの表情は、わずかに曇っていた。けれどそれは、光をさえぎり体温を奪うほどの雲じゃない。冗談でしょう?という希望がまだ、見え隠れしている。
「美奈、ちょっと」
「…みちるさんから聞けばいいことだわ。仲良しなんでしょう?」

靴の踵を踏んだまま、逃げるように飛び出す。自分の腹黒い感情。してやったりな気分と、ひどく襲う後悔と。やっぱり、それを言いたかったんだ。言って、彼女のせいにして自分は無実だって自分に言い聞かせたかっただけなんだ。
「これで、みちるさんに確実に振られちゃうよ」
そう思うと、笑いがこみ上げてくる。
どうしようもない自分が馬鹿で。
でも、馬鹿になれるくらいやっぱり好きで。
どんな手でも利用して、愛が欲しいって思うくらい。
傷つけてでも欲しいって思うくらい。
「馬鹿だな」
何もかも全てが冗談なら、なんてまだそれでも期待している自分。
でも、恋の始まりを自分で選んで、終わりも自分で選んだんだから。
風は頬を冷たくする。
雫が風に触れていっそう頬を冷たくさせる。
それでも、悲しみはとまらない。

とめるつもりなんて、今はなかった。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『悲しみがとまらない』  ... | トップ | 『溶け合う心』 レイ美奈 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

創作・その他CP」カテゴリの最新記事