連合軍は三方からハン・ノヴァに迫りました。
メルシュマン諸侯軍が北から、ラウプホルツ軍が南から、デーヴィド率いるヤーデ伯軍(ナ国においては、ケルヴィン以後、ヤーデ伯による執政が行われ、また、その安全保障の一切をヤーデ伯軍によって担われてきたため、今回の連合軍結成に際しても、実働部隊として派遣できるのがヤーデ伯軍のみであったと考えられます)が西から進軍を始めました。
事態の推移を勘案して、連合軍の集結を待って進軍を始める時間的猶予が無かったため、各軍が道中の反乱の芽をつぶしつつ、ハンを目指すということになりました。
実際、この後、連合軍諸侯は反乱軍の容易ならざる実力を目の当たりにすることになるのです。
反乱軍の一部隊が、北方から迫るメルシュマン諸侯軍を早々に退けてしまうのです。
オート侯家が分裂弱体化したとはいえ、、こうも醜態をさらしてしまったメルシュマン四侯家の実力がいかほどであったのか、あるいは反乱軍の実力が本物であったのか、その分析は後世の歴史研究家に任せるとして、北方軍を当てにできなくなったデーヴィドは、ヤーデ伯軍のみをもって反乱軍の主力に当たらねばならなくなりました。
ラウプホルツ軍が遅参したためです。
指揮命令系統の統一が図られていない、急拵えの軍隊の弱点が、モロに出てしまいました。
分散された敵兵力を各個撃破していくのは、用兵の常道です。
当然、反乱軍の首領もこれを狙っていたのです。
しかし、反乱軍側にとっても、当初の思惑通りに事態が進むことはありませんでした。
北方軍に向かわせた迎撃部隊が、戦闘に勝利した後、撤退する敵部隊の追撃に時間を要してしまい、帰還が遅れていました。
「ボルスめ、あれほど深追いはするなと釘を刺したものを。 あるいは北方軍に頭の切れる者がいたということか」
北方軍の撤退が、迎撃部隊を本隊から引き離すための擬装である可能性も否定できなかったのです。
「もはや、ボルス隊の帰還を待ってはいられない。早々に決着をつけねば、南方軍との合流を許してしまう。 出陣の用意をしろ!」
出陣の合図とともに、反乱軍はヤーデ伯軍に向かって進軍を開始しました。
膨れ上がったその軍容は、統一性を全く欠き、見方によっては無数の浮浪者が徒党を組んでいるようにも見える反乱軍であったが、先頭を行進する重装甲の騎兵の一団が放つ、その尋常ならざる威容が、唯一、軍としての体裁を保っていました。
この重装甲騎兵の一団こそ、反乱軍の首領を、故ギュスターヴの再来たらしめた鋼鉄兵団です。
太陽光を受け、鈍い輝きを放ちながら進軍する彼らの行く手には、若きデーヴィド率いるヤーデ伯軍が、整然と布陣を済ませていました。
ここに史上名高いサウスマウンドトップの戦いが始まったのです。
鋼鉄兵団が長槍を構えて突撃を掛けると、ヤーデ伯軍は弓兵隊の一斉射撃で、その勢いを削ぎました。
「アニマに頼るな! 敵の足を止めたら、こちらも装甲騎兵で逆撃を加える。用意せよ!」
デーヴィドの号令と共に、馬蹄を轟かせて突撃するヤーデ軍の装甲騎兵隊が構える鋼鉄製の長槍が、反乱軍の鋼鉄兵団の装甲を貫き、血煙りを上げた。
続けて、第二、第三と突撃を加えて殲滅に掛かった時、反乱軍後方から歩兵部隊が反時計回りに、ヤーデ伯軍の左側面に突撃を仕掛けた。
すると、ヤーデ騎兵の突撃を受けて壊滅状態にあったかに見えた鋼鉄兵団が血まみれのまま息を吹き返し、敵の側面攻撃に対処しようと反転したヤーデ騎兵の側面を突いたのだった。
デーヴィドは混戦のさ中にいました。
自ら率いる装甲騎兵隊で、復活した鋼鉄兵団の猛攻にさらされている部隊の救援に向かいたかったが、反乱軍の歩兵部隊の、半狂乱の突撃に手を焼き、自らも乗馬を失い、かさばる槍を捨て、腰の剣を手にし、麾下の将兵を叱咤していました。
「誰か私に馬をもて! 装甲騎兵隊、私と共に来い!敵装甲騎兵を殲滅する!」
新たな乗馬を得て、敵主力部隊に再突撃を加えたデーヴィドの装甲騎兵隊は、これに耐えた鋼鉄兵団と血みどろの白兵戦を繰り広げました。
腕を失っても、足を飛ばされても、ひるむ様子を見せない彼らを見て、ついにデーヴィドは確信するのです。
「やはり人外の者共であったか。どうすればよい!」
と、敵の勢いが急に衰えはじめました。
反乱軍の一部が戦場を離脱していき、ここにきて形勢はヤーデ伯軍に傾いたのです。
鋼鉄兵団の動きも鈍くなり、これを一気に殲滅したデーヴィドの下に、反乱軍首領の戦死の伝令が届いた。
それによると、突撃を仕掛けた敵歩兵部隊の後方から、首領率いる鋼鉄兵団が現れたが、突如現れた大柄な戦士によって、反乱軍首領は一刀の下に切り伏せられたということであった。
「その者について詳しく申せ」
そう問うてはみたものの、デーヴィドには解っていました。
いつも自分の身を案じてくれている男の事を。
勝利に沸き立つヤーデ軍の歓声の中で、デーヴィドは一人、感慨に耽っていた。
かつて、ヤーデ伯家にあって傑出した才能を示しながら、家名を捨てざるを得なかった従弟の事を思い出していました。
「すまないグスタフ。 またお前に助けられた」
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