かつてここにスコータイ王朝があった。AC1279~1300年に在位したラームカムヘン王が絶頂期であった。その時代に、仏教を取り入れ、中国元朝から陶芸をとりいれクメール文字を改良してタイ文字を考案するなど、数々の偉業をおしすすめた。「幸福の夜明け」という意味のスコータイにふさわしく繁栄した。とガイドブックには書いてある。
仏像の顔がなんとなく愛嬌があるのはその時代の人々の心を表しているのかもしれません。この時代は中国では元が南宋を滅ぼし、日本では鎌倉幕府の時代で、元寇が攻めてきた頃です。元が領土拡大のため雲南からビルマへ軍を進めた時期でもあります。そういう時代にタイの北部でこのような文化が花開いたのは、不思議でもあります。中国元朝との関係はいかなるものであったのかは知りませんが、たぶん中国南部に居た人々が元によって押し出されてタイへ来たのではないかと考えています。陶器の話をしますと、その時に景徳鎮やその他の陶器の製作に携わった人々が元の圧力に耐えかねて逃げてきて、ここで製陶を始めたのが最初の始まりではないでしょうか。製陶技術は当時における先端技術であり、外部に流出するのを防ぐために、おいそれと権力者が技術者を外国へ出すことはないはずで、スコータイに伝わった技術は、おそらく中国の難民ともいうべき人々によって伝えられたと考えられるわけです。「陶は政を語る」という言葉があるのですが、陶磁器を見るとその造られた時代の政治状況が推測されるという意味です。スコータイ周辺での製陶そのものが歴史の力によって出来たものであるとすれば、歴史の刻印として証拠としての役割をいまもになっていることになる。そして作られた個々の作品を見るとき、作者の意識あるいは無意識を読むことを通して、その時代を感じることができる。それが、陶磁器を見る醍醐味だと思います。それらの陶器は、全ての生活の根拠を奪われ故郷を追われてたどり着いた地での挫折感の克服の歴史であり表現であったはずなのです。そのような見方は邪道かもしれません。あるいは独断と偏見があるあるかもしれませんが、現代の美意識や概念で見るのとは別の見方ではありますが、歴史的な側面から見るのと気付くものもあるのです。わざわざ、その土地へ足を運ぶのは、それを確認したいためです。陶磁器を作るにはもちろんそれらの原材料を調達できることが第一ですが、それを作ろうという人々の意志が重要なんです。昔ならば権力者の意志が大きな要素となってきます。当然それは作品の表現にもかかわってきます。中国では権力者のために作った官窯とそれ以外の一般人向けの民窯に分かれるのですが、スコータイではそれは中国ほどはっきりと別れていなかったように見えるのは、王権の性質が中国とは違っていたことを示す証拠になるのではないでしょうか。生活用のうつわや甕などが主で、祭器や装飾品が少ないのは単に技術的な問題だけではないはずです。スコータイ周辺の窯では青磁が焼かれておりました。これは原料の土が鉄分を含んだものしか無かったからだと思いますが、これは中国のものと比べると、見劣りがする貫入青磁で陶器なのです。磁器ではありません。したがって、高級装飾品としてよりも、生活用品として、生産されるよりほか無かったのではないかと考えられますが、当時はかなりの量がアジア全体に輸出されていたことを考えると、今で言う外貨獲得の重要な手段であり。需要の多い生活用品に力を入れていたのではないかと推測するのです。日本にもその陶器は来ていて、宋胡録(すんころく)焼きとして、茶人などが珍重したらしい。宋胡録(すんころく)というのはスワンカロークの中国読みから来ております。スワンカロークはスコータイの北にある陶業の中心的場所であったのです。(今回はスワンカロークへも行ってきました。)一方の中国の元の方はこの時代に染付け磁器を盛んに作っております。後に元の染付けとして高い評価を後世に残した作品群です。染付け磁器の典型として現在でもそのデザインは生きております。元の染付けの特徴は図柄の豪華さ緻密さが官窯の持つ冷たさに陥っていないのが人気の理由なんだと思います。それは顔料の呉須(青く発色する材料)に秘密があるのです。よく見ると、呉須の発色にむらがあるのです。わざとそうしているのか、材料の精製上そうなったのか分かりませんが、その色むらが、手描きのよさを際立たせるゆらぎとなって、見るものに親しみを与えるのです。官窯としては完成度が低いという言い方もありますが、自然のゆらぎを取り入れ表現したデザインは高く評価できるのです。はっきり言えばこれは日本人好みなんです。日本人の美意識の琴線に触れるのです。ちなみに旧安宅コレクションが元の染付けを主に収集した世界的なコレクションであったことは、日本人ならではでの美意識があったと思っております。話は長くなりましたが、日本にはないスケールの遺跡の中を見て歩くと、いろいろ妄想が湧き上がってくるのです。
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