これまで、それなりに「政治と暮らし」を語ってきたのに、何故か、いちばん身近なはずの、食糧・農業問題については書いていない。気になっていたことである。そんな矢先、古くからの友人が、去年4月から、ある団体の機関紙に連載しているエッセイ集のコピーを送ってくれた。題名は”旬の味”である。添付の手紙には「農民運動の現場に足をおきながら、全国的規模でものを書かされる難しさを痛感している」とあったが、成る程、どれもこれも、心血を注いだ労作のように思えた。殆どは、彼が住む大阪・泉州の農産物の話から始まる。文章そのものに味がある。そこから、農業への熱い想いと、そして郷土愛が伝わってくる。歴代政府の農政批判は鋭い。教えられた。共感の一声でも。その気にさせてくれたエッセイだった。
”旬の味”はいう。「夏の訪れとともに、”泉州水ナス”の浅漬けがブームに(我が家の食卓にもしばしば)。風味は抜群。一気に全国ブランドに。生産農家も作付面積も増え続けているのがうれしい」。「ブロッコリーも泉州の”旬の味”。今年(05年)は豊作だ。アメリカなどから輸入されてくるが、栄養価は国産品の半分以下」。「エダマメの味は鮮度が命、朝採りをその日のうちに。消費者の反応も、絶品や。輸入物とは大違い」。「1978年、” 松浪”(キャベツ)という柔らかい新品種が開発され、これが大阪のお好み焼きの市場を独占する契機となり、今も続いているのが地元の自慢だ」。誇り高き日本農業の数々の生きた事例だと思った。こんな農業、ずっと続けて欲しい。そう考えるのが当然ではなかろうか。
だが、農業つぶしが続いている。泉州は、タマネギ発祥の地で、最盛期の1960年には、生産量13万トンを超える。ところが2002年には8300トンに激減、存亡の危機にあるという。主因は、超安値の輸入タマネギの大攻勢。05年上半期の財務省貿易統計によれば、レタスの輸入量は前年同期比1・6倍、キャベツ、ニンジンは3倍に急増。適切な価格保障がなければ産地崩壊は止まらない。野菜だけではない。コメも輸入米との苛酷な競争を強いられる。安全確認ズサンなアメリカ牛の輸入再開。まさに亡国農政である。”旬の味 ”が訴えている。「農政の大もとからの転換を」「食と農に”ぬくもり”のある政治を」「”安全な食料は日本の大地から”の原点に立ち、食糧主権を取り戻そう」と。これに呼応する世論と運動の盛り上がりに期待すること大である。