
公演名:屋根の上のバイオリン弾き
場所:愛知県芸術劇場
日時:2025年4月12日(土) 12:00
11日 1回、12日 2回、13日 1回
1回の公演が3時間半で、12日は12:00、17:00開始の2回
公演背景
:1964年にブロードウェイ初演
台本:ジョセフ・スタイン、音楽:ジェリー・ボック、
演出/振付など ジェローム・ロビンス
日本版:演出:寺﨑秀臣、振付:真島茂樹
キャスト:市村正親、鳳 蘭、美弥るりか、唯月ふうか、大森未来衣 など
惹句:親から子へ、子から孫へと受け継がれる愛と絆の物語
1.はじめに
久しぶりにミュージカルの舞台を見に行った。いった理由は以下の通り。
(1)まだ日本海側の郷里に住んでいたころ、森繁久弥が主役として初めて評判になっていた。彼が長期間続けてその後西田敏行にバトンタッチ、だから喜劇枠かと思ってDVDを見たら後半は思いっきり暗い話だった。その後現在の市村正親となったが、舞台ではどんな雰囲気でやっているのかと興味を持った。
(2)市村正親 76歳とほぼ同年齢、鳳 蘭は79歳とやや年上だが、どの程度元気に動き回り、声をだすのを見てみたかった。
(3)家族の物語とされているが、現在のガザの問題もある。制作に携わった人がすべてユダヤ人だそうで、弾圧される側と現在の弾圧する側となった場合のギャップも知りたい。
(惹句は矮小化?)
(4)主役テビエの娘役(しきたりに厳しい親のいうとおりにならない)3人の評判がよかったので、見てみたいと思った。
2.上記の各項目について
(1)物語の内容について
ロシアの帝政期の田舎のユダヤ人集落にすむ、娘5人を持つ酪農家で敬虔なユダヤ人夫婦の物語。上の娘たち3人が順に、敬虔な従来のユダヤ教徒にはありえないような結婚をする。(従来は結婚仲介のおばさんがいて、結婚式までお互いの顔を見ないのが当たり前だった。) 長女は親が婚約を決めた金持ちの人ではなく、集落内の好きなまだ貧乏な若い人と結婚。次女は集落に来た過激な学生と婚約、彼がシベリア送りされたのでついていく。三女はユダヤ教ではないロシア人と駆け落ち婚。これまでの信仰からかけ離れた家族の状況に苦しむ。
そして集落の外からはロシア人の弾圧。長女の結婚式は狼藉の嫌がらせを受け、最後は集落全体が追い出される。
ストーリーは以上のようにとても暗い話で、その後第一次世界対戦やロシア革命があり、バラバラになった集落の人々に一層の困難が降りかかるだろうと心配になる。
でも苦しくても悩んで悩んで表向き軽い言葉で受け流し、おどけたポーズをとる・・・それがユダヤ人のずーっと弾圧に慣れ切った姿というのがわかる。その感情の動きを、不安定な屋根の上で落ちないようにフィドル(バイオリン)を奏でる人(脳内の人を現実視させている)と向き合わせて表現している。重い話を表向きペーソス漂う喜劇役者が軽やかに喜劇のように演じ、歌も恋の歌やふざけた歌がほとんど、暗すぎるものはない。それが説明過剰な映画と違って、暗くならない理由なのだろう。

主役 テビエの家族
(2)市村正親と鳳 蘭
ともに非常に頑張っていた。特に市村さんは歌も踊りも中心になって動いているが、年齢を感じさせない動きだった。家族の中での伝統が壊れて行く過程を受け止めつつ、娘への愛情を変わらず注いでいこうとする姿、ユダヤ人としてロシア人からの弾圧をしようがない軽い言葉で甘受していく姿を、見事に演じていた。
鳳 蘭さんはそれほど動く場面はないが、声はよく出ていて肝っ玉かあさんの貫禄があった。
ともに存在感はすごく元気さに溢れていて、同様の高齢者として勇気づけられた。この日はこれを2回やるのだから大したものだ。

夫婦
(3)ガザの現実から思うこと
ユダヤの民は紀元前に国をなくし、その後繰り返し厳しい弾圧を受けている。それが弾圧はしょうがないと受けながし、表面だけでも明るく取り繕うとする生活となる。そういう風にミュージカルの表面をつくったのだろう。
ユダヤの民は紀元前に国をなくし、その後繰り返し厳しい弾圧を受けている。それが弾圧はしょうがないと受けながし、表面だけでも明るく取り繕うとする生活となる。そういう風にミュージカルの表面をつくったのだろう。
そういった歴史的に弾圧される側に慣れてきたユダヤ教徒が、立場が強い側になるとひどい弾圧をしている。それも歴史的にはユダヤ教徒をあまり弾圧していなかったイスラム教徒にたいしてだ。
ユダヤ人はずっと虐げられてきたのだから逆の立場になってもいいと考えているのか、被害妄想的に少しでも安全に過ごすためには危険の芽を摘んでしまわねばと思っているのか・・
このミュージカルの初演の3年後に、第3次中東戦争が起こって、イスラエルが電撃作戦で圧勝しているが、周りの国からの圧迫にピリピリしていた頃。イスラエルに関わる戦争などはその後ずっと続いているが、このミュージカルへの影響はあまり見られない。ということは、それと切り離された家族の物語と扱われていることなのか・・
(4)しきたりに反して結婚する3人娘の役者について
それぞれの恋愛を成就する役だが、3人とも可愛らしく声が揃っていて、そしてそれぞれのキャラが立っていて素晴らしかった。いい評判なのもわかる。やや昔のミュージカルで、歌は男性の出番が多いが、もっとこの人たちを歌わせてあげたかった。
4女、5女もあわせて、こんなかわいい娘たちと共演出来たら、市村さんも楽しかったのだろう。
3.おわりに
久し振りに大劇場に入ったが、やはり広かった。ウィークデイの昼からなのか、舞台正面は満員だが、3階以上の左右の席に客をいれていなかった。でもこれだけ入るだけでもたいしたもの。
今回の公演でやはりよかったのは、私と同年代及び以上の市村さん、鳳さんの元気な姿を見ることができたこと。とても励みになった。60公演もするそうだがきっと元気に千秋楽を迎えることでしょう。
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