
美術展名:第80回春の院展 名古屋展
場所:松坂屋美術館
期間:2025.04.12(土)~ 2025.04.20(日)
訪問日:2025年4月19日
1.始めに
11月に開催された再興院展は面白かった。友人から春の院展の招待券を頂き、訪問した。
春の院展は、絵画のサイズに以下の制限がある。
・縦 形(外装共)縦150cmx横75cm以内。
・自由形(外装共) 106cm x 106cm以内。
この寸法の制約条件は同人/一般応募者にかかわりなく適用される。その効果として、大作の並ぶ(特に同人クラス)再興院展と違い限られた画面サイズだからこそ、より斬新な表現に挑戦する画家たちの作品が集まると言われている。
今回注目したのは、そのサイズの制約条件の影響、院展内の賞(春季展賞)の内容、女性作家の活躍状況である。
それらについて以下に述べる。
2.サイズの制約の影響
11月の再興院展では、特に理事や同人クラスの人がここでの条件の縦横各2倍以上のサイズの絵画を出してきて、それは一般クラスの絵画よりも大きく迫力があった。今回は同じサイズになったこともあるが、理事・同人クラスの絵にそれほど惹かれた絵はなく全体に埋もれてしまったと感じた。彼らにとってこのサイズは取り組む意欲が、再興院展サイズほどではないかもしれない。
それに対して同人以外の人のいくつかに、確かに面白いと感じる絵があった。
縦長とほぼ真四角の絵の選択では、縦長の絵に面白いものが多かった。これは、従来からの掛け軸に近いこと、そしてスマートフォンなどで縦画面の扱いで見慣れてきたことやデザイン的な工夫が世間で伸びてきてその影響がここに出てきているのかもしれない。
なぜ真四角のキャンバスの条件が選ばれているか知らないが、その形がずらりと並ぶとやや奇異に感じた。眼の前に広がる何らかの空間には、やはり縦がやや小さいほうが入って行くことができる。描くサイズが小さくなっても、そういったものを選んだほうが目立つのではないか。
ともかく、同じサイズでずらっと並んでいることで、小学校の頃の同じサイズの絵で一生懸命さを競う頃を思いだした。
ここでは理事・同人クラスで惹かれた絵を4枚示す。

<道> 松村 公嗣
松村理事は院展ではシマウマの集団、今回は中東の赤い土/夕陽の絵とガラリと変えてきた。平山郁夫のシルクロードの色でない赤が印象に残った。

<阿龍> 手塚 雄二
手塚理事はこれまでたくさんの龍を描き、最近天井画まで描いた。それなら絶対という自信で龍を描いている。掛け軸に似た縦長のキャンバスにマッチし、他に類例がないので非常に目立つ。

<避雷針> 國司 華子
國司同人は白いキャンバスにほとんど線の猫の絵。再興院展でも似たようなテーマをより大きなキャンバスで描いていたが、こちらのサイズのキャンバスのほうが凝縮してあっているとおもった。

<三面川> 番場 三雄
番場同人は鮭の鱗の描き方が工芸的かつリアルで、迫力があった。
3.院展内の賞
特別賞として、春季展賞(平山賞)、春季展賞、外務大臣賞がそれぞれ1点、奨励賞が外務大臣を含んで15点選ばれている。これらは同人の人たちが入選作品の中から、特にと選んでいるので、同人たちと私の見方の違いがわかるとおもって注目した。

<冬の花火> 柏谷 明美

<つのかくし> 守 みどり

<見上げる> 大橋 智
3点は、順にモノトーンで具象かつ心象風景、具象でカラフルな心象を構成したもの、小さな具象を散りばめた抽象画で、色調や構成で三者三様になるようにバランスをとっているなと思った。
絵から思考に導くことが日本画の役割と、多分選考側は考えているようで、それぞれのジャンルから選び出すとするならば、この選択は納得できる。
粕谷さんの絵は非常に繊細で、描いた対象は堀文子さんをイメージした。
守さんの絵は、「つのかくし」だそうだが、頭の上の草花の高さ分まで長い角が伸びているとすると楽しい。
大橋さんの絵は、なにか一生懸命描いているなと思ったが、何を描いているのかわからなかった。ただし配色の渋さは気に入った。「見上げる」とあるが見下ろすように見えてしまう。真四角だからいっそ90°、180°、270°と回転させて展示してもいいのかなと思った。
4.女性画家の活躍について
今回も女性作家が、目立った。同人33人で女性が数人なのに対し、3賞のうち2人、奨励賞では15人中9人、入選でも半数を越えている。
今までは男が画家の主体で男の視線から多くが描かれていたが、女性の視線から描く範囲が手付かずで残されていたこと、日本画は工芸的なところがあってそこに細やかな女性の感覚が合致したこと、絵を評価し購入する人に女性が増えたことなどが考えられる。
奨励賞を得た女性画家の作品で惹かれたものを3点ほど示す。

<月日> 小針 あすか
凛とした女性の強さを感じる。黄色の花の鮮やかさにパンチがある。女性が女性を描くと、男性画家とは違った雰囲気の女性が描かれる。これはその代表例。

<回生> 加藤 裕子
東日本大震災の被害者を想っての絵とのこと。地下に差し込む光だけでなく、それを触媒として自ら発光を始めたよう。

<星風> 村上 里沙
池の水面に映った星空。とても複雑な構造を丁寧に描いている。映った星空からオーストラリアの夜を思いだした。
5.おわりに
11月の再興院展を思い出しながら、春の院展を鑑賞した。その結果として印象に残ったのは下記である。
(1)再興院展に対して、春の院展は小ぶりでサイズの揃った作品であった。同人クラスは再興院展では大作ばかりであったが、この小さめのサイズで再興院展と同様な調子で絵を描くとやや迫力に欠けるということがわかった。
(2)3つの特別賞から院展で評価される作品の方向性が少しわかる感じがした。今後日本美術院主催の展示会を見て、もう少し検討する。
(3)女性作家の活躍が非常に顕著である。10年ほどしたら日本画の作家集団ははどんな世界になるのか楽しみである。
<追記>
gooブログが暫くするとなくなるということで、移転先に「はてな」と「Ameba」を推奨しているとのこと。
私は以前Amebaをやっていて放置していたので、そちらの状況を見に行くと、なんと断わりもなく削除されていた。
気持ちはかなりはてなに傾いていいるが、もう少し状況を見て、夏ごろに移転先を決めたいと思います。