大塚惠子・黒木ゆり子(玉川上水・すぎなみの会)
玉川上水は平成15年(2003年)8月27日、国の史跡になり、また、平成11年(1999年)3月19日歴史環境保全地域に指定されました。歴史文化とともに自然環境を保全するために指定に至りました。
令和元年6月8日、杉並区の玉川上水沿いに上水を挟んで上りと下りのそれぞれ2車線の、放射第5号線道路が開通しました。それによりこの地域は道路建設中を含めて自然環境が大きく改変されてきました。
東京都は上水内には手を付けないので生物への影響はほとんどないと言い、道路建設を続けました。しかしそれにより周囲の緑は急速に失われました。開通から2年たった現在、緑道に植栽した樹木はまだ若く心もとないです。上水内の法面に樹木があるので、かろうじて生物多様性が維持されている状況です。
かつて、この地域にはイヌシデやコナラが美しい屋敷林がありました。そこには絶滅危惧種のキンランやギンランが多数生育していました。都建設局はそれらの樹木の一部を閉鎖区域の玉川上水緑道に移植し、同時にキンラン等も移植をしました。地域で保全活動をしていた「玉川上水・すぎなみの会」はキンラン等の移植は難しく他に移動させると育たない、屋敷林はそのまま残してほしいと訴えてきました。しかし道路建設予定地内に屋敷林はあったので多額の税金を投じて樹木とキンラン等は移植されました。
キンランは樹木と菌根菌と三者が共生している植物のため表土とその地上と地下部の生態系を移植する表土ブロック工法が行われました。表土ブロック工法とは、表土ブロックを四角く切りとり重機にのせて、移植する方法です。ところによっては、広い範囲で樹木ごと移した場所もあります。キンランのような三者が共生する植物の保全は難しく自生地を保全することが望ましいことでした。
すぎなみの会は長年キンラン等の生育状況を調べてきました。キンラン調査の目的は玉川上水の自然環境と生物多様性の保全です。環境の移り変わりをみて、状況を記録してきました。今年の調査でもキンラン等の生育数は極端に減少して危ない状況にあります。キンラン等が生育するということは、その周辺地域に生物多様性が保たれた自然が残っていることと私たちは考えています。しかし都水道局の玉川上水整備活用計画により、今年秋に杉並区の上水内の樹木約154本の伐採と約54本の強剪定が実施されています。
現在、上水内は水道局が、緑道は建設局が管理しています。伐採予定の上水に接する緑道内にキンラン等が移植されていることを、水道局は全く知っていませんでした。局が違うだけで申し送りもされていないことは納得できません。縦割り行政の弊害です。周辺の高井戸公園や岩崎橋の公園や上水内も同時期に整備や伐採が続いています。私たちは緑の量を出来るだけ多く残して、生物多様性とそれを象徴するキンラン等の生存を確かなものにするように希望します。玉川上水内と玉川上水緑道の管理を関係する部局が協働、連携して、この地域の生物多様性を維持していくべきです。このことは水道局や建設局をはじめとして、杉並区を通じて東京都環境局が主催する玉川上水緑の保全事業都・区市連絡協議会に依頼しています。引き続き行政は市民と連携して管理に当たるよう切に要望します。
公園では、他にマヤラン・ギンランなど観察される。杉並の上水沿いの屋敷林では、ギンラン・ササバギンランも観察されたが、近年は確認されていない。かわりにクゲヌマランを確認している。近年、造成地や都市公園で分布を広げている。 (撮影 井の頭公園、大塚)
キンランは、樹木(イヌシデ、コナラ、クヌギなど)の外生菌根菌(ベニタケ科、ロウタケ科、イボタケ科など)と共生して栄養を得ているので、植え替えても根付きません。生物多様性の底辺の土壌は大切です。整備し、かく乱された土壌は外来種が入りやすくなります。(撮影、杉並区玉川上水沿い)