玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します。

野鳥調査 2021.7.17

2021-07-17 21:50:32 | 調査報告

玉川上水の鳥類調査報告―2021年7月17日―

 

大石征夫・大塚惠子・大出水幹男・尾川直子・鈴木浩克・高槻成紀

 

玉川上水の4カ所で2021年1月、3月上旬と下旬、5月に植生と鳥類の対応を調べた。目的や方法などは既報と重複するので略すが、植生は三鷹と小平が森林があり、杉並がこれに次ぎ、小金井は林がなくてサクラが間隔を置いて植えられているという違いがある。今回はその継続として2021年75月17日に行った。杉並は大塚、田中、三鷹は鈴木、小金井は大石、小平は大出水、尾川、高槻、関野が担当した。調査時間は午前7時から開始し、所要時間は45分から1時間半とした。

調査には田中 操様、関野吉晴様に協力いただきました。

 

結果

<種数、羽数、多様度>

 種数は小金井が最少の7種、杉並と小平がこれに次ぎ、三鷹が15種と最多であった(図1)。

図1 出現種数の比較

 

 合計羽数は三鷹と小平がそれぞれ100羽と109羽と多く、杉並が54羽、小金井が最少の43羽であった(図2)。

 

図2 合計羽数の比較

 

 これらをもとに多様度指数を算出したところ、杉並、みたか、小平は3前後であったが、小金井が2.4と目立って小さかった(図3)。

 

図3 多様度指数の比較

 

<代表的な鳥類>

4カ所の合計羽数が多かった鳥類を森林にいる鳥類とオープンな場所にもいる種に分けて、場所の比較をする。ただしここではヒヨドリをオープン・タイプとしたが、ヒヨドリは典型的なオープン・タイプではなく森林もよく利用する。ここでいうオープンタイプとは、キツツキ類のような典型的な森林タイプではないという意味であり、最終的な類型は今後さらに検討したい。

森林にいる鳥類ではシジュウカラが多かったが、小平で特に多かった(図4a)。メジロは三鷹が多く、小金井は1羽だけだった。キジバトは大きな違いはなく、コゲラは小平が多かった。

 

図4a 代表的な森林生の鳥類の羽数の場所比較

 

 オープンな環境にもいる鳥類では場所ごとに違いがあった。小平では、ヒヨドリ、ハシブトガラス、ムクドリが多く、ハシブトガラスとムクドリは三鷹と同レベルだったが、小金井は1羽またはゼロだった。ヒヨドリは杉並で少なかった。スズメは杉並と小金井で8, 7羽だったが、三鷹で1羽、小平でゼロだった。ハシブトガラスは三鷹で6羽だった以外はごく少なかった。

 

図4b 代表的なオープンな環境にもいる鳥類の羽数の場所比較

 

<生息地の状態と鳥類>

記録された鳥類を森林にすむ種、オープンな場所にもいる種、水辺にいる種に分けこのうち森林にすむ鳥の割合を見ると、4カ所で大きな違いは認められなかった。

 

図5 森林にすむ鳥の割合(森林鳥類率)

 

 玉川上水の緑地の「内側」にいた鳥類の割合(%)をみると、三鷹と小金井だけが小さかった(図6)。

 

図6 玉川上水「内側」にいた鳥類の割合

 

1月から5回の調査を重ねてきたので、季節変化を比較したところ、種数は三鷹が多く、小平、杉並がこれに次ぎ、小金井がつねに最少だった(図7)。

 

図7. 種数の季節変化

 

 羽数はやや複雑で三鷹と小平が多く、小金井が最小で杉並は多くの場合小金井に近い少なさだったが3月下旬だけは突出した一位になった(図8)。これは満開のサクラを吸蜜するヒヨドリが152羽と多く見られたことによる。

 

図8. 羽数の季節変化

 

 これに伴い、多様度指数も三鷹、小平についで多くの場合杉並、小金井の順であったが、3月下旬だけは杉並が落ち込んだ(図9)。

 

図9. 多様度の季節変化

 

 森林に住む鳥類の割合は、三鷹が最高で小平がそれに次ぐという点は安定していたが、杉並と小金井は不安定な季節変化を示した(図10)。頻度は杉並のほうが高いことが多かったが、3月下旬はヒヨドリが多かったために杉並の森林率は小さくなった。また7月は杉並でも小金井でも森林率は大きくなった。これは杉並では7月にオナガが5羽記録され、ヒヨドリ、ハシブトガラスがほかの場所より少なかったためであろう。小金井で森林率が高かったのは森林の鳥類が多いのではなく、ハシブトガラス、ムクドリなどがほかの場所より少なかったためであろう。

 

図10. 森林タイプの鳥類の割合の季節変化

 

<考察>

 4カ所のうち小金井が種数、羽数、多様度指数、「内部」率がもっとも小さかった。これまでの調査でも概ね同じ傾向があった。生息地の植生管理との関係を考えると、小金井地区ではサクラだけを残し、他の樹木を伐採したために、鳥類にとってすみにくくなって種数、羽数ともに減少したと考えられる。このことは、樹木の量と多様性を減少させると、鳥類の数と多様性が減少することを示唆する。

これらの傾向はこれまでの調査とほぼ同様であるが、「森林鳥類率」はこれまで三鷹と小平で高い傾向があったが、今回は4カ所が横並びであった。杉並でこの割合が高かったのは玉川上水の森林の状態が良いためであるが、同時に周辺の環境が都市化して鳥類にとって不適であることでもある。これは同じようにこの割合が高かった小平の玉川上水の森林が、幅が広く厚みがあり、周辺にも杉並よりは緑が多いにもかかわらず、それ以上に玉川上水が好適であるためであるのとは意味が違いそうである。また、これまで小金井で森林鳥類率が低かったのに今回低くなかったのは、出現鳥類が種数、羽数とも貧弱であり、全体が極端に貧弱であることの結果であって「森林の鳥類が豊富である」ということを意味しない。これらのことは通年の結果を見て評価すべきことであろう。

今回の調査結果を含め、玉川上水の植生の状態が鳥類の生息に影響を与えていることは確かなようである。現在、樹木調査を進めており、杉並と三鷹で調査が完了した。このデータも鳥類の生息状態を矛盾なく説明するようであるが、これは小金井と小平での調査が終わってから論じたい。