ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

039. 春はそこまで

2018-11-25 | エッセイ

 このところずっと寒い日が続いている。
 ロシアではマイナス50度とか30度とか信じられないほど異常な低温だとついこの間まで騒いでいたが、その寒波はトルコやギリシャまですっぽり覆い、ポーランドやドイツでも犠牲者が出ている。
 ポルトガルもいつもの年よりずっと寒い感じがする。
 それでも昼間の気温は14度前後あるからパリやロンドンなどに比べるとずっと暖かいのだが、なにしろ暖房設備が完備していないから、家の中は底冷えがする。

 寒さの厳しいスウェーデンに住んでいた時は、どの家もどのアパートもセントラルヒーティングが完備していたので、部屋の中ではTシャツ一枚で快適に過ごしていた。
 外に出るとマイナス10度以上の低温で、ビトシの口髭はピッピッと瞬く間にツララができたほどの寒さだったのに、部屋の中はとても過ごしやすかった。

 それに比べると冬のポルトガルの家の中は底冷えがする。
 なにしろ我が家は暖炉などは付いていないし、暖房器具といえばオイルヒーターがふたつあるだけ。
 曇った日などはセーターやカーディガンを重ね着して、足には裏毛の付いたブーツ型のスリッパを履いて、オイルヒーターにぴたっと引っ付いてやっと暖をとっている。
 それでもまだ寒い時はオイルヒーターに小さい毛布を掛けて炬燵がわりにしている。
 そうすると足元がホカホカと暖まり、やがて身体中がぬくもってくるからありがたい。
 帰国したら日本から炬燵を持ってこようといつも思っているのだが、なにしろかさ張って荷物になるし、毎年オイルヒーターでなんとかしのいでいるから、「まっ、いいか…」ですんでいる。

 そんな寒さの中でも植物は春を感じて、蕾をほころばせ、花が咲き始める。
 我が家の南側には昔、セトゥーバルの町を囲んでいた城壁の一部が見える。
 その上にはアーモンドの木がたくさん植えられていて、一月も半ばを過ぎたころからそれまで灰色だった木々が薄っすらと色づき始める。

 底冷えのする日々の中にポッカリと暖かい日がやって来る。
 そんな日は強い日差しと真っ青な空、それまでの灰色の冬日を忘れるような、まるで初夏のような陽気。
 陽気に誘われて郊外に出かけた。

 道路沿いにも1本、2本とアーモンドの木があり、桜によく似た薄いピンクの花を咲かせている。
 去年満開の花を堪能したパルメラ城の下に行ったが、セトゥーバルよりも高い場所のせいかまだほとんど咲いていなかったのでがっかり。
 目当ての屋敷の数本のアーモンドの木は枝がばっさりと剪定してあり、今年の花は期待できそうもない。虫でも付いたのだろうか。
 パルメラからアゼイタオに行ったが、ここの木もまだのようだったので、帰りはアラビダ山を回ることにした。
 アラビダ山は二年続けて大規模な山火事が発生して、セトゥーバル方面からは通行止めになっている。
 アゼイタオからだったらひょっとしてある程度は行けるかもしれないということで、久しぶりに足を延ばした。

 登り口辺りには大きな別荘が何軒もある。
 上から降りてくる車がけっこう多い。
 しばらく登ると分かれ道に出た。
 右に行くとポシーニョの海岸に出る。
 レストランが数軒あり、ダイビングスポットもある。
 でもその道は注意の看板がしてあった。
 左はアラビダ修道院への道で、そっちには行けそうだ。

 アラビダ修道院は昔修道僧たちが自給自足の生活をしながら修業を積んだ所で、立派な建物の他に、山中には一人でこもって瞑想に耽る狭いスペースの小屋がいくつも残っている。
 以前、アラビダ修道院をテーマにした展覧会のために、セトゥーバルの画家たちが招待されて敷地内で制作する機会があって、私たちも参加したことがある。
 普通は門は閉ざされていて、中に入ることはできないらしい。
 今日も閉じられた門の前に人びとが集まっていた。
 服装からするとアラビダ山をトレッキングするグループのようだ。

 そこから道路はくねくねとカーブの多い山道が続き、道路脇には薄いピンク色の小さな花をびっしり付けた背の低いかん木がたくさん生えている。
 車を降りてじっくりと観察し、カメラでズームアップするとなかなか美しい姿をしている。
 花にはミツバチもとまっていた。
 これはロスマリーニョス(ローズマリー)の花に違いない。

 


ミツバチが好むロスマリニョス

 


花を接写するとまるで蘭のようで美しい。

 メルカドでいつも買っていた蜂蜜はアラビダ山で採れる蜂蜜なのだと店の人は言っていた。
 ラベルにはミツバチが集めてくる花の種類が書いてあって、その中にロスマリーニョスの名前があった。
 その蜂蜜は「メルピュ-ロ」、つまり混じりけのない純粋な蜂蜜ということだった。
 大規模な山火事の後、アラビダで採れるピュアーな蜂蜜はいつのまにか姿を消してしまったので残念に思っていたのだが、こんなに花が咲いているのをみると、また復活するかもしれない。
楽しみ!

 初夏のような陽射しは残念なことに一日だけで、翌日からはまた薄寒い天気になってしまった。
 そういえば今年はツバメの第一陣もまだ姿を見せない。
 春よこい、は~やくこい!

MUZ
(2006/01/27)

(この文は2006年2月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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K.053. バルセロスのロウソク立て Castiçal

2018-11-25 | 飾り棚

高さ9.5cm

 ポルトガルの北方、ミーニョ地方の町、バルセロスの焼き物。
 この町の陶器は茶色の素焼きの上に白い上薬を使った点描模様が特徴。
 我家には同じ模様の土鍋や壺など、いつのまにか数が増えている。
 このロウソク立ては、今年の夏のサンチャゴ祭で見つけて買ったもの。
 このところ停電はほとんど起きなくなったので、ロウソク立ての出番はないが、陶器市で見かけるとついつい買ってしまう。
 片手で握れる取っ手がいい。 MUZ

©2018 MUZVIT


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