ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

K.044. オリーヴの絵柄オリーヴ入れ Azeitoneira

2018-11-16 | 飾り棚

直径 9.6cm


 先週はオリーヴを漬ける甕(かめ)で今週はオリーヴを食べる時に盛り付ける皿。
 どうもオリーヴに関する物が多い。
 これもサン・ペドロの陶器。
 裏には釘彫で全面にしっかりとサインが施されている。
 表の絵柄も小さい割にはしっかりと彫られ丁寧に着色されている。
 でもこれはサン・ペドロの窯元で買ったのではなく、10年も前にセトゥーバルのサンチャゴ祭の陶器市で買ったもの。
 そのサンチャゴ祭は先週の土曜日から始まっている筈である。
 「筈である。」と言うのは、今年からルイサ・トディ大通り公園を通行止めにしての開催ではなく、どうやら特設会場を設けて始まっているらしい。
 例年なら先ず陶器屋さんが店を出し始め、次いで木工製品、皮製品、銅製品、それからサーカス小屋が建ったり、移動遊園地が始まったりそして食べ物屋、フォルチューラス(ドーナツ屋)。
 各サークルの展示場と徐々に広がって行くのだが今年はそれが全くない。
 ないと言うより会場が移ってしまったので、私たちの目に触れなかったのだ。
 やはりポルトガルもかなりクルマ社会になってきて、交通規制がだんだん難しくなって来ているのかも知れない。
 会場はこの町の反対側の丘の上。
 市から配布されているスケジュール表を見ると、連日、ファドやフォルクローレなどの音楽の催しも予定されているが、始まるのはいつも夜10時から。
 セトゥーバルの住民たちの熱帯夜をやり過ごす知恵なのだろうか?
 とても付き合ってはいられない。MUZ

©2018 MUZVIT

 


030. カラスが来た日

2018-11-16 | エッセイ

 ベランダの近くに張り出している松の木の枝に山鳩の巣が架かっている。
 山鳩のつがいがせっせと巣を作っているのをみかけたのはもう何年前だろうか。
 そこに卵を産み、母鳥が卵を抱いている間、父鳥が餌をとってきて母鳥に与えていた。
 やがてひながかえると、母鳥と父鳥が交代でひなを抱き、餌をとりに出かける。

 餌をくわえて帰ってきた山鳩はすごく用心深い。
 巣からかなり離れた枝にとまり、周りの様子をうかがって三度ほど枝をかえてやっとひなと相方の待っている巣にたどりつく。

 松林は丘の斜面にあるので、下から吹き上げてくる風がまともに当る。
 松林のあるおかげで我が家への風当たりはかなりゆるくなっているのだが、松の木の高い場所にある山鳩の巣はまともに風があたり、強風の時などゆっさゆっさと激しく前後左右に揺さぶられている。

 よく落ちないものだ…といつも思うのだが、今まで落ちたことは一度もないから不思議。
 鳥の巣作りというのは誰に教えられたわけでもないのに、頑丈に機能的に作ってしまうものだ…と感心してしまう。

 はっきりは分からないが、たしか3週間ほど経つころに、巣の中のひなが外に出て行こうとする。
 ひなはたいてい2羽だ。
 巣の近くの枝によちよちと危なっかしく伝い歩き、バサバサと羽ばたく真似をする。
 それからいつのまにか巣立っていく。

 どこに行ったか判らない。
 我が家の屋根の隙間にいるのかもしれない。
 「クエーッ、クエーッ」と喉を絞るような声をあげながら、キッチンの上の屋根に飛び上がっていく。
 でもそれが親鳥なのか、ひなの成長した姿なのか、区別がつかない。

 電線に止まっている山鳩が一時期10羽ほどに増えたことがある。
 そんな時、青い家の後ろあたりから鉄砲担いだ悪がきや悪親父がにやにやしながらやって来たもんだ。
 空気銃らしいが、山鳩を狙って銃を向けパンパンと乾いた音を出して撃つ。
 当ったのを見たことがないので、命中率はかなり低いようだ。
 でも外れた弾がどこに飛んで来るのかがよけい心配になる。
 このごろは悪がきがどこかへ引っ越してしまったのか、そういうことはなくなったけど。

 山鳩の巣は風雨にさらされ、そのまま朽果てていくのかと思っていたが、ある日せっせと巣を修復している山鳩の姿があった。
 また卵を産んで一日中抱いている。

 そんなことが何回も繰り返されながら数年経った。
 でも最初のつがいがその巣を使っているのかどうか判らない。
 案外、成長したひなが卵を産んで抱いているのかもしれない。
 それにしても巣は古いまま少し手直ししただけでずっと使っているようだ。
 使用年数がそうとう経って、今では立派な中古住宅といえる。

 今もまた卵を抱いている姿が見える。
 ある朝、突然「ガーッ、ガ~」という耳慣れない鳴き声が聞こえた。
 といっても、ポルトガルでは耳慣れないが日本ではよく知っている鳴き声だ。
 「まさか!」
 急いで松の木のあちこちを見ると、「いた、いた!」
 「カラスだ~」
 松の木の一番てっぺんの枝先にとまってガ~、ガ~とあたりを威嚇するように鳴いている。
 日本のカラスに比べてひと回り身体が小さいし、口ばしも短いようだ。

 二年ほど前になるだろうか、セトゥーバルからサド湾を対岸のトロイアに渡り、一時間ほど走った松林のあたりでカラスを数羽見かけた。
 それまでポルトガルのあちこちを旅して一度もカラスなど見たことがなかったから驚いた。

 「ああ、とうとうカラスがやってきた!」
 サド湾を越えてセトゥーバルまで来るのは時間の問題だ。

 カラスが住み始めると我が家の周りの野鳥たちには脅威になるだろう。
 今まで小鳥たちにとっての天敵はカモメぐらいしかいなかった。
 カモメはよほど海が荒れたときしか近づいてこないので、そんなに恐怖でもないだろう。

 カラスが増えたら大変だと、私は密かに心配していた。
 ところが去年の初め、郊外を走っていたら畑の中に黒い鳥が数羽いた。
 カラスがサド湾を渡ってこちら側に住み着いたのだ!
 それから数ヶ月後、今度はセトゥーバルにもっと近い所にある馬の放牧場で数羽見かけた。

 そして今年、とうとう我が家の前の松の木に姿を現した。
 山鳩の巣では子育て中。
 カラスはひなをねらっているにちがいない。

 カラスはそれ以来決まったように毎朝8時過ぎに同じ枝の先にやって来て、ガ~ガ~と鳴くようになった。
 不思議なことに、カラスは朝だけ姿を現す。
 そしてひとしきりうるさく鳴くといつのまにか何処かへ飛んで行く。
 山鳩にとって落ち着かない朝が毎日続いている。

 ある朝、バサバサと異様な音が松林の中から聞こえてきた。
 なんだか激しい羽ばたきの音だ。
 驚いてベランダに出てみると、枝や幹の隙間をカラスが逃げまわっている。
 追いかけているのは山鳩の夫婦だった。
 子供を持った親は猛然と敵に向って攻撃していた。
 カラスは驚き、戸惑って一目散にどこかへ飛び去った。

 でも次の朝、同じ時刻にカラスは素知らぬ振りで枝にとまり、耳ざわりな鳴き声をあげていた。

MUZ
2005/03/01

 

©2005,Mutsuko Takemoto
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(この文は2005年3月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに少しずつ移して行こうと思っています。)

 

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