廃駅になった駅舎を改造したペンションがあるという。
場所はアルトアレンテージョ、カステロ・デ・ヴィデの駅らしい。
カステロ・デ・ヴィデの町は何度も訪れているが、駅があるとは知らなかった。その駅舎に泊まれるというのも、すごく魅力的だ。さっそく予約した。
山に行った帰りに、一泊余分にそこに泊まることにした。駅舎に泊まれることはめったにないチャンスだ。それはペンション・デスティーニョ。
(ペンション行先)と言う意味だろうか?
でもどこにあるのかすぐに判るのだろうか、なにしろ駅は町からとんでもない場所にあるのが、このごろ「駅はどこだ~」の取材をしてだんだん分かってきたのだ。
カステロ・デ・ヴィデの町に着くと、ツーリスモ(ツーリスト・インフォメーション)に行ったが、昼休みで閉まっている。3時から開くはずなのだが、3時10分過ぎにようやく係の女性がやってきた。先客の女性が一人いて、ながながとシナゴーグのことを聞いている。この町はユダヤ人の多く住む町で、街中にユダヤ教会シナゴーグがある。以前、その前を通ったことがあるが、中に入ったことはない。
私たちはクルマなので広場の周りに止めるつもりなのだが、空きスペースが一台もなく、仕方がないのでビトシが車に乗ったままで路上駐車している。警察が来て罰金を請求されたらどうしようと、私は気が気じゃなくイライラしていたのだろう。係の人がその様子を見て、先客がまだ話を続けようとするのを制して、私にうながした。これでやっと目指すペンションがどこにあるのか尋ねることができた。そこで町の地図をもらって出発した。今やってきた道を少し引返すのだが、街中で大規模な道路工事をやっていて町からの出口が判らない。一方通行なので道路工事をしているときにぶつかると、時々困惑する。道路標識がどっちを向いているのか判断に苦しむのだ。結局、町の中をぐるぐる走らされて、ようやく町を抜けた。ツーリスモが教えてくれた道はすぐ分かったが、そこから入る道が判らない。どうも変だと思ってUターンして、別の道を進んだ。やがて踏切があり、そこから少し行った所に目指すペンションがあった。
ペンション・デスティーノの道路側
しかしペンションには誰もいない。入り口のドアに張り紙があって、「3時まで用事があるのでそれ以前に着いたら携帯に連絡をしてください」とのこと。すぐに留守番電話にメッセージを入れたが、入れ違いに女性が自転車に乗ってやってきた。
ヘルメットを被って、サイクリング用の服を着た30代の若い女性だった。
私はペンションの経営者は年配の女性ではないかとなんとなく思っていたので、案外な出会いだった。彼女の名前はアナベラといって、カステロ・デ・ヴィデに住んでいるという。そうするとこのペンションは夜は私たちだけかと聞くと、もう一組カップルが2日まえから滞在しているが、彼らは今、町のプールに泳ぎに行っていると言った。
プラットホーム側
ペンションには部屋が4部屋しかなく、道路側と線路側の部屋を見せてくれた。もちろん線路側、つまりプラットホームに面した部屋に決めた。たぶん元の駅長室だ。駅舎の外観は元の形だが、部屋はリメイクしてとてもモダンだ。専用のシャワーとトイレも付いている。元待合室の共用のキッチンを案内してくれたが、洗濯機や冷蔵庫や食器なども完備して、自由に使ってくれとのこと。長期滞在も可能だ。私たちは昼食をたっぷり取ったので、夕食はワインとつまみ程度で充分。冷蔵庫を一段空けてくれたので、そこにワインとハムやチーズを入れた。
アナベラは洗濯物のシーツを干してから、また自転車に乗って帰って行った。
ペンションの入口。入り口のガラスには私たちへのメモが張り紙してある。
プラットホーム側にはカステロ・デ・ヴィデの見どころを描いたアズレージョがある。
正面入り口
プラットホームにはイスとテーブルセットが3組出してある。そこに座るとゆったりとして気持ちがいい。でもプラットホームにも線路にも雑草が生い茂っている。それを見ているとつい草取りがしたくなる。でもここまで来て、それはないなと思いとどまった。
線路は草ぼうぼう
元駅舎の周りを少し探検。貨物駅舎の扉には文字が一面に書き込まれている。それはなんとなくセンスの良さを感じる落書きだ。何かの詩を書いたものらしい。この駅舎の向かいには大きな豪邸があり、その壁にはこの家はかっての詩人が住んでいたというプレートがはめ込んである。今は市役所が管理しているらしい。こんな立派な豪邸が空き家とはもったいない。私には解らないが、貨物駅舎の扉の落書きはその詩人の詩かもしれない。
石壁に埋められた道路標識
夕方になって再びカステロ・デ・ヴィデの町に出かけた。
城跡に上ると町全体が見晴らせて良い景色だ。5時を過ぎているので、城の塔へ上る入り口は閉まっていた。以前は一番上まで登ったものだ。
城から降りて、広場のカフェでノンアルコールビールとタラのコロッケで休憩。広場には10軒ほどのカフェがあるが、どこの店もほとんど満席に近い。今日の仕事を終えた人々がカフェにやって来て、カラコイス(カタツムリ)をつまみにビールを飲んでいる。通りかかった車に声をかけたり、知り合いがやってきて合流したりする。
しばらく人々を眺めていると、ツーリスモの女性が前を通りかった。手を挙げてあいさつすると、彼女も私たちに気づいて、「ペンションは見つかりましたか?」と声をかけてきた。「いや、なかなか見つけにくかったけど、どうにかたどり着きました、ありがとう」とお礼を言って別れた。道の曲がり角に小さな看板でも付けてくれたら、すぐに見つかったのだが、最初に道が判らなくなってUターンした場所、そこに小さな看板があったら引き返すことはいらなかったのに。そこの場所から右折したら、ペンションはすぐそこだったのだから。
部屋からの景色
ペンションに帰って、プラットホームの椅子に座ってワインを飲んだ。周りから様々な小鳥のさえずりが聞こえ、無数の燕が飛び交う。さわやかな風が吹き渡り、とても気持ちが良い。
少し暗くなり始めたころ、同宿のカップルが町に出かけて行った。夕食時間は7時から始まる。私たちはハムとナッツでワインをもう一杯。MUZ