ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

029. プリマベイラ

2018-11-15 | エッセイ

 今年はどうしたことかセトゥーバルはまったくと言ってよいほど雨が降らない。
 元旦に曇っただけで、それ以来毎日の様に晴天が続いている。
 ニュースを見ると、リスボン以北では時々雨が降っているそうだが…。
 少し前にはスコットランドやデンマークなどで大雨が降り洪水が出た。
 大雨をもたらす低気圧が今年はヨーロッパの北の方ばかりを通過しているのがどうも原因らしい。

 ポルトガルでも普通は11月ごろから1月ごろまで雨が多く、毎年のようにどこかで洪水の被害が出ていたが、今年は幸いにもそうした話は聞かない。

 冬の日々は洗濯物を干しても油断ができないので困る。
 朝、良い天気だからと思っていっせいに干すと、いつのまにか真っ黒い雲が現われる。
 そうなると私はピーンと緊張の糸を張り、ベランダの床のタイルを一心に見つめている。
 雨雲の流れはとても早いので、いつ降り出すか分らないし、いったん降り始めるとバシャーとたたきつけるような雨になる。

 やがて、ポツリ、ポツリと大粒の雨が落ちてくる。
 一滴、二滴とベランダのレンガタイルに雨粒の大きな染みが現われた!
 「それーっ、降り出した~」
 一目散に窓に駆け寄り、さっき干したばかりの洗濯物を取り入れるのに必死。
 近所のセニョーラたちも「シューバ、シューバ~」(雨、雨だよ~)と隣近所に大声で知らせながら、大慌てで取り込んでいる。
 でも雨雲は強風に煽られて散りじりになり、しばらくすると青空が顔を出す。
 するとあちこちの家の窓がガラガラと開く音がして、キー、キーッとロープをきしませながらまた洗濯物を干し始める。
 そんなことを一日に何度も繰り返し、洗濯物は2日がかりでなんとか乾く。

 部屋の隅や風呂場にはうっかりするとカビまで生えてくるので、ひと冬で2回ほどはカビ取りをする必要がある。
 冬の日々はなかなか気が抜けない。

 ところが今年は雨が降らない!
 おかげで洗濯物はカラリと乾くし、私はのんびり日なたぼっこの毎日。

 でもポルトガルの北の方では普段は降らない所まで雪が降り、しかもかなり積もったという。
 全国的に記録的な低温で、このところ毎日のニュースでトップあつかいである。
 セトゥーバルでも、日なたは快適だが、一歩陰に入るとまるで冷蔵庫の中。
 リスボンの町を行く人々も厚着をして、首にマフラーを深々と巻いている。
 まるで冬のパリの街を歩く服装のようだ。

 アレンテージョ地方ではダムの水が減少し、低温と水不足のせいで、子牛や羊に被害が出ている。
 去年の夏の猛暑と山火事で、山は丸裸になり、保水力が無くなったのも水不足の原因らしい。

 ところがこんなに低温が続いているのに、1月22日のこと、遠くに見える景色の中に薄っすらとピンクの淡い雲を発見した。
 昔セトゥーバルの町を取り囲んでいた城壁の一部が今も残っていて、そこがかなり広大なアーモンド畑になっている。
 この寒さにめげず、アーモンドの花がいっせいに咲き始めたのだ。

 「あっ、プリマヴイラ!春が来た!」

 

2005/01/25  アーモンドの花 Lagoinhaにて

 

これは少しピンクが濃い

 

まるで桜が咲いた様 Palmelaのお城の下

 

ピラカンサの生垣の向うに咲き誇るアーモンドの大木 Volta da Pedra

 

 

 

 

   

 

 アーモンド酒
[Amêndoa]

 アーモンドの種から作ったリキュール。そのまま飲むにはちょっと甘すぎるけれど、「ボーロ・デ・レイ」(ドライフルーツやナッツなどがたっぷり入ったお菓子)などに沁みこませて食べるといくらでも入る。アーモンドの香りが溶け込んで豊かな風味、なのに安価なのが嬉しい。眠れない時はそのままグラスでグイグイと。それで私は太る。そういう意味では恐いお酒だ。

 

2005/01/29 Azeitão 立派な大木が何本もあるアーモンド畑。でも宅地造成中。

 

 アーモンドの花は真っ盛りなのに、毎日空気が冷たい。

 モロッコ沖のポルトガル領「マデイラ島」は常夏の島のはずなのに、山にかなりの雪が積もったという。
 地元の人は「こんなことは初めて!」と戸惑い、観光客たちは海やプールで使うはずのプラスティックのサーフボードをかかえて、積もった雪の上をスノーボード遊びで大喜び。

 奇妙なプリマベイラ(春)がやって来た…。

MUZ

 

©2005,Mutsuko Takemoto
本ホームページ内に掲載の記事・画像・アニメ・イラスト・写真などは全てオリジナル作品です。一切の無断転載はご遠慮下さい。

 

(この文は2005年2月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

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K.043. 素焼き大甕(おおがめ) Pote

2018-11-15 | 飾り棚

高さ 45cm


 オリーヴの実を塩漬けする時に使う大甕。
 30キロは入ってしまう。
 日本で梅雨時に一年分の梅干しを漬ける様なものだろうか?

 サン・ペドロの窯元でこの甕を見かけた時、味噌造り用にもってこいと思って買って帰ったのだが、大きすぎて玄関の飾りになってしまった。

 飾りと言っても単なる飾りではなくて、蓋を付けて椅子代わりに座れる様にして、中には米や大豆を入れて保存している。
 甕の中は比較的温度が一定で、しかも我家の玄関はあまり気温に左右されないので、穀物の保存場所として最適である。

 我家を訪れたお客さんは単なる飾り物だと思って、まさか中にお米が入っているとは気付かないだろう。MUZ

©2018 MUZVIT

 


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