本日は白人テナー奏者のアル・コーンです。コーンと言えば何と言ってもズート・シムズと組んだテナーコンビ、アル&ズートがよく知られています。2人とも1940年代のウディ・ハーマン楽団時代から一緒にプレイしており、その後1956年のRCA盤「フロム・A・トゥ・Z」を皮切りに、「アル・アンド・ズート」「ハーフノートの夜」「ユー&ミー」等全部で10枚近くのアルバムを残しています。ただ、知名度的にはどうしてもズート・シムズの方が上で、コーンについてはあくまで”ズートの片割れ”的な印象が強いですね。どちらかと言うとテナー一本で勝負するタイプのズートに対し、コーンの方は作曲・編曲もこなしアレンジャーとしても活躍するマルチな才能の持ち主なんですが、ジャズファンからあまりそこが評価されていないのは切ないところです。
実際、ズートの方はアル&ズート以外のソロ活動でも多くの名盤がパッと思い浮かびますが、コーンのソロ作品は正直出てこないです。ないわけではなく、RCAを中心に何枚もリーダー作を発表しているのですが、CDではほとんど見かけたことがないですね。私が唯一所有しているのが今日ご紹介する「コーン・オン・ザ・サクソフォン」。1956年9月にドーン・レコードと言うマイナーレーベルに吹き込まれたものです。メンバーはハンク・ジョーンズ(ピアノ)、ミルト・ヒントン(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)。ハードバップ世代より一つ上の世代のベテラン達によるリズムセクションです。さらに10曲中3曲で白人トロンボーン奏者のフランク・リハックが加わっています。
全10曲。歌モノスタンダードが7曲、コーンのオリジナルが3曲と言う構成です。オープニングはシナトラがヒットさせた"We Three"。美しいバラードでコーンがワンホーンでロマンチックに歌い上げます。もう少しスイング系の曲で攻めてくるかと思ったのですが、意表を突いてなかなか良いですね。3曲目”The Things I Love"も同じようなワンホーンによるバラード演奏です。2曲目”Idaho"はいかにもな感じのスインギーなナンバーで、リハックのトロンボーン→コーン→そしてオシー・ジョンソンのドラムとの掛け合いと続きます。4曲目”Singing The Blues"では再びコーンのワンホーンですが、ここではハンク・ジョーンズが素晴らしいピアノソロを聴かせてくれます。スタンダード曲では他に6曲目”When Day Is Done”、8曲目"Softly, As In A Morning Sunrise"、10曲目"Blue Lou"もワンホーンによるスインギーな演奏です。
一方、コーンのオリジナル曲の方ですが、どれもアーシーなミディアムナンバーで、アル&ズートで演奏しそうな曲ばかりです。彼は白人ではありますがウェストコーストジャズのようなカラッとした曲は作らず、どちらかと言うとベイシー楽団、特にレスター・ヤングの影響を強く受けているようですね。ズート・シムズも同じスタイルなので2人ともウマが合ったのでしょう。5曲目”Be Loose"、7曲目”Good Old Blues"、そして9曲目”Abstract Of You"とどれも中間派風の演奏で、前者2曲ではフランク・リハックのトロンボーンもコクを深めています。”Good Old Blues"でのハンク・ジョーンズのブルージーなピアノソロもさすがです。床屋のサインポールみたいな変なジャケットはイケてないですが、中身はなかなか味わい深い一品です。