小説キャンディキャンディFinal Story上・下巻 名木田恵子 (著) 祥伝社 (2010/11/1) の考察です
注:物語に関するネタバレがあります
あの人はどんな人1の考察に続いて、さらにあのひとを検証していきます。
大人のキャンディの独白部分からの抜粋を、まずお読みください。
アメリカに戻るまでの旅で起こった出来事を話したとき、はじめは大笑いしてわたしの話を聞いていたあのひとは、ふいに真剣な表情になるとわたしをきつく抱きしめた。
よく無事だった、と----。
-下巻第三章P148-
よく無事だった、と----。
-下巻第三章P148-
第三章冒頭での大人キャンディ独白部分からの抜粋です。第二章の最後で、キャンディはテリィを追ってセントポール学院を出ました。第三章では、その後にキャンディがアメリカに帰り着くまでに出会った人たちに宛てた手紙が紹介されます。
この抜粋の文章は、あのひとが、その時の話をキャンディから聞き、その時のキャンディのことを思い、溢れた感情であり、発した言葉なのです。
キャンディは、アルバートさんには何でも話しています。アルバートさんとは何でも話せる関係であることが、小説を通して強調されているのです。ですから、アルバートさんももちろん、この旅の話は聞いているはず。じゃあ、この文章を見れば、あのひとはアルバートさんである可能性もあるね、と言われれば、そうだよね、と言ってしまいたくなります。
しかし、ここでもやはり、テリィがしっかりと刻印されているのだと、ブログ主は言わざるを得ません。
検証してみましょう…
キャンディがアルバートさんにこの話をしたとしたら、それはいつ頃でしょうか?アルバートさんが記憶喪失中に、キャンディと同居していた頃と考えるのが妥当でしょう。その時に、アルバートさんが、ここまで思いのこもった反応をしたと考えるのは少々無理があります。少女の旅の話に笑い、そんなにも一途に彼(テリィ)を思っているのかと、心を動かされたことは十分に想像できますが…
次に、FinalStoryから、こちらの抜粋をお読みください。キャンディがテリィに宛てて書いた未投函の手紙からの抜粋です。
テリィ、あなたを追ってイギリスから帰ってきたときの冒険談、いつかゆっくり話したいと思っているうちに結局、話せませんでした。
-下巻第三章P275-
-下巻第三章P275-
作者は、わざわざキャンディに、テリィにその話をしたかったと言わせているのです。先にあのひととの会話として出てきた文章は、この希望が成就したことを暗示していると見るのが自然ではないでしょうか。
さらに、もう一つ注目したいのは、あの人のリアクションです。あのひとは「はじめは大笑い」し、ふいに「真剣な表情」になり、「わたしをきつく抱きしめた」とあります。キャンディキャンディの主要な登場人物は、イライザやニールなどのヒール役は別として、アルバートさんを筆頭に、性格がみな比較的おだやかで明るいのです。その中で、テリィは(特にキャンディのことになると)感情の起伏が激しい人物として際立ち、異質な光を放っているのです。
こんなにも微笑んでいたのに…
こんなに怒っちゃった
©水木杏子/いがらしゆみこ
逆バージョンだとこうなります
こんなに怒ってたのに…
もう穏やかで優しい表情
©水木杏子/いがらしゆみこ
アメリカに戻るまでの旅で起こった出来事を話したとき、はじめは大笑いしてわたしの話を聞いていたあのひとは、ふいに真剣な表情になるとわたしをきつく抱きしめた。
よく無事だった、と----。
-下巻第三章P148-
よく無事だった、と----。
-下巻第三章P148-
テリィの性質にピタリとあてはまるのです。