岩手の野づら

『みちのくの山野草』から引っ越し

〔当知是処〕

2018-02-27 09:00:00 | 賢治と法華経
《『イーハトーブと満州国』(宮下隆二著、PHP)の表紙》

 では次は、〝第一章 法華文学こそ我が使命〟の「『雨ニモマケズ』と曼荼羅」に入ろう。
 ここでは例の「雨ニモマケズ手帳」の中の『雨ニモマケズ』に関して宮下氏は論じている。そこで私が注目したのは、同手帳の冒頭
【Fig.1 一頁~二頁】

の右側の頁に書かれている経文、
 当知是処
 即是道場
 諸仏於此
 得三菩提
             <『校本宮澤賢治全集 資料第五(復元版雨ニモマケズ手帳)』(筑摩書房)>
についての宮下氏の次の解説である。
 これは、国柱会会員必携の『妙行正軌』の巻頭にある句で、法華経の「如来神力品第二十一」からの引用である。訓み下すと、次のようになる。

 まさに知るべし、この処は、
 すなわちこれ道場にして
 諸仏はここにおいて
 三菩提を得          (岩波文庫『法華経 下』参考)
            〈『イーハトーブと満州国』(宮下隆二著、PHP)21p〉
 そして同氏は、賢治がこの手帳の冒頭にこの句を記した意図を、
 賢治はこの手帳をつねに持ち歩くことで、賢治にとって、日常生活のすべてが修行の場となり、宗教生活の場となったのである。
          〈同22p〉
と推測していた。

 なお小倉豊文によれば、こ続きは一頁飛んで三頁に続いており、
【Fig.1 三頁~四頁】

             <『校本宮澤賢治全集 資料第五(復元版雨ニモマケズ手帳)』(筑摩書房)>
  諸仏於此  諸仏ここにおいて、
  転於法輪  法輪を転じ、
  諸仏於此  諸仏ここにおいて
  而般涅槃  般涅槃したもう
 この「道場観」は賢治が一九二〇(大正九)年十一月頃入会して法華経信仰団「国柱会」の会員必携の経本「妙行正軌」の巻頭第一に掲げた重要な聖句、「真読訓読どちらでもよい。一方をえらび至心念誦する」と註釈してあり、会員が本尊奉安の仏壇前に正座合掌して開扉前に「至心念誦」することになっているのである。
            〈『「雨ニモマケズ手帳」新考』(小倉豊文著、東京創元社)50p〉
という。

 したがって、三十二文字の「当知是処……而般涅槃」がこの手帳に書かれているということは、この手帳が書かれた昭和6年頃でも賢治は「国柱会」と強く繋がっていたことの証左と最初は私は思ったのだが、小倉は引き続いて、
 この三十二文字は国柱会独自のものではなく、法華経の如来神力品第二十一にある経文で
と付言していたから、そうとも言い切れなさそうだ。そしてその一方で、少なくとも昭和6年当時の賢治は法華経を深く信仰していたことは間違いないということを私は確信した。そして、この四頁はもちろん曼荼羅であり、宮下氏は「日蓮宗に於いては、この曼荼羅こそが本尊なのである」(『イーハトーブと満州国』22p)と教えてくれるので、賢治の法華経に対する帰依は当時の賢治にとって揺るぎないものだったと言えそうだ。
 するとこの時に思い出されたのが、この「雨ニモマケズ」の最後が同手帳にどう書かれていたかということだ。もちろんそれは、
【Fig.3 五九頁~六〇頁】

             <『校本宮澤賢治全集 資料第五(復元版雨ニモマケズ手帳)』(筑摩書房)>
となっている。そして私は、今までの考え方が少し変わって、
    この六〇頁の曼荼羅はやはり〔雨ニモマケズ〕の一部であった。
と判断するのが自然かなと考え始めていた。 

 この件に関しては宮下氏も、
 これまであまり注目されてこなかったのだが、この詩の次の頁に、やはり曼荼羅が記されているのである。しかも冒頭のものに比べて、「多宝如来」と「釈迦牟尼仏」の二体が加わって、より重厚になっている。…(投稿者略)…詩の末尾に曼荼羅があるというのが正直な印象である。詩の一部といってもいいくらいだ。
 ここに曼荼羅があるということは、この詩が、信仰者としての賢治と切っても切り離せない性格を有していることを明確に示している。
            〈『イーハトーブと満州国』(宮下隆二著、PHP)25p〉
と論じていた。

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