すずりんの日記

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小説「マリアの微笑み」④

2005年04月07日 | 小説「マリアの微笑み」
 『このマリア様はね、元々は、とても優しい表情でみんなの心を慰めてくれていたんだ。でも、・・・ほら、見てみろよ。腕が、両方とも肘から折れてしまっているだろう?ほんとなら、こうやって、腕に、産衣を着たキリストを抱いていたんだ。それが、地震で肘から先が折れて粉々になってしまったんだ。マリア様は、我が子を抱けない悲しさから、表情を無くし、そして、時々、涙を流すというんだよ。』

 ―――彼は、ハワイには来たことは無かったわ。もちろん、この村には来たことも、話に聞いたことも無かったわ。それなのに、そんなことをどうして知っているのか。それを、彼の目を見て口に出すのが怖くて。・・・いいえ、それだけじゃあないわ。なぜ、この時、こんなにも“怖い”と思ったのか、それを思い巡らすことことさえが怖かった。
 でも、私は、それを必死で隠し、へぇ、そうなの、と短く返事をして後ろに向きを変え、ゆっくりと歩き出したわ。彼は、ジッと、マリア様を見つめていた。そして、・・・こう言ったの。

『マリア様、僕たちの子供が早く産まれてきますように。』ってね。

私が驚いて彼の方に振り返ると、彼は、またいつもの、あの人懐っこい笑顔で、
『君、早く赤ちゃんが欲しいって言ってたろ?でも、これで大丈夫。マリア様が必ず願いを叶えてくれるよ。・・・さぁ、行こうか。』
って、私の肩を抱いたわ。
 
 私は、さっきまでの不安と彼の笑顔を天秤に掛け、不安が消滅したのを確認して、彼とその教会を後にしたの。


(つづく)
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