すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第3章4

2008年03月30日 | 小説「雪の降る光景」
 「あの実験のレポートを、私に見せた人間がいるんだ。」
ボルマンはさっきから彼と目を合わせない私の顔を見ながら話していたが、私と視線が合うと急に視線を落とした。
「厳密に言うとこうだ。あの実験が行われた後、君の部下の1人が私の所にあのレポートを持って来たのだ。」
彼が視線を落とすと、薄くなり始めた頭の天辺が姿を現した。ボルマンの家系は、白髪頭でなく禿頭なのだろうか。
「あのサンプルが、君にとっくの昔に殺されたはずの裏切り者のハーシェルだということに、彼らはすぐに気づいたらしい。しかし、私にわざわざ言いに来たのはそのことではなかった。彼は声を詰まらせながら言っていたよ。」
そういえばボルマンの家に飾ってある彼の父親の肖像画を見たことが無いな。彼は父親似なんだろうか。
「ガラス越しに映った顔、ガラス越しにハーシェルを見つめていた目。あの実験は、確かに死に至る出血量を測定する為のものだったが、・・・かつて同胞だった者をあんな形で殺せるなんて、と。」
ボルマンの言葉は入る隙が無い訳では無かったが、このまま放っておいたら彼がどんな結論を出すか、興味があった。
「私もレポートを読んで少し恐ろしくなったが、ハーシェルはナチスドイツの裏切り者だし、我々みんなが彼を誰かに殺してもらいたがっていたのも事実だ。そう彼に言うと、彼は去り際に、君が笑っていた、と言った。彼は君の部下になって久しいそうだが、君があんなに楽しそうにしているのを見たのは初めてだ、と。つまりあの実験は・・・。」
「やり過ぎだった?」
私は、総統が財の限りを尽くして造ったこの邸の、高すぎる天井を仰いだ。
「あぁ。」
「私らしくない、と?」
私は上を向いたまま目をつぶったが、ボルマンが首を縦に振るのがわかった。


(つづく)

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