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すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第1章Ⅰ~4

2006年02月01日 | 小説「雪の降る光景」
 「相変わらず時間には正確ね。でも総統はまだ帰って来ていないわよ。」
彼女は、世慣れしていない街の少女のようでも、ナチ幹部の夫人の座に満足し切った醜いブタのようでもなかった。ただの強い女―――自分の愛した男が普通の労働者なら、こんな鎧を身にまとう必要も無いのだが―――そんな印象を人々に与えた。
 親しい仕事仲間に対しての笑みをエバに投げかけ、私は言った。
「知っていますよ。総統がお帰りになる前に、マルチン・ボルマンに会っておきたいのでね。」
「まぁ、そうなの。新しいナチスの党首になったボルマンさんに、何か改めて聞きたいことでも?」
「えぇ、収容所の実験材料の在庫が残り少ないものでね。」
「それで相談に?」
「まぁね。」

 ボルマンが、私の後ろで慌しくドアを開けた。
「やぁ、遅れてすまないね。朝っぱらから子供たちがうるさくってね。なんせ10人もいるもんだから。」
真面目な上に子煩悩な彼は、そう一気に話し終えた。全く、彼がナチスの党首をしているなんて、信じられない。彼がナチの制服を着ている理由は、ただ、自分が主人と崇めている人物が、たまたま帝国の総統になってしまったからだ。彼の尊敬する人物が、たまたま共産党員であったなら、彼は、何の躊躇も無く赤旗を掲げていただろう。そして家庭に戻れば、10人の子供と1人の妻を(そして1人の愛人をも)極めて民主主義的に扱う。それでいて、この落差を全く不自然に感じていないのだ。
「ボルマンさんに、ヘスさんの後任としての手解きをしてもらったら、今度は私が、総統の秘書としての特訓をしてあげるわ。」
そう言い残し、彼女は、広い庭を一望できる一番大きな部屋―――ここが、総統と彼女の2人のリビングなのである。―――に入って行った。


(つづく)
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小説「雪の降る光景」第1章Ⅰ~3

2006年01月29日 | 小説「雪の降る光景」
 戦争は、終わりに近づいている。それは確かだ。しかし、勝利は、確かなものではなくなってきている。敵は、イギリス、ロシア、そしてアメリカ。この3国こそが、我々が今まで占領したどの国々よりも強大であり、恐怖なのだ。我々、ナチスの幹部たちは今、この3国への進出と、千年帝国を夢見て現実離れしがちな、わがままな総統のことで、頭がいっぱいなのだ。
 昨年5月に、有能な副総統を失ってからは、なおのことだった。彼、ルドルフ・ヘスがイギリスへ飛んだことが、はたして総統の意志だったのか、それとも彼自身の意志だったのかは、誰も知らない。しかし、私個人の意見を言わせてもらえば、彼の行動は、返って我々の首を絞める結果となった。私ならあんなバカな真似はしない。彼が、「偽の友好のため」に飛んだのではなく、「ナチを裏切り、その罪から逃れ、イギリスの牢獄に“安楽の地”を求めた(つまり、亡命だ)」のならまだ話はわかる。だが、なぜよりによって・・・。まぁ、いい。どっちにしろ、彼がイギリスで捕らえられたおかげで、私が収容所所長の後釜につくことができたのだから。
 
私は、総統が正午を過ぎないと帰らないのを承知で、いつも通り、9時ちょうどに彼の邸のドアを叩いた。愛人のエバ・ブラウンが、ドアを開け、私を中に入れた。



(つづく)
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小説「雪の降る光景」第1章Ⅰ~2

2006年01月27日 | 小説「雪の降る光景」
 軽く朝食を取り、私は家を出た。そして、ロンメル氏の式典に参加している総統の「安楽の地」、ベルヒテスガーデンへと向かった。
 毎日が、このように判で押したような生活であった。何の喜びも、楽しさも、嬉しさもいらない。そんな、感情を一切必要としない生活を、私は不満に思うどころか、この生活が壊れないように、とさえ思っている。今日もそんな、何の変哲も無い日々の中の1日だった。しかし、何かが違っていた。・・・雪。そして、その中で笑っている自分。その夢を見て、涙する自分。―――ふっと不安が遮る。「今の生活が崩れてしまうのだろうか。」―――しかし、その不安は、いつしかナチスの心の中で、氷となって閉ざされてしまった。

 あの日、ポーランド軍の制服を着たS.S.(ナチス親衛隊)の隊員が、ドイツ領内のグライヴィツにある放送局を襲撃した。
「ポーランド軍の、この一連の国境侵犯は、ポーランドがもはやドイツの国境を尊重する意思の無い証である。この狂気の沙汰に決着をつけるために、私は、この瞬間から、武力には武力を以って対処するしかない。」
総統が、そう言い放って、でっちあげの「報復」の火花を切ったあの日、1939年9月1日、侵略の口実を得たドイツ軍は、一斉にポーランドへ流れ込んだ。2日後、イギリス、フランスが、我がドイツに宣戦布告をし、第二次世界大戦が始まった。その後、今日まで、デンマーク、ノルウェー、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク等のヨーロッパ諸国(なんとあのフランスまでも!)を侵略していった。
 しかし、総統は、イギリスに勝つことができなかった。それどころか、私たちが止めるのも聞かずに、
「イギリスに止めを刺すのは片手でもできる。」
と言って、ロシアに目を向けたのだ。私たちは、聞き分けの無い子供をあやすように、彼に、ロシアの冬期決戦は危険であることを諭した。彼は案の定、それを聞かず、ロシアの内陸部に足を伸ばして行った。それが、ドイツ軍を厳しい寒さで封じ込めてしまおうとする敵の作戦だとも知らずに・・・。そのうちに、太平洋側では、日本が真珠湾を攻撃し、アメリカまでが公的に戦争に加わり始めた。あの、第一次大戦の悪夢である二面戦争が現実になったのだ。


(つづく)
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小説「雪の降る光景」第1章Ⅰ~1

2006年01月24日 | 小説「雪の降る光景」
 雪が、・・・降っている。一面の銀世界の中、私がこっちを向いて笑っている。私は確かに、膝まで雪に埋まったその女の子に視線を向けているのに、その女の子が私であることを、知っている。確か、私は男であったはずだが・・・。
 楽しそうに、心から笑っている。時々、彼女(私)は、しんしんと降る雪を、愛しそうに見つめたり、両手を広げて天を仰いだりしている。まるで運命の絆で結ばれた1人の男から、愛撫を受けているような感じさえしてくる。それでいて、少しもいやらしくなく、何か、物悲しく、切ない。・・・あぁ、そうだ。まさしく彼女は私であり、私は彼女なのだ。彼女の魅せられた顔つきが、哀しいほど輝いている。・・・あぁ、私が永く忘れていた何か、何かが私に涙を思い起こさせる。何か、熱い、熱い、哀しい・・・。


 目が覚めた時、私は、涙を流していた。一体なぜ、自分が涙を流しているのか、なぜこんなにも、胸がいっぱいになっているのかがわからずに、私はしばらく、放心状態でベッドに横たわっていた。時計の針が6時ちょうどを指している。
「兄さん!起きてちょうだい!」
毎日毎日正確に時を告げる妹の声が、今日も階下から聞こえてきた。私は、何の躊躇も無く涙を拭い、何の感情も無くベッドから起き上がった。そして、制服に着替えると、小さな丸い鏡の前に立った。私は、そこに映っているのが昨日と同じ自分―――無表情で、冷静沈着、氷のようだと噂されている1人の男―――であることに一種の安心感を覚えた。
そして、ゆっくりとつぶやいた。

「ハイル・ヒットラー。」

今日は、エルウィン・ロンメル将軍の、陸軍元帥任命の式典が行われる日なのである。


(つづく)
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小説「雪の降る光景」まえがき

2006年01月22日 | 小説「雪の降る光景」
私が以前から書き溜めていた小説を、
このブログで、いくつもみなさんに読んでいただくようになって、
気がついたら、あと残り1作となってしまいました。

その1作は、私にとって一番思い入れがある作品なんですが、
いろいろな他の著作を参考資料に使っている部分が多くあり、
公表を躊躇していました。
が、この作品も、ぜひ、
今までのものを読んでくださっていたみなさんに、読んでいただきたく思い、
再度、小説を構成しなおして、
ブログに載せようと思いました。

また、小出しに載せていきますので、
よろしくお願いいたします。


で、今回は、
簡単に、この小説の前振りをしたいと思います。

このブログを始めた頃に、
「私の恐い物」というテーマで、何回か文章を書いたんですが、
その、恐い物というのが、

高い場所、暗闇、満月、人形(目と鼻と口のついたもの)等々。

それが、一体、どういうきっかけで恐くなったのか、
それがわからないんですよね。

で、なんでだろうなぁ~、と思っていたら、
もしかしたら、私が、私の人生を始める前に、
別の存在で、人生を歩んでいた時の体験から来ているのかも、
な~んて思ったりして。

つまり、前世ですね。

そういう感じで書き始めたんです。

あとは、自分が訳も無く、好きというか、愛着のあるもの。
それも、こんな体験をしてたからなのかも、
という思いで、ストーリーに入れました。

それは、「雪」と「ナチス占領下のドイツ」。

そんなお話しです。

言っときますけど、長~~~いですよ~
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