ルルーシュ焼もち大作戦の結果、二週間ほどルルーシュと連絡を自分から取ってない…。
今まではどんなに忙しくてもルルーシュには必ず一日一回は連絡を入れていたのに、計画のために入れられていない…。
ルルーシュから連絡が来た時のみ、一回だけの返信が許されて、僕からは出来なかった。
そして、そうすると二週間くらいルルーシュにまったく触れてない。
その間は、ずっと仕事と言うことで、ユフィの傍から離れられない。
ユフィが出かける先はまるでデートスポットのように買い物やどこかのホテル、はたまた教会だったりして、これはデートでなくてあくまでも仕事なんだけれど、ルルーシュに知られたらどうしようとずっと悶々としていた。
そして、ユフィの計画に乗ると言ったけど、二週間もルルーシュに触るどころか会えないなんて死んでしまう。
すっかり不機嫌そうで病んでいる空気を撒き散らして、ユフィ以外からは傍にもなかなか寄ってもらえず、ジノに顔を見られた時にはやつれているととても驚かれた。
顔はクマが出来ているし、顔色も悪いし、人を殺しかねないほどに目つきも悪くなっていたらしい。
耐え切れなくて自分から連絡を入れようとしたら、どこからか現れたユフィやナナリー付きのメイドの咲世子さん(メイドさんと言っても、ラウンズ並の身体能力も持っているから彼女は騎士と言っても良いと思う)なんかが現れてそれを阻止し、僕は出来なかったのだ。
本気を出せば彼女たちを振り払えたけど、取り押さえてくる彼女たちに怪我をさせたらルルーシュに嫌われる、と脅されて出来なかった。
本格的に嫌われることはないだろうけど、ルルーシュの大切な人に怪我をさせたら彼女の心が離れてしまう恐れがあるかもしれないと思ったからだ。
そうして、ルルーシュから、スザクが忙しいのはわかっているけれどどうしても会いたいと言う連絡が来て、ようやくユフィから会って良いと言うお許しが出た。
ルルーシュと会う約束をして呼び出されたのは、アリエスの離宮の敷地内にある室内プール。
ここのプールは普通に遊べるプールもあるけれど、マリアンヌ様が体を鍛えられるようにと作られた激流のプールやピラニアがいるプールや津波警報が発令するんじゃないかと思われるくらいの波のあるプールなんかもあるから、注意は必要だ。
水着を持ってきてプールサイドに来いと言われたから、これはデートのお誘いだと思っていいんだろうか。
今まではデートは僕が誘わないとなかったけど、今回のはルルーシュからのデートのお誘いだと思って良いんだよね…?
もし違っていても、僕はそう思うことにした。
思い込みでも、思うくらいは良いはずだ。
そう思って、水着姿で会いに行くのもなんだろうと、着替える前にまずは挨拶だと思って、プールサイドに行くと豊かな黒髪を白い花の飾りでツインテールにまとめた華奢な後ろ姿が見える。
あの細くて触れたら折れてしまいそうな華奢な子はルルーシュだ。
僕は以前に学園行事で(ルルーシュは皇女だけど、僕と一緒に同じ学園にも通っている)ルルーシュが着ぐるみを着させられていても、彼女だとわかったから、今回も自信がある。
あれはルルーシュだ。
ルルーシュは胸元が白と薄いピンクのフリルを交互に使って段を作ったビキニの水着を身に付けていて、肩を揺らして笑っている。
水着と言えば、学園でスクール水着しか着ないと思ったのに…スクール水着以外のルルーシュが見れるなんて…神様有難う…。
枢木神社の神様、仏様、キリスト様に、アラーの神様に、とにかく全世界の神様有難う。
僕は神社の息子だけど、この世に何人も神様がいるなら、すべての神様と、ルルーシュと言う存在を生み出してくれたすべてに感謝をしたい。
後ろから見るとルルーシュの小さなお尻が揺れて、ここがプールじゃなかったら絶対に触っていると思う。
うっかり前かがみになってしまいそうになったけど、数学の数式を考えつつも精神的に自分を抑えてそれを回避。
抑えるのも苦労したけど、今からルルーシュに会うんだから、こんな自分は見せられない。
夜なら良いけど、今は昼間で今すぐことに及べないのだから。
とりあえず、夜になったら水着で色々とさせてもらおう。
傍に寄っていくと、ルルーシュの両隣には栗色の髪を持つ男の子と、ふわふわの薄い栗色の長い髪を揺らしている女の子に挟まれて、ルルーシュは幸せそうに談笑している。
ふわふわの幸せそうな表情を素直に浮かべる相手は限られていて、そんな幸せそうなルルーシュを間に挟んでいる二人は弟のロロと妹のナナリーだ。
ごめん…ルルーシュに集中しすぎて、今頃気が付いた…。
言わなければばれないだろうけどすごい申し訳ないから、後で二人には何かお詫びのプレゼントをこっそり贈ろう…。
「スザク!」
「こんにちは、スザクさん」
「スザク兄さん、こんにちは」
僕にいち早く気づいてくれたルルーシュが、手を広げて走ってきてくれる。
後ろからナナリーもルルーシュに続き、ロロもスザク兄さんいらっしゃいと笑みを浮かべて手を振りながら近づいてきてくれた。
ナナリーは閃光のマリアンヌ様の遺伝子を一番受け継いでいるだろうと言われるほどに、武の道にも精通していて僕の気配くらい簡単に察知し、いつも一番に気づいてくれそうな感じだし、ロロももちろんそんな感じだ。
でも、一番そういうのになじみがないルルーシュが、僕に一番早く気づいてくれた。
ルルーシュも同じマリアンヌ様の血が繋がっているはずなのに運動が出来ないために、もちろん武道なんてやるはずもなく、気配なんてわからないはずだけど、僕だけはいつも一番に気づいてくれるのだ。
ちょっとくらい、自惚れても良いかな、と思ってしまう愛されている実感がある瞬間だ。
「ほわぁ」
「ルルーシュ!」
足がもつれて転びそうになるルルーシュを僕からも駆け寄ることで受け止めて、細い体をぎゅっと抱き締めた。
二週間ぶりのルルーシュだ。
細い、小さい、可愛い、抱き締めたい。
でもそう思う前に、すでに僕の体はルルーシュを勝手に抱き締めていた。
僕の肩くらいまでしかないすっぽり腕の中に収まってくれる華奢で細い体が愛しくて、折れないようにそっと力加減に注意をしながらも、ぎゅっと抱き締めた。
ほんのりと甘い香りがして、ルルーシュがとても美味しそうで、ロロたちがいなかったら、僕はきっと理性がなくなって首筋に噛み付いていたと思う。
「僕とナナリーは姉さんのお目付け役でいただけだから…後は姉さんとスザク兄さんで仲良くね」
「ここは若い二人に任せて、私たちはいなくなります」
ロロがにこにこしながらナナリーの手を引いて、歩き出す。
続いてにこにこしたナナリーが手を振りながら、どこかのお見合いの席にいるおばさんのようなコメントを残して去っていった。
そうして、残された僕たちは顔を見合す。
ルルーシュは言われた意味が思った通りにわからないらしく、眉を寄せて困ったように首を傾げる。
鈍いのは相変わらずだし、そこも可愛いから僕は特に突っ込むこともせずにそのままにすることにした。
「ルルーシュ、今日は誘ってくれて有難う。まさか、スクール水着以外でルルーシュの水着が見れるとは思わなかったから嬉しいな」
「え…いや…これは別に…、いや、そう言いたいわけじゃなくて…」
ルルーシュは俯いて言いづらそうに言葉を一旦区切った後、でもやっぱり言葉を続けたい部分もあるのか、口をもごもごさせながらも顔をまた上げて僕の顔をじっと見つめてくる。
耳まで赤くして、視線を彷徨わせながらゆっくりと唇を開く照れた姿も可愛くて、顔がにやけてしまう。
僕が今ルルーシュにデレデレでメロメロな状態だと言う事は、彼女自身にもわかっているらしく、それが余計に恥ずかしくなってしまったのかさらに顔が赤くなっていく。
「俺がこういうことを言うのも変かもしれないけど…い、色仕掛けだ…」
「色仕掛け…?」
「ば、馬鹿!繰り返すな!」
ルルーシュは背伸びをして両手で僕の口を塞ぐ。
塞いでくる手も恥ずかしいためか、ぷるぷる震えちゃってやっぱり可愛くて仕方がない。
「お、お、お前が…お前が俺に構ってくれないから…ロロとナナリーに相談したら…色仕掛けをしたらどうかって言われたんだ…。ドキドキさせてもっと夢中にさせてみたら良いって…。それでプールで水着ならどうかなって…」
ルルーシュは舌を噛みかけたり、動揺しているのが伝わってくるようにどもったりしても、しどろもどろになりながらも必死になって話してくれる。
色仕掛けなんてしなくても、すでに僕は君にぞっこんなんだけどな…。
でも、こうやってルルーシュから積極的になってくれるなんて、やっぱりユフィの作戦が効果があったんだ。
あとで、ユフィにお礼を言わないと…。
幸せすぎて、顔がにやけてたまらない。
ぎゅうっと抱き締めていると、ルルーシュの手がぺちりと僕の頭を軽く叩いた。
「こら、俺はお前をデートに誘うためにここに呼び出したんだからな。お前は俺と遊ぶんだ!早く着替えて来い!」
「もちろんそれは嬉しいお誘いだけど、君…泳げなかったよね?」
僕のその言葉に、ぐっとルルーシュが息を飲む。
ちょっと、意地悪だったかな…?
「…大丈夫だ!今日、練習すれば!教えてくれるだろ?」
ルルーシュは、無意識に絶対に小悪魔になる術を知っているんだと思う。
僕の胸に手を置いて、顔を上げるとじっと上目遣いで見てくるんだから。
長い睫をぱちぱちさせて、瞳がちょっと潤んでいるのもポイントだ。
泳げないことが困って無意識に瞳が潤んでしまっているんだと思うけど、これがまた可愛いんだ。
ああ、でもルルーシュ、前にも練習したけど、君はかなづちで泳げなかったじゃないか。
でもそう言うと怒ることは確実だから、僕はにこにこしたままルルーシュの発言に頷いて返した。
かなづちじゃない方が良いけど、かなづちでもいざとなったら僕が助けてあげれば良いんだから。
「ルルーシュ、お待たせ」
僕は水着に着替えると、ルルーシュを待たせるわけにはいかないため、着替えたら壁を走ったりして最短ルートで戻ってきた。
アリエスの離宮の壁を走ったりするのはナナリーとロロの教育上悪いから止めろとルルーシュに言われているけど、まあ見られてないから大丈夫だろう。
「お前…壁を走ってこなかったか?」
「え、何のこと?」
見られてないはずなのにすかさず勘付いて突っ込んでくるのが、ルルーシュらしいと言うか。
でも、せっかくのデートで怒られるのも嫌だから僕はそ知らぬ顔でしらばっくれた。
「まあ、良いか…今日のところは許してやる。とりあえず、一息つけるように俺は何か飲み物を持ってくるから少し待ってろ」
「ちょっと待って」
「また、一人で歩くと変なやつに声をかけられるから止めろって言うのか?ここはアリエスの離宮なんだから、そんなやつはいない」
「うん、それはわかるから一人で行くのは良いけど…君、飲み物を一人で持てる?二人分で重くない?」
「そこまで俺は非力じゃない!」
僕にしたら本当に真剣に心配してそう言ったのに、ルルーシュは背伸びをして僕の頭にチョップする。
ルルーシュくらいの力だったらまったく痛くないけれど。
「二人分だよ?本当に大丈夫?」
「馬鹿!馬鹿にするな!」
ルルーシュは今度はふてくされたように頬を膨らませると、また僕にぺしっと軽い音をたててチョップを入れる。
痛くないチョップを受けても、ただの強がりにしか見えなくて、本当に可愛いよ。
今日だけで何回もルルーシュが可愛いと言ってしまったけれど、本当に可愛いから何度言ってもそれは当たり前だししょうがない。
「この前、お前と出かけた時もちゃんと1リットルのペットボトルに、お酢に砂糖に塩に…他にもたくさん入っているビニール袋だって持てた!」
「うん、そうだよね、持ててたよね。一分後には疲れきった君の代わりに僕が持ったけど」
「スザクの馬鹿!大丈夫だって言ってるだろ!」
ルルーシュは再度痛くないチョップを僕の頭に当てると、舌を出して走っていく。
さっき言っていた飲み物を取りに行くつもりなんだろう。
水着のお尻の部分についている大きなピンク色のリボンが揺れて、それも可愛い。
今日はせっかくのデートだから可愛いルルーシュをたくさん愛でようと、僕は心に誓った。
そういえばユフィに、この頃ルルーシュは体調を崩していたからなるべく無理な運動はさせないように、大事にするように、と言われていたのを思い出して、今は体調を崩していなくても余り無理はさせられないと思い、二人で水の中で少し絡む程度にすることにした。
泳ぎの練習なんかで無理をさせて、また体調を崩したらまずいからな。
ルルーシュも泳ぎの練習をしたいと言っていたけど、元気になってからね、と約束して今日の練習は中止した。
僕が流れるプールの中(マリアンヌ様が使っている激流のプールじゃなくて、もちろんルルーシュでも遊べるような緩やかな流れのプールだ)に入って、後から入ってきたルルーシュを抱えてプールの中を歩く。
ルルーシュが足のつかない深さのプールに入って、もちろん抱っこの方法はお姫様抱っこで。
抱っこの方法はたくさんあるけど、顔が近くで見れるお姫様抱っこの方が僕も好きだし、ルルーシュも言わないけど好きみたいな感じだから。
プールをルルーシュの足のつかない深さにしたのは、落ちないように僕にもっと密着してくれないかな~ってそんなことも考えていたわけで。
ただ二人でプールの中を歩くだけだけど、水の緩やかな流れもあるし、泳げないルルーシュにしたら泳いでいる感覚も味わえるようで嬉しそうだ。
顔を綻ばせて、僕の首に腕を回して足をばたつかせている。
すっかり安心しきって体を寄せてくれるから、胸が当たって役得だ。
ルルーシュが少し動くたびに胸が僕に当たるから、堪らない。
でも、今は昼間だから僕は我慢だ。
柔らかさを感じて今日の夜まではこれでぐっと我慢しよう。
今日はルルーシュを寝かせてあげられないけど、それは我慢してもらおう。
二週間ぶりのルルーシュの胸は、本当に可愛い。
ルルーシュの胸はお世辞にも大きいとは言えないし、僕が触っても手のひらに余ってしまうくらいだけど、その小ささがまた可愛い。
以前胸が小さいのを気にして自分の胸と睨めっこをしていたルルーシュが可愛い。
それに小さくても柔らかくて触り心地が良いし、僕はルルーシュの胸なら大きくても小さくても、そのままのルルーシュの胸が大好きだ。
ちなみに、貧乳が好きってわけでもない。
ルルーシュの胸が大きいことを想像してもちゃんとムラムラ出来たから、ルルーシュの胸が好きなんだ。
そして、ユフィやコーネリア様の胸を見ても、興味がまったくわかないから、巨乳が好みって訳でもないらしく、僕はルルーシュだけに反応するみたいだ。
そして、ルルーシュの白い眩しい足がバタバタ動くたびに水が跳ねて、まるで人魚みたいだ。
ひょっこり岩場からルルーシュが出てきたら、絶対に人魚と間違われてしまうくらいに可愛くて、間違われるのは当たり前の出来事だろう。
一人で浜辺に行かせないようにしよう。
海辺は危ないし、何よりも人魚としてさらわれたら困る。
ルルーシュは僕のものだ。
「スザク、楽しいな」
「うん、そうだね」
無邪気に僕の腕の中で楽しそうにしているルルーシュは、僕の頭の中なんてたぶん理解してないだろうな。
でも理解しないで無邪気に遊んでくれるルルーシュが好きだから、理解してもらわないでも良いと思う。
「スザク」
ルルーシュは、すりすりと僕の首筋に顔を擦り寄せて甘えてくる。
今は誰もいなくて、二人きりだからこそこうやって甘えてくれるんだろう。
ルルーシュの髪から甘い香りがして、ぐらぐらと理性がまた揺れた。
でも、ここは我慢だ。
我慢するんだ。
ちょっとだけの味見で我慢するんだ。
僕はルルーシュの耳たぶに唇を寄せると、かぷっと軽く噛んだ。
色々と噛み付きたい場所があるけど、今は耳だけで我慢だ。
夜になったら痕が見えない場所にたくさん僕の痕をつければ良いんだから。
かぷりと噛んだ耳たぶは甘い感じがして、とても美味しくて僕は繰り返し甘噛みをする。
「す、スザク…やだ…」
「ちょっとだけ…」
耳を噛んでいて情事を思い出してしまったのか、ルルーシュが真っ赤になって、僕の胸を押して軽い抵抗をしてくる。
瞳が潤んできても、許してあげない、離してあげない。
だって僕は二週間も我慢したんだから。
結局ルルーシュが泣き出す寸前になるまで、僕は止めてあげることは出来なかった。
でも、せっかくのデートだって言うのに、ルルーシュは休みの間でも忙しいらしく、先日から彼女が取り掛かっている仕事の書類を持って部下がやってきて。
二人で書類を睨めっこして、相談をし始めたのだ。
ルルーシュは学生なのに仕事をしていて、学生でもブリタニアの皇女だとやることもいっぱいあるみたいで大変だ。
もちろん皇女でも学生だったら仕事をしない人もいるけれど、ルルーシュは学生をしていてもそれに甘えないで自分から仕事をする。
僕と言えば、プールサイドに設置してある椅子に座って、そんなルルーシュを物欲しそうに見つめるだけ。
ルルーシュが今話している部下は女の人だし、今までの付き合い上信頼のおける人だとわかっているから、手が出される心配もないし(それにちゃんと旦那さんと子供もいる人だ)、仕事の内容もルルーシュがとても大切に大切に進めている福祉に関することだから、僕がべったりして仕事の邪魔をするのはいけないことだと思う。
でも、流石にそろそろ構って欲しいな。
ちろちろ視線を向けてもルルーシュは集中しすぎて僕に構ってくれないから、仕方なく僕から歩み寄っていくことに決めた。
後ろから小さな体を包み込むようにぎゅっと抱き締めると、ようやく気づいてくれたルルーシュが驚いたように顔を上げる。
「ルルーシュ~いつ仕事が終わる?今日は僕を誘惑するために誘ってくれたんだろ?いつまでもそうやって仕事モードだと僕が寂しい」
「馬鹿!人前で誘惑とかそういうこと言うな!恥ずかしいだろ!」
「え~良いじゃないか」
僕はルルーシュをお姫様抱っこで抱き上げると、あとちょっとで唇が触れ合うまでに顔を近づける。
思ったとおり、湯気が出てしまうんじゃないかと思われるほどにルルーシュの顔はすぐに真っ赤だ。
ルルーシュの部下の人とはと言えば、僕たちの日常茶飯事のこんな出来事には慣れているのか、くすくすと笑って微笑ましく見つめている。
それにルルーシュが余計に恥ずかしくなってしまったのか、腕の中で暴れて危なくなってきたから、唇にキスをして黙らせる。
キスは一瞬だったけど、恥ずかしがり屋のルルーシュを黙らせるのは効果的だったらしく、顔を真っ赤にしたまま口をパクパクさせて固くなってしまっている。
それが可愛くて、僕はまたりんごのように真っ赤になった頬に軽く唇を落とした。
唇が触れた頬はやっぱり熱くて、ルルーシュがとても恥ずかしがっていることが手に取るようにわかった。
「いつもならユーフェミア様もいらっしゃるのに、今日はいませんね」
ルルーシュの部下の人が僕たちの仲の良さにくすくす笑い続けたまま、そう言葉を零す。
僕はユフィの騎士でもあるし、ユフィは大概ルルーシュにべったりだから、そう思われるのも当然だろう。
でも、それまで真っ赤になって固まっていたルルーシュが、不機嫌そうに唇を尖らせて瞬時に体を起こす。
いつもなら絶対に恥ずかしがってやってくれないのに、ルルーシュは見せつけるように僕の首に腕を回すと頬を擦り寄せてきた。
人前でこんなことは絶対にありえないことだと思っていたから、本当は嬉しいはずなのに僕の頭の中は一瞬真っ白になって何も考えられなくなる。
どうして?
何で?
あの恥ずかしがり屋のルルーシュがありえない!
僕が情けないことにぐるぐるしている間にも、ルルーシュは声を上擦らせてしどろもどりになりながらも言葉を続けていく。
「あ、あくまでもスザクはユフィの騎士なだけで、ユフィの恋人じゃない!この頃確かに二人がべったりしていたけど…でもスザクの恋人で、こ、婚約者は俺なんだ!だから、俺と二人きりでいるのだって当たり前だ。それに俺とスザクが結婚したら必然的にスザクは俺の騎士になるんだからな」
僕がルルーシュのものだと訴えるように、僕の首に回された彼女の手にきゅっと力が込められて、部下の人をじっと見据えている。
僕は、ルルーシュに愛されている。
ルルーシュがはっきりと恋人だって言ってくれた。
ルルーシュ焼もち大作戦はちゃんと効果があったんだ!
二週間ぐっと我慢してルルーシュに会わない苦労が実を結んだ…。
僕は嬉しすぎて今まさに涙が出そうになっているちょうどその時、近くの植木ががさがさと騒がしく音をたてたかと思うと、ビデオカメラを手にしたユフィが現れた。
桃色の頭には、葉が一枚乗っていて、何だか間抜けだ。
「ルルーシュ!聞きましたよ!今、スザクがはっきり恋人だって言いましたね!結婚したらスザクを自分の騎士にするって言いましたね!」
「え、あ、いや、その」
ユフィが一気に捲くし立てるように言うものだから、ルルーシュが驚いたように目を白黒させて、答えられないでいる。
それでもユフィは有無を言わせない勢いで、言葉を続けていく。
「ルルーシュが否定をしたとしても、このビデオに撮っちゃいました!証拠があるから逃れられないですよ!早速ルルーシュはスザクと結婚して、スザクはルルーシュの騎士になってくださいね」
「ちょ、ちょっと待て!でも、お前の後任の騎士を決めないと!」
やっと言葉を口にしたルルーシュだったけど、また次に零されたユフィの言葉には、流石に僕も目を白黒させてしまいそうだった。
「騎士は必要ありません。だって、私は皇位継承を捨てて、騎士になりますから」
「え、えええええええええ!?」
笑顔で、まるで当たり前のことのように告げるユフィに、僕たちは同時に大きな声を上げる。
だって、まさかそういう切り替えしが来るとは思っていなかったからだ。
後任の騎士はとっくに用意しているとか、そんな当たり障りのないことが返ってくると思っていたから。
なのに、彼女の言葉は、斜め45度上を行っていたのだ。
「ちょっと、待ってよ!僕が君の騎士から解任されるのはともかく、君が皇位を捨てるってなんで!?」
「ええ、そうしたら私に騎士はいらないでしょう?」
「ユフィ、お前、勝手に決めるな!それに、誰の騎士になるつもりなんだ!」
「もちろん、ルルーシュの赤ちゃんです。この前、ルルーシュが体調が悪いと言って、私があなたをお医者さんに連れて行って見てもらった時に、ルルーシュのお腹の中には赤ちゃんがいるって先生が言ってましたよ」
「そ、そんなこと、俺は聞いてない!」
「ええ、付き添いの私しか聞いてませんから」
「ちょっと、待って!そうしたら、僕はパパ!?ルルーシュ、おめでとう!僕、おめでとう!!」
赤ちゃんと言う単語を聞いて、急速に僕の心が嬉しくなって、胸の鼓動が高鳴るのがわかった。
顔全体が喜びに満ちて、幸せな空気が自分でも溢れてくるのがわかる。
ルルーシュを抱き締めたまま、くるくる回ってしまいそうだったけど、赤ちゃんがいるなら無理な動きは禁物だ。
僕はルルーシュをぎゅっと抱き締めて、頬を擦り寄せるだけで堪えた。
ルルーシュを抱き締めたまま、彼女のお腹の辺りをそっと撫でる。
この僕の小さな女の子の体の中には、僕と彼女の愛の結晶があるんだ。
テレビで、赤ちゃんが出来たばかりのお父さんはすぐに実感がわかないって言うのを見たことがあるけど、でも僕はとても嬉しかった。
ルルーシュと一緒に幸せな家族として過ごせたら良いなって、ずっと僕は夢を見ていたから。
今までもナナリーやロロ、マリアンヌ様やルルーシュの他の兄弟の方々には本当の家族のように仲良くしてもらっていたけど、やっぱり僕と血の繋がりがある赤ちゃんが出来ることはもっと家族としてルルーシュに近づける。
僕はたくさんのルルーシュを知ってきたけど、まだ知らないルルーシュもたくさんあるはずだから、母親になったまた違うルルーシュを見て、もっと知りたい、近づきたい。
そして、君との可愛い子が生まれたらその子が寂しい思いをしないように、僕たちの間に入れてたくさん愛してあげたいし、たくさん遊んであげたい。
僕が小さな頃は父さんが家にいなくて会えないことが多く、寂しいと思うこともあったから、僕とルルーシュの子が父親に会えないとか、父親の愛に飢えてしまうような寂しい思いをさせたくない。
もちろん僕だって働いている以上仕事はあるから、常に一緒にってわけにもいかないだろうけど…でも悪いことをしたらルルーシュと一緒に叱って、良いことしたらたくさん頭を撫でて抱き締めて褒めてあげたい。
僕が父さんと出来なかったことは、すべてこのお腹の中にいる子と一緒にやりたい。
「女の子かな?男の子かな?どっちでも、ルルーシュに似てすごい可愛い子になるよね」
僕の浮かれようと、今の現実についていけないのか、ルルーシュの顔はぐるぐる目を回している。
僕が順応性が高いだけかな?
でも、本当に幸せだから、心から嬉しいから、たくさんの有難うをルルーシュに伝えたい。
だから、僕はルルーシュの顔中にキスの雨を降らして、そのキスにたくさんの想いを込めた。
「お、お前に似るかもしれないだろ」
ようやく少しだけ思考が働き始めたルルーシュから、言葉の返答があった。
うろたえていっぱいいっぱいなのが、声とか表情からもそれがわかって可愛いな。
「僕に似たら…うーん、やっぱり君との子だから可愛いに違いないかな」
「今から親馬鹿か…」
「うん!早く僕たちの子が生まれたら良いね」
「そうだな」
僕の満面の笑顔に、ルルーシュも戸惑いながらも笑みを浮かべて返してくれる。
早く家族みんなでプールで遊んだり、どこかに行けるようになれたら良いね。
ううん、この子がお腹の中にいる間もルルーシュの負担にならない程度には遊びに行こうね。
「今度は君の騎士になるけど、そうするとまた騎士の任命式をすることになるのかな」
「まあ、そうだろうな…お前は一度ユフィの騎士になっているからしなくて良いと思うが、父上が俺に甘いから…やりそうだ…。別に仰々しいことはしなくても良いんだが…国税の無駄遣いだ。式にお金を使うくらいなら使うべきところに使えば良い」
「そういうところ、ルルーシュらしいね」
その晩、僕はルルーシュの部屋に泊まらせてもらうと、自室のベッドに座る彼女の白くてぷにぷにの触り心地の良い膝で膝枕をしてもらって、お腹に耳をじっと当てて耳を澄ませていた。
まだ寝る時間じゃないので、シャンデリアの明かりは煌々と僕らを照らしている。
やっぱりお腹の赤ちゃんが中にいる音は聞ける段階じゃないけど、それでも僕の大好きな女の子の細い体の中にはもう一人の存在がいるんだ。
僕とルルーシュの、愛しい愛しい我が子が。
そう思うと、まだ中にいる存在が直にこうして確かめられなくても、胸の奥からじんわりと幸せが染み渡ってきて、ルルーシュの腰に回していた手に力が込められる。
そんな僕の気持ちがルルーシュにも伝わったのか、彼女は聖母のようにとても優しく、そしてどこまでも穏やかに微笑んで僕の頭を撫でてくれた。
白い手のひらが優しく優しく触れる感覚は、幸せな空気がたくさんだった。
「それに、騎士の任命式は出来るなら誰にも見られたくない…騎士は忠誠心を捧げるけど、スザクは俺が好きだろ?だから忠誠心だけじゃなくて…俺を想う心も込めて騎士として捧げてくれる。そういう気持ちを見られてしまう気がするから…式を見られるのは何だか嫌だ」
白かった頬を熟れたりんごのように真っ赤に染めて、どこか拗ねたようにルルーシュは呟く。
拗ねたように見せるのは彼女の照れ隠しだ。
そのまま素直に伝えるのが恥ずかしいから、少し拗ねたように見せてしまうんだ。
「僕を独占したいんだね」
「…悪いか…たまには俺にだってある」
「悪くないよ。嬉しい」
恋愛に鈍かったルルーシュがそういう気持ちもちゃんと自覚して照れながらも伝えてくれる。
今回の作戦も上手くいったんだなと思うと、当分ユフィに頭が上がらないな…。
彼女のおかげで遅咲きながらもルルーシュがこうして自覚してくれるようになったんだから。
「じゃあ、公式の場での式は忠誠の心だけを君に捧げる。そうしたら君も納得してくれるだろ?でも、やっぱり君への愛も捧げたいから…だから簡易でも良いから、今から君への愛と忠誠を捧げても良い?」
「いつも…好きとか言ってくれるから、今更言わなくても良いんじゃ…」
「そうじゃないんだ。確かに僕は君にいつも気持ちを伝えているけど、それだけじゃなく君の騎士として心も何もかも捧げたいから、この想いをちゃんとした形としてまた伝えたいんだ。公式の場での式ではないけれど、僕は僕のルルーシュに僕のすべてを捧げたいと思うから」
「わかった…。でも、公式の場でみたいな騎士の言葉はいらない。ただ、お前の思ったままに、俺に伝えたい想いを伝えてくれ。その方が嬉しいから」
「うん」
僕は体を起こすと、ルルーシュと正座で向かい合った。
公式の場でやるような重々しさや仰々しさなんてまったくなくて、僕たちの服もドレスや騎士の服のような公式の場での衣装じゃない。
ただ、二人とも一緒にいたくてベッドの上にパジャマで寄り添っているだけだ。
でも君だけに愛を誓い、君だけに忠誠を誓い、君にだけにすべてを捧げるのに、堅苦しさや形式なんかもいらなくて、必要なのは僕のこの想いだけなんだ。
「愛してる、ルルーシュ。僕のこの心も、僕が君を恋しくて胸を高鳴らせて、僕のすべてが君だけに傾くのもそれは君だからなんだ。僕は生きてきた今までの時間も、僕のこれからの時間のすべても、全身全霊をかけて君にだけに捧げたい。どうか、君を守らせてほしい」
どうして、僕は僕のこの気持ちをすべて伝えられないんだろう。
僕のこの気持ちを言葉だけで上手に表すことなんて出来るはずがないと思った。
僕は想いのすべてをきっと言の葉に乗せられていない。
この気持ちを伝えるのは難しくて、そして言葉なんかじゃまだ足りない。
それでも、少しでも伝えるために僕はこの想いを口にするのだ。
「俺はお前の想いを受け入れよう」
その場に華が咲くと言う表現が似合う、とても綺麗な笑顔が咲く。
僕だけが見ることの出来る、恋をしていて、そしてその恋に満ち足りている幸せそうなルルーシュの笑顔だ。
僕はルルーシュの手をそっと取った。
持ち上げたルルーシュの手は、部屋の明かりに照らされてより白く輝いていて。
少し力を入れるだけで痕がついてしまう細くて白い綺麗な手。
君のこの手が傷つかないように、僕がその手を取って君を守る。
君に誓い、僕自身の生きる道にも誓って。
「イエスユアマジェスティ」
これはこの国でたった一人の皇帝陛下に返す言葉。
でも、僕のたった一人の人はルルーシュだから。
だから、この国でこの言葉を捧げるに値する目の前の僕のすべてに言葉を紡いだ。
後で知った事だけど、僕がルルーシュと会えない間の二週間の間にユフィと回った場所は、僕とルルーシュの結婚式の用意に回っていた場所だった。
僕とルルーシュを応援してくれたのも、ルルーシュのお腹に赤ちゃんがいたから、早く結婚式をあげないといけないと思ってくれたらしい。
僕たちに直接言わないで、突飛な行動をして突発で言ってくるのもユフィらしいと言えばユフィらしい。
でも、今回はそんなユフィの行動もとても有難いもので、僕とルルーシュは無事に結婚をして僕はルルーシュの騎士になり、ユフィが僕たちの子の騎士になったのだった。
以前発行されたスザク×女の子ルルーシュアンソロに寄稿させていただいた作品を再録させていただきました。
ユフィを出すと自由に動き回ると言うか、うちのユフィはルルーシュが好き過ぎると言うか…(笑)
でもルルーシュの幸せを願って動いてくれるので、それだけはどのお話でも大体共通してますv
それにしても、スザクよりもユフィが活躍してすみません…。
今まではどんなに忙しくてもルルーシュには必ず一日一回は連絡を入れていたのに、計画のために入れられていない…。
ルルーシュから連絡が来た時のみ、一回だけの返信が許されて、僕からは出来なかった。
そして、そうすると二週間くらいルルーシュにまったく触れてない。
その間は、ずっと仕事と言うことで、ユフィの傍から離れられない。
ユフィが出かける先はまるでデートスポットのように買い物やどこかのホテル、はたまた教会だったりして、これはデートでなくてあくまでも仕事なんだけれど、ルルーシュに知られたらどうしようとずっと悶々としていた。
そして、ユフィの計画に乗ると言ったけど、二週間もルルーシュに触るどころか会えないなんて死んでしまう。
すっかり不機嫌そうで病んでいる空気を撒き散らして、ユフィ以外からは傍にもなかなか寄ってもらえず、ジノに顔を見られた時にはやつれているととても驚かれた。
顔はクマが出来ているし、顔色も悪いし、人を殺しかねないほどに目つきも悪くなっていたらしい。
耐え切れなくて自分から連絡を入れようとしたら、どこからか現れたユフィやナナリー付きのメイドの咲世子さん(メイドさんと言っても、ラウンズ並の身体能力も持っているから彼女は騎士と言っても良いと思う)なんかが現れてそれを阻止し、僕は出来なかったのだ。
本気を出せば彼女たちを振り払えたけど、取り押さえてくる彼女たちに怪我をさせたらルルーシュに嫌われる、と脅されて出来なかった。
本格的に嫌われることはないだろうけど、ルルーシュの大切な人に怪我をさせたら彼女の心が離れてしまう恐れがあるかもしれないと思ったからだ。
そうして、ルルーシュから、スザクが忙しいのはわかっているけれどどうしても会いたいと言う連絡が来て、ようやくユフィから会って良いと言うお許しが出た。
ルルーシュと会う約束をして呼び出されたのは、アリエスの離宮の敷地内にある室内プール。
ここのプールは普通に遊べるプールもあるけれど、マリアンヌ様が体を鍛えられるようにと作られた激流のプールやピラニアがいるプールや津波警報が発令するんじゃないかと思われるくらいの波のあるプールなんかもあるから、注意は必要だ。
水着を持ってきてプールサイドに来いと言われたから、これはデートのお誘いだと思っていいんだろうか。
今まではデートは僕が誘わないとなかったけど、今回のはルルーシュからのデートのお誘いだと思って良いんだよね…?
もし違っていても、僕はそう思うことにした。
思い込みでも、思うくらいは良いはずだ。
そう思って、水着姿で会いに行くのもなんだろうと、着替える前にまずは挨拶だと思って、プールサイドに行くと豊かな黒髪を白い花の飾りでツインテールにまとめた華奢な後ろ姿が見える。
あの細くて触れたら折れてしまいそうな華奢な子はルルーシュだ。
僕は以前に学園行事で(ルルーシュは皇女だけど、僕と一緒に同じ学園にも通っている)ルルーシュが着ぐるみを着させられていても、彼女だとわかったから、今回も自信がある。
あれはルルーシュだ。
ルルーシュは胸元が白と薄いピンクのフリルを交互に使って段を作ったビキニの水着を身に付けていて、肩を揺らして笑っている。
水着と言えば、学園でスクール水着しか着ないと思ったのに…スクール水着以外のルルーシュが見れるなんて…神様有難う…。
枢木神社の神様、仏様、キリスト様に、アラーの神様に、とにかく全世界の神様有難う。
僕は神社の息子だけど、この世に何人も神様がいるなら、すべての神様と、ルルーシュと言う存在を生み出してくれたすべてに感謝をしたい。
後ろから見るとルルーシュの小さなお尻が揺れて、ここがプールじゃなかったら絶対に触っていると思う。
うっかり前かがみになってしまいそうになったけど、数学の数式を考えつつも精神的に自分を抑えてそれを回避。
抑えるのも苦労したけど、今からルルーシュに会うんだから、こんな自分は見せられない。
夜なら良いけど、今は昼間で今すぐことに及べないのだから。
とりあえず、夜になったら水着で色々とさせてもらおう。
傍に寄っていくと、ルルーシュの両隣には栗色の髪を持つ男の子と、ふわふわの薄い栗色の長い髪を揺らしている女の子に挟まれて、ルルーシュは幸せそうに談笑している。
ふわふわの幸せそうな表情を素直に浮かべる相手は限られていて、そんな幸せそうなルルーシュを間に挟んでいる二人は弟のロロと妹のナナリーだ。
ごめん…ルルーシュに集中しすぎて、今頃気が付いた…。
言わなければばれないだろうけどすごい申し訳ないから、後で二人には何かお詫びのプレゼントをこっそり贈ろう…。
「スザク!」
「こんにちは、スザクさん」
「スザク兄さん、こんにちは」
僕にいち早く気づいてくれたルルーシュが、手を広げて走ってきてくれる。
後ろからナナリーもルルーシュに続き、ロロもスザク兄さんいらっしゃいと笑みを浮かべて手を振りながら近づいてきてくれた。
ナナリーは閃光のマリアンヌ様の遺伝子を一番受け継いでいるだろうと言われるほどに、武の道にも精通していて僕の気配くらい簡単に察知し、いつも一番に気づいてくれそうな感じだし、ロロももちろんそんな感じだ。
でも、一番そういうのになじみがないルルーシュが、僕に一番早く気づいてくれた。
ルルーシュも同じマリアンヌ様の血が繋がっているはずなのに運動が出来ないために、もちろん武道なんてやるはずもなく、気配なんてわからないはずだけど、僕だけはいつも一番に気づいてくれるのだ。
ちょっとくらい、自惚れても良いかな、と思ってしまう愛されている実感がある瞬間だ。
「ほわぁ」
「ルルーシュ!」
足がもつれて転びそうになるルルーシュを僕からも駆け寄ることで受け止めて、細い体をぎゅっと抱き締めた。
二週間ぶりのルルーシュだ。
細い、小さい、可愛い、抱き締めたい。
でもそう思う前に、すでに僕の体はルルーシュを勝手に抱き締めていた。
僕の肩くらいまでしかないすっぽり腕の中に収まってくれる華奢で細い体が愛しくて、折れないようにそっと力加減に注意をしながらも、ぎゅっと抱き締めた。
ほんのりと甘い香りがして、ルルーシュがとても美味しそうで、ロロたちがいなかったら、僕はきっと理性がなくなって首筋に噛み付いていたと思う。
「僕とナナリーは姉さんのお目付け役でいただけだから…後は姉さんとスザク兄さんで仲良くね」
「ここは若い二人に任せて、私たちはいなくなります」
ロロがにこにこしながらナナリーの手を引いて、歩き出す。
続いてにこにこしたナナリーが手を振りながら、どこかのお見合いの席にいるおばさんのようなコメントを残して去っていった。
そうして、残された僕たちは顔を見合す。
ルルーシュは言われた意味が思った通りにわからないらしく、眉を寄せて困ったように首を傾げる。
鈍いのは相変わらずだし、そこも可愛いから僕は特に突っ込むこともせずにそのままにすることにした。
「ルルーシュ、今日は誘ってくれて有難う。まさか、スクール水着以外でルルーシュの水着が見れるとは思わなかったから嬉しいな」
「え…いや…これは別に…、いや、そう言いたいわけじゃなくて…」
ルルーシュは俯いて言いづらそうに言葉を一旦区切った後、でもやっぱり言葉を続けたい部分もあるのか、口をもごもごさせながらも顔をまた上げて僕の顔をじっと見つめてくる。
耳まで赤くして、視線を彷徨わせながらゆっくりと唇を開く照れた姿も可愛くて、顔がにやけてしまう。
僕が今ルルーシュにデレデレでメロメロな状態だと言う事は、彼女自身にもわかっているらしく、それが余計に恥ずかしくなってしまったのかさらに顔が赤くなっていく。
「俺がこういうことを言うのも変かもしれないけど…い、色仕掛けだ…」
「色仕掛け…?」
「ば、馬鹿!繰り返すな!」
ルルーシュは背伸びをして両手で僕の口を塞ぐ。
塞いでくる手も恥ずかしいためか、ぷるぷる震えちゃってやっぱり可愛くて仕方がない。
「お、お、お前が…お前が俺に構ってくれないから…ロロとナナリーに相談したら…色仕掛けをしたらどうかって言われたんだ…。ドキドキさせてもっと夢中にさせてみたら良いって…。それでプールで水着ならどうかなって…」
ルルーシュは舌を噛みかけたり、動揺しているのが伝わってくるようにどもったりしても、しどろもどろになりながらも必死になって話してくれる。
色仕掛けなんてしなくても、すでに僕は君にぞっこんなんだけどな…。
でも、こうやってルルーシュから積極的になってくれるなんて、やっぱりユフィの作戦が効果があったんだ。
あとで、ユフィにお礼を言わないと…。
幸せすぎて、顔がにやけてたまらない。
ぎゅうっと抱き締めていると、ルルーシュの手がぺちりと僕の頭を軽く叩いた。
「こら、俺はお前をデートに誘うためにここに呼び出したんだからな。お前は俺と遊ぶんだ!早く着替えて来い!」
「もちろんそれは嬉しいお誘いだけど、君…泳げなかったよね?」
僕のその言葉に、ぐっとルルーシュが息を飲む。
ちょっと、意地悪だったかな…?
「…大丈夫だ!今日、練習すれば!教えてくれるだろ?」
ルルーシュは、無意識に絶対に小悪魔になる術を知っているんだと思う。
僕の胸に手を置いて、顔を上げるとじっと上目遣いで見てくるんだから。
長い睫をぱちぱちさせて、瞳がちょっと潤んでいるのもポイントだ。
泳げないことが困って無意識に瞳が潤んでしまっているんだと思うけど、これがまた可愛いんだ。
ああ、でもルルーシュ、前にも練習したけど、君はかなづちで泳げなかったじゃないか。
でもそう言うと怒ることは確実だから、僕はにこにこしたままルルーシュの発言に頷いて返した。
かなづちじゃない方が良いけど、かなづちでもいざとなったら僕が助けてあげれば良いんだから。
「ルルーシュ、お待たせ」
僕は水着に着替えると、ルルーシュを待たせるわけにはいかないため、着替えたら壁を走ったりして最短ルートで戻ってきた。
アリエスの離宮の壁を走ったりするのはナナリーとロロの教育上悪いから止めろとルルーシュに言われているけど、まあ見られてないから大丈夫だろう。
「お前…壁を走ってこなかったか?」
「え、何のこと?」
見られてないはずなのにすかさず勘付いて突っ込んでくるのが、ルルーシュらしいと言うか。
でも、せっかくのデートで怒られるのも嫌だから僕はそ知らぬ顔でしらばっくれた。
「まあ、良いか…今日のところは許してやる。とりあえず、一息つけるように俺は何か飲み物を持ってくるから少し待ってろ」
「ちょっと待って」
「また、一人で歩くと変なやつに声をかけられるから止めろって言うのか?ここはアリエスの離宮なんだから、そんなやつはいない」
「うん、それはわかるから一人で行くのは良いけど…君、飲み物を一人で持てる?二人分で重くない?」
「そこまで俺は非力じゃない!」
僕にしたら本当に真剣に心配してそう言ったのに、ルルーシュは背伸びをして僕の頭にチョップする。
ルルーシュくらいの力だったらまったく痛くないけれど。
「二人分だよ?本当に大丈夫?」
「馬鹿!馬鹿にするな!」
ルルーシュは今度はふてくされたように頬を膨らませると、また僕にぺしっと軽い音をたててチョップを入れる。
痛くないチョップを受けても、ただの強がりにしか見えなくて、本当に可愛いよ。
今日だけで何回もルルーシュが可愛いと言ってしまったけれど、本当に可愛いから何度言ってもそれは当たり前だししょうがない。
「この前、お前と出かけた時もちゃんと1リットルのペットボトルに、お酢に砂糖に塩に…他にもたくさん入っているビニール袋だって持てた!」
「うん、そうだよね、持ててたよね。一分後には疲れきった君の代わりに僕が持ったけど」
「スザクの馬鹿!大丈夫だって言ってるだろ!」
ルルーシュは再度痛くないチョップを僕の頭に当てると、舌を出して走っていく。
さっき言っていた飲み物を取りに行くつもりなんだろう。
水着のお尻の部分についている大きなピンク色のリボンが揺れて、それも可愛い。
今日はせっかくのデートだから可愛いルルーシュをたくさん愛でようと、僕は心に誓った。
そういえばユフィに、この頃ルルーシュは体調を崩していたからなるべく無理な運動はさせないように、大事にするように、と言われていたのを思い出して、今は体調を崩していなくても余り無理はさせられないと思い、二人で水の中で少し絡む程度にすることにした。
泳ぎの練習なんかで無理をさせて、また体調を崩したらまずいからな。
ルルーシュも泳ぎの練習をしたいと言っていたけど、元気になってからね、と約束して今日の練習は中止した。
僕が流れるプールの中(マリアンヌ様が使っている激流のプールじゃなくて、もちろんルルーシュでも遊べるような緩やかな流れのプールだ)に入って、後から入ってきたルルーシュを抱えてプールの中を歩く。
ルルーシュが足のつかない深さのプールに入って、もちろん抱っこの方法はお姫様抱っこで。
抱っこの方法はたくさんあるけど、顔が近くで見れるお姫様抱っこの方が僕も好きだし、ルルーシュも言わないけど好きみたいな感じだから。
プールをルルーシュの足のつかない深さにしたのは、落ちないように僕にもっと密着してくれないかな~ってそんなことも考えていたわけで。
ただ二人でプールの中を歩くだけだけど、水の緩やかな流れもあるし、泳げないルルーシュにしたら泳いでいる感覚も味わえるようで嬉しそうだ。
顔を綻ばせて、僕の首に腕を回して足をばたつかせている。
すっかり安心しきって体を寄せてくれるから、胸が当たって役得だ。
ルルーシュが少し動くたびに胸が僕に当たるから、堪らない。
でも、今は昼間だから僕は我慢だ。
柔らかさを感じて今日の夜まではこれでぐっと我慢しよう。
今日はルルーシュを寝かせてあげられないけど、それは我慢してもらおう。
二週間ぶりのルルーシュの胸は、本当に可愛い。
ルルーシュの胸はお世辞にも大きいとは言えないし、僕が触っても手のひらに余ってしまうくらいだけど、その小ささがまた可愛い。
以前胸が小さいのを気にして自分の胸と睨めっこをしていたルルーシュが可愛い。
それに小さくても柔らかくて触り心地が良いし、僕はルルーシュの胸なら大きくても小さくても、そのままのルルーシュの胸が大好きだ。
ちなみに、貧乳が好きってわけでもない。
ルルーシュの胸が大きいことを想像してもちゃんとムラムラ出来たから、ルルーシュの胸が好きなんだ。
そして、ユフィやコーネリア様の胸を見ても、興味がまったくわかないから、巨乳が好みって訳でもないらしく、僕はルルーシュだけに反応するみたいだ。
そして、ルルーシュの白い眩しい足がバタバタ動くたびに水が跳ねて、まるで人魚みたいだ。
ひょっこり岩場からルルーシュが出てきたら、絶対に人魚と間違われてしまうくらいに可愛くて、間違われるのは当たり前の出来事だろう。
一人で浜辺に行かせないようにしよう。
海辺は危ないし、何よりも人魚としてさらわれたら困る。
ルルーシュは僕のものだ。
「スザク、楽しいな」
「うん、そうだね」
無邪気に僕の腕の中で楽しそうにしているルルーシュは、僕の頭の中なんてたぶん理解してないだろうな。
でも理解しないで無邪気に遊んでくれるルルーシュが好きだから、理解してもらわないでも良いと思う。
「スザク」
ルルーシュは、すりすりと僕の首筋に顔を擦り寄せて甘えてくる。
今は誰もいなくて、二人きりだからこそこうやって甘えてくれるんだろう。
ルルーシュの髪から甘い香りがして、ぐらぐらと理性がまた揺れた。
でも、ここは我慢だ。
我慢するんだ。
ちょっとだけの味見で我慢するんだ。
僕はルルーシュの耳たぶに唇を寄せると、かぷっと軽く噛んだ。
色々と噛み付きたい場所があるけど、今は耳だけで我慢だ。
夜になったら痕が見えない場所にたくさん僕の痕をつければ良いんだから。
かぷりと噛んだ耳たぶは甘い感じがして、とても美味しくて僕は繰り返し甘噛みをする。
「す、スザク…やだ…」
「ちょっとだけ…」
耳を噛んでいて情事を思い出してしまったのか、ルルーシュが真っ赤になって、僕の胸を押して軽い抵抗をしてくる。
瞳が潤んできても、許してあげない、離してあげない。
だって僕は二週間も我慢したんだから。
結局ルルーシュが泣き出す寸前になるまで、僕は止めてあげることは出来なかった。
でも、せっかくのデートだって言うのに、ルルーシュは休みの間でも忙しいらしく、先日から彼女が取り掛かっている仕事の書類を持って部下がやってきて。
二人で書類を睨めっこして、相談をし始めたのだ。
ルルーシュは学生なのに仕事をしていて、学生でもブリタニアの皇女だとやることもいっぱいあるみたいで大変だ。
もちろん皇女でも学生だったら仕事をしない人もいるけれど、ルルーシュは学生をしていてもそれに甘えないで自分から仕事をする。
僕と言えば、プールサイドに設置してある椅子に座って、そんなルルーシュを物欲しそうに見つめるだけ。
ルルーシュが今話している部下は女の人だし、今までの付き合い上信頼のおける人だとわかっているから、手が出される心配もないし(それにちゃんと旦那さんと子供もいる人だ)、仕事の内容もルルーシュがとても大切に大切に進めている福祉に関することだから、僕がべったりして仕事の邪魔をするのはいけないことだと思う。
でも、流石にそろそろ構って欲しいな。
ちろちろ視線を向けてもルルーシュは集中しすぎて僕に構ってくれないから、仕方なく僕から歩み寄っていくことに決めた。
後ろから小さな体を包み込むようにぎゅっと抱き締めると、ようやく気づいてくれたルルーシュが驚いたように顔を上げる。
「ルルーシュ~いつ仕事が終わる?今日は僕を誘惑するために誘ってくれたんだろ?いつまでもそうやって仕事モードだと僕が寂しい」
「馬鹿!人前で誘惑とかそういうこと言うな!恥ずかしいだろ!」
「え~良いじゃないか」
僕はルルーシュをお姫様抱っこで抱き上げると、あとちょっとで唇が触れ合うまでに顔を近づける。
思ったとおり、湯気が出てしまうんじゃないかと思われるほどにルルーシュの顔はすぐに真っ赤だ。
ルルーシュの部下の人とはと言えば、僕たちの日常茶飯事のこんな出来事には慣れているのか、くすくすと笑って微笑ましく見つめている。
それにルルーシュが余計に恥ずかしくなってしまったのか、腕の中で暴れて危なくなってきたから、唇にキスをして黙らせる。
キスは一瞬だったけど、恥ずかしがり屋のルルーシュを黙らせるのは効果的だったらしく、顔を真っ赤にしたまま口をパクパクさせて固くなってしまっている。
それが可愛くて、僕はまたりんごのように真っ赤になった頬に軽く唇を落とした。
唇が触れた頬はやっぱり熱くて、ルルーシュがとても恥ずかしがっていることが手に取るようにわかった。
「いつもならユーフェミア様もいらっしゃるのに、今日はいませんね」
ルルーシュの部下の人が僕たちの仲の良さにくすくす笑い続けたまま、そう言葉を零す。
僕はユフィの騎士でもあるし、ユフィは大概ルルーシュにべったりだから、そう思われるのも当然だろう。
でも、それまで真っ赤になって固まっていたルルーシュが、不機嫌そうに唇を尖らせて瞬時に体を起こす。
いつもなら絶対に恥ずかしがってやってくれないのに、ルルーシュは見せつけるように僕の首に腕を回すと頬を擦り寄せてきた。
人前でこんなことは絶対にありえないことだと思っていたから、本当は嬉しいはずなのに僕の頭の中は一瞬真っ白になって何も考えられなくなる。
どうして?
何で?
あの恥ずかしがり屋のルルーシュがありえない!
僕が情けないことにぐるぐるしている間にも、ルルーシュは声を上擦らせてしどろもどりになりながらも言葉を続けていく。
「あ、あくまでもスザクはユフィの騎士なだけで、ユフィの恋人じゃない!この頃確かに二人がべったりしていたけど…でもスザクの恋人で、こ、婚約者は俺なんだ!だから、俺と二人きりでいるのだって当たり前だ。それに俺とスザクが結婚したら必然的にスザクは俺の騎士になるんだからな」
僕がルルーシュのものだと訴えるように、僕の首に回された彼女の手にきゅっと力が込められて、部下の人をじっと見据えている。
僕は、ルルーシュに愛されている。
ルルーシュがはっきりと恋人だって言ってくれた。
ルルーシュ焼もち大作戦はちゃんと効果があったんだ!
二週間ぐっと我慢してルルーシュに会わない苦労が実を結んだ…。
僕は嬉しすぎて今まさに涙が出そうになっているちょうどその時、近くの植木ががさがさと騒がしく音をたてたかと思うと、ビデオカメラを手にしたユフィが現れた。
桃色の頭には、葉が一枚乗っていて、何だか間抜けだ。
「ルルーシュ!聞きましたよ!今、スザクがはっきり恋人だって言いましたね!結婚したらスザクを自分の騎士にするって言いましたね!」
「え、あ、いや、その」
ユフィが一気に捲くし立てるように言うものだから、ルルーシュが驚いたように目を白黒させて、答えられないでいる。
それでもユフィは有無を言わせない勢いで、言葉を続けていく。
「ルルーシュが否定をしたとしても、このビデオに撮っちゃいました!証拠があるから逃れられないですよ!早速ルルーシュはスザクと結婚して、スザクはルルーシュの騎士になってくださいね」
「ちょ、ちょっと待て!でも、お前の後任の騎士を決めないと!」
やっと言葉を口にしたルルーシュだったけど、また次に零されたユフィの言葉には、流石に僕も目を白黒させてしまいそうだった。
「騎士は必要ありません。だって、私は皇位継承を捨てて、騎士になりますから」
「え、えええええええええ!?」
笑顔で、まるで当たり前のことのように告げるユフィに、僕たちは同時に大きな声を上げる。
だって、まさかそういう切り替えしが来るとは思っていなかったからだ。
後任の騎士はとっくに用意しているとか、そんな当たり障りのないことが返ってくると思っていたから。
なのに、彼女の言葉は、斜め45度上を行っていたのだ。
「ちょっと、待ってよ!僕が君の騎士から解任されるのはともかく、君が皇位を捨てるってなんで!?」
「ええ、そうしたら私に騎士はいらないでしょう?」
「ユフィ、お前、勝手に決めるな!それに、誰の騎士になるつもりなんだ!」
「もちろん、ルルーシュの赤ちゃんです。この前、ルルーシュが体調が悪いと言って、私があなたをお医者さんに連れて行って見てもらった時に、ルルーシュのお腹の中には赤ちゃんがいるって先生が言ってましたよ」
「そ、そんなこと、俺は聞いてない!」
「ええ、付き添いの私しか聞いてませんから」
「ちょっと、待って!そうしたら、僕はパパ!?ルルーシュ、おめでとう!僕、おめでとう!!」
赤ちゃんと言う単語を聞いて、急速に僕の心が嬉しくなって、胸の鼓動が高鳴るのがわかった。
顔全体が喜びに満ちて、幸せな空気が自分でも溢れてくるのがわかる。
ルルーシュを抱き締めたまま、くるくる回ってしまいそうだったけど、赤ちゃんがいるなら無理な動きは禁物だ。
僕はルルーシュをぎゅっと抱き締めて、頬を擦り寄せるだけで堪えた。
ルルーシュを抱き締めたまま、彼女のお腹の辺りをそっと撫でる。
この僕の小さな女の子の体の中には、僕と彼女の愛の結晶があるんだ。
テレビで、赤ちゃんが出来たばかりのお父さんはすぐに実感がわかないって言うのを見たことがあるけど、でも僕はとても嬉しかった。
ルルーシュと一緒に幸せな家族として過ごせたら良いなって、ずっと僕は夢を見ていたから。
今までもナナリーやロロ、マリアンヌ様やルルーシュの他の兄弟の方々には本当の家族のように仲良くしてもらっていたけど、やっぱり僕と血の繋がりがある赤ちゃんが出来ることはもっと家族としてルルーシュに近づける。
僕はたくさんのルルーシュを知ってきたけど、まだ知らないルルーシュもたくさんあるはずだから、母親になったまた違うルルーシュを見て、もっと知りたい、近づきたい。
そして、君との可愛い子が生まれたらその子が寂しい思いをしないように、僕たちの間に入れてたくさん愛してあげたいし、たくさん遊んであげたい。
僕が小さな頃は父さんが家にいなくて会えないことが多く、寂しいと思うこともあったから、僕とルルーシュの子が父親に会えないとか、父親の愛に飢えてしまうような寂しい思いをさせたくない。
もちろん僕だって働いている以上仕事はあるから、常に一緒にってわけにもいかないだろうけど…でも悪いことをしたらルルーシュと一緒に叱って、良いことしたらたくさん頭を撫でて抱き締めて褒めてあげたい。
僕が父さんと出来なかったことは、すべてこのお腹の中にいる子と一緒にやりたい。
「女の子かな?男の子かな?どっちでも、ルルーシュに似てすごい可愛い子になるよね」
僕の浮かれようと、今の現実についていけないのか、ルルーシュの顔はぐるぐる目を回している。
僕が順応性が高いだけかな?
でも、本当に幸せだから、心から嬉しいから、たくさんの有難うをルルーシュに伝えたい。
だから、僕はルルーシュの顔中にキスの雨を降らして、そのキスにたくさんの想いを込めた。
「お、お前に似るかもしれないだろ」
ようやく少しだけ思考が働き始めたルルーシュから、言葉の返答があった。
うろたえていっぱいいっぱいなのが、声とか表情からもそれがわかって可愛いな。
「僕に似たら…うーん、やっぱり君との子だから可愛いに違いないかな」
「今から親馬鹿か…」
「うん!早く僕たちの子が生まれたら良いね」
「そうだな」
僕の満面の笑顔に、ルルーシュも戸惑いながらも笑みを浮かべて返してくれる。
早く家族みんなでプールで遊んだり、どこかに行けるようになれたら良いね。
ううん、この子がお腹の中にいる間もルルーシュの負担にならない程度には遊びに行こうね。
「今度は君の騎士になるけど、そうするとまた騎士の任命式をすることになるのかな」
「まあ、そうだろうな…お前は一度ユフィの騎士になっているからしなくて良いと思うが、父上が俺に甘いから…やりそうだ…。別に仰々しいことはしなくても良いんだが…国税の無駄遣いだ。式にお金を使うくらいなら使うべきところに使えば良い」
「そういうところ、ルルーシュらしいね」
その晩、僕はルルーシュの部屋に泊まらせてもらうと、自室のベッドに座る彼女の白くてぷにぷにの触り心地の良い膝で膝枕をしてもらって、お腹に耳をじっと当てて耳を澄ませていた。
まだ寝る時間じゃないので、シャンデリアの明かりは煌々と僕らを照らしている。
やっぱりお腹の赤ちゃんが中にいる音は聞ける段階じゃないけど、それでも僕の大好きな女の子の細い体の中にはもう一人の存在がいるんだ。
僕とルルーシュの、愛しい愛しい我が子が。
そう思うと、まだ中にいる存在が直にこうして確かめられなくても、胸の奥からじんわりと幸せが染み渡ってきて、ルルーシュの腰に回していた手に力が込められる。
そんな僕の気持ちがルルーシュにも伝わったのか、彼女は聖母のようにとても優しく、そしてどこまでも穏やかに微笑んで僕の頭を撫でてくれた。
白い手のひらが優しく優しく触れる感覚は、幸せな空気がたくさんだった。
「それに、騎士の任命式は出来るなら誰にも見られたくない…騎士は忠誠心を捧げるけど、スザクは俺が好きだろ?だから忠誠心だけじゃなくて…俺を想う心も込めて騎士として捧げてくれる。そういう気持ちを見られてしまう気がするから…式を見られるのは何だか嫌だ」
白かった頬を熟れたりんごのように真っ赤に染めて、どこか拗ねたようにルルーシュは呟く。
拗ねたように見せるのは彼女の照れ隠しだ。
そのまま素直に伝えるのが恥ずかしいから、少し拗ねたように見せてしまうんだ。
「僕を独占したいんだね」
「…悪いか…たまには俺にだってある」
「悪くないよ。嬉しい」
恋愛に鈍かったルルーシュがそういう気持ちもちゃんと自覚して照れながらも伝えてくれる。
今回の作戦も上手くいったんだなと思うと、当分ユフィに頭が上がらないな…。
彼女のおかげで遅咲きながらもルルーシュがこうして自覚してくれるようになったんだから。
「じゃあ、公式の場での式は忠誠の心だけを君に捧げる。そうしたら君も納得してくれるだろ?でも、やっぱり君への愛も捧げたいから…だから簡易でも良いから、今から君への愛と忠誠を捧げても良い?」
「いつも…好きとか言ってくれるから、今更言わなくても良いんじゃ…」
「そうじゃないんだ。確かに僕は君にいつも気持ちを伝えているけど、それだけじゃなく君の騎士として心も何もかも捧げたいから、この想いをちゃんとした形としてまた伝えたいんだ。公式の場での式ではないけれど、僕は僕のルルーシュに僕のすべてを捧げたいと思うから」
「わかった…。でも、公式の場でみたいな騎士の言葉はいらない。ただ、お前の思ったままに、俺に伝えたい想いを伝えてくれ。その方が嬉しいから」
「うん」
僕は体を起こすと、ルルーシュと正座で向かい合った。
公式の場でやるような重々しさや仰々しさなんてまったくなくて、僕たちの服もドレスや騎士の服のような公式の場での衣装じゃない。
ただ、二人とも一緒にいたくてベッドの上にパジャマで寄り添っているだけだ。
でも君だけに愛を誓い、君だけに忠誠を誓い、君にだけにすべてを捧げるのに、堅苦しさや形式なんかもいらなくて、必要なのは僕のこの想いだけなんだ。
「愛してる、ルルーシュ。僕のこの心も、僕が君を恋しくて胸を高鳴らせて、僕のすべてが君だけに傾くのもそれは君だからなんだ。僕は生きてきた今までの時間も、僕のこれからの時間のすべても、全身全霊をかけて君にだけに捧げたい。どうか、君を守らせてほしい」
どうして、僕は僕のこの気持ちをすべて伝えられないんだろう。
僕のこの気持ちを言葉だけで上手に表すことなんて出来るはずがないと思った。
僕は想いのすべてをきっと言の葉に乗せられていない。
この気持ちを伝えるのは難しくて、そして言葉なんかじゃまだ足りない。
それでも、少しでも伝えるために僕はこの想いを口にするのだ。
「俺はお前の想いを受け入れよう」
その場に華が咲くと言う表現が似合う、とても綺麗な笑顔が咲く。
僕だけが見ることの出来る、恋をしていて、そしてその恋に満ち足りている幸せそうなルルーシュの笑顔だ。
僕はルルーシュの手をそっと取った。
持ち上げたルルーシュの手は、部屋の明かりに照らされてより白く輝いていて。
少し力を入れるだけで痕がついてしまう細くて白い綺麗な手。
君のこの手が傷つかないように、僕がその手を取って君を守る。
君に誓い、僕自身の生きる道にも誓って。
「イエスユアマジェスティ」
これはこの国でたった一人の皇帝陛下に返す言葉。
でも、僕のたった一人の人はルルーシュだから。
だから、この国でこの言葉を捧げるに値する目の前の僕のすべてに言葉を紡いだ。
後で知った事だけど、僕がルルーシュと会えない間の二週間の間にユフィと回った場所は、僕とルルーシュの結婚式の用意に回っていた場所だった。
僕とルルーシュを応援してくれたのも、ルルーシュのお腹に赤ちゃんがいたから、早く結婚式をあげないといけないと思ってくれたらしい。
僕たちに直接言わないで、突飛な行動をして突発で言ってくるのもユフィらしいと言えばユフィらしい。
でも、今回はそんなユフィの行動もとても有難いもので、僕とルルーシュは無事に結婚をして僕はルルーシュの騎士になり、ユフィが僕たちの子の騎士になったのだった。
以前発行されたスザク×女の子ルルーシュアンソロに寄稿させていただいた作品を再録させていただきました。
ユフィを出すと自由に動き回ると言うか、うちのユフィはルルーシュが好き過ぎると言うか…(笑)
でもルルーシュの幸せを願って動いてくれるので、それだけはどのお話でも大体共通してますv
それにしても、スザクよりもユフィが活躍してすみません…。