睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

「火口のふたり」文庫本を読了・・・映像は活字に勝る

2020-07-27 15:23:53 | ひびつれづれ



気に入った作家の本を読むときはデスクの椅子に座り、
黄色の色鉛筆と老眼鏡と淹れたての珈琲を用意する、
これは敬愛・偏愛する作家への常の儀式みたいなもの。

この本は布団に寝っ転がって読んだ。
昨今の直木賞自体にひどく懐疑的なぼくは直木賞を
受賞した作家とか色眼鏡は外して読むことにする。

作家プロフィール
「白石一文 」しらいし かずふみ 1958年福岡県生まれ
早稲田大学政治経済学部卒、文藝春秋勤務を経て2000年に
「一瞬の光」で小説家デビュー。

2009年山本周五郎賞:「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」
2010年直木賞:「ほかならぬ人へ」
著書:「翼」「幻影の星」「彼が通る不思議なコースを私も」
   「神秘」「快挙」「愛なんて嘘」など多数

本の表紙裏面に記されているあらすじ
結婚式を控えて、従弟の賢治と久しぶりに再会した直子。
しかし彼は、かつて快楽のすべてを教わった、直子の初めて
の男でもあった...。挙式までの五日間、理性と身体に刻まれた
記憶の狭間で、ふたたび過去へと戻っていくふたり。
出口の見えない、いとこ同士の行きつく先は?
恋愛小説の名手・白石一文が描く、極限の愛。


帯の裏面には映画化に寄せて白石一文のコメント
「火口のふたり」はあの大震災から時を経ずに一気呵成で
書き上げた小説で、私としてはめずらしいほど生命力に
あふれた作品だ。人のいのちのひかりが最も輝く瞬間を
どうしても書きたかったのだろう。
映画界の伝説ともいうべき荒井晴彦さんの手で、その光が
よりなまなましく、妖しく観る者の心を照らし、身の内に
眠っていた"おとこ"や"おんな"が強く喚起されんことを
切に願っている。


本の巻末にある田口ランディの解説は、
富士山~神話へとアサッテの方向を見据え、
この小説を現代の神話に位置付けてケムに巻く。
男が火口の淵に夢中で射精し続ける姿がせつない、
最後には「男は、そこがかわいい」と締めくくる。


ぼくのありきたりではない感想
現代小説は読まないぼくは映画を先に観たことで
この映画は原作を忠実に模した実写映画と知り、
一念発起で苦手な小説を読むことにした。

文庫本247頁なら丁寧に読んでも半日ですむ。
最初の①17頁まではぱらぱらめくるだけ、
読まない、退屈だから。

②~⑳は映画のプロセスとほぼ同じ進行、
昔を懐かしみ慈しみながら、朝から晩まで貪るようにsexに
溺れるふたりを執拗に描くのはこの小説の核たるものだから。

直子は自衛隊幹部の婚約者に富士山大噴火の逼迫を知らされ、
彼からの一方的な結婚延期の申し込みに憤り、子どもが欲しい
だけの結婚願望にも見切りをつけた。
富士山大噴火までの時間を賢治と共に過ごす決意をする。

小説のラストは、直子が差し出す手を取りふたりがゆっくり
歩いていくシーンで終わる。
映画のラストはふたりベッドに横たわるシーンから始まる。

直子をうしろから抱いている賢治が耳元でささやいた。

「直子ぉ」
「なにぃ?」
「中にだしてもいい?」
「うふんっ」
「なんで笑うんだよ」
直子は少しのマを置いて
「いいよ」と応えた。

スクリーンに爆発音と共に富士山噴火のイラストが表れ、
「紅い花咲いた」の挿入歌が流れるエンディングでfin.


オンリーワンの小説家に応える映画はチームプレイ。
的を得たキャスティング、若い二人の振り切った演技、
レトロな時代考証にマッチしたシチュエーションなど、
卑猥を越えたエロスは生々しい神の領域か。
この映画は原作を越えていると実感した。

いつもは読まない小説を自ら読んで知り得たことは
ぼくにとっても新しい扉(key)が開いたかもしれない。

余談だがkeyといえば、
偶然にも昨夜「鍵(THE KEY 1997年)」R15映画を観た。
言わずと知れた文豪・谷崎潤一郎(1886生)の小説「鍵」を
映画化したもので、主演は柄本明と川島なお美。
1997年当時としては斬新なエロを追求したと思うのだが、
いかんせん谷崎文学の耽美には及ばない映画だった。

濡れ場は柄本明より、せがれの柄本佑のほうが断然いい。
ともに個性的な俳優だが、柄本佑はシリアス~怪人~エロ
までなんでもこなす。その振り幅は広くて深くて大きい。
惚れてまうww 
あと10年もしたら知名度ともにオヤジを追い越すだろ。

出演者ふたりだけでこんなに濃い映画が撮れるんだ、
素直にすごいなあと思った。
柄本明が電話のみの父親役をやっていた(微笑ましい)

映像と活字の温度差は中途半端な漬け物ぐらいの味気無さ、
活字には脳天を直撃して奮い起こすような刺激はなかった。
荒井晴彦の脚本&監督の秀逸さと2人の俳優の力量の確かさを
思い知った映画だった。
わー、この映画のシナリオが欲しい('Д')


また明日。





2019年 第93回 キネマ旬報ベスト・テン発表
日本映画ベスト・テン
第1位 「火口のふたり」
第2位 「半世界」
第3位 「宮本から君へ」
第4位 「よこがお」
第5位 「蜜蜂と遠雷」
第6位 「さよならくちびる」
第7位 「ひとよ」
第8位 「愛がなんだ」
第9位 「嵐電」
第10位 「旅のおわり世界のはじまり」


映画オープニングの「W座からの招待状」は
小山薫堂の詩を濱田岳が朗読している。

「本能の企み」
愛があるからつながりたいのか?
つながりたいから愛が生まれるのか?
心と身体の関係はいつも曖昧。
身体は心にウソをつき
心は身体を蔑(ないがし)ろにする。
その隙間に忍び寄るやましさは
愛のフイゴ。
邪悪な風を送り込み
欲望の炎を燃え上がらせる。
全ては命をつなぐため、
本能に操られて・・・。

文:小山薫堂(脚本家・放送作家)
絵:信濃八太郎(イラストレーター)
声:濱田岳(俳優)
音:阿部海太郎(作曲家)





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