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谷崎潤一郎の処女作は「帝国文学」で没にされた

2005年03月22日 | 詞花日暦
十八九歳から二十四五歳に至る六、七年間は、
実に暗澹たる危惧の時代
――谷崎潤一郎(作家)

 おおくの読者は谷崎潤一郎を「花々しく文壇に出た一人である」と思いがちだが、若い時期、人並みの不安を味わっていた。一つは天分、二つは文壇への手づる、三つは原稿料で食っていけるかだった。東京帝大への進学時には、創作家になる「悲壮な覚悟」を決めて国文科を選んだ。
 最初に書いた「誕生」は東京帝大の「帝国文学」でみごとに没になった。次作「一日」も「早稲田文学」に握りつぶされた。谷崎の自信はぐらついたが、「唯一の光明」は永井荷風の登場だった。この人に認めてもらいたいと、「夢のような空想に耽った」。
 明治四十二年九月、授業料未納で東京帝大を退学したのち、十一月に出た「新思潮」三号にやっと「刺青」が載った。それを片手につかんで荷風のあとを追う。レストランで対談中の荷風に勇を鼓して近づき、雑誌を手渡して、逃げるように退散した。いまでは大文豪と呼ばれる作家も、二十代前後にはきわめて凡庸な経験をしていた。というより、作品をつくるには、いつも暗い危惧と不安の方が大きいのである。

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4 コメント

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Unknown (菅原)
2005-03-22 20:00:57
戦後のアメリカ風民主主義とアメリカによる占領が、物質的に豊かになる目標を知らず知らずに日本国民に植えつけた気がしています。貧しい日本を抜け出したい、そんな気持ちが他のものを犠牲にしてしまったよな。ジャック&ベティの豊かさがいつの間にか理想になっていったような・・・。その頂点が拝金主義のバブル。戦後は60年にして新たな時代へ入ったのですから、生き方を変えなければならないのではと思っています。
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菅原様に...御意! (彩木 翔)
2005-03-22 16:56:40
モンゴルの遊牧民の子供らを見てると、10代の元服でさえ遅いぐらいに感じますね、....4~5才の幼児がこなす仕事ぶりを見ていて、その逞しさには驚かされます。...たぶんあれが本来の姿なんだろうな..と、遅ればせながら自己批判する今日この頃であります。
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vivichin様 (菅原)
2005-03-22 08:13:12
vivichin様の反応があるだろうと密かに期待していました。それにしてもお若いのに早起きですね。失敗の人生を送った人間から忠告できるのは、やりたいことひとつを突き詰める人生が、結局、ものになるかならないかの境目ということです。あちこち迷わず、愚直なまでにやりたいことをお続けください。
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覚悟 (vivichin)
2005-03-22 07:56:04
 戦国時代のいわゆる元服は15歳、状況によっては12歳でもあり得た事だと認識しています。周りの人間に決められてしまったのが大半だと思いますが、すごい事だと実感しています。

 しかし、歴史に名を連ねる人々の多くは一般的には幼い時にその覚悟を決めた人々だと思います。



 ありがとうございます。頑張ります。
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