さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ワレモコウ

2011-12-21 11:04:45 | 花草木


近くの山に行くとワレモコウが咲いていた。赤黒く丸い塊はこれでも花かという感じだが、秋の青空を背景にすればそれなりにきれいだ。よく見れば小さな松ぼっくりのようで、面白そうでもありかわいらしくもあったりする。



花は夏の後半に咲き出すがそのまま冬近くなっても残っている。と思ったら、実はそれは咲いているのではなく花の残骸だった。ワレモコウには花びらはなく、代わりに萼が赤くきれいになっている。ふつう花びらは大きく色も鮮やかだが、弱々しくすぐに萎びて枯れていく。萼はたいていみすぼらしいものだが長く持つ。この花は今や雄しべは黒く枯れて雌しべの先がやっと残っている状態だ。しかし萼が赤くしっかりしているのでまだきれいに咲いているように見えるのだった。



ワレモコウは小さな花が花茎の先にびっしり寄せ集まったものだ。どうかすると仲間はずれの一つ二つが集団から離れて下の方でぽつんと咲いていたりする。これを見ればもともとの一つの花の形がわかる。この花はちょうど真っ盛りで4本の雄しべがしっかり黄色の花粉を出している。



花穂は上の方から咲いていく。しかしこういうものは下から咲いていくのが普通だ。そうすれば調子がよければどんどん先を伸ばしてたくさんの花を咲かせられる。この花の場合だと最初から花の数が決まってしまうはずだからあまり合理的とは思えない。ところでそういうことから無限化序、有限花序という言葉があるそうだ。しかし有限花序の中には側面から花枝を出し、それがまた分岐して次々に花を咲かせるものがあり、それだと限りはないはずだ。ただ単に上から咲き出すものを有限花序というのはふさわしくないように思うがどうだろうか。



12月に入って南国といえどもずいぶん寒くなってきた。今年は特に寒さが厳しいようだ。それでもまだまだ蕾もある。それどころか新しい花序の芽が出掛かっていた。なんだかエラの生えたサンショウウオみたいでかわいらしい。ワレモコウは北の方の高原などでよく目にしたから寒さには相当強いのだろう。



葉も普通なら紅葉して枯れ落ちる頃だがまだまだ生きのいい緑の藪になっている。バラ科らしい羽状複葉はきれいな形で、多くの雑草の生い茂る中でもとても目を引く。

ところでワレモコウとは不思議な名前だが、いわれは不明だそうで漢字も当て字のようだ。いろいろ諸説があるがどれも作り話だなと感じる。そもそも徒然草にも載っているほどの古くからの名前だから今の感覚で考えたら大方間違いだろう。それでも多くの人が話を作りたくなるのはそれだけ魅力があるということか。ワレモコウはその独特の雰囲気で生け花とか園芸に使われている。しかし山野では1m以上にもなったりするから鉢植えなどでは小さな種類が売られている。そんなものにヤクシマワレモコウという名が付いているのを見た。しかし屋久島ではワレモコウを見たことはなく、指宿に移り住んで久しぶりに出会って感激したくらいだ。きっと世界自然遺産として有名な屋久島の名を騙ったものだろう。あるいは屋久島では厳しい自然でなんでも矮小化するから、矮小の象徴名なのだと好意的に解釈しようか。