さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ヤマラッキョウ

2012-11-23 10:26:38 | 花草木


秋も深まった山の草原は冷たい風が吹いて青空にあふれる光もどこか白々しい。背中を丸めて枯れ草を踏んでいくと、うつむいた目に場違いなほど美しい色が飛び込んできた。よくもこんなところにと思うほど愛らしく、また気品すら感じるほどの赤紫だ。



ヤマラッキョウだった。もう一月も前の10月終わり、ちょうど開きかけの花を見ている。ネギの仲間で、ということはこれはネギ坊主になるわけだ。しかしネギの場合は白い花で数が多くぎっしり詰まっているので坊主に見えるが、こちらは少女の結い髪といった感じか。



この仲間は以前はユリ科に分類されていたが最近はネギ科として独立したそうだ。鈍い3角形状の蕾は角の部分が外花被片、辺の方は大き目の内花被片が作っている。それぞれ3枚づつあるのはユリの花と同じだ。薄茶色の葯の雄しべが6本あるが、そのうち3本が長く残りの3本は短い。長い方の葯が先に、またその中でも順番に熟して花粉を出している。



蕾のうちは突っ立ているが花が咲くと倒れていって横に並ぶ。一つ一つの花は1cmもないが、長い花柄があって半球状に並ぶので全体としては普通の花並みの大きさに見える。花序の根元、薄い白いスカーフを首に巻いているように見えるが、これは出来かけの花序をくるんでいた総苞でネギの仲間に共通している。



ヒラタアブが来ていた。葯を前足で掴んで花粉を舐め取っている。花はだいぶ前から咲き続けているからもう長い方の雄しべの葯は枯れ落ちて、今は短かかった方が伸びてきて花粉を出している。こうして順番にするのは長期間花粉を出し続けるための工夫だという。なにしろ今頃の季節、寒さに強いアブがたまに飛んでくるくらいだから長期戦を覚悟するしかないのだろう。花に比べて葯がかなり大きめの感じだが、これもアブを呼び寄せるためのご馳走ということか。花の咲き始めには見えなかった雌しべが今は小さな棒のようにまっすぐ突き出している。つまり雄性先熟の花ということだ。



緑色の子房がもうかなり膨らんできている。我が家の庭に持ち帰りたいと黒く成熟した種子を探したが、まだまだだいぶ先になりそうだ。



ヤマラッキョウはたいてい枯れ草の間にぽつりぽつりと生えているが、ここでは石畳の隙間に種が吹き寄せられたかぎっしり群生していた。葉は糸みたいに細くしかも数本しかなく、よくこれでこんなに見事に花を咲かせられるものだと思う。たぶん春早くから葉を出してじっくり栄養を溜め込んできたのだろう。

ヤマラッキョウは食用のラッキョウにごく近い仲間で花の感じも葉をちぎった時の臭いもよく似ている。しかし根はあまり太らず山菜としての利用価値はほとんどないそうだ。東北南部あたりからずっと九州にかけて分布するそうだが、生育環境は割と限られているようでどこでも見かけるというものではない。

ところで後で知ったが、これら指宿周辺のものは九州南部特産のナンゴクヤマラッキョウという種類のようだ。見た目の違いは葉が細めで三角棒状、そして中実なことだそうだ。普通のヤマラッキョウは断面を見ると中空なのだという。そうした特徴はぴったりで、なによりここがまさしくナンゴクヤマラッキョウの見つかったご当地なのだ。まあヤマラッキョウには変異が多いそうだから、どこまでが種内変異でどこからが別種なのか、あまりめくじら立てることもなさそうだが。

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (タマネギ)
2012-11-23 12:11:16
はじめまして。東京からです。
名文拝読させて頂いております。

こちらは朝から冷たい雨ですが、
ヤマラッキョウの生えている道を散歩して
いる気持ちです。
本当にきれいですね。
返信する
Unknown (夜泣石)
2012-11-24 09:35:06
今頃の草原はヤマラッキョウだけでなくリンドウが花盛り、ワレモコウや野菊の仲間が枯れ残っていてなかなか風情があります。
しかしこちらにはまともな紅葉がありません。東京を去る最後の年、高尾山の冷たい雨に濡れた紅葉の道を歩いたことが懐かしく思い出されます。
返信する

コメントを投稿