さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

知林ヶ島

2011-10-29 11:11:06 | 指宿の自然


我が家の近くに魚見岳があり、車で5分かそこらで山頂に着く。指宿の町並みを一望し、桜島や大隅半島を遠望できるすばらしいところだ。その足元の海に知林ヶ島がある。本土との間に細い道が見えたり隠れたりしている。大潮の時は歩いて渡れるのだと聞いて、引越し前からぜひ行ってみたいと思っていた。その機会はすぐ来た。役場の掲示板を注意していたら、10月に可能日が4日ほど予報されていた。よく晴れた日に早速出かけた。始点の田良岬は我が家からは車で数分だから庭みたいなものだ。



細い道が湾曲しながら続いている。かなりの距離があるように見える。実際には800mほどで歩いて20分と書かれてあった。



さっそく歩き始める。砂州の中に入ると意外に広い。かなり細かい砂で、濡れると黒っぽく締りが良く歩きやすい。波が荒いのか貝殻はだいたいかけらになっている。



立ち止まったり振り返ったり、のんびり歩いてやっと半ばまで来る。波の音、海面のきらきらした光。そして心地よい潮風とすばらしい潮の香り。それらは海岸で感じるのとは異質なものだ。なにしろここは海の真ん中なのだから。それは船の上と同じだが、しかし揺れはないし人工の音も臭いもしない。ここだけの異次元のような世界なのだ。そしてこの広々とした開放感、ただひたすらに気持ちが良い。そこをさくさくと裸足で歩く。この体感はすばらしい。これからこの道ができる時は何度でも来よう。こんなすばらしい散歩道が家のすぐ近くにあるとは何という幸運だろう。



ずいぶん時間がかかって、やっと島に到着した。一面、照葉樹林に覆われている。島の中に入るための階段がしっかり整備されているが、300段を一気に上るので大汗をかいてしまった。



展望台に着くとひんやりとした潮風が心地よかった。ここもすばらしい眺めだ。本土の方を振り返ると、今歩いてきた道が魚見岳の麓から続いているのが見える。歩いている時、その山とこの島と、まるで鏡を立てたように形がそっくりなのに気付いていた。両方とも元は指宿カルデラの外輪山で、その一部が残ったものだそうだ。ということはここから見える海の底に火口があるのだろう。

なぜこんな不思議な道ができるのか。それは黒潮の一部が鹿児島湾(錦江湾)に流入してできる南からの流れと、それが湾奥にぶつかって戻ってくる北からの流れが、ちょうどこの付近でぶつかり合って、その境目に砂礫が堆積するためだそうだ。しかし砂の堆積量が、常に海上に出るほどでなく、また常に海中に没するのでもなく、ちょうど大潮の時だけ海の中から出現するという偶然が、何か物語のようで神秘的な感じすら与えてくれる。冬になって北風のため北からの流れが強まると砂は流されてしまうそうだ。そして春になって暖かくなるとまた新たに道が造られるという。

島は周囲約3km、面積約60ヘクタール、最高点約90mとのことで、2.5kmほどの遊歩道が整備されている。今回は道の出現時間が2時間ほどしかなく、海に沈む前に帰らなければ大変なことになるので一周するのはあきらめた。今年はもう機会は無いようで来年の春を待たなければならない。説明板によれば島にはイノシシやタヌキがいるのだそうだ。満月の夜など、人知れず彼らはこの細い道を駆け抜けているのだろうか。そんな様子を想像するとまたさらに楽しくなる。