さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

キュウリグサ

2011-12-11 10:26:08 | 花草木


畑の片隅の陽だまりに点々と小さな花が咲いていた。春の空のような霞んだ青と、中ほどを彩る同じように淡い黄色。しかしそれらが互いに引き立て合って、日差しの中で輝くばかりだ。この花はムラサキ科のキュウリグサで、有名なワスレナグサと同じ仲間だが、園芸種のそれより素朴でずっと可憐な感じがする。しかしこちらはあまり知られていない。なにしろ大きさが2mmかそこらしかないのだから。



黄色の部分は小さな指輪を置いたかのようだ。これは副花冠といって花びらの根元部分が盛り上がったものだそうだ。きっと虫を呼ぶための目印なのだろう。花が古くなると黄色は失せて白くなってしまう。真ん中はぽっかり穴になっていて、その中に雄しべや雌しべがかろうじて見える。こんな中に頭を突っ込む虫もまたどんなに小さいかと思う。



花穂の先にはまだまだたくさんの蕾が付いている。それがぐるっと輪になっている。この形からサソリ型花序と呼ばれている。しかしサソリの尾は曲がっているだけで輪にはなっていないので適切とは思えない。こちらは元気のよいものなどくるくるぜんまいのように巻いている。



ぜんまいは花が咲くに従いほどけていく。ほどけた部分はぐんぐん伸びる。初めは10cmにも満たない高さで小さな花を咲かせてとてもかわいらしいが、環境が良いとどんどん成長してしまう。なよなよして枝分かれも多いからだらしなく横たわって、もじゃもじゃ絡み合った茂みになっていたりする。

キュウリグサの名の由来は葉をもむとキュウリの臭いがするということだそうだ。しかしかすかに青臭いだけで特にキュウリにこだわるほどのものではない。なんだか無理にこじつけたような名前で、この可憐そのものといった花には似つかわしくない。なんでも日本でキュウリが一般的になったのは明治以降とのことで、この名前も最近のもののようだ。昔はタビラコと呼ばれていたそうだが、タビラコという名を持つ花は他にもいくつかある。区別したかった近代の植物学者が急遽取って付けてしまったのだという説には納得がいく。

全国に分布し、都会の真ん中でも街路樹の根元などで咲いていたりする。ところが屋久島では一度も見なかった。奄美や沖縄にはあるそうだから気候に合わないなど考えられない。理由は判らないが、こんな当たり前の花がないという例は他にもいくつかあった。ともかく指宿に来たら当然のように咲いていて、なんだかほっとする気分だった。

この花は本来春に咲く。夏には枯れて種が撒き散らされ、秋に新しく芽生えてくる。それではなぜ今頃咲いているのだろう。この地は暖かいので翌春を待たず、芽生えてそのまま咲いてしまったのだろうか。それとも夏の暑さに負けず、春からずっと咲き続けてきたのか。どうもその両方があるように見える。ごくちいさな株と、思いっきり伸びてたくさんの花の跡の付いているものと両方があるのだ。この花は史前帰化植物でムギの栽培に付随して日本に入ってきたのだそうだ。人と共に世界を旅してきたのだから見掛けによらずたくましいのだろう。古代の人も、明日をも知れぬ旅の道連れに、未開の土地の行く先々で故郷の花が咲いてくれてうれしかったのではないだろうか。