さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ノジギク

2012-12-28 09:42:52 | 花草木


もう何ヶ月もの間、野山でいろいろなキクが咲き続けてきたがそろそろ終わりになった。我が家の庭でも何種類かずっと咲いていた。その中で特に気に入っていたのが薄い黄色の花びらの小ぶりなキクだ。



これは一年前に海岸近くの山裾で見つけて、あんまり可愛かったのでほんの少し切り取ってきて庭に植えたものだ。幸い根付いてこの秋たくさんの花を咲かせてくれた。さてこの花の名前は何だろう。姿かたちはキクの中のキクといったところだが、そうしたキク属の中で黄色のものはこのあたりではシマカンギクぐらいしか分布していない。しかしそれは本当に黄色で、こんなに淡い可憐な色ではない。それに見つけた場所は白いノジギクが一面にあって、その隅に小さくそっと咲いていたのだった。シマカンギクだったらそれ自身で群落になっていておかしくない。図鑑を見ていたらノジギクについて、ごく稀に淡黄色のものがあるという記述を見つけた。それで判った。きっとこれはそのごく稀なノジギクなのだろう。



黄色はいくらか濃かったりかなり薄かったりばらついている。花の大きさは普通の白いノジギクより一回り小さく3cmに満たないくらいのものが多い。どうも遺伝的に劣勢か不安定のようだ。いやそもそもノジギクそのものがシマカンギクとリュウノウギクとの雑種ではないかという説がある。またノジギクとシマカンギクは自然状態で交雑してしまうそうだ。つまり種そのものがまだ不安定ということのようだ。この仲間は植物進化の頂点にあり、今でもかなりの速さで進化し続けているとも言われている。なにかそんな混乱の中でたまたまこんな可憐さがこぼれ落ちたのかもしれない。



総苞片の縁、というより先の方はほとんど膜質になっているのがキク属の特徴という。その部分が半透明で、日を透かして見ると黄色の花弁と重なってとてもきれいだ。



葉の裏は明るい灰色に見える。白、というより透き通った毛がたくさん生えているためだ。しかし手で触って毛深いという感じがしないのは、毛が短く細くそして寝ているためだろう。この毛はT字型をしていて、しかも縦棒がごく短いので葉面からほとんど離れていない。こうしたこともキク属に共通する特徴だそうだ。



我が家の門の脇の植え込みにここ九州南部特産のサツマノギクと一緒に咲いている。かなり離して植えたはずがどちらも思いっきり茂って混ざり合ってしまった。これだけ咲くとキクの花のあのすばらしい香りが濃厚に漂う。サツマノギクもキク属で、同じ顔付きのもの同士の取り合わせは良かった。花の大きさはこの仲間の中では一番大きい。そして真っ白な花びらがしおれると、驚くほど鮮やかな赤い色になるのだった。



海近くの山の垂直に近い崖がクズと白いノジギクに覆われていた。今年もあと数日、ノジギクは大半がしおれ、あまりきれいではないが赤くなっている。このあたりの野山はどこもたいていノジギクの白い花に彩られる。ノジギクは西日本にしかなく東京近辺では目にすることのなかった光景だ。この仲間で関東地方にもあるのはリュウノウギクで、一番好きなキクだった。しかしどこにでもあるというほど多くはなく、また大きな群落というのも見た覚えがない。リュウノウギクは葉をもむと竜脳という名前に恥じないとても良い香りがする。キク属はどれも良い香りがするがリュウノウギクが最高だと思う。ノジギクでは葉の香りは弱いが、一度花を調べようと分解したらヤニ臭いくらいのとても強い臭いがして辟易したことがある。



海が荒れれば潮を被るくらいの海岸の崖にもたくさん咲いている。花は山のものと区別できないが葉を触ってずいぶん厚みがあるのに驚いた。これはもしかしたらオオシマノジギクかもしれない。分布は屋久島あたりから奄美大島にかけてで、九州本土にはないことになっている。しかし屋久島は大気の澄んだ日にはここから山塊が眺められるほど近いのだ。それにもともと陸続きで、海に隔てられたのはせいぜい1.5万年前くらいだそうだから、植生がほぼ同じであってもおかしくない。