さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ナンゴクウラシマソウ

2012-04-26 10:08:14 | 花草木


神社の裏の小さな森でナンゴクウラシマソウが咲いていた。釣竿を持ち上げて長々と釣り糸を垂れているように見える。それで漁師として古代から有名な浦島太郎の名を冠している。ここ指宿には竜宮伝説が伝わり玉手箱も残っているとのことだから、この地にふさわしい花というわけか。ともかく何でここまでと思うほど不思議な形だ。



釣竿の持ち手のあたりはかなり異様で、何か不気味なものが這い出てきたかのようだ。でこぼこして膨らんでいて、つかんでみると固めのスポンジのような感じだ。ともかくこの形状がナンゴクウラシマソウの見分けのポイントだそうだ。ただのウラシマソウは東京近郊でもたまに見かけたものだが、この部分がずっと細くまた滑らかだった。ナンゴクウラシマソウは名前の通り広島県あたりから先の南国に分布しているとのことだ。屋久島にはたくさんあったから、こちらに来てまた出会えて懐かしかった。なぜかここの花は一回りは小さい。

花と言っても実はこれは苞葉で、本当の花はこの中心の棒のずっと下にたくさん隠れて咲いている。と言っても花びらなど付いていず、雄しべか雌しべだけの必要最小限の小さな花だ。多年草で年々大きくなるが、株が小さいうちは雄花だけ、大きくなると雌花を咲かせるようになる。ところでこのテンナンショウの仲間は棒の途中が膨らんでネズミ返しのような形になっていて、入ってきた虫を閉じ込めて効率よく受粉させる仕組みで有名だ。しかしウラシマソウではそんなに膨らんでいなくて虫をいじめたりはしない。



釣竿は右方向(向かって左)から出るものが多いようだが、中には左利きもある。正面から見るとお化けか何かのように長い前髪で顔を隠している。この部分がマムシグサでは上に突っ立っていて、またムサシアブミでは袋状になっている。見た目は違うが基本は同じ形状でこれらは皆近い仲間だ。



花に劣らず葉も個性的で目を引く。大きな葉はこれで一枚で、それが切れ込んだものだ。鳥足状と呼ばれるが、私には足ではなく怪鳥が翼を広げているように見える。

さてこの花は何で釣り糸など垂らしているのだろう。どう見てもこれが成長や繁殖に役立っているとは思われない。何か解説したものはないかと探したが、そんな研究にはネットで到達できなかった。ともかく今の進化論では無駄なものが進化するはずがないことになっている。どんな奇抜なものでも、いや奇抜であればあるほどそうなった理由があるはずだ。そこで素人探偵よろしくいろいろ推理してみて、もしかしたらこれは虫を招き寄せるための臭いを発散させているのではないかと思い至った。風に臭いを乗せるためできるだけ高く持ち上げる必要があったのだ。そうして虫をよく集められるのでネズミ返しなど不要になったのではないか。そこで試しに鼻を近づけてみたが、残念ながら何の臭いもしない。しかし昆虫の性フェロモンなど人には感じられないものなのだ。さてこの説が当っているかどうかは、たくさんの観察や実験をしてみないと判らない。ともあれ人の作ったゲームや探偵小説などよりこうした自然の謎解きの方がずっと楽しいように思う。