さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

サツマイナモリ

2013-02-22 09:38:00 | 花草木


山の杉の植林の下でサツマイナモリが咲いている。寒々と薄暗い中で小さな白い花がぼうっと浮かび上がる。最初に見つけたのはもう一月も前、しんしんと冷え込む中で葉影に隠れるように咲いていた。それから一つ二つと咲き続けて、2月も半ばを過ぎ、点々と目につくようになった。花の径はやっと1cmほど、純白の中のピンクの塊は神秘的なほどきれいだ。



咲き出したばかりはとてもみずみずしく透明感がある。周りの花びらに細い毛が密集しているのが意外な感じだ。そのつや消し効果で深みのある純白になっているようだ。



ピンクの塊はどんどん大きくなって色も濃くなる。二股の形から、ああこれは雌しべの柱頭だったのかとやっと判った。普通の花のそれに比べたらずいぶん大きい。



ピンクのない花も多い。最初見たときはこれはもう柱頭が枯れた後だと思った。



しかしそうではなかった。よく見ると花粉をたくさん出した雄しべが並んでいた。そしてそれらのずっと奥に見覚えのあるピンクの柱頭が見え隠れしている。ということはこの花は、雌しべの長いものと短いものの2種類があり、つまりこれは同家受粉を避けるための異花柱花だったのだ。そしてこの雄しべの見えている方は短柱花で、この雄しべの葯の位置と、先ほどのピンクが目立つ長柱花の柱頭の位置が同じ高さになっている、またその逆も成り立っているということだ。またこの短柱花においてはどうも咲いてすぐ花粉が出るようで雄性先熟であるようだ。



改めて長柱花の方を見る。この花ではもうすっかり柱頭は枯れている。その奥は長い毛が密生していて中が見えない。実はその向こうに雄しべがあった。どうもこちらは雌性先熟であるようだ。この花の形状からして、ポリネーターはきっと小さなハナバチの仲間だろう。花筒の中に頭をつっかえるまで突っ込んで、それから先は長い口吻を伸ばして底に出ている蜜を吸う。その時の頭の位置に雄しべの葯があるというわけだ。その手前にブラシのように毛が密生しているのは、もし虫が別の花の花粉を付けていたらそれを払い落としてしまおうという、花の利己的戦略ではないだろうか。なお以上の考察は謎解きを楽しんでいるだけで、観察例が少なすぎて決して科学研究などではない。



葉の茂る様子はいかにも雑草然として、花のない時期にはまず目に留まったりしない。ところでサツマイナモリは意外なことにアカネ科だった。アカネという言葉の響きは魅力的だが、実際にはこの仲間はなんとかムグラといったものが多くほとんど貧弱な花ばかりだ。きれいなものでよく見かけるとしたらかわいそうな名前で有名なヘクソカズラくらいだが、そういえば花の感じは少し似ている。



昨年の3月下旬、この同じ場所で満開状態になっているのを見た。林床の一角を覆うように咲いて見事だが、残念ながら屋久島で見慣れた大群落には及ばない。ところで屋久島では水辺に咲いて、それこそしぶきにぐっしょり濡れていたりしたものだが、こちらでは杉林の下の、湿ってはいても水気などないようなところでしか見ていない。この生育環境の違いはどうしたことだろう。分布は房総半島から南西諸島にかけてだそうだが多いのは九州以南のようだ。ネットで見ると本土では杉林に、南西諸島では水辺に生えている写真が多い。



これは数年前の6月、屋久島で見たものだ。この変形した兜を重ねたような奇抜な造形には驚いた。まさかこれがサツマイナモリの果実だとはその時とても思い付かなかった。あの円筒型の花から、何でこんな扁平な果実ができるのだろう。ともかく未来都市であるとか、いやその廃墟であるとか、いろいろな見え方ができて楽しい。