さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

ビンズイ

2013-02-01 10:56:49 | 


ビンズイという鳥は一般にはあまり知られていないと思う。メジロやウグイスなどのような馴染みの名前ではないし、そもそも地味な色であまり飛ばないし鳴き声も小さくほとんど目立たないのだ。たとえ目にしても多くの人はスズメがいるくらいにしか思わないだろう。しかしスズメはもっとはっきりした濃い色で声も大きいし仲間同士でじゃれあって飛んだり跳ねたり結構騒々しい。こちらはただ黙々と地面を歩いているだけだ。しかし松林のある冬の公園などではどの鳥よりも当り外れがなく、ほとんどいつ行っても見られるほど身近にたくさんいるのだった。



大きさはスズメよりも体長はあるのだが、それは尾が長いだけで実際は一回りくらい小柄に見える。色もオリーブ色といえばしゃれた感じだが、単に緑がかった薄茶色でとてもきれいとは言いがたい。それでも光の加減では渋い色合いがなかなか魅力的に見えたりする。ところで同類にタヒバリというとてもよく似たものがいるのだが、その見分けのポイントは目の後ろの白い班とその下の黒点で、それらがあるのがビンズイなのだそうだ。



お腹の黒い点線はこのかわいらしい鳥にしてはどぎつすぎる。正面から見たら体全体が縞模様になっていた。草地には枯れ草などの細かい影が多く、この模様はそれに溶け込んで保護色として機能しているようだ。



ビンズイはセキレイの仲間だ。セキレイは街中の駐車場などにもよくいて、小走りしたかと思うと立ち止まって尻尾を上下させたりしてとても目を引く。こちらもだいたいは同じ動作なのだが、すべてを地味に抑え気味といった感じだ。まあ障害物の多い草地だから速くは歩けないだろう。しばしば立ち止まって落ち葉を掻き分けている。虫や植物の種などを食べているそうだ。松林によくいるのは落ち葉が厚く多くの虫が隠れていることと、栄養豊富な松の実がたくさん落ちているためではないだろうか。



後姿は堂々としている。小鳥たちはたいてい両足をそろえてぴょんぴょん可愛らしく跳ぶものだが、この鳥は足を交互に出して歩きまた走ったりする。その動作は我々人間と変らずほほえましくもある。



ビンズイを追っているとしばしば見失う。枯れ草の間に身を潜めてしまうのだ。隠れることには自信があるのだろう、かなり近寄るまでじっとしていて、突然足元から飛び立ったりするので驚いてしまう。その時ピーとかツィーとかいった短かい声を上げる。しかしあまり飛ばず、近くの木の枝に止まってこちらをうかがっていたりする。どうも高い所はあまり好きではないようで、じきに少し先の方へ舞い降りる。長い足指は枝に止まるより地上を歩くのに適しているようだ。



数羽から10羽以内の小さな群れでいることも多い。群れといってもかなり離れ離れにそれぞれ勝手に行動している。木の上と違って草むらでは見通しが利かず、すぐお互いを見失ってしまいそうだが、彼らはどうやって確認しあっているのだろうか。



なぜかこの2羽は動作がたいてい同期していた。こういうのは珍しくとてもほほえましかった。

ビンズイは東日本の山地で子育てするそうだ。九州には越冬のために渡ってくるので当地では冬鳥になる。さえずりはとても良い声でそのためキヒバリと呼ばれたりするとのことだが、このあたりで聞くことはなさそうだ。ビンズイという名前はなんだか奇妙だが、そのさえずりがビンビンツイツイと聞こえるところから付いたという説がある。ただそう聞きなしたのは日本野鳥の会を創設した中西悟堂氏だそうで、そうすると昭和の話になる。しかしこの鳥はずっと日本にいたのだから、その昔は何と呼ばれていたか気になるがどこにも記述はなかった。万葉集など古典のどこにも出てこないようだし、これだけ身近にたくさんいても人々の注意は引かなかったということだろうか。

ところでこの前の冬はこうした小鳥たちがほとんど姿を消していた。冬鳥が来ないというだけでなくスズメやヒヨドリなど留鳥までいなくなって、何か天変地異でも起こるのかと不安に感じたくらいだ。しかし今季は何ごともなかったかのようにたくさんの小鳥たちにあふれている。一方、キンクロハジロなどの水鳥たちは小鳥たちと違って昨季はたくさんいたのだが、今季は我が家の近くの池にまばらにしか浮いていない。昨季の小鳥激減は全国的現象で、毎年ヒヨドリ被害に泣かされてきたミカン農家は大助かりだったそうだが、今季の水鳥激減はどのくらい広がっているのだろうか。こうした現象を全国から集めて統計を取り原因を追究する仕組みがあったらよいのにと思う。

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